とある妃の語り
貴方がその方を愛そうと、国王の妻になった袂は守らせてもらいます。
「まだ!まだ、離縁しないのか!そんなに、国王の妻にしがみつきたいか!」
まだ、時期ではないから彼の罵詈雑言を受け入れる。
私にはメイドや執事や料理人や庭師が付いてる。私は彼らを守るためにいる。
「この!醜女が!」
思いきり顔を殴られても、私は妻の座を渡すわけにはいかない。
「ふん!」
私の部屋に当たり散らしすだけ当たり散らし、出て行く。
数年我慢して、ようやく私の出番が来た。
私は国母。
王室を、民を、国を護るためにある衣装を着る。
白い真っ白なワンピースは絹で作られ、リボンはシルク、靴は本皮の白皮、アクセサリーもシルバーで真珠がふんだんに使われている。
通称ホワイトローズ。
国母は、国のために、清廉潔白を示すため白で統一し、戦を何とかさせないため、ホワイトローズで身を包み出向くのだ。
そのホワイトローズが無くなり、王の愛人が着ていた。
『何て言うことを!ホワイトローズの意味すら知らぬ王だとは思いませんでした!
ホワイトローズは妃が一度だけ着るための死に装束!気高き国母のためのホワイトローズを!馬鹿にするのも大概になさいませ!
…もう、ホワイトローズは着れないですわね!今一度新たに作り、出向くのが遅れる通達をいたします!
もし…戦争が無くならないときは仕方ありません。戦の準備を!
王よ今一度、国母や妃やホワイトローズについて学びなさい!痴れ者が!』
「し…死に装束なんて…私は知らないわ?ら」
『王の次に偉いのは妃。王が死ぬわけには行きませんから、我が国では妃がホワイトローズを身に纏い、王の代わりに首を差出すのです!しっかり勉強ぐらいなさいませ!』
「王妃様、今職人がいらっしゃいます!」
『大臣ありがとうございます!直様隣国へ手紙を書きますわ!痴れ者に文など到底書けませんもの』
「そのぅ…私は」
『知りません。貴女の無い脳味噌で考えてください。
それと大臣、王に今から付け焼き刃ですが色々教えて差し上げて!』
「分かりました王妃様」
「王妃様、文の用意ができましたわ」
『ありがとうメイド長!』
スラスラ文を書き、執事に頼むと、直様ホワイトローズを作成してくれた職人達が来た。
愛人の姿を見て、職人達は殺気立ち、睨みつける。
『行きましょう!こんな馬鹿二人は無視しましょう』
「はい!王妃様、靴は予備を用意してあります!」
『まぁ!ありがとう』
「王妃様…絹は足りず綿なら存分にあります…絹はこの時期不足になり…申し訳ありません」
『綿…デザインをもう少し、刺繍を足してみたらどうかしら…』
「それでもやはり…絹には勝てないかと…」
『……麻は』
「ゴワついてしまいます…」
「絹は…私のツテでもさすがに…」
「ですよね…」
「泣かないで。でも綿が存分にあるならば綿にしましょう!確かに絹には敵わないかもしれませんが、麻よりも良いですし、刺繍などで豪華にしてみては…」
「ありかもしれないな。なら、俺は刺繍職人を探すか?
あーあ、愚王に愛人は脳味噌がスライムだから、コチラまで苦労する」
「ふふ…スライム、ふふ」
泣いていた王室お抱え服屋は笑顔を見せた。
彼等彼女等を何とか守りたい。私は…私のために頑張ってくれる皆を守りたい。
予定より1週間遅れ仕上がったホワイトローズは、前よりも更に出来が良く、綿で仕上げたホワイトローズは今までのホワイトローズより美しく気高き仕上がりになった。
袖を通し、騎士達が左右に分かれ跪く道をひたすら歩き、馬車に乗り込み、処刑台に行くと処刑台も白で統一され、まるで死神と挙式でもするかのようだ。
群衆はいない。
いるのは戦争を仕掛けてきた敵国の王と直属騎士団、そして…私の専用騎士団のみだ。
『では…皆さん愚王を残すのはいたたまれませんが、どうか王を宜しくお願い申し上げます』
「「「「御意!」」」」
断頭台に登る前に私は睡眠薬を飲んだ。怖いから眠る間に終わらせたいから…。
その後は、我が国がどうなったかなど死んだ人間には興味がないこと。
ただ、愚王は愚王でしかなく、最後まで惨たらしく命乞いをし、助かった国は敵国の奴隷国として有り続けてしまった。
差し出した命を盾にいかようにも交渉はできたのに、愚王は交渉すら出来ず、だ。
王になるには…妃教育より厳しく教育しなければならないのに。
『死んだ私には、関係ないわね』
私は密やかに天国で囁いた。
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