12 プロポーズ
「え?」
頭が真っ白になって、イアンの言葉の意味が全く理解できなかった。
「どうか、俺と結婚してほしい」
重ねるように、イアンが言った。
あまりにも予想外の展開に手が震える。
「ど、どうしてそんな……」
夢を見ているのだろうか。
イアンがまさか私に求婚するなんて。
「王妃の護衛任務に就くと、あなたは私がどんな身なりをしていようと、他の騎士たちと変わらず接してくれた。いつも真面目で、率先して仕事をしているところが立派だと思った。そして、着飾ってユリウスと共にいる姿を見て、初めて自分の気持ちに気が付いた。あなたを他の男に奪われたくない」
どんどん、顔が熱くなっていくのが分かった。
本当にこれが現実のことなのだろうか。なにか自分に都合がいい白昼夢でも見ているのではないだろうか。
とにかく想定外の出来事の連続で、思わずその場に倒れこみたくなってしまう。
私がずっと黙り込んでいるのを悪い意味で解釈したのだろう。
イアンの顔色が曇った。
「だめだろうか?」
だめなはずなどない。
「……お受けします!」
思い切って返事をすると、すぐさまイアンに抱きしめられた。
その腕が力強すぎて苦しかったけれど、私は生まれて初めて心からの幸せを感じた。
その後弟とトーマスが私たちを見ていることを思い出し、大変気まずい思いをすることになった。
***
それからしばらくして、私とイアンは結婚した。
両親は仕事にばかり熱中していた娘が結婚することに大賛成してくれたし、それはイアンの両親も同様だったようだ。
これは義母から聞いた話なのだが、幼い頃から容姿が整っていたイアンは、知らない人間に付きまとわれたりといろいろな苦労があったらしい。
なので前髪と髭を伸ばし、自分の顔をずっと隠していた。
十年前の時点で既にそうしていたのだから、彼にとってそのトラウマはかなり根深かったのだろう。
王妃は、トーマスとお見合いしたはずなのにイアンと結婚することになった私を、笑顔で祝ってくださった。
エマには嫌味を言われたけれど、それも仕方ないかなと思う。
驚いたのは、そんなエマが私とイアンのなれそめを聞いて、自分も仕事に打ち込み始めたところだ。
今では私がかけていたような眼鏡をかけて、侍女仕事に勤しんでいる。
それにしても、本当に人生とは何が起こるか分からない。
弟の恋人のふりをしたことがきっかけで、まさか長年の片想いの相手と結婚することになるなんて。
ユリウスは私の縁結びの天使だ。そう彼に言ったら、弟はとても嫌そうな顔をした。
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