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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【1】ローマにいるときはローマ人がするようにしたらよろしいが、ここは日本なんですが

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大海原家食堂広間 2

「玉一とうふ茶屋の油揚げとカマイチ屋のネギのお味噌汁(みそしる)、味噌は特選霞ヶ城の白味噌。一尾たくあんのたくあん、さくらたまごのタマゴと、ハム工房一路の桜燻ベーコンのハムエッグ。木ノ国屋のトリュフ醤油(しょうゆ)、一茅舎の塩コショウ、壱池醸造の中濃ソース、お好きなものをかけてどうぞ」


 午前八時、大海原家食堂広間。

 メイドの制服を身につけた多香乃(たかの)が、不機嫌な表情でカートに炊飯器と味噌汁のナベとおかずのトレーをのせて運んでくる。

 食材のブランドやとりよせた店の名前を滔々(とうとう)と読み上げる口調が、落語の寿限無寿限無(ジュゲムジュゲム)を思い出すなと告は思った。

「こちらは黒潮磯ノリ店の味海苔(あじのり)です」

 多香乃が小さな皿にのせた味海苔を手で指し示す。


 おもむろに多香乃が、味海苔を手にとった。

 片手の手のひらにのせて、もう片方の手でいきおいよくパァンとたたく。


 目を丸くする(つげる)にかまわず、袋の開いた海苔を真顔で皿にもどした。

「……失礼しました。開けるに手間どるかと思いまして」

「令和に入ってはじめて見た。この開けかたする人」

 告は海苔の袋をまじまじと見つめた。


「では」

 

 多香乃が一礼して食堂広間を退室しようとする。

「多香乃さん」

 告は味噌汁に浮かぶネギを(はし)でつまみながら呼び止めた。

「なんですか。教会の出勤に間に合わないんですが」

 多香乃が眉根をよせる。

 さきほどの海苔パァンは、懸命の感情のおさえ方だったのかなと告は思った。

「こっちの業務一本にすればいいのに」


「……作り置きのお味噌汁のあたためかたが分からないくらいで、早朝からスマホにかけてくるのやめてください」


 多香乃が声音を落とす。

「番号変わってなくて助かったよ」

 告は味噌汁の油揚げを口にした。

「ここ数日はどうしていたんですか」

「冷製ミソ汁かなと思って」

「冷製パスタじゃないんですから」

 多香乃が眉をよせる。

「家に人がいなければ、ご近所のかたに聞いたらよくないですか?」

「家を出て庭を通って外に出て、ご近所のかたを捕まえるまで早くてもおそらく五分から十分、多香乃さんに電話をかけると一分以内」

 告は味噌汁を口にした。

「起きぬけでお腹がへってるところを五分から十分と一分以内なら、後者を選ぶでしょ」

 多香乃がきつく眉をよせる。告を睨んだ。

「……その場合、わたしの移動時間はどう考慮してるんです」

「交通費だすよ?」

 告は答えた。

「というか、出勤まえなんですが」

「食べたら送るから、いっしょに食べない?」

 告はハムエッグに中濃ソースをかけた。

「けっこうです。食べてきました」

 多香乃が答える。


「例のダイイングメッセージの事件、きのう懸賞金が振りこまれてた」


 告は言った。

「多香乃さんにも特別ボーナス出すね」

「なにもしてませんが」

 多香乃が答える。

「いいお土産くれたじゃん」

 告は中濃ソースをかけたハムエッグを(はし)で切り分けた。

「サンドイッチのお弁当のことですか?」

 多香乃が不可解そうな顔をする。

 どういうことなのか説明してもいいが、こうしてイライラさせるのが何か楽しい。

 彼女にはとうぶん不可解な顔をしていてもらおうと告は思った。

「教会の副業やめてこっちのメイド一本にしない? 大変でしょ」

「あちらが本業でこちらが副業です」

 多香乃が眉間にしわをよせる。


「犯人、なんか前から被害者と女の人がらみで揉めてたんだってさ」


 多香乃の表情が、少し複雑そうにくもる。

 一、二度しか顔を合わせていないとはいえ、知っている人物だ。思うところがあるのか。

「空港で捕まえたって。イタリアに逃げられてたら大変だった」

「ネットのニュースで見ました」

 多香乃が答える。

「教会までバスで行きますので。これで」

「あ、それで多香乃さん」

 告は長テーブルに置いたスマホを手にした。


「知り合いの刑事さんが、また懸賞金の事件教えてくれてさ。資料見る?」



 多香乃のほうにスマホの画面を向ける。

 倒れた死体の画像。死体の手元には「✕◯、|」と書かれていた。



 終





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