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第3話 それぞれの秘密

「貴族の男って本当つまらないのね。私が偽物だなんて気づきもせずににこにこしてるし。そもそも、『フリージア』にあんまり興味がないんでしょうね。しょっちゅうどこか余所見してるし、こっちの話なんて聞いてるんだか聞いてないんだかわからないような、つまんない相槌ばっかり。本当退屈だわ」


 完璧に成り代わってやるわと息巻いていたリディの熱は、グレイに会う度に冷めていった。

 グレイを好青年と聞き及んでおり、しかもフリージアがそんなに好きならばと期待値が高すぎたのだろう。

 ただ、それでも途中でやめたりはしない。

 リディにとってこれは、仕事だから。


「一生あんな男と一緒にいるのかと思うと気が滅入るけど。まあ、嫁いじゃえばあとは好きにしてやればいいのよね。ああ、心配しなくてもうまくやるわよ。評判落としてあの義兄に怒られるなんて勘弁だからね」


 戻ってきては愚痴をこぼしていくリディの話を、フリージアはただじっと耐えて聞いていた。

 それなら代わってと言いたいのを、こらえて。


 そんなフリージアに転機が訪れたのは、グレイとリディが初めて会ってから一か月ほど経った頃のことだった。


「ねえ、ちょっと聞いてないんですけど!」


 勢い込んでフリージアの部屋に飛び込んで来たリディは、憤慨したように語り始めた。


「どういうことなの? あいつ今日、私に何ていったと思う?」

「……え?」

「あのボンボン、私に本当にいいんですか、って訊いてきたのよ。『前にも言った通り、僕も父も人でなしだけれど、本当にいいのですか』って」


 その言葉に、フリージアははっと息を呑み込んだ。


「やっぱり知ってたのね? どういうことよ、どうして今まで黙ってたのよ! っていうかフリージア、もしかして他にも隠し事があるんじゃないの? なんかやっぱり変よ。どこがどうとは言えないけど、どこかいつも上の空だし、会話しててなんだか噛み合わないときがあるもの」


 それはきっと、グレイがこれまで手紙でやり取りしていたことを前提に話をしているからだ。

 ただ、傍に控えている侍女たちにそのことが露見してはまずいと、あいまいにぼかして『フリージア』にだけわかるように話しているせいだろう。


 しかしあの問いを再び投げかけられるとは思っていなかった。

 結婚まで一年をきり、もう一度確認しておきたかったのだろうか。

 ということは、やはりグレイにとってそれは大きな問題なのかもしれない。結婚の障害になりえると思うほどに。


 口で説明してもわかりにくいから家に招待してくれると言っていたが、リディはそういった誘いは受けていないようだ。

 思わず考えこんでいると、苛立ったリディが声を上げた。


「ねええ! 聞いてる? あいつ本当になんなの?」

「それは私にもわかりません」

「はあ? わからないのに婚約を受け入れてたってわけ? それでもあいつを好きーとか言ってたわけ? 信じらんない、考えらんないわ」

「でもグレイ様がそのまま言葉通り『人でなし』だとは思えません。きっと何か事情があるのだと思います」

「だったらグレイはなんでその事情っていうのを言わないの? 細かいことを話しもせずに了解をとろうとするなんて、卑怯じゃないのよ」


 言っていることは正論だと思う。

 しかしフリージアは口元に笑みを浮かべた。


「そうですね。けれど、誰もが秘密の一つや二つは持っているものだと思います。あなたも、私も、そうですよね?」


 そう問いかければ、リディはぐっと言葉を飲む。

 しかしすぐに口を開いた。


「でも私たちなんてかわいいもんじゃない。別に悪意でやってるわけじゃないんだし、あっちにだって別に不利益はないでしょ? 『アシェント伯爵家の娘』って人が嫁げばそれでいいんだから」

「そうですね。だからグレイ様にも何か事情がおありになるのかもしれませんね」


 そう返せば、リディは呆れたようにフリージアを見下ろした。


「あっきれた。無理だわ。私には付き合いきれない。親子そろって『人でなし』の自覚があるような人のところに嫁いだら、どんな目に遭うかわかんないもの。いくら金をつまれたって、命に代えられはしないわ」


 そう言って腕を組み、椅子の背もたれに体を預けた後、ふと思いついたような顔になった。


「そうだ。そうだわ。いーことかーんがえた!」


 そう言ってリディは、子供のように笑った。

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