第7話 急襲
爆走の末に見つけた村と、その村を襲わんとするオークの群れ。
ドン! ーーーードン!
間もなく村からは、攻撃魔法と思われる火球が撃ち出され始めた。
ーーが、威力が弱く数も少ない。
あれじゃあ、オークの侵攻を止められない。
ヴォオオオオオオオオオオオオ!!!!
雄叫びをあげ進むオークたち。
一方、村人のほとんどは何が起こっているのかも分からず、村の中で右往左往している。
オークは通常のフィールドモンスターとしては中位レベルの敵だ。プレイヤーキャラの対応適正レベルは40前後。
この世界の住人の平均レベルがどの程度なのかは分からないが、見る限り、このままでは村が蹂躙されるのは時間の問題だと思われた。
一瞬、見捨てて逃げる、という選択肢が頭にちらつく。
が、目の前で不安げに逃げ惑う老若男女を前にして、俺は無意識に叫んでいた。
「全状態表示!!」
「けぷーー!!」
ひだりちゃんが一気にステータスを展開する。
「CPをSTRに全振りして!」
「わかったけぷ!!」
ひだりちゃんが、レベルアップで貯まっていたCPを使い、STRを増強(+6)した。
あのオークがゲームと同程度の強さなら、強化しないと3、4発もらったらあの世行きだ。
そもそもレベル差が隔絶しているので悪あがきもいいところだが、少しでも生存確率を上げるため、STRに振ってHPをかさ増しする。
「続いて、能力強化アイテムを全力使用!」
「全力使用けぷ!!」
ひだりちゃんが飛び跳ねると同時に、俺の頭上に様々な形のアイテムが出現し、使用と同時に七色の光が降り注ぐ。
直後メインステータスを見ると、すごいことになっていた。
名前:仁藤裕一(17歳)
職業:無職
Lv:18
HP:680/680
MP:1/1
SP:230/230
STR:21(+10)(+10)
VIT:8(+10)(+10)
AGI:16(+10)(+10)
INT:52(+10)(+10)
DEX:48(+10)(+10)
加護:
・七精霊の祝福
・自動詠唱補正(装備・補正率20%)
能力補正:
・移動速度+30%(+20%)
・攻撃速度+30%(+20%)
・回避+30%(+20%)
・物理攻撃+30%(+20%)
ーーよし。
これで一対一なら圧倒できる。
複数匹に囲まれたら秒殺だが。
そして最後はーーーー
「全てのアイテムを全自動使用に!」
俺の言葉に、ひだりちゃんが戸惑ったように揺れた。
「ゆ、ユーイ……本当にそれでいいけぷか?」
アイテムの全自動使用(愛称・ひだりちゃんモード)は、案内AIにその使用権限を与え、支援と回復を任せる自動補助モードだ。
持っているアイテムの中には、貴重なものもたくさんある。
相棒に全幅の信頼を置けなければ、使うことはできない機能だった。
「やってくれ。……俺の命を、君に預ける」
そう言って彼女に笑いかけると、ひだりちゃんは大きな目をさらに見開き、息を飲んだ。
これまで2年近く一緒にやってきた相棒だ。
俺の動きは、彼女が一番よく知っている。
「……わかったけぷ。全アイテムの自動使用許可をじゅだくするけぷ」
ひだりちゃんが腕的なものを振ると同時に、アイテム欄に表示された全てのアイテム名が青く反転される。
これで彼女は、必要な時に、全てのアイテムを使うことができるようになった。
彼女は俺を振り返り、叫んだ。
「ひだりちゃんが、ぜっっったいに、ユーイをまもるけぷ!!」
「ーー頼んだぜ、相棒!!」
俺たちは互いの腕を打ち合わせーーーー村に向かって走り出した。
走る。
走る。
村が、オークが、あっという間に近づいて来る。
俺が足を向けたのは、左手から畑の柵を踏み倒して村に侵攻しようとするオークたち。
幸い、まだ被害は出ていない。
村からは男たちが弓や斧、槍などを手に集まっており、迫り来る豚頭を迎え討とうとしていた。
ーーその時、稲妻が走った。
ドドドドドン!!!!
「?!」
俺の進行方向にいた複数のオークが、同時に倒れる。
ーーあれはただの落雷じゃないな。
誰かが魔法か魔術で攻撃したんだ。
魔物だけを狙った、強力な複数同時攻撃。しかも一撃でオークを倒している。
どうやら村にはかなり優秀な魔術師がいるらしい。
ーーだが、まだまだ足りない。
ヴォオオオオオオオオオオオオ!!!!
オークたちは仲間を倒した術に一瞬足を止めたが、すぐに雄たけびをあげて侵攻を再開した。
先ほどの落雷は詠唱魔術だったのか。
次の落雷攻撃はーーーー来ない。
そうしているうちにオークたちは村に到達しーーーー同じタイミングで、俺の攻撃範囲に入ったのだった。
「『シルフよ、我が意のまま宙に道をつくれ。風の踏段』!!」
走りながら、すでに発動済みの『精霊の舞踏』の二次詠唱を唱えた。
両脚が緑に光り、そのままの勢いで宙に駆け上がる。
そして、跳躍。
瞬く間にオークたちを眼下に捉える。
自分の体が目標のオークに向かって落下し始めた時、俺はさらにもう一つ、二次詠唱を追加した。
「『シルフよ、つむじ風の如く我が剣と舞え。ーー急転剣舞』!!」
愛剣が緑光の渦に包まれる。
落下する体。
右手に握った剣を、左肩ごしに構える。
目標の豚頭が顔を上げ、こっちを見た。
「オラァアアアッ!!」
絶叫とともに軽く体を捻ると、二次詠唱『急転剣舞』が発動する。
落下しながらそのまま駒のように半回転し、速度と回転力の乗った剣を、オークの首めがけて真横に振り抜いた。
ーーズバッ!!
悲鳴をあげる間も与えなかった。
一刀のもと断ち斬られ、吹き飛ぶ豚頭。
残された胴体から噴き出す鮮血。
ゆっくりと倒れる頭部のない巨体の向こう側に、驚いたようにこちらを見る、二匹目、三匹目のオークを視認する。
着地した俺は、そのまま一歩、二歩とステップを踏み、今しがた倒したオークを足場にして、二匹目の間合いに飛び込んだ。
強烈な殺気。
巨大な斧を振りかぶり、俺を叩き斬ろうとする二匹目のオーク。
ーーだが、遅い!!
「はあっっ!!!!」
地を蹴ると同時に体を捻り、再び技を発動させて半回転すると、相手が斧を振り下ろす前に剣で薙ぎ払った。
ーーズバッ!!
二個目の豚頭が飛ぶ。
首のない巨体の後ろには三体目が迫り、その向こうに四体目、五体目を確認する。
俺はバックステップで距離を取ると、再び宙に跳躍した。
休む余裕などない。
俺はクルクルと回転しながら、目の前から敵が消えるまで剣を振るったのだった。