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第9話 エリシア・オルコット

 

 〈エリシア視点〉


「お前たちは逃げろ!!」


 私たちを守るように前に出た、グラン。


 この世界に飛ばされ、森の中を彷徨っていた私を助けてくれた男の子は、今また私と双子の妹を守ろうと、その剣をオークキングに向けている。


 だけど私の足は、目の前に転がった遺体と、正面から近づいて来るオークキングを前にガクガクと震え、動いてくれない。


「常に平静であれ」と言われ育てられてきた。

「感情を排し、即断せよ」と言われ育てられてきた。


 私自身、そうあろうとしてきたのだ。


 なのになぜ今、私の足は目で見て分かるほどに震え、動いてくれないんだろう?

 頭では「逃げる」以外の選択肢がないと分かっているのに。




「サヤ……」


 私のローブを、グランの双子の妹のリオナが震えながら掴む。


 彼女も私と同じ。

 あまりの殺気、あまりの恐怖に足がすくんで動けないのだ。


 オークキングは、ゲームでは感じることがなかった凍てつくような殺気をまとい、一歩足を踏み出すごとに地響きを立てながら、もう私たちのすぐ目の前までやってきていた。


「もう終わり」ーーそんな言葉が頭をよぎった時、それは起こった。


 ーーポーン


 突然目の前に、メッセージが現れた。

 続けてどこからか聞こえてくる、機械音声。


 《パーティー『詠唱魔術団スペルリンカーズ』からパーティー参加の招待を受けています。

 ーー招待を受ける

 ーー招待を断る》


「「「え?」」」


 声をあげたのは私だけじゃない。

 前のグラン、隣のリオナも同時に戸惑ったような声をあげていた。


 でも、同じ驚くにしても、彼らのそれと私のそれは少し違ったはずだ。


 彼らのは、初めて見るメッセージに対する驚き。

 私のは、最早この世界では見ることがないと思っていたインターフェイスを見た驚き。


 だがその驚きは、一瞬にして恐怖に塗りつぶされた。




「ブオオオーー」


 私たちの前で立ち止まったオークキングは、狂った目でニタリと笑い、巨大な戦斧を持ち上げる。


「ひっーー」


 リオナが短く悲鳴をあげた。


 その時ーーーー


 タッタッタッ、と背後から走り寄る音。


 足音は私たちのすぐ近くまでやってくると突然消え、代わりに頭上から「はっ!」という声が聞こえた。


 空を見上げる。


 戦斧を振りかぶるオークキングの巨体。

 そのさらに上を跳躍する、黒い影があった。


 人影は、緑の光を纏った長剣を左肩に構え、くるっと半回転しながらオークキングに飛び込んでゆく。


 まわった瞬間、私と目が合い、視線が重なった。

 そしてーーーー


「杖を掲げろ! 詠唱姫エリシア・オルコットォオオ!!!!」


 の名を叫んだ。




 彼の剣は弧を描き、戦斧を振り下ろそうとしていたオークキングの右腕を切り裂く。


 ズバッ


「ブォオオオオオオオッーー!!」


 響き渡る魔物の悲鳴。

 飛び散る血液。


 だが、オークキングは戦斧をとり落とすことはなかった。


 腕から血液を噴き出しながら、すぐに斧を振りかぶり、着地した彼をめがけて叩きつけてくる。


 ドンッ! という音とともに地面が揺れ、直前まで彼がいた場所に大穴があく。


 彼ーー転移前のクランバトルで私を酷い目に合わせた相手クランのサブマスターは、宙を蹴って跳躍しオークキングの左腕に二撃目を叩きこみながら、再び叫んだ。


「早くパーティーに!!」


 言われて視界に出現していたメッセージのことを思い出し、すぐに杖の先で『招待を受ける』を選択。

 するとーーーー


 ーーピン ピロリロリン!


 再び現れるメッセージと、機械音声。


 《パーティー『詠唱魔術団スペルリンカーズ』に参加しました》


「けぷー☆」


 突然彼の肩から、不思議な生き物が飛び出す。

 その子は私の方を向くと、ぴょん、ぴょん、と可愛く宙を飛び跳ねた。


 直後、私の頭上に出現するアイテムの数々。

 私がそれを見上げると、今度はそれらが光の粒子となり、一気に降り注いだ。


「これは……」


 みるみる力がみなぎり、感覚が研ぎ澄まされてゆく。


「グラン、リオナ、あなたたちも上の選択肢に触れて!」


 私の言葉に、二人も戸惑いながら宙に手を伸ばし、各々のメッセージに触れる。


 《『グラン』がパーティーに参加しました》


 《『リオナ』がパーティーに参加しました》


 機械音声が聞こえると、不思議な生き物は今度は二人の方を向いて飛び跳ねた。


「けぷー☆」


 グランとリオナに降り注ぐ、回復アイテムと強化アイテムの数々。


 ーー間違いない。


「この子、案内ナビゲーションAIなの? ーーなんであなただけゲームのシステムが生きてるのよ?!」


 私の声に、彼が三たび叫んだ。


「うるさい! 御託はいいから、早く詠唱をーー」


 そう言いかけた時、巨大な斧が振り下ろされる。


 ザンッ!!


 ブシャアアアアアッーー


「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 目の前で、避けそこなった彼の左腕が斬り落とされ、真っ赤な血があたりに飛び散った。


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