11 明かされる真実
「副団長?」
「どうしてここに……」
私とトーマスが驚いてそちらを見ると、イアンは何を思ったのか顔をそらした。
いや、たった今私たちの結婚について異議を唱えていたような気がするのだが?
もしかして私の願望が見せる幻だろうかと思ったが、トーマスも反応しているということは白昼夢の類ではないようだ。
上官が来たのに座っているわけにもいかなかったのだろう。
トーマスが立ち上がり、イアンに近づく。
するとイアンの後ろから、弟のユリウスが走ってくるのが見えた。
「ま、待って、待ってください副団長~」
どうやら、弟はイアンを追ってきたらしい。
トーマスが近づいても、イアンは何か口ごもっているばかりでここに来た理由を言おうとはしない。
仕方がないので私も立ち上がり、ユリウスを待った。
エリート騎士三人を侍らせて、一人で座っているなんてとてもできるはずがない。
たとえその中の一人が、実の弟であったとしても。
ゼイゼイと、ようやく私たちのところにたどり着いたユリウスが、肩で息をしている。
なんとなく昔の病弱だった頃が思い出されて、心配になってしまった。いつものくせで、ハンカチを取り出しユリウスの顔の汗を拭く。
「大丈夫? 無理しないで」
すると、なぜかイアンはショックを受けたようによろめいた。
「やはり、あなたはユリウスと……」
「え?」
「それより副団長。一体何しに来られたんですか? 一応、私とサンドラ嬢の大切な席なのですが」
礼儀正しくも、トーマスはバッサリと言い切った。
なんとなく、さっきまでの初々しい雰囲気とちょっと違うなと思った。
すると、イアンが顔を険しくして言い返す。
「これ以上、お前がご令嬢を泣かせるところを見ていられるか!」
私は驚き、トーマスを見た。
彼はちっとも動揺することなく如才ない笑顔で、返事をした。
「いやだな、何をおっしゃっているんですか? 突然」
「いつもいつも、年上の女性を誘っては身勝手に捨てて問題を起こしてきただろう! サンドラ嬢までそんな目にあわせようとしたら容赦しないぞ」
イアンが凄む。
私はイアンの言うトーマスの行状に驚いた。
だがそれ以上に、イアンに名前を呼ばれたことが嬉しくてあまりショックには感じなかった。
「さっさと身を固めろとおっしゃっていたのは副団長ではありませんか。サンドラ嬢には実家から正式に縁談を申し込み、こうしてお話しているのですよ?」
確かにその通りなのだが、イアンの言葉を否定しないトーマスに私は薄気味悪いものを感じた。
先ほどからうすうす感じていたことだが、どうも彼は見た目通りの好青年というわけではないらしい。
「黙れトーマス!」
すると今度は、驚いたことにイアンではなくユリウスが口を開いた。
騎士とはいえ私の前では一度もそんな言葉づかいをしたことのない弟だけに、私は呆気に取られてしまった。
「お前が、俺を目の敵にしているのは知っている。けれど、それに姉上を巻き込むのは違うだろう!」
え、そうだったの?
先ほど恥ずかしそうに従騎士だと言ったトーマス。そして十九歳の若さで騎士になったユリウス。
確かに年齢も近く、同じ騎士団に所属していればライバルになってもおかしくはない。
「何を言っているのか……サンドラ嬢との縁談に君のことなんて関係あるはずが――」
そこでトーマスは、不自然に言葉を止めた。
「待て。姉上だと?」
どうやら、彼が引っかかったのはそこらしい。
これには、私もユリウスも首を傾げてしまう。
「姉上……?」
イアンもまた、目を見開いて茫然としていた。
いや、あなたは副団長なのだから団員の家族ぐらい知らなければおかしいだろう。
というかトーマスだって、結婚を申し込むなら私の家名を知っているはずだ。
「そうですよ。私はグローバー子爵家の娘ですもの」
確かめるように言うと、トーマスが顔をゆがませた。
そしてユリウスを指さして叫ぶ。
「馬鹿な。お前は姓をエイラッドと名乗っていただろう!」
そういえばそうだった。
エイラッドは母方の親戚で、子供がいないので将来ユリウスが爵位を継ぐことになっているのだ。
なので将来混乱が起きないよう、騎士団にはエイラッドの姓で登録したのだろう。
ユリウスがそのことを説明すると、イアンもトーマスもなぜか無表情になってしまった。
昼下がりの中庭に、なんとも気まずい空気が流れる。
「くそっ、ユリウスの恋人を奪うチャンスが……いや、やつが義弟になると思えば」
トーマスがなにやらぶつぶつ言っているが、そんな下心ありありの男と私が結婚するとでも思っているのだろうか。
いくら王妃の紹介とは言え、弟を目の敵にしているような男はさすがにない。
「では、あなたがユリウスをほめていたのは……?」
茫然としたようなイアンに尋ねられる。
そりゃあ、かわいい弟のことは褒めるに決まっているだろう。
「身内びいきで申し訳ありません。ですがユリウスは本当にいいこで――」
「やめてくれよ。恥ずかしいじゃないか」
きらきらしい容姿で恥じ入るものだから、本当にかわいいなあと思ってしまった。
弟の頼みで恋人のふりをしてしまうくらいには、弟馬鹿だという自覚はある。
すると、イアンは何を思ったのか長い足を折ってその場にしゃがみ込んだ。
気分でも悪いのだろうかと心配していると。
「ならば、俺にもまだチャンスはあるだろうか?」
そう言って、しゃがみ込んだのではなく跪いた彼は、私の手を取った。
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