フィールドワーク
養成所に入り、三ヶ月が過ぎた。
この三ヶ月は、まさしく基礎中の基礎を学んだ。勿論この世界の文字や言葉に関しては母上に感謝しなくてはならない。因みに一ヶ月で覚えられるのか、とあるが最初に教科書を渡されるのでそれを参考にしながらだ。
あと、ほぼ自習をしっかりしないと授業についていけない。最初は、小学生みたいな授業と思っていたら文書を書かされ読まされ、である。因みに、出来ない奴はほっとかれる為に皆は必死だ。
無論ボクも頑張った。さっきも言ったけど、ほんと母上教えてくれてありがとう。何もわからない状態は、かなりキツかったと思う。
しかし、授業自体は休憩を挟みながら午前午後とあるが大体3時位には終わる。そこから自主学習をするのが大半だ。
そして三ヶ月もあれば……いや、教え方が良いんだろうね。殆どはある程度の読み書きは出来るようになっている。あと、数学に関しては……うん、転生者だからね。簡単だったよ、うん。
で、今回は`――――。
「さて、皆さん。今回は事前に読む様に指示していました薬草の採取をしてもらいます。薬草は大まかに【セラピア草】・【ルポ草】・【ルクス草】がポピュラーですね。他にも薬草はありますが、今回はこの三つの薬草を採取してください。くれぐれも不用意な行動をしないこと。他の採取もしても構いませんが、毒を持つ植物もあるので注意してくださいね」
はい、教員の言葉で察すると思いますがフィールドワークです。
人数は約10人程。他はモンスターや動物相手に対しての対処法だったり戦闘訓練を行ってたりする。ま、ボクがいるこのクラスは戦闘経験者か、その才能がある者だけだね。
「なー、シオン。一緒に薬草探そーぜ!」
「はい、わかりました」
因みにこのフィールドワーク、珍しい物を採取したら基本は自分のもの。つ・ま・り、ギルドにて換金が出来るってことなんですよねっ!
寮生活は一人専用ワンルーム部屋。男女は勿論、分かれていてプライベートに侵害が無いのがポイント高い。寮長も、男子寮は男性教員。女子寮は女子教員なのでそこらへんも安心ですね。風呂と洗濯は時間が決められているので、遅れたら……悲惨ですよ?
授業の中には専門科目的な講義がありまして、その講義は自由に出席していいみたいなんですよ。何度か講義を受けてみましたが、特に人気なのが魔法ですね。魔法専門教員がエルフなのは驚きましたけど……うん、ごめんなさい。前に魔法の適正あるか調べてもらったら……才能無いみたいで。
一応、週一程度の講義なのでロベリアと共に講義を受けてる感じです。
その他にも、モンスターの生態や歴史。回復薬などを作る為の調合についての講義もありますよ。因みに、こういう講義ってボク達以外にも卒業した冒険者や探索者達も率先して講義を受けてるんだよね。
ぶっちゃけ、ファンタジー的に荒れくれ者とか思ってたけど……厳つい人も講義受けてるから、その、偏見的な目で見てごめんなさい。やっぱり、役に立つ事。自分の為になるなら学ぶよねっ。
ボクとロベリアは、魔法と調合の講義を受けてる。ロベリアは嫌がってたけど、覚えておいて損は無さそうだから無理矢理連れてきた感じなんだ。
毎週授業終わりに講義をする訳じゃなく、大体週4日はギルドの依頼をこなしている感じ。
あ、モンスターの討伐は受けられないから飲食店での接客業とかしか出来ない。ま、それでも少しずつ貯金は出来てるから文句はない。それに、養成所では寮や朝・昼・夕の三食付いていてお風呂も洗濯も無料だから、本当にありがたい。
聞きた話によると、定期的に今行っている薬草採取とかの依頼があったりするのでその手伝いを養成所の生徒達にやってもらうのとかよくある話。三食付き寮で無料なんだから文句はないさ。あと養成所自体は国が運営しているんだとか。
すごくない?
「あ、あのっ!シオンくんっ!」
「シーナさん?」
「ぼくも、一緒に……いいかな?」
「構いませんよ」
「あ、ありがとうっ!」
彼は、ハーフエルフの【シーナ】。寮部屋のお隣さんだ。まるで女の子の様にしか見えない容姿なんだけど…………風呂で確認しました。ちゃんと付いてましたよ。
格好は魔女だから余計に、ね。シーナ曰く、太陽の光はエルフやハーフエルフにとってお肌の天敵なんだって。日光アレルギーじゃないけど、日光を直接肌に浴びるとヒリヒリして痛いんだとか。
でも、だからってローブの下スカート……い、いや、かなり着込むから蒸れるから仕方がないのは分かるけど……下、黒タイツだし。この世界、黒タイツあるのね。
うん、あれだ。
これはある意味、日本での価値観が悪い意味で発揮してるね。男はスカートを履かないっていう……そう言えば、他の国は男女問わずスカートを履くって聞いたことある。
一度、チャレンジしてみようかな?
「誰だ、この女」
「失礼ですよロベリア。彼はシーナ。れっきとした男性です」
「え、えっと!はじめまして、シーナ、です。ロベリアさん、です、よね?」
「んだよ、男か。紛らわしい格好しやがって……ま、いいや。おれはロベリア。世界最強の騎士になる女だっ!」
「最強の騎士……!凄いですっ!ぼ、ぼくも、【宮廷魔導師】になりたくて!」
「宮廷魔導師?魔法師じゃねーの?」
「きゅ、宮廷魔法師の中でも上位十二名が名乗る事を許される、しょ、称号なのです!ぼく、元々薬師の家で―――――」
最強の騎士、魔導師。
二人共、既に将来の夢があるんだな……。それに比べてボクは、ただ安定な収入を得てアニメを見続けるという……何というか、怠惰、ですかねぇ。
「おい、シオン!」
「っ!?は、はいっ!」
「何ボーッとしてやがんだ」
うむ、ボーッとしてごめんさい。
「それよりさ!シーナのヤツ、家が薬屋で薬草の知識があるんだってよ!これなら集めるの楽勝だよなっ!」
「ロベリア。他人の力を借りるのは良いとして、他人に全て任すのはダメですよ。最強の騎士になりたいのなら、尚更では?」
それに、薬草とかの講義に出てるじゃないですか。何の為に……やっぱり、強引に講義に出るのは逆効果でしたでしょうか。
「――――確かにそーだよな。ま、薬草の形と色は覚えてるから楽勝だぜ」
あ、そうそうこの子。瞬間記憶能力持ってるんですよね。例えば人の顔や画像は一目見れば記憶出来ます……が、都合のいい能力ではないみたいです。例えば文字とかそういうのは難しいみたいです。話を聞いている限り、やる気の問題……かもです。
そうこうしている中、ボク・ロベリア・シーナの三人で【セラピア草】・【ルポ草】・【ルクス草】の薬草採取をする。ま、イメージとしては雑草だね。雑草の中でも特に薬草として効果が高いのがその3つ。調合して回復薬、つまりポーションの材料としても重宝するんたとか。
大体30本程集めた位で一旦戻ろうとした刹那、ロベリアが何かを感じ取ったのだ。
「……………………?」
「ロベリア?」
「どう、しました……?」
ロベリアは、才能の塊だ。
剣術・体術・五感も凄まじい。本人は最強の騎士になると言っているが、将来本当に最強の騎士になれるのではないかと冗談抜きで思える程。それ故に、ロベリアの異変は馬鹿にしたり無視するのは不味い。
“何かがある”。
感覚を研ぎ澄まし、護身用の短剣と長剣を黙って引き抜く。恐らくモンスターがいるのだろうか。動物の方がマシなのだが、これで大型モンスターは笑えない。
しかし、ここは冒険者達にとって初級。つまり、RPGで言うと序盤の街周辺に強いモンスターがいない的なアレだ。そもそもギルド養成所の教員達もいるから、強いモンスターが出現したとしても何かしらのアクションがあるか、既に対処されている筈だ。そもそもそんな心配が無い程、レベル1モンスター・動物がいる場所で、今いるメンバーなら十二分対処は可能。心配する必要はない筈だ。
だが、何事もイレギュラーな可能性もある。無い筈、怒らない筈と思っても起こってしまうのが現実だ。
そんなファンタジーで良くある主人公の能力を見せびらかしたり、覚醒したり、読者に「あ、このパターンね」的な展開とかいらないから。こちとら、単に平穏にアニメが見れる生活さえ出来ればいいんだから!
「っ!」
「おい、何かいるぞ!」
「も、モンスターっ!?」
背後の草むらが揺れた音が響く。。
距離的にはそれ程遠くはないが、大きな揺れる音。一番嫌な展開が来るのか、と思った矢先にその音のした方向、その草むらからゆっくりと姿を現したのだ。
そして、そこに現れたのは――――――。
「よぉ、クソガキ」
煙草を咥えた、赤髪の女性。
年齢は20代から30代前半だ。腰まで伸ばした赤髪に、左目には眼帯。更には傭兵の様な服装だ。恐らく冒険者か、探索者……ううん、やっぱ傭兵っぽい。てか、美人さんだが風貌がこわいなぁ、もう。
「誰だよ、テメー」
「何だ生意気なクソガキ。おい、ギルド養成所のだろ?担任の元に案内しやがれ。そこの白髪もやし」
「ぇ?あ、は、はい。わかりました……」
……なんだろ。すっっっごく、嫌な予感。
というか、もやして。もやしって……毎朝、筋トレしてるのに、もやしってぇ……そんなにひょろく見えますかね?