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伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした  作者: 佐崎咲
第一章 アシェント伯爵家の令嬢
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第1話 鳥籠の日々

「あなたの大切な婚約者は私に任せて」


 身代わりとして連れて来られた少女はそう言った。


「恨まないでよね。これは仕事なんだから。むしろあなたのためにやってるのよ? そのことを忘れないで」


 そう言われてしまえば、返せる言葉はない。

 フリージアは庭園で楽しそうにお茶をする二人を窓から眺めるだけ。

 あの人とはもう二度と目が合うこともない。

 そう思っていた。


   ・・・◆・・・◇・・・◆・・・


 三百年前。聖なる乙女によってこの国から魔物がいなくなり、平和を取り戻した。

 それでも国同士の戦はあるし、すべての人間が等しく幸せということにはならなかった。


 それでもアシェント伯爵の長女として生まれたフリージアは、一般的な貴族としても恵まれていただろう。

 実の母は幼い頃に事故によって亡くなっていたが、十歳の時に父が再婚し、義母とその連れ子である義兄とも仲は良かったからだ。

 いじめられたり、確執があったりすることが珍しくない中、幸せだったと言える。


 十一歳の時に義母が病で亡くなったが、それからもフリージアは父と義兄からしっかりと愛情を受けたおかげか、おっとりとして物静かな少女に育った。

 一番の楽しみは読書で、放っておけばいつまででも読んでいる。


 義兄のカーティスがお茶や散歩の誘いにきてくれて、やっと本を閉じることもあった。


『また本を読んでいたのかい? それなら私とお茶をしよう。少しは休憩も必要だよ』


 どこか冷たく見える青銀色の髪も、フリージアに微笑みかけると温かな色に見えた。

 今はもう、そんな風に微笑みかけてくれることもないけれど。



 フリージアは窓をそっと開けると、そこでじっと待っていた小鳥に指を伸ばした。


「リーン、おはよう」


 リーンと呼ばれれば、小鳥はちょんちょんと跳ねるようにしてフリージアの指に飛び乗る。

 脚につけられた小さな銀色の筒から小さく折り畳まれた紙を取り出すと、フリージアはほころぶような笑みを浮かべた。


「グレイ様からの手紙を届けてくれてありがとう。疲れたでしょう? さあ、休んでいって」


 そう声をかけ、テーブルに置かれた小皿の傍にリーンを下ろす。

 すぐさま餌をついばみ始めるのを見届けてから、フリージアはそのまま椅子に腰を下ろした。


 気が逸るのをなんとかおさえて、破れぬようにそっと紙を開けば、いつものように他愛もない話が書かれていた。


『庭の白薔薇が咲きほこって、僕の部屋まで香ってきます。時々その匂いを嗅ぐのはいいのですが、いつもその匂いで満ちていると他の匂いが恋しくなってきます。次はユリだそうです』


『シェフのブライアンが裏庭で育てているトマトが虫にやられてしまい、嘆いていました。次は辛味のある実をすり潰してふりかけ、虫よけをすると息巻いています。食卓に出るトマトが辛くなっていないか、気を付けて食べたいと思います』


『今日も侍女のリッカがりんごを潰してしまったので、ジュースにして飲みました。甘くておいしかったです』


「ふふ! リッカは慌てんぼうなのかしら? それともちょっと不器用なのかしら?」


 そこにはグレイの見守るような視線があった。

 手紙を読んでいると、グレイが邸のことや使用人たちによく目を配っていることがわかるし、なによりもその交流が楽しそうで。

 グレイの手紙を読むのが今のフリージアの一番の楽しみだった。


「お返事を書かなくちゃね。リーン、ちょっと待っていてね」


 エサを食べ終え、テーブルの上をつんつんと冒険して回っているリーンをちらりと見てから、フリージアは文机に向かった。

 婚約者であるグレイとは、手紙だけの交流となってもう一年になる。

 グレイが訊ねて来ても会わせてもらえない。

 フリージアが社交界に出ることもなければ、この邸の外に出ることさえもない。


 優しかった父とカーティスが豹変したのは、十五歳の時。

 カーティスがフリージアの持つ力に気が付いたことがきっかけだった。

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