おねぇ聖女が凄すぎて、歴史書には残すことができません!4.司書の事情【番外編】
私はエドガー・バルマー。カリカリという執筆の音が司書室に響き渡る。魔導士モニカ・ベルグラーノは勇者を護衛する名家の生まれであり、彼女は『勇者列伝』を書いている。とても羨ましい……
「エドガーさん」
勇者と聖女が同時に王国に現出したことは喜ばしいことだ。だが、私の何かが聖女マリアの存在を完全に拒否をしている。これは致し方ない事だと思っている……
「エドガーさん」
たとえ神具が認めようとも、癒やしの奇跡が行われようとも、勇者の啓示を行おうとも、認めたくない。マリアは男だ!
ん? モニカ殿が何か言っているようだ……
「エドガーさん。さっきから呼んているのに……それより、『勇者列伝』に聖女の記載も入れてるので見て頂けますか?」
なになに……『聖女マリアがリッチに馬乗りになり、腰を激しく動かしながら聖なる鉄拳で撲殺した』 ……おいっ! ……いかん、冷静になろう。
「モニカ殿、聖女の記述は私の領分です。ここは『聖女の力でリッチを退けた』と簡素に書くことが望ましい」
油断も隙もない。モニカ殿は私を憤死させるつもりか! あのような聖女らしからぬ振る舞いを後世に残せるわけがない。たとえ、夜の治安がマリアの行動の犠牲の結果で良くなっていたとしてもだ……
「わかりました。では、聖女の天啓によって勇者が見いだされた場面を教えていただけませんか? 私は居合わせておりませんでしたので……」
あの王を馬鹿にした不敬な場面を話せと言うのか?! 断じて歴史に残すわけにはいかない。エドガー……考えろ……何か良い表現があるはずだ……
「『聖女により勇者は見出され、王女は勇者を慕って婚約した』と書くのが良いでしょう」
なんだ……モニカ殿の目が残念そうだ。だが、私はお前に言いたい。マリアの存在が如何に後世にとって残念な話になるかがわかるのか?! お前は他国から王女を守った事を書きたいのだろう。しかし、お前以上に私は辛いのだ!
「モニカ殿……気持ちはわかりますが、我々が脚色をつけるのはよくありません」
そして、モニカ殿の言葉で私はある事に気付いてしまった。『勇者列伝』に載る以上、マリアの事は誤魔化すことができない……どうする………あの男の事を書かないといけないのか?
「モニカ殿、所用を思い出しましたので失礼する」
必死に考えた挙げ句、私は震える手で一言『聖女の記録書』に書き加えた。
『XXX年 王国に文章で表すことができない奇跡を起こした聖女マリアが降臨した』
この物語はシリーズ化しております。
ウケが良かったので一応最後まで書かせて頂きました。楽しんでいただけたなら幸いです。
このシリーズを応援して頂き、ありがとうございました。