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04 騎士団にて


 私が向かったのは、青星騎士団の団長ケネスの執務室だ。

 騎士団の本部は城の西翼にある。青星騎士団は我がシリウス王国の軍事力を統括する存在なので、その団長であるケネスは軍を率いる将軍にも等しい。

 位の高い人物が与えられる部屋というのは、高層階か或いは建物の奥まった場所であることが多い。

 特に王城というのは外敵からの襲撃を想定してかなり入り組んだつくりになっているため、同じ城内とはいっても彼の部屋にたどり着くにはかなりの距離を歩かねばならなかった。

 一度外に出て、西翼にある騎士団専用の出入り口から中に入る。制服を着た騎士が見張りに立っている入り口をくぐり、中にいた騎士に来訪の目的を告げる。

 手が空いているということで、運よくその騎士が団長室まで案内してくれることになった。茶色い髪を短く刈り込んだ、人当たりのよさそうな青年だ。年はユリウスより少し上くらいだろうか。

 一方で、私は珍しく緊張していた。

 王妃付きの侍女が騎士団に用があることなど滅多にないが、あっても大体その役目は取り合いになるため、私に回ってくることはない。

 なのでここでユリウスが働いていることは知っていても、中に入るのは初めてなのだ。おかげで少し道に迷ってしまった。

 今日はイアンの態度が気になったため自らやってきたが、理由がなければ間違いなく他の侍女に頼んでいただろう。

 中にいるのは見事に男性ばかりだった。内勤、外勤にあわせて体格の違いはあれど、女性の姿は全く見当たらない。

 侍女姿の私は浮いてしまい、ひどく居心地が悪い。

 この建物にイアンがいるということに緊張をおぼえつつ、早く用事を済ませてしまおうと黙って青年の後についていく。


「王妃様付きの侍女なんて凄いですね」


 と思ったら、向こうから話しかけられた。

 おそらく社交辞令だろうが、いつも男性からは嫁き遅れとしか扱われない私は大層驚いた。私くらいの年になれば女は結婚して家に入るのが当たり前で、働いていることを褒めてくれる人なんてほとんどいないからだ。

 それに、私から見れば騎士という職業の方がよっぽどすごいと思う。


「ありがとうございます。騎士様にそう言っていただけるなんて光栄ですわ」


 返事をすると、青年は照れたように頬を掻いた。

 誉め言葉など言われ慣れているだろうに、最近騎士になったばかりなのだろうか。


「サンドラ!」


 すると、突然後ろから名前を呼ばれて私は驚いた。

 騎士団で私の名前を知っているのはユリウスくらいだが、ユリウスならば姉上と呼ぶはずだ。

 一体誰だと後ろを振り返ると、そこにいたのは息を切らしたイアンだった。

 私はとても驚いた。

 イアンが私の名を知っていたということもそうだし、目的の人物が向こうから現れたことに対してもだ。

 けれど、更に驚くようなことが起こった。

 イアンが突然私の手を握り、強く引いたのだ。

 油断していた私は、転びそうになりながら彼の傍に引き寄せられた。

 一瞬何が起こったのかわからず、視線は何度も私の手を握るイアンの大きな手と、もっさりとした彼の顔を行き来する。


「副団長!?」


 案内してくれていた青年もこれには驚いたようで、慌てて直立不動の体勢になった。


「……彼女は私が案内する。トーマスは訓練に参加しろ」


「え? ですが自分は今日から休暇で……」


「聞こえなかったのか! 今すぐだ」


「は、はい!」


 トーマスと呼ばれた青年は敬礼すると、走って去って行ってしまった。

 そしてその場には、茫然とする私とイアンが残された。

 なんとも気まずい沈黙が落ちる。

 一体何が起こったのか尋ねたいところだが、ずっと見ているだけだった片想いの相手に手を握られているのだ。私はその場に立っているだけでやっとなほど動揺し、それが外に出ないようにするだけで精一杯だった。

 というか、一体いつまで手を握っているのだろう。

 これ以上彼に触れていると、そろそろ心臓が口から出てしまいそうなのだが。


「あ、あの」


 やっとのことで、喉からか細い声が出た。少し裏返っていた気さえする。


「なんだ?」


「手を……」


 私がそう言うと、イアンはまるで手を握っていることに今気づいたとでもいうように、慌てて私の手を離した。

 緊張でどうにかなりそうだったのに、手を離されるとそれはそれで少し残念な気がした。

 長い前髪と髭のせいで、イアンの表情は読めない。

 一体何を考えてこんなことをしたのだろうか。


「ああ、明日の演習の件を伝えに来たのだろう? 俺からケネスに伝えておく」


 なぜか、イアンは私の目的を知っていた。

 もしかしたら、私が遅いのを気にした王妃が別の使いを出したのかもしれない。

 道に迷って遅くなってしまったことを、私は改めて反省した。


「そうですか。ありがとうございます」


 図らずも、目的は達成されてしまった。

 ならば急いで王妃の元に戻ろうと、私は軽くお辞儀して元来た道を戻ろうとした。


「待て。送る」


 そんな私を、イアンが引き留める。

 もしかしたら私が道に迷って遅くなったと知っているのかもしれない。


「副団長様にお手数をかけるわけには……」


「イアンでいい。大丈夫だ」


 辞退しようとしたのだが、押し切られてしまった。

 しかも名前も呼び捨てでいいとか。

 いや、それ以前にどうして私の名前を知っていたのかとか、いろいろと聞きたいのにうまく言葉にできない。

 そのまま、ついてこいとばかりにイアンが歩き出してしまった。

 仕方なく、私はそのあとをついていくことにした。







 


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