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06 仕事場にて


 その翌日、想像もしていなかったような出来事が起きた。


「ねえ、見た!?」


「見た見た。驚きすぎて頭が真っ白になったわよ」


 朝から何となく、城内が騒がしいというのは感じていた。

 私の同僚の侍女たちだけでなく、メイドたちもどこかそわそわと落ち着かない様子なのである。


「ねえ、サンドラも見てきたら? ほんとすごい美形なんだから」


「つややかな銀髪に、切れ長の青い瞳。薄い唇……」


 侍女の一人が、芝居がかった様子でその容姿を称賛する。

 どうやら、新たに宮廷を騒がせる美男子が現れたらしい。

 突然現れたということは、他国からの外交官だろうか。

 だが、新たに異国から外交官が来たという話は聞いていない。

 それに私の関心は絶世の美男子よりも、仕事の方に向いていた。


「ちょっとあなたたち、仕事中なのよ」


 恐れ多くもここは王妃の閨房である。

 主人であるエリーゼ様そっちのけで盛り上がる侍女たちをどう注意したものか、そちらの方が頭が痛い。


「いいじゃない。私は王宮を自由に歩き回ったりできないから、あなたたちの話が唯一の娯楽なの。もっといろんな話を聞かせて頂戴な」


 悪戯っぽく王妃が言う。

 侍女たちは全員満面の笑みを浮かべ、自分が目撃した王宮内のスキャンダルを話し始める。

 こうなっては収拾などつかない。

 主人の意向ならば仕方がないと、私も口うるさい事ばかり言う己の口を閉じた。

 今度は王妃まで一緒になって、だれだれは素敵だとかだれだれは浪費癖がらしいなど、閨房内はまるで鳥の巣のように姦しくなった。

 私も王妃に提供できる話題があるとよかったが、あいにくと噂話には疎い性格だ。

 仕方がないので今夜の王妃のスケジュールについて算段していると、不意に名前を呼ばれた。


「ねえサンドラ」


 柔らかい声は王妃のものだ。

 その柔らかさに何か嫌な予感を抱きつつ、慇懃に応じる。


「なんでしょう妃殿下」


「あなた昨日、騎士団からの帰りがやけに遅かったじゃない? 一体何があったの」


 確かに、昨日は道に迷ったりイアンに引き留められたりと、王妃の元に戻るのが遅くなってしまった。

 そして私が口を開く前に、私を迎えに来た侍女が口を開く。


「サンドラったら、男性と二人で話しこんでいたんですよ。ええとあれは誰だったか……長いひげを生やしていたことは覚えているのだけれど――」


 そこまで言いかけたところで、今度は別の侍女が叫ぶように言った。


「なんですって!? まさかイアン様じゃないでしょうね!? ルーカス公爵家の」


 叫んだのは、同僚の中でも特に噂話が好きなエマだ。

 ちなみに、さっき話していた美男子のことも、話を聞いた瞬間持ち場を離れて見に行ったらしい。

 他の同僚たちも、なにやら悲鳴を上げたり驚いたりしている。


「え、ええ。確かにイアン様といたけれど」


 訝しく思いつつなんとか返事をすると、今度はずんずんとエマが近づいてきた。

 それは今にも飛びかかられるんじゃないかという迫力で、思わず後ずさりしてしまった。


「サンドラ! 一体イアン様とどういう関係なの!?」


 私は動揺した。

 私とイアンの間にこれと言って明言できるような関係性はない。

 そう、ないのだ。

 私が一方的に想っているだけなのである。


「関係なんてないわよ。ただ送ってくださっただけで……」


 それにしても、エマはどうしてこんな風に迫ってくるのだろう。

 まるで彼女こそイアンにご執心なようではないか。

 今までは、イアンのことを「いくら青星騎士団でも、あの見た目じゃね」と失礼なことを言っていたというのに。

 

「ほんと!? ほんとなのね?」


 間近で念押しするものだから、私はこくこくと頷いた。

 安心したのか、ようやくエマが離れていく。

 不思議がっている私に、笑いながら王妃が言う。


「サンドラは本当に噂話に興味がないのね。今の話を聞いていなかったの?」


 どうやら、私が上の空でいる間に、なにやらイアンの話になっていたらしい。

 それなら少し聞きたかったかもしれないと思いつつ、私は頷いた。


「申し訳ありません……」


「謝ることはないわ。そうだ、午後の騎士団への視察には、あなたがついてきて。きっと驚くわ」


 王妃の提案に、私は首を傾げるほかなかった。

 青星騎士団の演習についていく役目ならば、行きたいという侍女はいくらでもいるというのに、どうしてわざわざ私を指名するのか。

 想像した通り、他の侍女たちは口々に自分が行きたいとアピールし始める。

 それに口をはさむことは気が引けて、私は断るタイミングを失ってしまった。

 結局もう一人のお付きの座はエマが勝ち取り、私たちは午後の視察を迎えることとなった。





 


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