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問答無用で暴力的に美味い肉ってあるよね

 古い友人に松阪牛の本場・三重県で命がけで焼肉を食べていた男が居る。我々は彼を焼肉の帝王と呼んでいる。

 命がけとは大げさなと思うなかれ。

 なにしろ一日一焼肉を十年以上続けたのだ。健康に良いはずがない。

 やはり糖尿病を患い、一時は失明の危機を迎えたので、さすがに現在は焼肉三昧は控えているようだ。


 しかし帝王の語る肉の焼き方、食べ方には一聴の価値がある。


 会社の飲みや友人同士でも、焼肉に連れ立って行く場合、「とりあえずタン塩!」という人が多いようだ。

 これはタレ漬けの肉を焼いて網を汚す前にタン塩を焼くからなので、合理的な判断であると思うし、大いに楽しんでいただきたい。ただし焼き方がなってない人が多すぎるのが気になるので、ここで帝王のタン塩の食べ方を書き記そうと思う。


 まずタン塩を焼く場合に絶対のタブーは、ひっくり返すことである。

 せっかくの美味しい肉汁を火の中に捨ててどうするのだ?

 フランスの鴨料理の名店で、鴨の肉汁が垂れ流しになっているのを見て(その肉汁からソースを作るのではあるが)「フランス人は鴨の食い方を知らない」と怒ってワサビ醤油で鴨肉を食べた魯山人先生が見たら激怒するに違いない。


 帝王のタン塩では、ロースターの網に肉を乗せるとすぐにおろしニンニクと刻みネギをその上に適量乗せる。ここからは一刻も肉から目を離してはならない。

 肉が焼けて肉汁がじわっと滲み出ておろしニンニクが溶け出すタイミングで、さっと引き上げて口に入れるのである。タン塩は片面焼きに限る。


 この帝王のタン塩の食べ方、ぜひお試しいただきたい。

 あなたがこれまでタン塩をひっくり返して焼いていたのなら、タン塩の美味さの大部分を味わっていなかったことに驚かされるであろう。


 さてここまでは前振り。


 高級牛肉といえば帝王の住む三重県の松阪牛や、兵庫県の神戸牛(但馬牛)などを思い浮かべる人が多いと思うが、現在日本一美味いといわれる高級牛肉は九州の宮崎牛だ。

 総理大臣賞を三連覇し、米国アカデミー賞受賞パーティーのメインディッシュとして三年連続で饗されている肉である。これは単独の肉のブランドでは初の快挙らしい。もしかすると世界一美味い牛肉といってもよいかもしれない。


 さすがにこのような高級牛肉を食べる機会はそれほど多くはないのだが、幸いにも地元に宮崎牛を専門に扱う老舗のステーキレストランがあるおかげで、何度がこの最高の牛肉にありついた経験がある。


 ここで第一話につづいて美味しんぼに出てきた話から引用すると「霜降り肉の刺身は美味くない」というのがある。マグロのトロなどと違って牛肉の脂は人間の体温では溶けないので、口の中がネチャネチャして不味いのだそうだ。


 かわいそうにどうやら原作者の雁屋先生は本当に上等な牛肉を召し上がったことが無いらしい。一週間後とは言わず今すぐにでも本物の霜降り肉を食べさせてやりたい。もちろん代金雁屋先生持ちならばだが。


 宮崎牛の霜降り肉の刺身は口の中でまさにとろけて、そのかすかに甘味のある脂肪の美味さは上等なバターを思わせるものがある。口の中でネチャネチャなどとんでもない。


 雁屋先生の美味しんぼ以降の傾向だと思うのだが、食の蘊蓄を語る人の多くが「霜降り肉は脂の味しかしない。肉の旨味は赤身でなければ・・・」的なことを言うのが常となっているが、本当にそう思うのか?


 たしかに赤身肉には赤身肉の美味さがあることは認める。

 しかし宮崎牛でも松坂牛でも神戸牛でも、高級な和牛の霜降り肉は異次元の美味さである。


 それは理屈じゃないんだ。

 口の中に入れた瞬間、問答無用に拡がる美味さの暴力なのだ。


 食の蘊蓄を語る食通の皆さん。

 本当にこれが美味しいと思えないのなら、あなたたちの分まで私が食べてやろう。あなたたちは一生赤身肉だけ食っていればいいのだ。

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