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美食には鋭敏な舌はむしろ邪魔である

 目の前に並んでいる水の入った三個のコップには、それぞれA,B,Cと紙が張られている。さらにその前に置かれたみっつの豆腐の皿には、い、ろ、は・・である。


 これはご存知の通りグルメ漫画の金字塔的作品「美味しんぼ」の第一話「豆腐と水」の一コマだ。

 東西新聞社創立百年を記念して、食通である社主の大原がぶち上げた大企画「究極のメニュー作り」のために、文化部の社員の中から鋭敏な舌の持ち主を選び出すテストである。


 水はそれぞれ普通の水道水、このテスト会場である料亭の井戸水、そして丹沢の山奥から汲んで来た鉱泉水。

 豆腐はそこらのスーパーの豆腐、上野の有名店の豆腐、京都の有名店の豆腐の三種。

「水と豆腐の違いを見分けられたらその味覚は大したものだ」そうである。


 こうしてテストにパスした鋭敏な舌の持ち主、グータラ社員の山岡士郎と新入社員の栗田ゆう子のコンビが以後、あれやこれやで海原雄山と対決したり「一週間後に来い!」とかをやるわけだが、その辺は実際に漫画を読んでいただくとして、ここからはこちらの第一話のお題である。


 味覚には個人差があるのはもちろんだが、実際にスーパーテイスターと呼ばれる超味覚の持ち主は少なからず存在するようだ。というか、一般人のおおよそ25%はスーパーテイスターなんだそうである。


 スーパーテイスターには偏食が多いそうだ。これは仕方のないことで、普通の人なら美味しく食べられるホウレン草やケールなどはスーパーテイスターにとっては苦くて仕方がない。なので青野菜がとても苦手な傾向があるようだ。

 また一般に辛い物や味付けの濃い料理も苦手らしい。


 このような普通の?スーパーテイスターはおおよそ四人に一人程度は存在するわけだが、この漫画のテストを受けた文化部の社員は約二十名ほど。

 うちテストをパスしたのはたった二名である。


 そのひとり山岡士郎という人物は幼少のころから美食の何たるかを叩きこまれた、言うなれば食のアスリートのようなキャラクターなので、持って生まれた味覚の他に訓練と知識で補っている部分が大きいかもしれない。


 しかし、新人の栗田さんは普通の家のお嬢さんであるから、彼女の味覚はまったく天性のものなのだろう。スーパーテイスターを超えたウルトラスーパーテイスターに違いない。京都の豆腐のわずかな風味の劣化まで感じ取れるのだから、嗅覚も異常に発達しているのであろう。


 ここまで味覚・嗅覚が過敏な人が、美食なんかできるわけがないのである。水に含まれるわずかな塩分を感じ取ってしまう舌には、普通のスープやお吸い物などは海の水を飲まされるようなものであろう。

 肉の獣臭さも堪らないだろうから、鶏や豚出しのラーメンなどは無理である。スリランカやインドでカレーを食べまくるなどもあり得ないはずなのだ。

 栗田さんは究極のメニュー作りに参加した時点で、何らかの方法で味蕾を殺したとしか思えない。


 ここで大胆不敵な持論を言ってしまうが、美食家、食通、グルメとは例外なく馬鹿舌の持ち主だと思う。たとえば鮎の腸を美味いと言って味わうなど、鋭敏な味覚の持ち主にはとても無理なはずである。


 馬鹿舌だからこそ和食もフランス料理もイタリア料理も、中華料理やタイ料理、インド料理・・・世界の料理を美味しく楽しむことができるのだ。

 そして私くらいの馬鹿舌になると、ラーメンや牛丼や回転寿司も美味しく食べることができる。焼肉も大好物だ。馬鹿舌万歳である。持って生まれた鋭敏な舌などなくてよかったと神に感謝したい。


 グルメとはフランス語で大食漢を意味するグルマンから来ているとか聞いたことがある。つまり腹いっぱい食べるのがグルメである。

 そしてとにかく「美味しい!」が好きなのが美食家だ。

 対して知識をつめ込んで舌や感性ではなくアタマで食べるのが「食通」である。


 私は食通ではなく、グルメな美食家でありたいと思うのである。


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