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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【2】夜は助言を運ぶのだから永遠に寝ていてください

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朝石キリスト教会 イングリッシュ工房 2

「あー笑った」


 フリーライターの楠木(くすき)から、さんざん雑誌社の裏話を聞いて大笑いした(つげる)はそうつぶやいた。

 多香乃(たかの)だけが眉間にしわをよせて頭をかかえている。

「とうとつに他人の夢を壊すような会話を繰りひろげて、満足げに言わないでください」

「探偵やれば世間さまのドロドロ見ることになるって言ったの多香乃さんじゃん」

 告は言った。

「わたしが探偵をやりたいわけじゃありません」

「――えっとそれで、彼女のほう。少し話だめですか?」

 楠木が多香乃の表情をうかがう。

 さきほどから玄関口にあらわれる受講者は一人もいない。人の少ない曜日なのか。

「ちなみにだれにもインタビューできなかった場合はどうなるんですか?」

 告はたずねた。

「そういうときは編集部内のだれかが受講者のふりして書いてくれるとか、自分で受講者のふりして書いてまとめるとか」

 楠木と告は同時に大声で笑った。

「やめてくださいもう……」

 多香乃だけが耳をふさいで苦悩した顔をしている。


「多香乃さん、インタビューいいんじゃない?」


「あ、名前は出しませんから。市内の十代女性ってだけで。通ってくる曜日とかここを選んだ理由とか、インタビューっていうかかんたんなコメント」

「二十代なんですが」

 多香乃が困惑した顔をする。

「えっ」

 楠木がやや大袈裟(おおげさ)に目を丸くする。

「ええ……かわいいから女子大生かなって。こちらの妹さんなのかなとか」

 楠木が告を指す。

「んじゃ僕は年相応に見えるんだ」

 告は肩をゆらして笑った。


「桜色の口紅とか好きそうでしょ?」


 告は多香乃を指さした。

「桜色……?」

 楠木がつぶやく。

「あれ? 若い女の子に流行ってんのかと思ってた。違うんだ」


「桜茶とほうじ茶をイメージした渋めのピンクならどこかのメーカーが出してましたが……」


 多香乃が宙を見上げる。「桜色」で事件に思いあたったのか、不審げな顔でこちらを見た。

「なにをとうとつに桜色なんて」

「講師の先生方にもコメントいただきたいんだけど、だれかいました?」

 楠木がガラス戸の奥のほうをながめた。

「数人ほどいらっしゃったと思いますけど……こういうのってアポとかとっているものじゃないんですか?」

 多香乃が尋ねる。

「とってる、とってる。というか宣伝兼ねてるから。この記事の右下とか左下とか途中ページとかに、ここの広告が載る」

 楠木が言う。

 多香乃がすっかり萎えたような顔をした。




 多香乃がかんたんなコメントをしたあと、楠木はガラス戸の奥に消えた。

「コメントっていうかアンケートって感じですね」

 多香乃がつぶやく。

「十代に……見えるかな、多香乃さん」

 告がそう口にすると、多香乃がいやな顔をして睨んだ。

「インタビューしてもらうためのお世辞みたいなものだって分かってますよ。ちょっと微妙でしたけど」

「二十代前半の女性を女子大生って言ってもねえ。誤差レベルというか」

 告はスプリングコートのポケットに手を入れた。

「そう言ってくれる気持ちは悪い気はしないです」

「あそ」

 告は答えた。

 多香乃のほうに向き直る。


「多香乃さん十代みたいに見える多香乃さん十代みたいに見える多香乃さん十代みたいに見える多香乃さん十代みたいに見える多香乃さん十代みたいに見える」


「いりません」


 多香乃が眉間にしわをよせた。

「だいたいなんなんですか、唐突に桜色の口紅って」

「事件の被害者さんがメッセージ残してたってのそれじゃん。ほんとうに流行ってるのかなって」

 告はガラス戸の向こうをながめた。

「被害者の女性、三十六歳とか言っていませんでした?」

「やっぱりメイクちがうもん?」

 告は問うた。

「人にもよると思いますけど……というか」

 多香乃が複雑な表情でこちらを見る。

「何」

「いえ」

 眉根をよせて告の顔をまじまじと見る。

「言いたいことあるなら言って。隠しごとしてると査定に響くよ?」

「雇ってる前提で言うのやめてもらえますか?」

 多香乃が言う。

 ややしてから口を開いた。

「いえ……女の人はべらせてそうな顔してるのに、メイク見てないって意外だなって」

「多香乃さんにはどういう顔に見えてんの、僕」

 告は眉をよせた。





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