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リュイス、5歳

「分かったわ。じゃあ、リュイスのお部屋を、4階か5階にも作ってあげましょう」

「4階にしよう」


リュイスも部屋を貰えることになったようだ。


「5歳になったんだから、リュイスちゃんも新しい部屋で寝れば良いよ、僕も5歳で一人だったし、ぬいぐるみだっているから!」

クロルが目を輝かせて皆に話す。


そうか。

クロルも5歳で一人で寝たんだ。確かにぬいぐるみと一緒なら大丈夫そう。


「リュイスも、ぬいぐるみと自分のお部屋で寝るよ」

「え!? 早いだろう!」

父が酷く驚いた。


母が父の様子に苦笑した。

「急にそんなの、お父様もお母様も寂しいわ。もう少し大きくなってからにして欲しいの。お部屋は4階にも作ってあげるから」

「リュイスちゃんも、5歳になったのに・・・」

「クロル。仲が良くても、よその家の事には口を出さないように」

クロルの父が注意をした。

叱られて、クロルがとても悲しそうになった。

かわいそう・・・。


「今日は誕生日だから、お部屋で寝てみる・・・」

「リュイスちゃん、無理しなくていいのよ」

クロルの母が優しく言う。


困った。どうしよう。


母が弟を父に預けて、視線を合わせるように聞いてきた。

「リュイスがしたい方で良いわよ。でも、今日はベッドの移動とか準備が間に合わないと思うから、新しいお部屋で寝るのはまたにしない?」

「うん。そうする」

「良かった。お母様もリュイスと寝れないのは寂しいもの。もうちょっと一緒にいてね」

「うん!」


***


その日の夜。

夜中に、リュイスの顔をペシペシと叩くものがいる。見なくても分かる。ぬいぐるみの誰かだ。


リュイスが眠い目を開けてみると、イヌのぬいぐるみとクマのぬいぐるみがリュイスを見ている。

そして、ソーッと、ドアの方に歩いて、リュイスを振り返る。


「どうしたの?」

リュイスが尋ねると、静かに、という時にぬいぐるみたちがよくするポーズ、つまり片腕を顔の前に当てるポーズをする。


「そっとついていくの?」


リュイスの言葉に、コクリ、とイヌとクマが頷いた。


リュイスはそっと後をついていった。

廊下は暗い。灯りがあるけれど、こんな時間に起きたことは無いのでちょっと不安だ。

なお、隣の部屋で、父と母とディアンが寝ているはず。


心配そうに隣の部屋を見るリュイスを力づけるように、両手をぬいぐるみが掴んでくれた。よし、大丈夫。


引っ張っていかれたのは、エレベーターのある部屋だ。

ぬいぐるみに連れられて乗る。ぬいぐるみがボタンを押した。地下1階に行くようだ。


この家は地上6階建てだが、地下は3階まである。地下には空と湖と陸のための船が置いてある。

地下1階は空を飛ぶ船があるところだ。でも、何の用だろう?


エレベーターで降りていく。

地下1階、クロルが待っていた。リュイスが来て嬉しそうだ。


「良かった! リュイスちゃん、5歳のお誕生日おめでとう!」

「クロルくん、どうしたの?」


「今から、5歳になった子どもしか行けない秘密の場所に連れて行こうと思うんだ。ついてきてくれる?」

「秘密の場所?」


「うん。僕が5歳でこの家に来た時に、ぬいぐるみたちの後をつけて、いった場所だよ。ずっと誰かに言いたくて、リュイスちゃんが5歳になるのを待ってたんだ!」

「5歳の子どもしか知らないの?」


「うん。少なくとも今は、僕とリュイスちゃんしか知らないよ」

「ルルドくんとディアンは?」


「ルルドもディアンくんも、5歳になったら教えてあげるんだ」

「そうなんだ」


5歳になったので教えて貰えるのだと分かったリュイスは嬉しくなった。

「お父様とお母様も知らないの?」

「うん。大人には秘密にしようってぬいぐるみたちに言われたから」


「どうして?」

「大人に秘密の方が面白いと思ったからだって!」


「変なの」

「そうかな。僕は面白いと思ったよ。だからちゃんと秘密を守ってるんだ」


「そうなのね」

なんだかリュイスも納得した。


「じゃあ、行こうよ。あ、これから長い長い滑り台を滑るからね」

「滑り台って?」


「あれ。滑り台を知らないの?」

「うん」


「そっか。じゃあ、一緒に滑ろう」

「うん」


クロルに案内されて、家の外、湖との間の広場に出た。

広場を湖の方に進んでいくと、丸い穴が空いていた。こんなの今まで見たことが無い。


「これが滑り台。坂になっていて、座っていると滑っていくんだ。イヌくんたち、先に滑ってくれる? その後にリュイスちゃんと一緒に僕が滑る」


ぬいぐるみのイヌとクマが頷いて、穴の中に入って座る。あっという間に滑って見えなくなった。

「じゃあ、僕が座るから、前に座って」

「うん」


クロルの前に座る。


「行くよ」


リュイスはクロルに支えられるようにして、一緒に滑り台を下りだした。


「何これ、すごいね!」

「うん。見て、湖の中が見えるんだ」


滑り台の上、ゆらゆらと揺れていて、魚が見える。


「湖の中に入ってるの?」

「よく分からないけど、多分そうだよ」


「分からないの?」

「湖の下に行ってるとは思うよ」


「すごいね!」

「うん。まだこれは途中だよ。この先でぬいぐるみたちが待ってるんだ」


楽しみだ。嬉しくてリュイスの眠気も吹っ飛んでいる。


ずっと滑っていく。どこまで続くんだろう。

とはいえ、上の景色もきれいだし、前にはぬいぐるみが滑っていて、後ろでクロルが支えてくれる。

心配することは無い。


「5歳ってすごいのね」

「うん」

クロルも嬉しそうだ。


滑り台に終わりが来た。ツルツル磨かれている床に立つ。

ぬいぐるみがトテトテと向こうに見えるドアに走り出す。

クロルに手を繋がれて、リュイスも一緒に後を追う。


ドアだ。

開けたら、またドアだ。

その後、ぐねっと曲がった廊下。

ドア。

階段を降りて、すぐ上って。

またドア。


「変なの」

と呟きながら、リュイスはドアを開け続けた。

クロルはニコニコしている。


たくさんのドアを開けて、突然開けた視界にリュイスはやはり声を上げた。

「わぁ、大きい部屋! ・・・あれ?」


中に白い人影がいた。傍には、たくさんのぬいぐるみが座っている。


リュイスは彼らが何者かすぐに分かった。


父と母に教えられていた。


動くぬいぐるみは、普通のぬいぐるみの中に、白い湯気みたいな子たちが入って動かしているのだと。

元々全て、母が作った普通のぬいぐるみなのだ。彼らが気に入って中に入ると動く。

だからお値段は、動いても動かなくても、母が作ったぬいぐるみとしては同じなので、同じ値段なのだ、と。


「もしかして、ぬいぐるみたち? 白い湯気?」


「そうだよ! リュイスちゃん、お誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

白い人影が、一斉にリュイスに祝いの声を上げた。

「リュイスちゃんも来れて嬉しい!」

「待ってたよ!」


「すごい、皆、お話できるのね!」

「魔法だって。夜が終わるとまた元に戻るみたいだよ」

と傍のクロルが教えてくれた。


「踊ろうよ、リュイスちゃん!」

白い人影が口々にリュイスを誘う。音楽が流れている。誰かが歌い始めている。


「踊ろう」

傍のクロルが握ってくれていた手を持ち上げた。


「うん」

リュイスは、父とダンスをして遊ぶし、母も教えてくれるから踊れる。


「じゃあ初めはクロルくんとだ」

「今日はリュイスちゃんの誕生パーティよ!」


リュイスはクロルとダンスをした。

クロルも普通にダンスが踊れるようだ。

父ほど身長に差がないから躍りやすいとリュイスは思った。

「楽しい!」

「うん。リュイスちゃん、ダンス踊れるね」

「お父様とお母様に教えて貰ったの。クロルくんも踊れるのね」

「僕は貴族だから、ダンスは必要だってレッスンがあったんだ。前の国で躍っていたよ」

「そう」

「楽しいね」

「うん!」


クロルとのダンスが終わると、次々と白い人影に誘われた。

「私、ウサさんよ」

「ウサさん!」


「僕はリオンだよ」

「リオン!」


リュイスがつけた名前を名乗ってくれる。ものすごくうれしい。


何人かと楽しく踊る。

だけど、眠けが抑えられなくなってきた。目をこする。


「子どもは寝なくちゃ身体に悪いわ。もうおやすみなさい。クロルくんも、5歳の時はすぐに寝ちゃったのよ。今だって最後まで起きていられないから、それが普通なのよ。おやすみなさい。朝までにちゃんとベッドまで送ってあげるから、安心して」

「うん・・・。クロルくんは?」


「もうちょっと大丈夫みたい。先におやすみ。僕たちみんなついているからね」

「うん・・・」


***


「リュイスちゃん、起きて」

ゆさゆさと身体が揺さぶられて、眠たいけれどリュイスは薄ら目を開けた。

「起きて、部屋に帰らないと。ここ、帰りの空飛ぶ船だよ」

クロルが心配そうにリュイスの顔を覗き込んでいる。


「リュイスちゃん、僕、クマだよ。頑張って。ちょっとだけで良いから起きて。お部屋に戻らなくちゃいけないから。お父さんのノアも、お母さんのアリアも心配しちゃうよ」

「くまさん?」

「ウサさんとトリさんとキイロさんたちと、手を繋いで一緒にジャンプすれば良いだけだから、頑張って」

「うん・・・」


リュイスは、のそりと起き上り、眠たい目をこすった。

仲良しのクマが言うのだ、頑張らなくてはならない。


「リュイスちゃん、立って」

見れば、ウサギのぬいぐるみが傍にいる。


「うん」

「手を握るわよ。トリさんも準備良い?」

「良いわよ」


「リュイスちゃん、夜のパーティは大人には秘密だからね」

とクロルが言い聞かせてきた。

「言っちゃだめだよ」

「うん・・・」


「じゃあ、飛ぶわよ。せーの!」

リュイスの手を握る、ウサギとトリのぬいぐるみがジャンプして、リュイスも遅ればせながらジャンプした。


ポン、と着地した時には、自分のベッドの上にいた。

「わぁ、すごい・・・」

「えっ!? リュイス!?」


「あ、お母様・・・」

リュイスは眠たさを堪えながら声の主を確認してぼんやりとそう呟いた。

母がすぐ傍にいる。

あ、見れば、リュイスと母の間、ベッドに弟のディアンが寝ている。


あれ? お部屋を間違えた?


ぬいぐるみのウサギとトリが慌てたようにバタバタした。


母がリュイスの腕を強く掴んできた。リュイスは驚いた。

「今、どこから出てきたの!? リュイス! どこにいたの!?」

「え・・・」

「待って、待って。いえ、リュイス、来て。お父様が今探しているの! ぬいぐるみたちも皆いないし、クロルくんもいないの! とても心配しているの!」

「ん・・・」

「リュイス、眠たいの?」

「うん・・・」

「分かったわ、じゃあ、ディアンと寝ていなさい。良いわね? どこにも行っちゃ駄目。お父様をすぐに呼んでくるから。眠いのね? ここにいてね? 絶対よ。ここで寝ていてね」

「うん・・・おやすみなさい、おかあさま・・・」

「・・・えぇ、リュイス」

母が抱きしめてきた。


ベッドに横になったリュアスの頭が撫でられ、額にキスを受ける。

「あなたたちもどこにいたの? お願い、絶対に、リュイスとディアンを見ていて。お願いね」


ぬいぐるみに声をかけて、母は部屋の外へ駆けていった。

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