第20話 冒険者ギルド
俺は目を瞑り気分を落ち着けると、盗賊の少年ウッツに向き直った。
「今言った詠唱技というのは、彼女独特の戦闘術のことだ。特殊な魔法と短剣技、弓技を組み合わせ、普通では考えられない戦い方をする。例えば……そうだな。気配を消して単身でオークの群れに突っ込んで、複数の敵を相手が気がつかないうちに屠ったり……」
「いや、気づかれるだろ」
「ーー逆にわざと敵に認識されるようにして、宙を飛びまわりながら弓で攻撃してドラゴンゾンビを翻弄したり……」
「人間じゃねーだろ、それ!?」
いちいちうるさい奴め。
「どちらも実際にあったことだぞ? ーーちなみに彼女はれっきとした人間だからな」
「ウソだろ……」
怪訝な顔をするウッツ。
「とにかく彼女はその技を駆使して、普通の暗殺者をはるかに上回る成果を出すはずだ。戦闘においても、それ以外でもな。もし最近、目立った活躍をする暗殺者が現れたなら、彼女である可能性が高い。真偽は問わないから、そういう情報を集めろ」
「最近? よそから流れて来た、ってことか?」
「ああ。彼女はおそらくごく最近この町周辺に現れたか、現れるはずだ。その手の話から追いかけるのも手かもしれないな」
俺と詠唱姫は、一週間ほどの差でさほど離れていない場所に転移した。
きっとセリカも、遠くない時間と場所に転移しているに違いない。
そしてこの辺りに現れたなら、情報の集まる大都市を目指すはずだ。
「へいへい……」
面白くなさそうに生返事するウッツ。
イマイチやる気が感じられない。
まあ、脅迫されて嫌々動くんならこんなものか。
こいつのアンテナに引っかかるなら、よし。
ただ、並行して他の方法も模索するべきだろうな。
「それじゃ、契約は成立だ。まあ頑張れよ」
そう言って、ぽん、ぽん、と少年の肩を叩き、背を向ける。
途端に背後から焦りを含んだ声が飛んできた。
「ちょっ、ちょっと待て! これ、なんとかしてくれよ!!」
振り向くと、謎植物の蔦に絡めとられたウッツがバタバタともがいていた。
「何もしなくても、そのうちほどけるぞ?」
「いや、今ほどいてくれよ?!」
俺はにやりと嗤ってみせる。
「とりあえず契約は契約だが、それはそれとして今日のおしおきは必要だからな。しばらくそうやって反省してろ。ーーなに、半日もすれば自然に解けるさ」
「は、半日ぃ?! 」
情けない顔になるウッツ。
まあ本当は三十分ももたないんだけどな。
このくらいの仕返しは許容範囲だろう。
「じゃあな」
そう言って、再び背を向ける。
「くそっ! 覚えてろよーー!!!!」
こうして俺は無事オークキングの魔石を取り戻し、路地裏には盗賊少年の遠吠えが響いたのだった。
「かもん、ひだりちゃん」
メインストリートに向かって歩きながら、俺は相棒に声をかけた。
目の前に、虹色の光の粒子が舞う。
「呼ばれて飛び出て、ひだりちゃんけぷーー☆」
元気にすがたを現した彼女は、ふよふよと浮きながら、歩く俺について来る。
「さっきは助かったよ。おかげで魔石を取り戻せた。ありがとな」
「ふっふーん! あれくらいなんでもないけぷよ〜〜☆」
そう言ってドヤ顔する謎生物。
すぐ増長するんだけど、憎めないんだよな。
「さすがひだりちゃん。ーーそんな君に、もう一つお願いがあるんだけどさ」
「何けぷか?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるひだりちゃん。
「エリシアたちに合流したいけど、道がわからない。姿を消して誘導してくれると助かるんだが」
「おっけーけぷ。お安い御用けぷよ☆」
そう言って彼女はドヤ顔のまま姿を消し……代わりに目の前に、半透明のマップと大きな矢印が現れた。
「なんか、カーナビみたいだな」
表示されたマップは、今まで通った道は正確に、そうでない道は大まかに描かれている。
おそらく目視で分かる範囲から推測して描写してるんだろう。
うちの相棒、有能すぎ。
「ーー次の交差点を、左方向けぷ☆」
妙に機械音声っぽい喋り方で、ひだりちゃんの案内が流れる。
芸、細かすぎだろ。
そのうちラジオDJのまねごとでも始めるんじゃなかろうか。
そうしてひだりちゃんに案内され、目的地に着いたのは二十分ほど後のことだった。
「……デカいな」
冒険者ギルドは、街中にしてはやたらと広い敷地と複数の建屋を持つ大規模な施設だった。
意外なことに、外観だけ見れば大銀行か、下手をすると宮殿か何かのようにさえ見える。
本棟とおぼしき正面の重厚な建物の他、右手には商店や工房のような建物が連なり敷地奥に向かって並んでいた。
一番手前の建物では、冒険者らしき人々が列をつくり、狩ってきた魔物をカウンターに並べたりしている。これは、討伐対象の引き渡し所だろう。
煙突から煙を吐き出し、カン、カン、という槌の音を響かせているのは鍛治関係か。
ゲームの中の冒険者ギルドはせいぜい大きな宿屋といった体の建物だったが、この世界のギルドはかなり手広くやっているらしい。
塀に沿ってそんな様子を見て歩き、本棟の正面までやって来る。
三階建の重厚な建屋を前に、思わず正直な気持ちが口をついて出た。
「……うげ」
「大混雑けぷねぇ」
ここまで案内してくれたひだりちゃんが、俺の思いを代弁してくれた。
ちなみに彼女は姿を消したままだ。
いくつもある玄関扉は出入りする人々でひっきりなしに開閉し、一瞬開いた扉から中を見ると、やはり人が溢れんばかりだった。
いかにも冒険者然とした連中だけでなく、なぜか普通の主婦や執事的な格好の人、同い年くらいの少年少女も出入りしている。
……ああ、依頼主や魔法学園の入学希望者も来てるのか。
一人で納得していると、後ろから野太い声が飛んできた。
「おい。入口でボサっとしてんな」
振り返ると、巨大な戦斧を肩に担いだヒゲもじゃの巨漢が、目の前に立っている。
どうやら後ろの三人の仲間とギルドの建物に入ろうとしていたらしい。
「ああ、すみません」
慌てて道を開けると、すれ違いざまそのおっさんが声をかけてくる。
「気を抜いてると早死にするぞ、ルーキー」
仏頂面でそんなことを言うと、他の仲間たちとガヤガヤとギルドの建物に入って行った。
どうやら悪い人ではないらしい。
顔、怖かったけど。
「さて。皆はどこにいるのかね」
ひだりちゃんのマップでは、建物の中にエリシア、グラン、リオナの三人がいることになっている。
が、この混み合い方だ。すんなり見つかるかどうか……。
「まあ、気長に探すしかないか」
俺は意を決し、冒険者ギルドの扉を押し開けた。
扉を開けると、どっと喧騒が押し寄せてきた。
巨大なエントランスホールは上から見ると多角形になっていて、それぞれの壁には掲示用の巨大なボードが設置されている。
それらのボードには依頼書と思しき紙が一面にピン留めされ、冒険者たちが群がっていた。
正面には受付と思しき長いカウンターがあり、何人もの従業員が列をなす冒険者に対応している。
右手は半個室の相談ブースが連なり、左手はビアホールのようになっていた。
その時、
「ユーイ!」
突然の喜色を含んだ叫び声。
その声に振り返ると、右手から泣き笑いのようなリオナが駆け寄ってきてーーーー
「無事でよかった……!」
「え? ちょっ…………ぐえっ?!」
全力で首に抱きつかれてしまった。




