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夢を見た者



 【シオン・ラヴィーユ】。


 それがお兄様の名前です。


 お兄様は自覚がないみたいなのですが、村一番の剣術士であり元【狩猟者】の父様と同じ位の実力を持っています。まだ12歳というまだ剣術を習っている同年代よりも、洗礼された動きと技術は後の【狩猟者】。又は【探索者】になるのでは、と皆から期待されていたのです。


 ですが、お兄様はそういうのに興味はないとのこと。


 けれども、わたしは知っているのです。


 お兄様は、前世の記憶がある……と。


 誰もがバカらしいと、痛いことだと仰るでしょう。ですが、わたしはお兄様と共に寝る(・・・・)時だけ(・・・)――――――い、いえ!決して10歳にもなって、一人で寝るのが恐いとか!寂しいとか!そういうのではありませんっ!


 こほんっ!


 それは置いておいて……お兄様と共に寝る時だけ、不思議な夢(・・・・・)を見るのです。夢、と言うにはあまりにも生々しく、そして残酷でした。


 何時もある一人の人物の姿を見ていました。第三者として、夢の傍観者として。


 何も出来ずに、ただ見ていることしか出来ない。


 それが、どれだけ辛いか。


 何度もその夢を見て、気付いたのです。


 この夢は―――――お兄様の前世の記憶だということ。


 最初は半信半疑でした。ですが、その夢を見た翌日にお兄様はそのある一人の人物と同じ剣技を、構えをしていたのです。 


 そして、同じセリフを……。


 そこでわたしは理解したのです。


 お兄様は、前世の記憶があると。


 その前世とは、一人の傭兵が人々を守る為に戦い続け―――――――そして、その最期には守ってきた筈の人々によって裏切られて殺されてしまった結末を持つ方。その裏切った者達の中には、身内や恋人、親友もいた。


 それでも、その方は受け入れた。


 いや、諦めた。


 恨んだ所で、死ぬしかない運命を――――――受け入れるしかなかった。


 様々な旅をしてきた仲間も裏切られた彼の絶望は計り知れないでしょう。その光景を、わたしはただ見ているしか出来ない。


 そして、彼は転生したのです。


 

 「お兄様」


 「どうかしましたか、【アーク】」


 「お兄様は今、幸せ……ですか?」


 「幸せ、ですか……ボクは十分幸せですよ。強いて言うなら―――――寝ている時が、一番の幸せですね」


 「寝ている時が、ですか?」


 「もう、一生目を覚ましたくないくらいに―――――(アニメ見続けられるからっ)」


 「―――――――っ!」

 


 やはり、お兄様は前世を覚えているのでしょう。その悲しげな表情に、わたしは容易に察することが出来ました。


 お兄様は、諦めているのでしょう。


 あの夢で、わたしは学びました。


 人は、どれだけ親しくとも。例え家族だろうが恋人だろうが、裏切る時は裏切るのだと。それ故に、お兄様はわたしだけではなく父様は母様、そして弟の【シン】にも常に敬語。


 何処か余所余所しい、まるで家族だけど―――――家族になりきれない、といいますか。


 わたし自身、お兄様とは血の繋がりはありません。元々、わたしは本来他所の子供なのです。モンスターに襲われて故郷を失った……パパもママも私を逃がす為に。


 その当時は5歳でした。ですが、行く宛も無く森で彷徨っていたわたしは人攫いに合いそうになったのです。絶体絶命でした。当時はわかりませんでしたが、今でならわかります。


 もし、あのまま人攫いに合い連れ去られていたら、奴隷として売られていたでしょう。実際、奴隷とはどういう扱いをされるかはわかりませんが、碌なことはないでしょうね。


 ですが、たまたま通り掛かったお兄様に助けられたのです。あの時の出会いは、わたしにとって一生忘れられない記憶でした。



 『怪我はありませんか?』



 見ず知らずのわたしを助け、人攫いを手に持っていた木の剣で一網打尽。まだ7歳という幼い男の子が……です。そしてただ怯えて泣く事しか出来なかったわたしをこの家に連れてきてくれた。


 事情を話しそこで父様と母様、シンと出会い家族として迎え入れてくれたのです。もし、お兄様が私を助けてくれなければどうなっていたか。


 お兄様の為に何が出来るのだろうか、何かお返しがしたいと思っていた矢先に、お兄様か居ない時に家族会議があったのです。



 「シオンを、養成所に通わせようと思う」



 苦渋の決断だったのでしょう。


 唐突ではありましたが、納得はしています。本来なら剣や魔法に才ある12歳は、ギルド養成所に通うのです。そこで約1年程、剣術や魔法に薬草、鉱物などの知識を教えられるのです。


 そこで学び終えた後、故郷に戻る者も居ればそのまま狩猟者・探索者――――一纏めに冒険者としてそのまま働き始める者もいます。更には知識や才能を買われて、国の騎士や魔法師として進む者もいるのです。


 お兄様の剣術の才能は、父様が認める程です。むしろここにずっといる方がおかしいでしょう。


 何せ、お兄様は小型とはいえモンスターを狩る人。本来、モンスターは小型は大人一人(・・・・)で倒すのがやっと。ですが、お兄様はたった一人で群れを一掃する。幾ら兎や鹿の姿()をしていても、モンスターに(・・・・・・)変わりない(・・・・・)

 

 動物とモンスターの違いは無い。


 ただ、“動物の上位互換がモンスター”なのです。地域によっては“モンスター”以外にも“魔物”とも呼ばれています。


 例えば、お兄様が良く狩るモンスターは兎や鹿型モンスター。兎型モンスターは、額から角を生やした“アルミラージ”と呼ばれるモンスターで、鹿型モンスターは“アクリス”と呼ばれています。


 そんなモンスターを狩れるだけでも、凄いのに週に一回は一匹二匹を狩ってくるのです。モンスターの素材は動物よりもワンランクで売る事が出来ます。お兄様は貯蓄の為と貯めていましたが……恐らく、この村から出ていくのですね。


 わかっていました。


 ですが、わかっていても悲しいのです。お兄様と離れ離れになるなんて……胸が張り裂けそうな程、辛いのです。


 行く行くはわたしも12になれば通うことになると思いますが、その時にはお兄様はいません。私が出来るのは、精々ママから教えてもらった[魔法]の力。その中でも回復魔法で傷付いた人を癒やす事だけ。


 お兄様には、一度も使ったことはありません。そもそも、モンスターを狩る時も無傷で何事もなかったかの様に帰ってくるのです。


 わたしは、お兄様の役に立てられない。



 「ボクが……養成所に?」



 お兄様の12歳の誕生日。


 父様はシンプルなデザインの長剣……いえ、少しお兄様の背丈を考えて……あれ、お兄様嬉しそう。


 …………ここだけの話。わたし、知っているのです。


 実はお兄様、剣よりも己の拳で戦うのが得意なことを。偶々、お兄様の跡をつけて戦いを見てみようと思えば、ある悪戯そうな妖精が攻撃を仕掛けてきたのです。ですが、あくまでも妖精。妖精は好き好んで人を襲うことはありません。ただ、人を誂うのが好きなのです。ですので、種族問わずに嫌っている者は嫌うのですね。


 妖精がしたのは、魔法で泥人形を生み出しお兄様を泥だらけにしようとしたのです。妖精は実態が無いが故に、面倒な相手。剣で応戦していたお兄様ですが、泥そのものである人形に剣を奪われ、イライラしたのでしょう。


 その刹那、泥人形が爆散しました。


 ただニッコリと微笑みながら、その拳には殺意が……妖精も流石に驚いて逃げてしまいましたけどね。

 

 

 「ぇ゛っ、明日から……?」



 流石に驚きますよね。


 お兄様に同情してしまうのと同時に、お兄様と離れ離れになることは悲しいのです。例え今生の別れではないとしても、悲しいのです。母様もシンも、同じです。



 「シオン、お前がどの様な人生を歩むかはわからん。だが、まずは養成所で色々と見て体験するといい。お前の人生だ。お前自身で決めるといい」


 

 父様は、お兄様があまり欲がない事に気にしていたのでしょう。欲しいものは、狩りに必要なものだけ。それ以外は何もない。母様も心配していましたが、お兄様自身本当に欲は無いのです。


 強いて言うなら、眠ることは大事にしていますね。することが無ければ寝る事も多いですから……ですが、やはり前世の記憶が原因の一つなのでしょうか。


 忘れもしない、あの記憶を見る度にお兄様は寝ながら魘される様に涙を流す姿……。



 「わかりました」



 お兄様はその一言で終わらせます。


 嫌がる事もせず、ただ風に吹かれる木の葉の如く流されていくのです。それ故に心配になってしまいます。特に人間関係……お兄様は身内以外にはあまり興味を無さそうにするのです。いえ、別に嫌っている訳ではないとは思うのですが……。


 それに、お兄様は才ある人。特にただの村人の子であれば、その実力に嫉妬してしまう人もいるでしょう。ギルド養成所にはお兄様の様な村からだではなく、多種多様な人が養成所に来るのです。大丈夫……とは思いたいのですが。



 「【ロベリア】も、ですか?」



 ……ロベリアさん。


 お兄様の幼馴染みで、同じくギルド養成所に向かわれる御方です。同性であるわたしからしても愛らしい方ですが、性格は……なんと言いますか。一言で言いますと、言葉遣いが荒く大雑把です、ね。


 ……正直、全く面白くはありません。


 わたしが幼稚なだけ、なのでしょうね。まだまだ子供なんです。お兄様が取られるかもって……時折、そんな自分が嫌いになっちゃうんですけど。



 「……アーク?」


 「あ、あのっ、お兄様。今日……一緒に、寝ても――――」


 「にーちゃ、ぼくも」


 「構いませんよ。ほら、どうぞ」


 「あっ、ありがとうございますっ、お兄様っ」


 「わーいっ」



 これは妹としての特権です。弟のシンも明日からギルド養成所に行ってしまうお兄様と共に寝るようですね。シンもお兄様大好きですから、時々恋しくなることもあるでしょう。


 勿論、わたしも。


 ですが、何れお兄様の為に何をすべきか。そして前世の辛い記憶も、全て癒やしてさしあげなければなりません。


 何よりも、この一生の恩を返すの為に。


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