表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ファンタジーとかSFとか、あれこれ

蜥蜴姫と俺




 俺の名前は浦山 太郎。なんの変哲もない大学生だ。

 ある日、道端で子供達にオオトカゲが虐められている光景に出会った。


「おいおい、やめてやれよ。可哀想だろ」


 そんな事言って止めるような子供なら、最初から虐めなどしないよな。つまりコイツらは糞なクソガキだ。


「うわっ、なんだコイツうぜー」

「しねっ」

「お前なんか通報してやる!」


 彼らは防犯ブザーを鳴らし、俺の顔をスマホで撮りまくった。ピヨンピヨンという防犯ブザーの音で近所の知ってるオバさんがやってきた。


「あらぁー! 浦山さんとこの太郎くんじゃない! どうしたの!?」


 が、俺は逃げていくクソガキを見つめながら「あああ、あの、あの、と、トカゲが虐められていたので……止めたら、こここうなりました」と説明する事しかできない。

 俺が挙動不審なせいかオバさんは疑い半分、同情半分といった感じだったが、俺が抱っこしたトカゲを見て「……最近、嘘の通報が多いみたいね」と言ってくれて特に咎められることもなかった。


「ああ、お優しき方、ありがとうございます」


 オバさんが去った後、渋い声が聞こえて俺はキョロキョロと周りを見た。


「ワタクシです。貴方がお救いくださった蜥蜴でございます」


 その声が俺の腕に抱かれたオオトカゲから発せられたとわかり、俺は驚きのあまり彼を放り出しそうになる。


「わっ! とっ、と!」

「ホワッ! ハッ!」


 お手玉のように宙を飛んだオオトカゲは無事俺の腕の中に戻った。ふたり(?)で、ふーーーっと安堵の溜め息を吐いたあと、トカゲが喋ったという事実に今更背筋がうすら寒くなる。


「え……何これ。ロボット?」

「はて。ロボットとは? ワタクシは正真正銘の爬虫類のサンタでございますが」


 サンタは……名前? それにしても。


「なんで人間の言葉を喋れるの」

「ワタクシは貴方様のような御方を探しておりました。助けてくださったお礼をしとうございます」


 ううん、全く会話がかみあってない! 言葉は喋れても思考や会話の能力は普通の爬虫類並みなのかな?

 サンタは俺の腕から滑り降りると、こちらを振り返りながら自慢げに尻尾を揺らした。


「ワタクシどもの国に招待致します。ささ、ワタクシの尻尾を掴んで、目を瞑って下さい」


 言われるがまま、サンタの尻尾を掴み目を瞑る。


「はーい、そのまま少しだけ歩いて下さいませ。(ゲート)を通りますよ~……はい、着きました」


 サンタの声と共に、俺の周りを囲う空気がむわっとした暑苦しいものになる。それは以前行った植物園の熱帯植物用温室を思い出させた。俺は目を開ける。


「うぉっ!?」


 さっきまで住宅街だった景色は消え失せ、代わりに濃い緑の植物が溢れかえるジャングルの中に白亜の宮殿が現れていた。


「な、なんだココ!?」

「ここは爬虫類の国。ささ、姫様がお待ちでございます」


 サンタは宮殿へ俺を誘う。彼に従い宮殿の中を進んだ。


「姫様かぁ……」


 爬虫類の姫様ね。やっぱりオオトカゲなのかな? という俺の予想はいろんな意味で覆された。


「よく来たなニンゲンよ。ワシの名はリザ・ド・ドラグヌ。リザと呼んでよいぞ!」


 まず、玉座でふんぞり返る姿が姫というよりも女王様だ。

 そして声も見た目もいろんな意味でかわいい。蜥蜴の尾が背中に付いている人間の女の子型で、緑色に輝くツリ目と長い髪を持ち、顔とスタイルが抜群で……まるで人形(作り物)の様だ。


「ニンゲン、お主の名は?」

「浦山 太郎です」

「ほう。ウラヤマか。歓迎するぞ。皆の者! この勇気あるニンゲンにもてなしを!」


 そのまま宮殿で宴が始まった。目一杯もてなしてくれてるんだと思うが……うん。ごめん。ご馳走として出されたコオロギは無理だった。

 大小様々、色とりどりの蛇やトカゲ達のダンスも見せてくれたんだが、蛇はクネクネしてるだけだし、トカゲは動きがのっそりしてるヤツが多いので音楽のリズムに乗れていない。


「……ウラヤマ、つまらんのか」

「えっ? いや、そんなことは……」

「では仕方ない。とっておきを見せてやろう」

「とっておき?」

「おい! マングースを連れてこい!」


 リザが言うと、端の方で控えていたハブがビクッとした。あ、これもしかして死ぬまで戦わせるやつじゃ?


「いやいやいや、そういうのは見たくないかな~」


 俺の言葉にリザは明らかにガッカリした。


「では、どうすればいいのだ……今までもずっと失敗しているのだ。今度こそ上手く行くかと思ったのだが」

「え?」


 失敗? と不思議に思っていると、隣にいたサンタが目を細めて言う。


「ワタクシどもはですね。人間界での爬虫類の地位を向上したいのです」

「はあ」

「爬虫類がお好きな方や、お優しい方をこうして招いて、ワタクシどもの素晴らしさを理解して頂いてですね、人間界で広めて頂こうと考えているんです」


 リザがギリギリと歯ぎしりをしながら忌々し気に言う。


「こないだなんぞ、猫族の国の使者が来てワシらを嘲けり、侮辱したのだぞ! あいつらなんてニンゲンの役に立つわけでもなければ愛想を振りまくわけでもない。自分勝手に暮らしておるのに何故あんなに人気なのだ! 理解できぬ!」

「う、う―ん……?」


 猫はネズミを捕って役立つこともあるし、猫によっては愛想を振りまく個体もいるんだけど。何よりかわいいし……とは思ったが、リザとサンタの前だと言いづらいな。


「我が爬虫類の一族は美しい鱗も、大きい瞳も、愛嬌もある! 我らこそ至高のペットだとニンゲンの世に広めるのじゃ!」

「ああ! 姫様、ご立派でございますぅ」


 人差し指を天に向かって立て堂々と宣言するリザと、短い前足を一生懸命持ち上げてパチパチと拍手をするサンタ。それに応じて他の爬虫類もパラ、パラとお追従の控えめな拍手をする。

 あれ、もしかして周りの奴のほうが現実が見えているのでは。なんだかちょっとだけリザとサンタが哀れに見えてきた。


「えーと、とりあえず、今の作戦? は、あんまり効果的じゃないかなぁ?」

「なんですと!?」

「ウラヤマ、どこがいけないのじゃ!?」


 今まで失敗してきたってことは、多分この宴でもてなされた人間は皆逃げ帰ったんだと思う。


「えーと、人間を招いて宴を開くよりも、そっちから人間界へアピールする方法はあると思う。リザならかわいいし、ウケるんじゃないかな?」

「えっ……かわいい?」


 リザはポッと顔を赤らめた。



 ◆◇◆◇◆



「……はい、着きました」


 再びサンタの尻尾を掴んで歩き、目を開けると近所の公園の林の中だった。どういう仕組みなのか気になるが、目を閉じなきゃいけないのがルールなので仕方ない。

 早速スマホをポケットから取り出す。爬虫類の国では当然ながら圏外だったので電池の消費量が半端なかった。まだあと15%は何とか残っている。


「それはさっきの『すまほ』か。おっ、ワシが映っておるな」


 アルバムからさっき撮影した画像を確認していると横からそれを覗き込んだリザが言った。異世界で撮影した物は消えるかもと心配して、念のためリザもこっちに連れて来たがデータは全て残っていた。

 静止画でアイコンを作り、SNSのアカウントを作成。名前は……【蜥蜴姫リザ】あたりで良いか。そして動画SNSでもアカウントを作る。


「じゃ、さっき説明した通りやるぞ」

「うむ、よくわからんが、ウラヤマ、お主に任せる」


 リザに最終確認したので動画をアップする。


『ワシの名は、リザ・ド・ドラグヌ! ニンゲン界に爬虫類の素晴らしさを広めるためにやってきたのじゃ!』



 ◆◇◆◇◆



 上手くいった。

 いや、正直上手く行き過ぎな気もする。


 リザ自ら爬虫類の良い所やトカゲの正しい飼い方などをアピールし、俺がその動画を撮ってアップしたのだ。これが予想外に人気が出てしまった。

 やっぱり尻尾付きのトカゲっ娘美少女というのが良かったんだろうな。しかもVtuberとは違い、実写なのが新しかったらしい。まあ多くの人はリアルなCGか人形(ドール)を使ったコマ撮り映像だと思ったみたいだが。ていうか皆食いつきすぎだろうよ。生配信はしていないのに投げ銭までたまに来るんだが。


 とりあえず動画や投げ銭で手に入れたお金で動画編集ソフトや撮影機材を買い、もう少し凝った動画を配信していく。フォロワーがあっという間に増え、もうすぐ一万人になりそうだ。


「『ふぉろわー』とはなんだ?」

「えーと、リザのファンって事だ」


 リザとサンタの顔がパァァァッと明るくなる。


「なんと! ニンゲンが一万人も! 流石は姫様!」

「フハハハハ! このまま爬虫類ファンを増やすのだ! ウラヤマ、お主は我が国の親善大使……いや、ワシの相棒だ! これからも頼むぞ!」

「あぁ……うん」


 蜥蜴姫の相棒に指名されちゃったよ。

 ……動画編集とアップ、SNSの対応なんかで結構時間を取られて、大学の単位が心配になってきたんだが。俺、大丈夫なのか?



 ◆◇◆◇◆



 ああ、そういえば別の意味で大丈夫か心配だった件……俺がクソガキに通報された件は、意外なところから解決した。これはリザとサンタに感謝しなければ。



 その日、また爬虫類の国からリザ達を連れてきた俺は公園にいた。

 フォロワー達は「爬虫類ネタよりもリザ姫様にスポットを当てた動画が見たい」というリクエストを度々寄越してくる。気持ちはわからんでもないが、それは爬虫類ファンを増やしたいというリザ達の目論見とはちょっと違うので、彼女はそういう動画をあまり撮りたがらない。


 で、俺は一計を案じ、ちょっとしたカメラを購入していた。

 リザは爬虫類の国とは違う植生に興味津々で、公園の木々や草を見ながら歩いていて、俺はそれに着いていき撮影をしていた……と、気づかないうちにサンタを置いてきぼりにしてしまったらしい。


「おっ、怪獣だ」

「やっつけてやる!」

「倒せー殺せー」

「ガアッ!」


 子供の声とサンタのただならぬ叫びに、俺たちはハッとして慌てて道を戻った。するとまたあのクソガキ達がサンタを虐めていた。


「やめい! キサマら、その蛮行許さぬぞ!」


 リザの姿を見て眼を丸くした彼らは、彼女が命ある獣人ではなく作り物だと思ったらしい。一斉に俺をディスりはじめた。


「うわっ、なにそれ腹話術?」

「キモっ! 大人なのに人形遊びかよ!」

「やべっ不審者じゃん。通報しようぜ」


 ふざけ嗤うクソガキに、導火線の短めなリザはあっという間に爆発する。


「キサマらは生きる価値もない。燃え尽きろ!」


 そういうが早いか、リザの口から炎が出た。え。マジ? 炎のブレス!?

 炎は全く届かなかったが、クソガキどもはビビって逃げていった。お決まりなのか、また防犯ブザーをピヨンピヨンと鳴らしながら。


 で、実はその一部始終を撮っていたのだ。最近買った眼鏡型カメラで。

 リザの自然な姿を撮る為に、これなら気づかれないと思ったからだけど……えっ、と、盗撮じゃないぞ! 事後報告だけどちゃんとリザには説明したし、もしそれで彼女が嫌がったら動画は破棄するつもりだったし。


 ……で、結果、リザのブレスと言う面白いものが撮れたので、彼女の了解を得て、クソガキのところは強めのモザイクとボイスチェンジャーで個人を特定できないように編集してから動画をアップしたんだ。

 予想通りこれがバズった。めちゃくちゃ再生された。


 予想外だったのは、公園の景色から俺の住む市が特定されてしまったこと。


 そしてどうやら、あのクソガキ達は相当やらかしていたらしい。個人の特定までには至らなかったが「○○小学校の生徒で、イタズラや偽の不審者通報を何度もしている奴らだよ」とコメント欄に書き込まれた。

 その小学校、俺の家の最寄りなので多分真実だ……というか、多分アイツらに恨みを持ってた人間が書き込んだのかもしれない。


 怖い。ネット怖い。

 その小学校にめちゃくちゃ沢山クレームの電話がかかってきたそうだよ。SNSに「頼むから動画を消してくれ」って小学校の校長を名乗る人からDMが来たんだけど。

 でも気の毒だけど手遅れだよね。炎上しちゃったし、俺が動画を消したって誰かがまた再アップロードして益々炎上するだけだと思う。

 だから裏でそうやってコソコソするより、公式にアナウンスして対処した方が良いんじゃないかって返信しといた。一応、俺も動画に「小学校に迷惑がかかるので電話とかやめて下さい」ってコメントを付け足しといたよ。


 後日、小学校のHPで「動画の少年達は当校の生徒で間違いありませんが、問題の件は個別に対処中ですので個人の特定や学校への問い合わせなどはなさらないで下さい」とお知らせがでていた。それで炎上は落ち着いたみたいだ。


 そして俺が最初にサンタを助けた時の不審者通報は間違いでしたって通報者側から取り下げられた。これは潔白とはいえ、内心びくびくで心配していたのでホッとした。

 勿論、俺以外の偽の通報も取り下げ。それは結構な件数だったらしい。小学校の中ではクソガキ達の正体は既にバレバレで、親が謝って回ってるらしいよ。俺の母親が近所のオバさんから聞いてきた話だからどこまでホントか知らないけど。



 ◆◇◆◇◆



「あ、『ふぉろわー』がまた増えてるぞ!」

「流石姫様! ワタクシどもの未来は明るいですな!」


 リザとサンタは俺のスマホを覗き込んでキャッキャとはしゃいでいる。まあ、通報の件も解決したし、食えるほどではないにせよそこそこのお金も入ってくるし、これからも出来る限り手伝ってやるか。


「ウラヤマ、お前のお陰だ! 褒美を取らす」


 リザはそう言うと俺の肩に乗り、


 ちゅっ


 頬にキスをした。


「ワシの祝福と加護を与えたぞ!」

「そ、そうなんだ。ありがとう……」






 ……え? 反応が微妙?

 美少女のトカゲっ娘にキスされて嬉しいに決まってるだろって?

 うーん。嬉しくない訳じゃないが……リザは間違いなくかわいいけど、別に彼女にしたいとかイチャイチャしたいわけじゃない。



 ん? ウソつくなって? いや、お前リザの動画見てないだろ。リザの身長は一般的なトカゲと同じ。


 人形みたいな……つまり、約20センチの女の子とどうやってイチャイチャするんだよ。


お読み頂き、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼最近のオススメ▼

1b9a9ei7acqbbf15kt850tkwm5_1auy_kk_e0_24ub.jpg
ズルいお姉様被害者の会

極薄百合風味コメディーです。
(イラストはジャガイモ探偵さんからのご厚意で頂きました♪)


他の短めな短編もよろしくお願いいたします! ↓のバナーからシリーズに飛べます!
5分前後でサクッと読めるやつ あれこれ
(バナーは楠木結衣様からのご厚意で頂きました♪)


▼この作者の別作品▼

新着投稿順

 人気順 

― 新着の感想 ―
[一言] 公園の景色から特定っていうシーンが、なんだか昨今の状況を思わせましたねぇ。 ちょっとした映像から場所を特定するのって割と簡単らしいので、たしかにーって思いました。 最後は予想外でした笑 完…
[良い点] 楽しく読ませていただきました。 AIイラストかわいい! そしてなんかお話がぴったり! 最後はリザちゃんといい感じになるのかなと思ったらならなかったのも意外性があってよかったです。 クソガキ…
[良い点] ちょっと変わった浦島太郎…という感じでしたね。 爬虫類はペットとして人気があるとも聞きますし、飼い方動画などは需要が大いにありそうです。 リザのサイズには驚かされました(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ