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恋心の真実


 結局、エドアルドへのプレゼントは、収納魔法がついたブレスレットにした。

 黒曜石を使ったモチーフになっていて、彼の雰囲気にも合っていると思う。

 我ながらなかなか良いセンスなんじゃない? 早くエドアルド君の誕生日にならないかな。


 そんなことを考えながら歩いていると、渡り廊下の向かい側に立っているエドアルドを見つけた。

 周りの生徒より頭一つ飛び抜けて目立っているからすぐ分かる。


 彼は、壁にもたれて少し猫背になったまま、辺りをキョロキョロと見回していた。誰かを探してるのかな。


(もしかして、私のこと探してたり……なーんて)

 少し浮かれた考えが脳裏にちらついてしょうがない。けれど、今日はまだ会ってないし、ちょっとくらい話しかけてもいいよね。


 エドアルドの方に近づこうとすると、彼のもとに駆け寄っていく女子の姿が見えた。


(あれって、カリン……? でも、あの二人って関わりあったかしら)

 エドアルドはカリンに話しかけられながら何回か頷いたあと、彼女に黙って付いていったようだった。


 そういえば、少し前にカリンにエドアルドの居場所を聞かれたことを思い出す。

 何だかカリンに会わせるのが面白くなくて、忘れたフリをしていたけれど。


(何よ。私のことは束縛しといて、自分は他の女子とこっそり会ってるんじゃない)

 一体どこに向かうのか気になって、私はいつの間にか二人の後を尾けていた。


***


 二人はゼミ室に入っていった。扉が完全に閉まったのを確認してから、足音を立てないようにこっそり部屋の前まで忍び寄る。


 そして盗み聞き魔法を使おうとして、教室には全て防魔加工が施されていることを思い出した。魔法って、こういう時に限って使えないのよね。

 私は大人しく扉に耳をピタリと押し当てた。微かに声が聞こえてきた。どうやら言い争っているようだ。


『正直に……。あんたが取った……分かって……から』

『ちが……その……』

『何が、ちが……。白状……先生に……。内定……知らな……』

『……別……いい……』

『……メイベル……よ。あの子に……』

『それは……!』


 どうして私の名前が? なにか、私に関係あることなの?


 まるで浮気現場を押さえているような心持ちになってしまった私は、遂に我慢の限界を迎えた。

 二人を驚かせてやろうと、教室のドアを勢いよく開く。その瞬間、エドアルドとカリンが同時にこちらを振り向いた。


 エドアルドは私と目が合うなり、その場にしゃがみ込んでうなり声を上げた。

「うぅ……な、なんで、ここに……」


 疚しいことでもあるのか、細長い体躯を縮め込んでいる。


 一方、カリンは私に向かって大きく手招きをした。

「居たんだ、メイベル! ちょうど良かったー。こっちこっち!」


 彼女のテンションに驚きつつ、私はカリンの元へと向かう。


「ほら、エドアルド! そんな所にうずくまってないで、メイベルに謝りなよ! 惚れ薬を使ってごめんなさいって」

「惚れ薬? 何の話をしてるの?」

「だからー、コイツ、メイベルに惚れ薬を盛ってたんだよー。他人に魔法薬を無断で飲ませるのは御法度なのに!」 


 カリンはエドアルドに指を突きつけて、睨み付けた。


「た、確かに私はエドアルド君と付き合ってるわ。でもそれは、私が自分の意思で……」

「それが薬の効果なの! メイベルがエドアルドのこと、好きって思い込んじゃってるんだよ」

「え……」


 薬の効果って……。そんなこと、あるわけ……。


「そんなわけないでしょ。カリン、変なこと言わないでよ」

「じゃあ、部室の素材が減ってたことはどうやって説明するわけー? エドアルドが黙って取っていったのは分かってるんだよー」


 唇を突き出して、カリンはぶうぶう文句を垂れる。


「素材?」

「エルドラの爪だよ。今度、魔法薬の材料に使おうと思ってたものが、無くなってたの。でも、ばっちり保管棚にエドアルドの魔法の痕跡が残ってたから、誰がやったのかはすぐに分かったってわけ」


 なるほど。カリンがどうしてエドアルドと話したがっていたのかは分かった。

 

「でも、エルドラの爪っていうのが無くなってたからといって、エドアルド君が私に惚れ薬を飲ませた証拠にはならないでしょ?」


「まあ、確かにね。でもさ、メイベルが急に告白するなんて絶対おかしいって思ったしー。それに、惚れ薬に使う材料の中で一番手に入れにくいのが、エルドラの爪なの。一般販売、してないやつだから」


 その言葉を聞いた私は、エドアルドの傍に行ってしゃがみ込んだ。


「ね、ねぇ。今カリンが言ってたのって本当なの?」

「い、いや……、その……」

「お願い、教えて? 本当のこと」

「っ……」


 ずっと俯いていたエドアルドは、のろのろと顔を上げた。今までに見たことがないくらい、不安そうな顔をしている。


 私と視線がかち合った瞬間、素早い動きで私の手をぎゅっと握る。そしていつの間にか、膝立ちになったエドアルドに上から見下ろされていた。


「し、信じて……、お願い……。お願い、します……!」

「信じて、って、エドアルド君は惚れ薬なんて作ってないってことを?」


 そう尋ねると、彼は気まずそうに目を伏せた。


「そ、それは本当……。け、けど! 騙すつもりなんてなくて……、すぐにでも本当のこと話すつもりだったんだ! 頼むから、それだけは信じてくれ!」


「全く、やーっと認めたぁー。ところであたしさー、今すごーく欲しい素材があるんだけどー……。言ってる意味、分かるよね?」

「ひっ、わ、分かった……」

 エドアルド君を脅すカリンを尻目に、私は一人考え込む。


 惚れ薬……、惚れ薬か。だから、私は急にエドアルド君のことが好きになったんだ。

 少しずつ記憶を紐解いていく。

 もしかしてあの時、貰ったクッキーに入ってたのかな。だとしたら、すごく納得がいく。


「ねえカリン、ちょっと二人にしてくれない?」

「メイベル?」

「エドアルド君と話したいことがあるの」

「う、うん」

 カリンは怪訝そうな顔をしながら部屋を出て行った。


「ねえ、エドアルド君」

 エドアルドは肩を大げさに揺らした。先程からずっと俯いているため、どんな顔をしているのかは分からない。


「私ね、最初はあなたのこと何だか近づきにくい男の子だなって思ってたの。だからね――」

「ご、ごめんなさい!」

 私の言葉を遮って、エドアルドは突然大声で謝った。


「ごめん、ごめんね。でも、こうでもしないと、僕なんて相手にもされないと思って。そうだよね、本当だったら僕なんかに近づきたくないよね」

 自虐っぷりが凄い内容を勢いよく捲し立てられる。誰もそこまでは思ってないんだけど。

 ただ、近づきにくいって言っただけで。


「ほんと……本当にごめん。僕、何でもするから、出来ることなら何でも」

「そんなのいらないわよ」

「あ……そうだよね。僕の顔なんて見たくないよね。そもそも近づくなって感じだよね」

 また悪く解釈された。


「そういうことじゃないの。私はね、ありがとうって言いたかったの」

 きっと、私が惚れ薬を飲まなかったらエドアルド君とちゃんと話すことは一生なかった。こんなに優しい人なのに。

 まぁ、ちょっと卑屈なところもあるけど。


「それに、もうすぐエドアルド君の誕生日でしょ? 私、プレゼントも用意してるの」

「プ、プレゼントなんて……そんな……」

「嫌だった?」

「い、嫌なんかじゃないよ……! ぼ、ぼぼ、僕もその、もらえると、嬉しい……。というか、少しだけ、ほんとに少しだけ、期待してたから……」

 

 真っ赤になったエドアルドがあまりにも可愛くて、私はしゃがんだままの彼の身体を思いっきり抱きしめていた。

 彼は一瞬だけ震えて固まってしまったが、私の背中にそっと指先が触れるような感触が伝わった。

 そしてそのまま、控えめな力でエドアルドの身体に押し付けられる。


「僕と……ずっと一緒にいてくれる……?」

 頭の上から降ってくる声は震えていて、つられて私も涙目になってしまった。

 返事をしようと顔を上げると、黒く濡れた瞳が鈍い輝きを放っている。


「うん、いいよ。……あのね、今度の休みに――」

 彼だけに聞こえるように発した小さな声は、少しだけ掠れていた。


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