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リュイス、3歳頃から

リュイスは湖の傍に住んでいる。


3歳の時に、父母の親友家族がやってきて、同じ家に住む事になった。

6階建てのとても大きな家だから、6階は親友家族、3階はリュイスの家族、という風に分けたのだ。


それまでリュイスの周りには、同じ年頃の子どもはいなかった。

父の仕事のお客様が家に来る事は多いけれど、その中に子どもはいなかった。


リュイスの遊び相手だったのは、生きて動くたくさんのぬいぐるみたち。

リュイスにとっては動くのが当たり前だが、どうやら、普通は動かないらしい。


お客様たちは、よくこのぬいぐるみを欲しがった。

一応、ぬいぐるみも売り物だ。

ぬいぐるみとお客様が互いを気に入れば、母がつけている値段で売る。

ちなみに、動かないぬいぐるみもたくさんある。動くぬいぐるみが欲しいけど売ってもらえなかった人たちが代わりに買う事が多い。ちなみに動かなくても同じ値段。


さて、そんなリュイスが初めて会った同じ年頃の子ども。

普通のお客様でも初めは恥ずかしいリュイスは、母のスカートの影に隠れる。

むこうは兄弟だ。リュイスより2つ年上と、リュイスより1つ年下と。


兄の方はとても活発そうだった。名前はクロル=アドミリード。やってきた一家は、遠い国の貴族で、名前に家の名前がついているそうだ。

弟は、ルルド=アドミリード。とても大人しくて、可愛い雰囲気。だけどそれは間違いだった。この時、ルルドは眠たかっただけらしい。


クロルとルルドも、ぬいぐるみたちの出迎えに、声を上げて喜びはしゃいだ。あっという間にぬいぐるみたちを気に入った。動くぬいぐるみを初めて見たようだ。


その後は、ぬいぐるみたちとも一緒という事もあって、子どもたちで追いかけっこやかくれんぼをしているうちに、リュイスの人見知りもどこかへ行った。

そもそも、リュイスもおてんば娘と言われている。


リュイスたちは一緒に家の中を走り回った。

弟のルルドの方は、まだ2歳でついて来れなかったので、途中で親たちに預けて遊んだ。


その日、眠る時、リュイスの添い寝は父だった。母も部屋にいる。

リュイスはその日の事をたくさん話した。とても楽しかった。

父も母もニコニコして聞いてくれた。

お友達が来てくれて良かったな、と父も言った。


***


リュイスが4歳になる前に、弟が生まれた。


きっとお父様は泣いてしまうから、できればリュイスが優しくお父様を撫でてあげてね。

そう、母に頼まれていた。

リュイスが生まれた時も、父は大泣きしたらしい。


だから、母が嬉しそうに笑う中、母の予言通りにボロボロ泣く父を、リュイスは慰めなければ。

椅子に座って泣く父の膝の上、リュイスは父の頭を撫でる。


父はますます泣いて、リュイスをギュッと抱きしめた。

泣きながら笑うので、とても不思議だ。


父はリュイスの頬にキスをした。まだ泣きながら震える声でこう言った。

「ありがとう。リュイスに弟ができたぞ。家族だ。大事にするからな」

「うん。おとうしゃま、だいしゅき」

「お父様も大好きだ。愛してる。アリア、無事でよかった。産んでくれてありがとう」


生まれたばかりの弟は、くしゃくしゃの真っ赤な顔で泣いている。

とても元気だ、と皆が褒めた。


ただ、この日から、リュイスが一番ではなくなったことに、リュイスは気づいた。

今まで、父と母を独り占めしていたのに、父と母は弟にかかりきりになった。


***


「今は赤ちゃんだけど、大きくなったら遊べるから良かったと思うよ」

と、相談に乗ってくれたクロルは言った。

クロルも弟のいる立場だ。


クロルは、拗ねてむくれているリュイスの頭を撫でた。

「大丈夫だよ。それに、リュイスは物凄く大事にされているよ。それに女の子だし」

「おんなのこは、だいじなの?」


「女の子は可愛いって、前の国では皆が言っていた」

「でも、おとうしゃまもおかあしゃまも、リュイしゅとあそんでくれないでしょ」


「それ、前からじゃないか? ぬいぐるみと遊んでいたんだろう?」

「・・・」


リュイスはますますむくれた。


「大丈夫。僕とルルドもいるよ。赤ちゃんとはまだ遊べないから、僕とルルドは、リュイスちゃんと遊ぶ」

「うん。あしょぼ」


「かくれんぼする?」

「うん」


元気になってきて、リュイスは嬉しくなった。

「クロルくん、しゅきー!」


「ありがとう。僕もリュイスちゃん好きだよ」

クロルもそう返してくれた。


その夜、添い寝してくれる父に、リュイスは今日の事を話した。

「リュイしゅ、クロルくん、しゅきー!」


父の目がなんだか険しくなった。

驚いたリュイスが父を見つめると、父は笑顔だ。見間違いだったようだ。


「ん? お父様は?」

「しゅきー」


「お父様もリュイスが好きだ。1番目に好きなのはお父様?」

「うん」


「2番目がお母様」

「うん」


「じゃあ、3番目は弟で、あ、ぬいぐるみのクマさんで、次はウサさんで、次は、そうだな、ぬいぐるみたちたくさんいるから、じゃあそのずーっと後で、クロルくんだな」

父が笑顔で尋ねる。


リュイスは考え、父の言う通りだと気が付いた。ぬいぐるみたちが大好きだ。


「1番がおとうしゃまー。2番が、おかあしゃまー。それで、次はクマしゃんで、うしゃしゃん、トリしゃん、キイロしゃん、えっと、」

「うん。そうだな、そうだな」


父が嬉しそうにリュイスの額にキスをした。


「おやすみ、リュイス。愛してるよ」

「うん、おやすみなしゃい、おとうしゃま」


***


ところで、生まれた弟だが。

名前は、父が一生懸命考えたという、ディアン、という名前になった。

勇敢でものすごくカッコイイ騎士の名前からつけたそうだ。


母は、名前は父がつけると良いと思っている。つまりリュイスも父がつけた名前で、とても可愛い花の名前だそうだ。見たことが無いけど。


さて、ディアンという名になった弟だが、どうやら、非常に美人な母に似ているようだ。

皆が口をそろえて、

「アリア様似だ」

「お母様に似ているね」

と言う。


ちなみにリュイスは父似だ。父は大好きだけれど、母が飛びぬけて美人だという事は、色んなお客様を見てきたリュイスだって知っている。


酷い。リュイスはむくれた。


また話を聞いてくれたのは、ぬいぐるみたちと、クロルだ。

「大丈夫だよ。リュイスちゃんは良い風に言えば、カッコいいから」

見当違いな事を言ってきた。

「かわいいが、いいの!!」


「いいじゃないか。僕だって、お母様に似て、キツイ顔立ちだって言われるよ。ルルドは、お父様に似てぼんやりしたご様子ねって。仕方ないよ。似たんだから。そういうのは自分で選べない」

「ディアンはずるいの!」


「ずるくないよ。良いじゃないか、美人か、良い風に言えばカッコイイかなんだから。アドミリード家は、ぼんやりしているかキツイかの選択だよ。僕も選ぶならカッコイイが良かった。羨ましいよ」

「・・・」

羨ましいと言われてしまった。そうなのか。じゃあリュイスは文句を言わなくて大丈夫なのか。

リュイスは、クロルが本当に残念そうな様子なので不味いと思った。


「クロルくん、かっこいい。リュイしゅといっしょ」

「そう? 僕、カッコイイ?」

ふふ、と嬉しそうにクロルが笑う。リュイスは真面目に頷いた。

「うん」


「ありがとう。そうだよね。僕も、良い風に言えば、カッコイイとも言える。それに僕たち、顔が似ているらしいよ。お揃いだね」

「おそろい?」

「仲良しだ」

「なかよしね」


リュイスは元気になった。クロルとルルドとぬいぐるみたちとたくさん遊んだ。


その日の晩。

「おとうしゃま、リュイしゅと、クロルくん、かっこいいのお揃いなの」

「ん?」


父の笑顔がいつもよりちょっと強張った。

リュイスは瞬きをした。あれ。気のせいだったようだ。


「かっこいいのお揃い? リュイスは信じられないぐらいに可愛いぞ」

「うそ。ディアンはかわいいで、リュイしゅはカッコイイでしょ」


「二人とも大好きで可愛い。可愛い可愛い可愛い可愛い」

「かわいい?」


「あぁ。可愛い。なぁ、お父様が好きだよな? クロルくんはぬいぐるみたちのずーっと後で好きだろ?」

「うん」


「あー良かった。リュイス、お父様もリュイスが大好きだ」

「いちばんしゅき?」

「お父様は、リュイスとディアンとお母様が一番好きだ」

「いっしょ?」

「好きすぎて決められない」

「リュイしゅ、おとうしゃまが1番しゅきー」

「お父様もリュイスが1番好きだよ」


父はとても嬉しそうだった。


***


リュイスは5歳の誕生日になった。

皆に祝ってもらう。父と母と1歳になっているディアンから、可愛いリボンとお揃いの服を貰った。

その上で何が欲しいかと尋ねられた。

リュイスは言った。

「私も、自分のお部屋が欲しい」


クロルから何度も教えられていたからだ。5歳の誕生日には、4階か5階に自分の部屋を貰うと良い、と。クロルも5歳で一人の部屋を貰えたのだから貰えるはずだ、と。


ただ、リュイスの部屋は、すでに3階にある。

でも、もう1つあっても良いんじゃないか、とクロルはリュイスに熱心に勧めた。


もう5歳になったんだから、と。

どうやら5歳とは特別らしい。


さて、父と母は不思議そうにした。

「リュイスのお部屋はもうちゃんとあるわ? もう一つ欲しいの?」

「うん。あの、5歳だから、4階か5階に欲しいの」

「まぁ」


父と母は顔を見合わせた。

「一人で寝れるのか?」

と父がどこか困ったように尋ねた。

「ううん」

とリュイスは首を横に振った。

「部屋が欲しいだけか?」

と父が言った。

「うん!」


父と母がまた顔を見合わせる。


「ほら、僕が5歳でお部屋を貰ったから」

と小さくクロルが言った。多分、リュイスを応援してくれている。


「ぼくも!」

と4歳になっているルルドが両手を上げて主張を始めた。

「ルルドはまだ4歳だろ。5歳になったら貰えるんだよ」

とクロル。


「そんな決まりはないよ」

クロルの父が苦笑した。

「本当に欲しいなら、クロルが5歳で一人部屋だから、ルルドも5歳の時に考えよう」

「ほしいー!」

「分かった。じゃあ、ルルドも5歳の時にね」


そんなやりとりを聞きつつ、リュイスの父と母が相談している。

「どうしましょ」

「まぁ良いんじゃないか」



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