第21話 マヌエルの旧友
「一人で行っちゃうから、心配したんだよ?」
俺に抱きつきながら、そんなことを言うリオナ。
「ご、ごめん……」
テンパりながら言葉をひねり出す俺。
が、ロクなセリフが出てこない。
「ユーイは強いから大丈夫だって分かってるけど……。ひょっとすると泥棒にたくさん仲間がいるかもしれないし、すごく心配したんだよ?」
そう言って怒ったような顔をしながら、潤んだ目で見上げてくるリオナ。
茶色い二つのお下げが、微かに揺れている。
ヤバい。可愛い。
何この破壊力???
それになんか柔っこくて、いい匂いがするんですががががが?!
「ええと……その…………」
あまりの破壊力にタジタジとなる。
ちょ、無理……。
本来喜ぶところなんだろうけど、女の子とほとんど縁がなかった俺には、ムリっス。難易度高すぎっス。頭、真っ白っス。
助けを求めようと、リオナの肩ごしに見つけたマヌエルさんたちに視線を送ったのだが…………全員、一斉に目を逸らしやがった。
マヌエルさんは苦笑いして。
グランはばつが悪そうに。
柏木は汚いものでも見たかのように。
お前らーー!!??
そうして途方に暮れていたときだった。
「おうおう! 弱っちいのが女侍らせてイキがってんじゃねーか!」
世紀末チンピラ風のガラの悪そうな四人組の冒険者がやって来て、俺とリオナを囲んだのだった。
「ねーちゃん、そんなんほっといて俺たちと遊ぼうぜ」
最初に絡んできたゴツい筋肉ダルマの左にいた、トサカ頭のヒョロ男がリオナに手を伸ばす。
「きゃっ?!」
腕を掴まれ、俺から引き離されるリオナ。
「何すんだ、やめろ!!」
彼女を取り戻そうと伸ばした俺の右腕を、筋肉ダルマが掴む。
「お前は引っ込んでろや」
掴んだ腕をそのまま捻りあげようとする筋肉ダルマ。
「ふんっ!!」
「うおっ?!」
俺は相手に向かって屈むように踏み込み、そのまま拘束されそうになっていた腕を力任せに引き抜く。
そのままくるりと回ってリオナの腰に手を回すと、今度は彼女の腕を掴んでいるトサカ頭を引き剥がし、半歩下がった。
一瞬の攻防。
たまたまうまくいったのは、俺の方が相手よりレベルが高かったからだろう。
「て、てめえっ!!」
再びリオナに手を伸ばすトサカ頭。
俺は彼女を庇い、立ちはだかる。
ーーと、伸ばされたトサカの腕を、横から掴んだ者がいた。
「あ?」
一斉に振り返る世紀末チンピラ軍団。
連中の視線の先にはーーーー
「俺の娘に手を出すのはやめてもらおうか」
大人の余裕を漂わせた、父親がいた。
「なっ、何しやがる?! 離せよ!!」
マヌエルさんから逃れようとジタバタするトサカ頭。
が、自らの左腕で相手の腕をしっかり掴んだマヌエルさんはびくともしない。
「場に相応しくないことをやらかしたのは、うちの馬鹿娘が悪かった。後できっちり叱っておくからさ。ここは一つ、勘弁してくれないか?」
シブい声でそんなことを言うマヌエルさん。
ーーいや、あんた、俺が目で助けを求めたのに、さっき苦笑いして目ぇ逸らしたよね???
今頃それ言う?!
俺がわずかに顔を引き攣らせていると、チンピラの親分と思しき筋肉ダルマが、マヌエルさんの左腕を掴んだ。
「……テメエ、口と手が違うこと言ってるぞ。その腕を離せ!!」
そしてそのまま力を込め、トサカからマヌエルさんを引き剥がしにかかる。
ーーが、やはりマヌエルさんはびくともしない。
それどころか、その指は一層トサカの腕に食い込んでゆく。
「いっ、痛ぇ!!」
「このっ! 手ぇ離せゴルァ!!!?」
悲鳴をあげるトサカ。
両手で引き剥がしにくる筋肉ダルマ。
微動だにしないマヌエルさん。
その時だった。
「おうおう、何事だ?!」
ギルドの制服を着た男たちを引き連れた目つきの鋭い中年男が、受付の奥の方からドスドスと歩いて来たのだった。
「デ、ディルクさん……」
顔色が変わった世紀末チンピラ軍団が、リオナとマヌエルさんからパッと手を離す。
どうやらディルクというこの無精髭のゴツい男は、ギルドでも上の方の人らしい。……どちらかと言うと荒事専門て感じだが。
彼の登場で、喧騒に包まれていたカウンター前は、一気に静かになった。
こちらに歩いて来るディルク氏と職員たち。
「お前ら、ギルド内での揉め事は…………って、マヌエルじゃねーか?!」
マヌエルさんの顔を見た途端、声を上げ、喜色を表すディルク氏。
一方のマヌエルさんは、ばつの悪そうな苦笑いを浮かべてディルクさんに向き直った。
「やあ、久しぶりだな。ディルク」
「おお、おお!! ずいぶんご無沙汰してたじゃねーか?! 十年ぶりくらいか?!」
「バカ言え。二年前にここに寄った時、一緒に飯食っただろう」
「あ? そうだっけか? ……まあ細かいことはいいや。また会えて嬉しいぜ!!」
そう言ってガハハと笑い、豪快にマヌエルさんの肩を叩く無精髭。
その時、遠巻きに見ていた冒険者連中がひそひそと話す声が聞こえてきた。
「なあ、サブマスターの知り合いのマヌエルってまさか……」
「……ああ。Sランクパーティー『暁の守護者』のアタッカーで、十年前に利き腕を壊して引退したっていう『急襲のマヌエル』だよ」
何そのかっこいい二つ名?
それにSランクパーティーって……ひょっとしてマヌエルさんて有名人???
っていうかあのディルクっておっさん、冒険者ギルドのサブマスターかよ!
「それでーーーー」
ひとしきり旧友との再会を懐かしがったディルクさんは、世紀末チンピラ連中を振り返った。
「ーーお前ら、何騒いでんだ?」
「ディ、ディルクさん……。これは、あの…………その……………………」
どもる筋肉ダルマ。
「……おい。俺の質問が聞こえなかったのか? 何騒いでんだ、って訊いてんだぞ!! あ??!!」
「「「ひっ、ひいっっっ?!」」」
その凶悪な威圧に、馬鹿どもが震え上がる。
すでにフロアに喧騒はなく、しん、と静まり返り、皆が俺たちに視線を送っている。
「どうやら『優しく』話を聞いてやる必要がありそうだな」
ディルクさんがそう言って片手を挙げ、職員たちがチンピラ連中を拘束しようとした時だった。
「まあ待てよ、ディルク」
マヌエルさんがそれを静止した。
「あん?」
ディルクさんが怪訝そうに振り返ると、マヌエルさんはすました顔でこう言った。
「別にトラブルとかじゃないぜ。俺が若いのとちょっと戯れてただけさ」
その説明に、胡散臭そうな、呆れたような顔をするサブマスター。
「ーーホントだぞ?」
さらにとぼけるマヌエルさん。
そんな旧友に、ディルクさんは「はあ……」とでっかい溜め息を吐いた。
「変わんねえなあ、お前はよ。相変わらずの甘ちゃんだぜ」
「なんとでも言え」
そう言って笑い合う二人のおっさん。
ディルクさんは毒気を抜かれたような顔でチンピラ連中を振り返った。
「こいつがこう言ってるからな。今日のところは見逃してやる。……だが、次はないと思えよ?」
そんなサブマスの裁定に、筋肉ダルマは……
「はっ、はいっっ! すみませんでしたあ!!!! ーーほらっ、早く行くぞお前ら!!」
仲間を急かして、バタバタと逃げるようにギルドの建物から出て行ったのだった。
揉め事が片付き、再びフロアが喧騒に包まれる。
ギルド職員たちもサブマスの指示で奥に引き上げて行った。
ーーまあ、当のディルクさんはこの場に残っているんだが。
「それで、滅多に顔を出さねーお前が、今日はどうしたんだ?」
問われたマヌエルさんがぽりぽりと頭をかく。
「いやまあ、その……なんだ。うちの子供たちが魔法学園に入るんでな。その付き添いだよ」
そう言って俺たちの方を振り返った。
「お前の子供?!」
つられてこちらを見るディルクさん。
俺たちを見た彼はーーーーぎょっとしたような顔をして一瞬固まり、次の瞬間こう叫んだ。
「マヌエルおめえっ…………いつの間に四人の子持ちになったんだよ!!??」
俺たちはずっこけた。




