2「バカな子ほどかわいいモノ」
「ねえ……どう思う?」
「どうって、なにが?」
リアの問いにリズは髪を洗う手を止めて首を傾げる。
「あの馬借さんだよ、信用出来ると思う?」
「リア。お前は直ぐに勘繰りすぎ……」
用心深く生きて来なければならなかったリアに対して、寝首を掻かれても血の制裁と理不尽な性能で切り抜けてきたリズにはどうもピンとこない話だった。
「だって、ねえさん。どう考えても只の馬借じゃないよ」
「確かに。ステイツ最高位SSSのハンターがなぜ馬借をしてるのかは不思議だ」
なのでリアの疑問にリズの受け答えは微妙に焦点がずれてしまう。というより、リズにとっては信用出来る出来ないよりも腕が立つかどうかの方が重要なのだ。
「ちがうちがう、ソコじゃなくてさ。あ、シャンプー取って」
「はいよ。何が気になるんだ?」
リズも話半分で聞いていたが彼に関して少し気になる所があったのでシャンプーを渡してリアに体を向ける。
「んー。上手く言えないけど油断ならない何かがある気がするんだよねぇ~」
「は?」
「だからぁ、こう……掴み所が無いっていうか、本質が見えないっていうか」
いま一つ要領の得ないリアの返答にリズは疑問符を浮かべるが今までリアのこういった類の勘は必ず当たっているので、何かしら有るのだろうと納得をする。
「……なるほど。お前がそう言うなら何か秘密を隠してるかもしれないな」
「だしょ。ぜえったい、隠してるよーっ!」
「ただ、悪い人ではないのは確かだけどな」
「そーお?」
彼女が笑って彼をフォローすると何故かリアに殺気がこもる。
(ちっ、やっぱり撃ち殺しとけば良かった)
姉の気遣いがシスコンである妹にはむしろ逆効果となり、彼に対する猜疑心に拍車を駆ける。
殺気立つリアをなだめるようにリズは慌てて話の関心を別の方向へ向ける。
「気付かなかったか、リア。山賊に襲われた時もナグルディオネと戦ってる時も一般人のフリをして常時フォロー出来る位置に居たぞ、彼は。
右手もポーチに忍ばせて、ポーションや投げナイフをすぐ投げれるようにしてたしな」
リアの癇に障らないよう慎重に言葉を選んで、あくまで第三者を見てる視点で語る。
「良ぉーく見てたね、姉さん」
ハズなのだが、リアの疑いの目は何故か深まるばかりだった。
「ああ、マグレや逃げる為のポータルを用意してるだけだと思ってたが……話を聞いて納得していたよ。リグル・ディアボロをソロで倒せる猛者なら合点がいくな、と」
リズも必死に言葉を重ねるが最早リアの中では話が完結してしまっていた。
「姉さんも抜け目……無いねえー?」
ここまできたら沈黙は金である。
リズは語るのを止め、相槌だけ一つする。
「ま、まあな」
背中につぅーと流れる冷や汗を感じながらリズは目線を空に遣る。
(あれー? どうしてこうなった!?)
にじりよじりと迫るリアから後ずさりするようにリズは距離をとる。
――がささっ……。
不意に聞こえた音に二人が振り返ると、槍を杖代わりの支えにしたロザリーが焦燥した顔つきで葉っぱや枝をアクセサリーにして姿をみせる。
「リズ! 私を置いて先に行くなよっ!」
肩で息をしながらロザリーが声を張ると二人は表情を緩める。
「ごめん、ロザリン。先に水浴びてるよー」
「ロザリーがいけませんよ。やれ蜘蛛だ、やれ泥だ……なんて言って、何時までも動かないから」
リズは洗い終えた髪を結いつつ、川辺に足を付ける。
「だって、クモ怖いんだもん……」
「いい加減クモくらい克服して下さい」
「むりぃっ! あんな気味の悪い生き物が動いてると思うと――……」
ロザリーが上着を脱いでブーツから脚を抜くと、リアがにいーっと口角を上げる。
そして自分の肩先を指してロザリーに話しかける。
「あ、ロザリン。肩に蜘蛛がついてるよ?」
「……」
リアは「ここ、ここ!」と言いながら肩をトントンと四回つつく。
「い――……」
場が静まり返ると、音が聞こえてきそうな勢いでロザリーから血の気が失せていく。
「いやあああぁぁぁーーーっっ!!」
ロザリーの悲鳴にリアがしてやったり、といった顔で笑い転げる。
「いやっ、いや……いやああぁーーっっ!」
しばらく笑い倒した後、リアが手のひらを反して嘘を自白する。
「冗談だよっ」
「取って! 早くっ……早く取ってえー!!」
しかし、パニックを起こしているロザリーの耳には届かずに掻き消される。
「ごめん。マジでビビるとは思わなかった」
「リア、お前は……」
見かねたリズが川辺から上がり、溜息を漏らしながらロザリーに歩み寄る。
「どこっ!? どこに居るの?
もう、やだっ! ウチに帰るぅ……」
バタバタと体を動かして涙目で顔を赤くするロザリーの鼻をリズがツンとつついて落ち着かせる。
「大人しくして下さい。ほら、取れました」
リズが蜘蛛を取ったフリをして手を握り、ロザリーに見せる。
「ホント!? ホントに取れた?」
「ホントですよ、ホント」
ロザリーがリズにしがみ付くように震えると、彼女は軽く笑って蜘蛛を捨てる仕草を見せてロザリーから離れる。
「あ~、怖かった。リズ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
茂みで居もしない蜘蛛を放りながら相槌を打つと茂みが急に揺れる。
――ガサッ!
「――っ!?」
完全に気を抜いていた為、三人の反応が遅れる。
「どうしましたっ!? 山賊の残党か覗き魔でも出たんですか!?」
二十代後半くらいの男が茂みから慌てた様子で現れて空気が凍りつく。
「あ……」
男は呆気に捕られた表情でリズの足先から頭まで眺めると、最後に顔を紅潮させて小刻みに肩を震わせる彼女と目が合ってしまい、バツが悪そうに目線を逸らすとその先に一糸纏わぬリアと下着姿のロザリーが映る。
男が思わず顔を弛緩させると我に返った三人が怒声を上げる。
「サイテーですっ!」
――ばしっ。
「覗き魔はお前だ!」
――ぼすっ。
「このヘンタイっ!」
――ドギャスっ!
「な…」
――ばたっ…
痴漢をはたらいた男が三人の華麗な三連撃を浴びて倒れ込む。
「なんでぇ~っっ!?」
そして、三人のゴミを見るような眼差しと裸(と、下着)を最後に昇天する。
――ちーん。
――……アーメン。
遡ること、数分前――。
「ふぅ……なんとか穴は塞がったな。あとは、雨が降らんよー祈っとこ」
ルーディは馬車の修繕を終え、上々の気分で屋根から軽快に飛び降りる。
「よっ……と!」
薪も用意し、食材も下拵えを終え、馬車も修繕した。
後はあの三人が帰って来て自分も体の汗を流し、適当な頃合いになったら火を起こして夕食にするだけだ。
結論から言うと、この時間は彼にとって特にする事も無い退屈な時間である。
「あー、暇だな」
彼は大きめの台座のような岩の上にごろん……と寝転がり虚ろな眼差しで空を仰ぐ。
「困ったな、完全に手持ち無沙汰だなぁ。
ん、手持ち無沙汰って変な言葉だな? 聞き間違えたら、手持ち蓋って聞こえそう……んなコトないか」
大きなあくびを一つして一人で訳の解らない事を口にする。
「空ってなんで青いんだろ? ああ、いとおかし」
言っていて虚しくなったのか、彼はしばらく無言になりそのまま意識が虚ろになる。
「少し寝るかな……」
体を捻り、世界を横に傾けると彼は程無く意識を落とす。
――いやあああぁぁぁーーーっっ!!
そこら一帯をつんざく悲鳴に彼は意識を取り戻す。
「今の声はロザリンド様っ!?」
頭の先に置いておいた調理用のナイフを握り、体を起こす。
「しまった! 油断したっ!!」
彼は岩から飛び上がると一飛びで路地を越え、転がる勢いで獣道を下る。
「彼女達は丸腰だ。今襲われたら――……クソッ! 浅はかだった!!」
焦りは彼から適確な判断を奪い、迂闊にも彼は木の根に足を捕られてしまう。
「くっ……」
しかし、熟練のハンターである彼は受け身を取り、転がるまま立ち上がり再び疾駆する。
「どうか無事でいてくれよ……」
坂を駆け下り、藪を掻き分けて川辺に辿り着く。
肩でしている息を抑えて彼女達の姿をその眼に映す。
(よしっ! とりあえずは無事みたいだ)
無事を確認して安堵し、落ち着いてもう一度彼女達を見る。
(あ……俺、死んだかも――……)
彼は湧き上がる興奮を抑制しようと試みる。が、思わず顔を緩めてしまう。
――ばしっ、ぼすっ、ドギャスっ!
ビンタ、フック、飛び蹴りを綺麗に顔面で受けて倒れ込む。
彼女達の身を案じて駆けつけた彼は理不尽な暴力に遭いつつ、こう思った。
(ラッキーショット頂きました……ありがとうございますっ!)
最高ランク壁職の耐久値は異様なまでに高かった。
ルーディが再び目を覚ますと、三人は既に居なかった。というより、そこらの茂み投げ捨てられたようで周りは草木しかなかった。
「いつつ…」
痛む顔を押さえて彼は立ち上がった。
「扱いひど過ぎだろ。まあ、木に縛り付けられなかっただけマシなのか?」
一応、気遣いは在ったみたいで濡れ手拭いがポトリと落ちる。
「向こうからしたら痴漢だもんなぁ。手当して貰っただけヨシとするかあ」
伸びを一つすると、彼は川辺に向かい自分も体を洗い流す。
「さっき全力で走ったから汗でベトベトだ。しっかり洗っとこ」
川に入り、手拭いでしっかりと垢を落とし肩まで水に浸かると溜息が漏れる。
「ふぅ……幾ら何でも飛び膝蹴りはやり過ぎだろ、鼻が折れたかと思ったあー」
手で触り、折れていない事を確認してリラックスする。
「しかし、痛い思いをした分の対価はあったな。ロザリンド様は置いといて……リズさんとリアさんのあられもない姿を拝むコトが出来たもんなー。特に膝蹴りの時に見た映像といったら、もう。
それだけでも報われるってモンです」
「ご心配をおかけしました。私達を案じてとは露知らず、申し訳ありませんでした」
意気揚々と鼻歌をしていると、後ろから声が聞こえる。
「いえいえ、謝らなくても良いですよ。
むしろコチラがお詫びしたいくらいで……て、え?」
聞き覚えのある声にルーディが振り返るとリズの顔が至近距離に映る。
「な……なんで居るんですか、リズさん?」
「いえ。私はシャンプーとか使うかなー?と思って、置きに来たら随分楽しげな声が聞こえたもので……」
冷やかな笑みにルーディの顔が青くなる。
「お気遣いありがとうございます。直ぐに戻るんで少々お待ち下さいと二人に伝えて下さい」
「少々……ですか? なんなら魚のエサにしてあげますよ? もう帰って来なくて結構ですので」
「はは。ジョーダンきついなぁ、リズさん」
「あはは~、そう思います?」
(ゔ……本日二度目の俺、死んだかも――……)
「我々の業界ではご褒美です!」
「死んでどうぞ!」
ルーディが言い終えると同時にリズがありったけの力で拳を振り抜く。
――すぱぁーんっっ!!
水飛沫を上げてルーディが宙を舞う。
「のおおん!!」
空を舞いながら彼はこう思った。
(手拭い巻いてて良かったあ……)、と。
――どぼーんっ!
「ホント、サイテーですっ!」
リズはルーディが頭から川に落ちるのを見届けると足早にその場を後にする。
彼女が少しきつい斜面を登り、平坦な道に出ると既に夕げの支度を終えたリアとロザリーが意気揚々と皿に装っていた。
「おかえり、姉さん」
「もう支度は終わったのか?」
「後はルーディが帰って来るのを待つだけだよ」
「初めて料理をしたが上手くいったハズ!」
「楽しみにしてますよ」
「といっても、用意されてた食材を鍋にブッ込んだだけ……だけどね。
んで、姉さん。そのルーディはどうしたの?」
「さあ? 今頃、川下の岩に引っかかってるんじゃないか?」
リズが肩を竦めながら岩に腰かける。
「なにしてきたのさ、いったい?」
「ちょっと空を飛んでみてもらっただけさ」
「んー、まあ……私は大体想像ついたぞ。
要は照れ隠しで加減し忘れたんだろ」
「ロザリン、よく解るねぇ」
「いつも被害に遭ってるからな……主にお前の所為でなぁ、リア」
「反省してます、はい……」
ロザリーが最後の一掬いを皿に移動させようとした時、ロザリーが意図しない位置にレードルが移動する。
「あ……」
「失礼。ん……美味しい。これなら自炊でも暮らしていけますね」
ルーディが彼女にピタリと体をくっ付け、レードルを持つ手の首を優しく支え、にこりと口元を綻ばせる。
「ヤロウ、ぶっ殺す!」
それを見て反応したのがリアだった。
リズが制止する手を出すより半歩先に黄色い稲妻がルーディを目掛けて駆け抜ける。
無造作に飛び掛かられたルーディがロザリーの横を転げる。
「このケジラミやろうっ! 誰彼構わず、ツバ付けんな!」
「ええっ!?」
「許さない、絶対に泣かす!」
「僕が何をしたっていうんですかっ!」
「黙れ、クズ」
「ちょ、ちょっ……なんで!?」
「カス、バカ、ヘンタイ、イログルイ!!」
リアはマウントポジションを取ったまま、激しくルーディを揺らす。
「リズ、リアは一体どうしたんだ?」
「あ、あー。なるほど」
「何がわかったんだ?」
「何に、とは言いませんけど妬いてるんですよ……きっと」
「その心は?」
「リアは重度のシスコンですからね、おまけに独占欲となわばり意識が強いから」
「つまりオモチャを盗られそうになったからキレた、と?」
「概ね、その通りです。……ロザリー、言ってて悲しくないですか?」
「ああ、ちょっと切ないな…………」
季節外れの木枯らしがロザリーの頬を撫でた。
すっかり気落ちしたロザリーが顔を下に向けると不意に視界が薄暗くなる。
「面白いことしてるね、私とも遊んでよ」
やけにくぐもった少し高めの声が彼女の耳を触る。
無機質な声にロザリーが顔を上げると、異質な何かが立っていた。
「ロザリーっ! 離れて!!」
「じゃあね、ばいばーい」
異形の体の陰から覗く妖艶な刃が彼女を捉えた。
――ヒュン……。
間一髪、ロザリーの目の前を銀閃が走る。
「ぼぉーっとしないっ!」
リズがロザリーの体を後ろに押し倒して、即座に敵へ回し蹴りを放つ。
「すまない、リズ」
「いいから離れる!」
リズはロザリーに一瞥もくれずに相手と正対する。
「ごめん、悪ふざけが過ぎたみたいね」
「ええ、まったく」
からかうようにキツネを模した面がカタカタと揺れる。
「くたばれ、畜生風情が」
「うわっと、危ない危ない」
リアが手にした銃器でキツネ女に後ろから殴り掛かる。
それを後ろを見ることなく女は避ける。
「ち、勘の良いヤツ……むかつく、アンタ」
「んんー。躾のなってない猫ちゃんなのね、アナタ」
「オッケー、千回殺す」
言い終えると同時、二人の熾烈な攻防が始まる。
「フッ!」
「ざんねん!」
「チッ……」
「はっずれ―」
リアが足の親指に力を込めて低い弾道から膝蹴りを繰り出せば、狐は上体を捻るよう仰け反らせて躱す。リアがその足でもう一歩踏み込んで晒された顔面めがけて追撃の拳を捩じ込ませたと思えば、それすらも顔を捻って躱し切る。
「気持ち悪い動きすんな、ヘンタイ!」
「うっわ、傷付くなあー」
狐は突き出された腕を掴むと、それを支えにリアの体に絡み付きに掛かる。背中側へと伸びてきた相手の足首をリアが阻止するように捉えて投げ飛ばす。
「ひっどーい。投げ飛ばすなんてぇー」
「あいにく同性と抱き合う趣味は無いの」
狐が投げ飛ばされながら受け身を取り、その間にリアが再び間合いを詰め、先程の大振りから相手の動きを制限するようにコンパクトな振りで更に五発、拳を振るう。
相手も捻りやステップで躱せないと踏んだのか、両手を使って拳の軌道を逸らすが、逸らし切れずに五発目が下腹部に刺さる。
「……ぐぅ」
「捉えたっ!」
リアは刺さった左拳を素早く引っ込めて相手の右足を左足で踏み抜くと、左わき腹に思いっ切り拳を振り抜く。
―ペキッ……。
爆ぜるような軋むような音がロザリー達の耳に微かに聞こえると、リアが口角を持ち上げた。
「言ったよね、千回殺すって……覚悟してね、おバカさん?」
リアが拳を右、左と振り抜く度に狐の華奢な体が跳ね回る。
「ほらほら、ごめんなさいは?」
「言うもんか、ばーかっ!」
「……っの、クソガキ!」
激昂したリアが顔面に向かって力いっぱい拳を打ち付ける。
狐は受け身も取れず、打ち捨てられたように地面を転げる。
「ハァ、ハァ……」
「ばか、やり過ぎだぞ。加減をしろ、加減を……」
「ハァハァ……ふう、殺してないからセーフだよ」
リアが肩でしている息を抑えながらロザリーの諫言を突っぱねる。
「しかし、だな。半分殺す気だったろ」
「ロザリー、お花畑なの? 相手は殺す気で来てるんダヨ?」
「だからって……」
「うっさいなぁ……つまんないコト言わないでくれる?」
リアが愛銃を拾い上げて汚れを拭き取る。
「くっ……あは、あはははっ! さいっこー!!」
すると、沈黙していた人形が激しく笑い出す。
「お姫さま、緩すぎでしょ? 猫ちゃんの言うことが正しいよ。私はアナタを殺しにきたんだよ、わかる?」
狐は立ち上がると口から微かに垂れる鮮血を拭う。
ロザリー達が大きく目を見開いて声の主を凝視する。
「あれれ? なんで驚いてるのさ……効く訳ないでしょ、あんな猫パンチ。でもでも最後のは効いちゃったなあ。久々に血の味思い出しちゃった。嬉しいな、愉しいな。ねえねえ、猫の血ってどんな味なのかなぁ……知りたいな、興味出ちゃったなあー」
狐のお面をした少女が指に付着した自分の血を丁寧に舐め取ると、高揚した声色で踊り出す。
「うえ、気色わるっ! やっぱ、殺しときゃ良かったわ……」
「ムリムリ。私を殺したいんだったらそのオモチャで、さ。ココ……狙わなきゃだよ?」
女が眉間を指し示すと、コツコツと乾燥した音が響く。
「ああ、そう。なら、遠慮無くブッ殺してあげるわ」
「ああ、そうだった! 一つ忠告していい?」
「なに?」
「アナタ、近接格闘のセンスが全くないからお姉さんに変わって貰った方が良いわ。なんだったら三対一でも私は構わないよ?」
狐女はリズを指すと続けてロザリーを指し、最後にリアを指し示す。
「はあ? 舐めてんの?」
「あ、意味理解出来たの? 賢しいのね、猫の割には」
「やっすい挑発……バカじゃないの?」
「挑発じゃないんだって、忠告だってば」
「どうでも良い」
リアは銃を放ると一足飛びで相手まで詰め寄り、至近距離での打ち合いが始まる。
「シャッ!」
「ほほいっ……と」
「フン!」
「てやっ!」
リアが右拳を振り抜いたと思えば、狐は潜り込んでそれを躱しつつ鋭い突きを脇腹に捩じ込み、リアが撃ち込まれながらも相手の後頭部を鷲掴みにして膝蹴りを顔面に叩きもうとすれば、それさえも両腕で防がれる。
「……ちょこまかと、うっとうしい!」
「だから言ってるじゃん? センス無いって」
リアはすかさず、かち上げられた相手の襟を掴むと足先に全体重を乗せて体を捻る。
リアの圧縮された全身のバネが余すことなく掴んだ襟へと伝わり、体格差も相まっていとも簡単に相手が掬い上げられる。
狐は浮かされた腰では踏ん張ることも出来ず、払われた足が弾けて宙を舞う。
「取った!」
「荒っぽいなぁ、もう」
リアが叩き伏せるように狐の体を地面に捩じ込む。
角度を持って急速に落下した小躯は抑え付けられた胸元を起点に波打ち、たわむ。
「があっ!?」
「痛かった? ゴメンなさい、加減知らないから」
「こっんの、性悪!」
「お互い様でしょ、ヘンタイ女」
叩き付けられた狐女が一瞬苦痛に口元を歪ませると、リアが余裕を見せつけるように鼻を鳴らす。
しかし、余裕も束の間。
今度は狐女が悪戯っぽい笑みを浮かべ、リアの腕から抜け出て彼女の首に絡み付く。リアの手首を捻り上げ、首を締め始めるとリアが堪らず痛苦を漏らす。
「ぐ、うぅ……」
バランスを欠いたリアの体が地面に倒れ、その締め上げは更に強まる。
「ぅぐあぁっ!!」
「痛いでしょ? 手首壊れちゃうかもね~」
リアの耳元でギリリッ……と、肩から先の軋む音が聴こえる。
拘束されていない片手で引き剥がそうと何度も転げるが、回数を重ねるごとに狐の柔らかく湿気のある艶やかな下肢が緩やかに圧搾しようと絡まっていく。
「なんて馬鹿力なの、コイツ……」
線の細い小柄な身体とは思えないほどの絞力がリアの体を責める。
リアの細首に少しずつ相手の脚が食い込んで、次第にリアの脳は意識が薄らいでゆく。金色の瞳が徐々にあせていき、やがてリアの視界は黒い色に包まれた。
「まあ、こんなもんかなぁ? もう少し期待してたんだけどなー」
「う……うぅ……」
抵抗するリアの力が抜けて仰向けに横たわると狐女の締め上げる力も緩む。
地面に放り投げられた白い指は蝋細工のように強張り、天を仰ぐばかりだった。
「リ、リアッ!」
「はいはい。一人目、片付きましたよ~」
ロザリーが呼び掛けても、リアは何処か定まらない焦点でロザリーを見つめ、いつも彼女をからかっている声が聞こえてはこない。
「何でもいい、何だっていいから! 返事をしてくれ、リア――。お願いだ…………何でもいいんだ、リアぁ……」
狐が拘束を外そうと手を離した時、リアの瞳が輝きを取り戻す。
弾かれた狐の腕が再びリアを絡め取ろうとするが間に合わず、リアを取り逃がしてしまう。
「ぜえ……ぜえ……あー、死ぬかと思ったぁ……」
「リ、リアッ……良かったぁ」
「ロザリンのお陰かな、目ぇ覚めちゃったよ」
ロザリーが目に溜めた涙を拭うとリアがはにかむ。
「お、仕留めたと思ったんだけどなぁ……」
「ハッ! ずいぶんヨユーぶっこいてくれちゃって……アタシってしつこいのよ」
「大人しく寝たフリしてれば良かったのにね、おバカさん」
リアが乱れた呼吸を整えると大きく息を吐き出す。
「すぅ……ふう。大体、解ったわ。認める、アンタとは組み合ったら勝てなさそうね」
リアはそう零すと、三度拳を構える。
「あれー? 勝てないのに同じコト、もう一回するの?」
「うるさいわね。『組み合ったら』て、言ったでしょ。それに、勝てないです、ごめんなさい。で退がれるほど安いプライド背負っちゃいないのよ」
「死んじゃうかもしれないのに?」
「自慢にならないけど、今まで勝ってきた数より負けた数の方が多いワケ。それでも私は今ココに立ってる……意味わかる?」
「はい?」
「要は同じ相手に百回負けようが大事な時に一回でも勝てば勝ちってコト」
「うわ、キモイ発想。粘着質過ぎ……」
「しぶとくなきゃ、とっくに死にまくってるんだから」
「解ったよ。とことん付き合ってあげるよ、子猫さん」
「アンタ、上等……ねっ!」
リアが地面を蹴り出すと同時、狐女も距離を詰めて二人の拳が交錯する。
鏡合わせに同じ動きを繰り出すと、双方の拳が互いの頬を掠める。
「あっぶな! 良いじゃん、良いじゃん」
「今のかなり鋭かったね、危なかったよー」
リアも相手も共に最初の目的を忘れて、打ち合いに没頭する。
「今頃気付いたのだけど、アナタってレフティなのね」
「利き足は右だけどね!」
リアが振り抜いた左手の勢いのまま、左足を軸に回し蹴りを打ち込む。
「があっ!?」
側頭部を蹴られた狐がよろめくと、間を置かずリアが右拳を頬に打ち下ろす。
「フンッ!」
「ブフッ……」
「ほら、もういっちょ!」
「か……はっ……」
左拳も叩き込んで最後に相手の前髪を掴み上げ、鼻先に向けて頭を捩じ込む。
「うらあああぁぁ!!」
――ベキッ!
「いだっ……」
明らかに何かが折れた音が響き、掛かり始めた月に赤黒い虹が掛かる。
顔を押さえた狐の指の隙間から血が垂れ、ヨロヨロと飛び退く。リアは組み敷かれないように深追いはせず、一度呼吸を整える。
「アンタ。ほんと、しぶといわね」
「なんだ、もう一回攻めてきたら絡め取るつもりだったのに」
「もう油断はしないわ。それくらいで叩き潰せたとは思ってないもの」
「まったく賢しい猫ね……」
狐は片鼻を押さえ「フンッ……」と鳴らし、鼻下の血を拭い取る。過呼吸気味に狐が肺を動かすとリアも息を整えるように胸を大きく膨らませた。
「苦しいでしょ、上手く息が出来なくて。さっきのお返しなんだから」
「安いお返しだこと。これくらい慣れたものだよ」
「減らず口をっ!」
リアが追撃をかけなかったのには三つの理由があった。
一つは、ダメージが充分だと思えず躱されて組まれる危険があったこと。
二つ目は、先ほど痛めつけられた右肩が悲鳴を上げていて、渾身で振り抜いた際に思うように動かなくなってしまい、片手で応戦するには無理があったから。
最後は、相手が素手で応戦するのを止めて、短剣を抜き出した場合に防ぐ手立てが無かったからである。
「……ぐっ! いったあ~……」
リアは右肩を無理やり持ち上げてハメ直すと愛銃のある位置まで後退する。
「そろそろさ……抜きなよ、腰のナイフ。まさか飾りじゃないでしょ?」
「良いの? 殺しちゃうの勿体無いなー」
狐がそう言いつつ、腰に差した二振りの短剣を露わにすると月明かりが妖しくその太刀筋をぼやかす。
「……フッ!」
一瞬撃でリアまで詰め寄ると、鋭利な殺意がリアの喉元を掠める。
「はっ……や……今までとはダンチだわ」
「へえ。避けるんだ、今の」
金に輝く瞳が狐の面を覗き込むと、先程までの無機質にこちらを見ていた瞳は無く、煌々と照らされた紅い瞳が狂喜を纏って覗き返していた。
速度の乗った刃はリアの首元を通り過ぎたと思いきや、その足で切り返してリアの側頭部に迫りくる。これもなんとか反応してリアが首を傾けると、狐の右脚がリアの顔面を蹴り上げる。
「ブハッ!?」
リアは大きく仰け反りながら距離を空ける。
地面が足に着くと同じか、それよりほんの少し早く投げ付けられた二振りの片割れがリアの脚を狙う。
間一髪、横っ飛びでソレを凌げば、狐がすぐさまに地面に刺さったナイフを抜き取り、両翼から袈裟懸け気味にリアの首を狙ってナイフが走る。
地面を後ろに倒し、自分の真上を通り過ぎてくナイフを見上げてリアが一人ごちた。
「なんなの、なんで急にこんな動きが速くなるワケ? どんな手品使ってんのよ、まったく……」
ギロチンの刃が擦れるような甲高い音を二本のナイフが奏でると、その死刑執行人……ナイフの持ち主が不気味に哂った。
「ねえねえ、ビックリした? さっきまでのはちょっとした遊びだったから……私から動けば、こんなもの。アナタに合わせてたら夜が明けちゃうもんね……そんなのつまらないじゃない、アハハハ」
狐が仰け反ったリアの体を蹴り込むとゴム鞠のようリアが吹き飛ぶ。
――ドムッ!
「ほおうら、吹き飛びなさい」
「ぐふっ! あぅ……」
リアは優に四、五間の距離を舞い、無残に地面を転げまわると沈黙する。
「あと二人殺さなきゃ、だもん。一人は瞬殺としてメインディッシュはゆっくり味わいたい派なワタシ……前菜に時間を割いていられないわ、ね?」
からかうように軽快な声色でリズを指し示すとリズが肩を竦める。
「ええ。私も貴女とは手合せしてみたいところですが、生憎とウチの店はコース料理がメニューにありませんので……悪しからず」
狐の女が首を捻ると、銃弾が面の耳を弾き飛ばす。
「……ざっけんな!! 人をすっ飛ばして話進めんな! 蜂の子漬けにしてやんよっ!」
頬のスリ傷を軽く擦り上げるとリアの髪が逆立つ。
「剛腕の王よ。汝の司りし創造に誓い、命ずる……」
地面を小さな閃光が走り回り、中心地点にいる少女の纏う雷光が激しさを増す。
「バカ、相手を殺す気か!」
「いえ、正しい判断です。中途半端がお互い一番危険です」
「しかし……」
「リアは冷静です、信じてあげて下さい」
臨界を迎えた魔力の奔流が集束を始める。
「曝せッ! ミョルニル!!」
先ほどまでの激しい轟きが穏やかにたゆたい、逆巻く髪の毛は落ち着きを取り戻す。
「むむ、コレは……濃厚な風味だねぇー」
大胆不敵ともいえる態度が少し締まる。
女は肩を回し、コキコキと鳴らすと独特の構えを取る。
「えー……めんどくさいけどしょうがないよね、こほん」
空気の流れが制止したかと思えば、一気に渦を巻いて流れが加速し始める。
「静寂の冥王よ……汝、司りし拒絶に誓い、命ずる……」
死の根源を憶えるような鋭い冷気がロザリー一行を包んで走り回る。
その場の全員が固唾を飲んで立ち竦む。
――ただ一人、冷気を纏う彼女を除いて。
「散らせぇ、デスサイズッ!!」
黒い布のような魔力が青い髪の少女に纏わりつきその刃を煌めかせる。
「なんと異様な……」
リズがそう漏らしたが無理もない。
刃渡りは持ち主の身長を軽々と越え、柄は四尺ほどもあろう大鎌を二振りも持ち合わせ、光さえ通さない黒衣からは不気味に光る紅い瞳が二つ、黒衣から漏れ出た青い髪が風になびく姿は地獄から這い出た死の狂気そのもの――……といえるほどだった。
「……死ぬよ。この姿を見たヤツは……みぃーんな、死んじゃうんだあっ!」
「じゃあ、私は生き残り一号ってことで」
夜闇に紛れる亡霊、漆黒を照らす雷神、正反対の存在が対峙する。
――そして、闘争は静寂の内に始まった。
昼見た獣王すら軽く寸断するであろう鈍い鉄の塊が、自分を否定するように輝く陽光に向け、その暴風をもって掻き消そうと唸りを上げる。
光は容易く一つ目の嵐をいなし、もう一つの暴風を拒むように跳び上がり空を駆ける。
稲妻が宙を舞うと、洩れるように或いは弾き出されるように稲妻から銃弾の雨が降り注ぐ。影の主がその雨を掻い潜りながら稲妻の着地点まで抜け出ると稲妻がより一層輝きを放ち、大鎚を携えてこれを迎撃する。
一瞬の間に切り結ばれる剣戟は時々火花を散らしてはその存在を確かだと誇示していた。
観客である姫君達には火花が散る一瞬と光を放ちながら霞みに消えていく色とりどりな得物の軌跡が二人の激戦を示してくれるばかりだった。
おおよそ拮抗している彼女らの立ち合いは有限と思えないほど長い時間を駆け、しかしてその実、束の間の出来事であることも昇り始めた月が指し示してくれていた。
平行線を辿っていた両者の均衡は些細なことをキッカケに傾き始める。
最初に綻んだのは暴風だった。
渦巻く風は時折揺らぎ、光さえ飲み込む闇は次第に薄らいでいった。
おそらく酸欠による身体の悲鳴だろう。
圧し潰すほど猛っていた風は姫君達の元へすら届かず、その事実が虚ろだった存在を地上へと引きずり落とす。
一方、雷光を纏う少女にも異変が生じる。
迸り続ける閃光が徐々に緩慢な流れに変わっていく。蓄積していた疲労が燦然と輝く雷光を徐々に蝕んでいき、彼女の意志に反して明々と現実を突き付ける。
「くぅ……はぁはぁ……そろそろ限界じゃなくて?」
「あは……あはは、お互い様でしょ?」
リアが一息付けると、応じるように少女が答えた。
「幕切れも近いみたい、楽しかったわ」
「ふふ、まるで勝つみたいな言い草だねぇ」
「ええ、決めてあげる」
リアが大鎚を手放すとすぐに解けて光の粒と消えた。
「やっぱ、これよね」
両手に手甲が顕在し、リアが両拳を突き合わせる。
「やっぱ、そうくるよねえ……」
呆れる仕草で狐が大鎌を握り込む。
リアは踏み込み加速して距離を詰めると、渾身の力で拳を握る。正対する相手も迎撃しようと得物を振りかぶる。
「……ちぇ、運が無かったみたい」
そう呟くと握られた大鎌が融けてゆき、短剣が手元から零れる。
「私の勝ちぃ! 後で詫び入れなさいよ、ボンクラぁぁあああ!!」
リアの左拳が腹部に突き刺さると、狐女の体がくの字に折れて悲痛な叫びを漏らす。
「うぐぅ……あああぁっ!!」
吹き飛ばされた体は二度三度と打ち据えられ、四度目でようやく止まる。
「フー、フー……」
それでも狐は膝を躍らせながらも立ち上がり、リアを睨み付けるように見据える。
「大した根性してる。もう一回、吹き飛ばしてあげるわ」
リアが再び拳を捩じ込むため、左拳を振り上げる。
「ふふ、悪くないね……こういうのも」
「念仏なんて唱えて成仏したいの?」
リアの拳が狐の面を捉えた瞬間、掠めるように軌道が逸れる。
リアの腕の下から伸びた細腕が軌道をずらすようにリアの腕を持ち上げ、空いた隙間を縫ってリアの顎を弾き飛ばす。
予測してない不意の一撃に踏ん張れなかったリアの顔は無情にも空を見上げた。
「バカね、止めに顔面狙うなんて素人まる出しじゃん」
「なん……で、よ……」
狐女が不敵に口元を歪めるとリアが崩れ落ちる。
「なんでって言われてもねぇ、そもそも最初っから言ったよね? こんな猫パンチ効くワケないってさ……」
狐女が少しだけ不満げに呟く。
その背中は悲嘆にも似た佇まいだった。
「最後の一撃はお見事ですね。ふらつく足取りながらリアのフィニッシュを読み切って、下から潜り込むようにしてリアの軌道を逸らしつつの鮮やかなクロスカウンター。リアに気取られないように寸前まで素振りを見せず、紙一重で避け切る嗅覚は正に職人技! これぞ、肉弾戦! 非常にレベルの高い技術を見せてくれましたね。
賞賛に値します、ね……ルーディさんっ!!?」
「え、ええ。なんでそんな興奮してるんですか? 妹さん、やられちゃってるんですよ?」
「惜しむらくはリアが最後の最後で慢心したことですね。敗者とは、勝ちを得たと思った時に敗者と成る……良い教訓となったでしょう」
「ロザリンド様。この人、相当スパルタですね……妹をボコった相手に賛辞を贈ってますよ?」
「まあ、リズだからな……リアが死なない限りはあんなもんだろ。興奮すると見境無いからな、ダメな意味で」
「うわ、引きますね……」
ルーディとロザリーが、がっくしと肩を落とすと興奮気味にリズがルーディに問いかける。
「それよりも、ルーディさん?」
「なんでしょうか、リズさん?」
ルーディが間抜けな声を出すとリズが狐の面を持った彼女を指差す。
「どういうことか説明して貰えませんか?」
「なな、ナンノコトデショウカ……?」
「ばっくれんなよ、あの女……もとい、あの子って先ほど町まで騎士団を呼びに行ってた同僚さん……ですよね?」
「ギクぅっ!」
「あ、私も思ったぞ。薄暗いが見覚えあるぞ、あの顔」
「ギクギクギクッ!!」
ルーディが責め立てられていることに気付いた青髪の少女が申し訳なさそうに頭を下げる。
「調子づいちゃって、どうもすみません……てへぺろっ!」
そして少女は最後の攻防時に落とした狐の面を放り捨てて全力で逃走する。
「ま、待て! 僕を置いてくな、ヴァリリ! 僕だって説明して貰いたいんだぞっ!!」
「まったく、貴方達は二人揃って人をおちょくる天才ですね……」
「ま、待って下さい! 僕は関係ないでしょ、リズさんっ!?」
「いや、お前も同罪だ。審議しようか、お前の罪状も……」
「ごめんなさい~、許してぇ~」
男の叫びが要請を受けた騎士団の耳に届くのだった。
‐ 2章 完 ‐