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大阪人は食の伝統を大切にしない

 今はそういうことは無いのかもしれないが、むかしは「月の法善寺横丁」で歌われたように板前というのは旅に出て修行するものだったらしい。渡世人のような稼業である。

 そして全国どこの出身者でも板前を志すならば「いずれは大阪で修行することになるだろう」と言われたように、大阪が日本の料理の中心地だった時代があったようだ。


 現在では一流は東京の銀座だったりするし、大阪人の大好きな河豚(ふぐ)(はも)も最高のものは築地に行くと言われるし、船場の商人(あきんど)にも昔日の豪勢さは無く、旦那衆の御用達だった高級料亭も今では船場より京都嵐山の方が格上だったりする。


 とはいえ、腐っても鯛・・いや大阪である。

 庶民の食は健在で、街中で知らない店にふらりと入ってもまずハズレを引くことはほとんどない。ここが美味い店はとことん美味いかわりに、食えないほど酷い味に簡単に出会える東京との違いである。

 

 ところで大阪人は愛郷心が強いイメージがあると思うが、意外に自分たちの伝統文化に執着の薄いところがあって、特に大阪固有の食文化をさほど大切にはしていない。


 たとえば現代の大阪人はすし屋で何を食べているか?

 おそらく99.9%が「にぎりずし」を食べているだろう。

 しかしにぎりずしは江戸前寿司の技法である。

 本来、大阪ですしといえば箱ずしだったのだが、近年は大阪の街中で箱ずしを専門にしている寿司の店というのはほとんど絶滅した。

 その名残はせいぜいバッテラくらいだが、そのバッテラですら嘉門達夫が歌ったように、回転寿司でも誰も取らない有様なのだ。

 いずれ大阪の寿司職人が箱が使えない時代になるかもしれない。

 いや、もうなっているかもしれない。


 大阪といえばうどんも有名だ。

 しかしながら現在、本物の大阪うどんは絶滅危惧種になっている。

 讃岐うどんの進出に大阪うどんは簡単に駆逐されてしまったからだ。

 もっともこれを讃岐うどんというと香川県の人に怒られるだろう、あくまでも讃岐風うどんなのだが、とにかくコシの強いうどんが大阪でも人気である。

 昔ながらのコシがなく柔らかい、断面が丸い大阪うどんは特にこだわりを持っているお店以外ではお目にかかれなくなった。


 大阪の味といえば二言目には「粉もん」といい、お好み焼き、たこ焼きをアピールしたがる人が多いが、うどん以外の粉もん文化なんてせいぜい終戦後に生まれた新しいファストフード文化である。

 しかしもはや「これぞ大阪の味」といえるのはこれら新しい「粉もん」だけなのかもしれない。


 たこ焼きは確かに大阪で食べるのがいちばん美味いのは間違いない。

 もちろん店によって差はあるが、きちんとひとつひとつにタコが入っていて(質の悪い店では抜きダコといって3個にひとつくらいタコを抜く)美味しいダシで粉を溶いているたこ焼きは、大阪ではそう珍しくない。もうひとつ重要な味の秘訣は天かすで、これには銘柄があって美味い天かすを使えばたこ焼きも美味くなる道理である。ソースは濃厚なたまりソースを使う。


 お好み焼きも美味い。

 大阪風のお好み焼きは広島風と違い、粉と刻みキャベツ、卵などをしっかりと混ぜ合わせて焼くのが特徴だ。粉には擦り下ろした山芋を入れることが多く、粉に対する山芋の比率が高いほど上等な感じがするがこれは好みである。

 刻んだ豚肉も混ぜ込んでしまう有名店があるが、個人的には豚肉は脂身の多いバラ肉スライスを平たく伸ばしてお好み焼きの表面に張り付けるようにして、鉄板でカリカリに焼く方が好きだ。

 テーブルにはもちろん鉄板が仕込まれていて、目の前で焼きあがったお好み焼きにたっぷりのソースを刷毛で塗ると、こぼれ出たソースが鉄板で音を立てて焼け、立ち上がる得も言われぬ香ばしさに食欲が激しく刺激されるのだ。

 これをテコと呼ばれる金属製のヘラのような物で好みのサイズに切り分けて食べる。青のり、けずり節、マヨネーズ、七味、辛子などはまさにお好みで。


 実は以前、大阪に本格的な広島風のお好み焼き店が進出してきたとき、あのキャベツの旨味を蒸し焼きにして味合わせる技法と、中に仕込まれたイカ天の妙味に思わず「これは大阪のお好み焼きも広島風に駆逐されるのではないか?」と私は危惧していたのである。かつて大阪うどんが讃岐風に駆逐されたようにだ。

 しかしその心配は杞憂に終わったようで、現在も大阪風のお好み焼きは健在であり、街のどこにでもお好み焼き屋は存在するので大丈夫だ。


 ・・・と思っていたが、油断は禁物であった。


 私は大阪のお好み焼き店の店頭で何度も不審なものを目撃したのである。

 「おたふくソース」の(のぼり)だ。

 違うぞ、大阪の皆さん!それは広島風のソースだ!

 大阪のソースは「オリバーソース」やで!お間違いなく。

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