世界大滅亡
食事前や食事中に読まないでください。
『つまり、あなたが大をすれば世界は消滅するのです』
その言葉——脳内メッセージを聞いたとき、俺の菊門がひゅっと締まった。
商社のしがない営業である俺が、お昼休みに弁当を食べ、さて出すもの出して昼寝でもするかと洋式便器に腰を落とし、小して大を出そうかとした時である。
『待ってください!』と自称神様の声が聞こえたのは。
え、なんで俺が大したら世界が消えるの? 俺の腹の中に何がいるの?
『詳しくは言えませんが、あなたの腸内フローラと食べたものの組み合わせが悪くて、その大が一種の魔法になってしまったんです』
マジかよ。魔法かよ。この科学世界にあったんだそんなサムシング。
いやいやいや、俺が初めて認知する魔法が俺のクソで世界滅亡って最悪すぎねぇ?
『残念ながら事実です。一応、魔法の無効化を試みているのですが、要素が複雑すぎて……人体の神秘ですね』
嫌だよそんな神秘!
『あと一時間ほど我慢していただければ、ただの大になると思うのですが』
いや、こんな便座の上で踏ん張って俺の息子もぶらんぶらんな状態で一時間も我慢できるかよ!
昼休みも終わるちゅうねん! サラリーマンの社畜根性舐めんな!
『世界が滅亡するんですよ!?』
尿意と便意を我慢できるほど俺はニンゲンできちゃいねぇんだよ!
ほら、するなと言われたら一度締まった門もゆるんで……!
ぼちゃん、と水音がした瞬間、——世界は光に包まれた。
——はっ!
『良かった、時間巻き戻しが間に合いました』
時間巻き戻し? まさか、さっきのは……。
『はい、一度世界が滅亡しました。あなたのせいで』
ひゅっ、とまた菊の門が締まった。
……どうすればいいんだ。
『我慢してください、一時間でいいので』
もう直腸で渋滞を起こしてるこの便意をか?
『人間、やれば出来ます。わたしひとをしんじてますから』
なんで片言になったんだこの神様。
根性論では人はつま先くらいしか動かねぇよ!
『あと、魔法無効化のためにあなたの腸内をいじりますので』
は?
『それも我慢してくださいね』
直後、俺の下腹部からぎゅるるるぅと異音が鳴る。
「はぐぅるあぁ!?」
腸内の痛みで声が出た!? 下痢でもこんなに痛くないぞ!
ちょ、おま、手加減してくれ……!
『速度優先です。男なら我慢してください』
くそ、このポリコレがグーで殴るようなこと言いやがって……!
『なるほど、コレはやばいですね。もう少し野菜を食べた方が良いですよ』
腸内直接観察による貴重なご意見どうも!
しかし、ヤバイ、この腸がぐるぐる回る感じ……!
我慢、できねぇ!
ぴちょん、と水音がした瞬間、——世界は光に包まれた。
——はっ!
『三度目はありませんからね、気を付けてくださいよ』
相変わらず続く激痛の中、神様はそう警告した。
いやいやいや、ちょっとだけだろ、小指程度のクソでも滅ぶのかよこの世界脆弱すぎるだろ!
『脆弱じゃありません。あなたの大が強力すぎるんです』
どんなクソだよくそったれ! こうなりゃ我慢し続けるしかねぇ!
下腹部を押さえつつ、俺はトイレ籠城を決行した。
『あ、盲腸になりそうですね。ついでにこの虫垂も切っておきますね』
さっさと解除しろや!!!
そして一時間後、地獄のような激痛に耐えた俺は、無事にトイレから脱出できた。
どうやって耐えたかは、あえて詳しくは言わない。
ただ、俺は感謝しようと思う。
同僚がジョークで買って俺によこした、テン○エッグに。