第16話 決裂、そして学園都市へ
大幅なレベルアップに、俺自身驚いていた。
レベル52。
ゲームの感覚では、プレイ開始から三ヶ月くらい。初心者を卒業し、中堅に足がかかったあたりだろうか。
が、まあ考えてみればオークを10匹以上倒した上にオークキングとも戦っていた訳で、このくらい上がることもあるのかな、という感じではある。
ーードーピングの賜物だな。
そんなことを考えていると、横から戸惑ったような声が聞こえてきた。
「これ……レベルって何のことだ?」
「他にも色々数字が書いてあるけど……」
グランとリオナが、自分たちのステータスを見ながら首を傾げている。
それぞれのステータスは、グランがレベル25で戦士または魔法戦士向き。
リオナもレベル25で魔法使いまたは魔術師向きだった。
「ーー二人ともMPが多いな」
第一印象はそれだった。
MaxMPは、グランが280、リオナにいたっては450もある。
それ以外は、普通。
さっきマヌエルさんが言っていた「徐々に人が持つ魔力が増えている」影響だろうか?
「MPって?」
「魔力の量のことだよ」
リオナの問いに答える。
「俺の感覚からすると、二人ともかなりの魔力持ちだよ。ーーほら。俺のMPを見てみ」
「「……えっ、3?!」」
俺のステータスを見た二人が驚きの声をあげる。
「そう。多分、まともな魔法は使えないな」
レベル52にして、MP3である。
もうどうしようもない。
そういえば、柏木小夜はどうだろう?
俺は彼女のステータスに目をやった。
ーーレベル39。当然のように魔術師向き。MaxMPは43。
「ズルい! 魔法使えるじゃん!!」
「……?」
俺の叫びに、エリシアが怪訝な顔で振り返った。
同じ世界からの転移者同士。
MPも同じくらいかと思えば、これだ。
グランやリオナには全く及ばないけれど、何発か撃てるくらいのMPはある。
俺は自分のステータスに絶望した。
「これは……人の能力を数字で表してるのか?」
しばらく空中に浮かぶステータスを食い入るようにみていたマヌエルさんが、信じられないという顔で呟いた。
「この世界では、こういったものはないんですか?」
「ないな。魔法学園には魔力を図る特殊な水晶球があるが、光り方で大体の魔力量が分かるだけだ。ーーこのレベルというものが、人の能力の『格』を表してるのか……」
難しい顔で唸るマヌエルさん。
「ーーなあ、ユーイ」
「なんです?」
「この力のことは、なるべく人に知られない方がいい」
「え???」
マヌエルさんは、俺に向き直った。
「人は、自分の可能性を信じて努力し実現しようとする。また、相手への評価が曖昧だからこそ、建前だけでも相手を尊重しようとするんだ。それらは生きていく上で必要不可欠なことだ。ーー然るにこの力は、その曖昧な点をはっきりさせてしまう。とても便利な力ではあるが、トラブルの原因にもなり得るから、なるべく秘密にしておいた方がいい」
「わ、分かりました……」
確かに、扱いに注意すべきかもしれない。
気をつけよう。
自分の中でそんな風に反省していた時だった。
「それで、なぜ仁藤くんはゲームのシステムが使えるんですか?」
抑揚の薄い冷たい声が、俺にそんなことを尋ねてきた。
「知らん。こっちに来た直後から使えたぞ」
「……納得できませんね。私とあなたとで、転移時の状況はほぼ同じはずです」
エリシアはそう言うと、自分のステータスと俺のステータスを見比べ始めた。
そしてーーーー
「これ、なんですか?」
彼女は一点を指差した。
ああ、それな。
俺はちょっと自慢げに説明してやる。
「それは『七精霊の祝福』だ」
「……そんなことは読めば分かります。ひょっとして、私をばかにしてるんですか?」
「バカにしてないさ。ちょっとした茶目っ気だ」
「…………。どういう効果があるのか、を訊いているんですが」
イラっとしたように眉をひそめるエリシア。
俺は手をかざして『七精霊の祝福』と書かれた部分に触れ、説明を表示させた。
ーー『七精霊の祝福』。
世の理を司る六精霊と、創世の精霊シルフェリアによる加護。選ばれし資格を持つ者が『世界の想い』を装備した状態で願うことにより、対象に加護を与えることができる。この加護を受けた者は、次元の扉を開く鍵を手にし、世界を渡る力を得る。
「……抽象的ですね」
食い入るように説明に見入るエリシア。
「この『世界を渡る力』というのが、ゲームシステムに繋がっている?」
ぶつぶつと呟いていた彼女は、やがて振り返り冷たい瞳で俺を見た。
「この加護は、どこで?」
「うちのサブマスターが『次元斬』を使えるようにするために俺に掛けたんだ」
「サブマスター……エイミーさんですか。あの時、二人で何かやっていたのは、これだったんですね」
ーー気づいてたのか。
まあ、ゾンビ軍団をなすりつけられて用心してたんだろう。
「ちなみにそこに書いてある『世界の想い』は、エイミーが装備していたペンダントで、第一回のミス・シルフェリアに選ばれた時の賞品だったそうだ」
今、自分が装備していることは、言わない。
俺はまだ、こいつをそこまで信用できてないし、ペラペラ喋ることじゃないからな。
「つまり彼女は、その説明にある『選ばれし資格のある者』だった訳ですね」
なるほど。
確かにエイミーはミス・シルフェリアに『選ばれ』てるな。
「…………」
ミスコンで選んじゃっていいのか、それ?
「……いいでしょう。とりあえず、私がゲームシステムを利用できなさそうだということは分かりました」
「ーーさて。ご理解頂いたところで今後の話をしようか、柏木小夜」
俺の言葉に、元・同級生がこちらを睨んだ。
「さっき話したように、俺は一緒にこっちに飛ばされたセリカを探すため、学園都市に向かう。彼女が見つかれば、その後は元の世界に戻る方法を探すつもりだ」
俺は、びっ、とエリシアに指を突きつけた。
彼女は一瞬びくっとして、さらに険しい顔で俺を睨みつけてきた。
「お前はどうする? 一緒に行くか? それともここに残るか? ーー選べよ、詠唱姫」
俺の言葉にエリシアは目を細めて思案しーーーーやがて静かに口を開いた。
「私も学園都市に行きます。行って、彼女を探します。……ですが、あなたとは別行動です。あなたのような、卑怯で破廉恥な人と行動を共にしたくはありません」
「それはよかった。俺も、自分が大ごとに巻き込んだ相手に『ごめんなさい』の一言も言えないヤツと組むのは、ごめんだね!」
俺の言葉に、顔面を蒼白にするエリシア。
こうして俺たちは決定的に決裂したのだった。
翌々日の朝。
俺たちは、村の東門に停まった幌馬車の前で、村人たちとの別れを惜しんでいた。
「色々お世話になりました」
俺の言葉に、ほっほっ、と笑う村長。
「なに、世話になったのは儂等の方じゃ。この村はいつでもお前さんがたが戻ってくるのを待っておるぞ」
「いつでも歓迎するからな!」
「ありがとう、勇者さま!!」
おっさんや子供たちからも温かい声が飛んでくる。
ーーいい村だなぁ。
「おーい! そろそろ出発するぞ!!」
御者席で叫ぶマヌエルさん。
「あっ、今行きます! ーーそれじゃあ、また」
「ほっほっ。道中、気をつけてな。ーーシルフェリア様のご加護があらんことを」
「皆さんもね!!」
別れの挨拶を交わし、幌馬車の荷台に乗り込む俺たち。
荷台の奥には、きれいに剥ぎ取られたオークの革や牙などが、重ねて置かれている。
「よし。それじゃあ、出発だ!」
マヌエルさんが馬に鞭を入れ、馬車はガタゴト動き出す。
「きゃっ?!」
「大丈夫か、サヤ?」
思っていた以上に揺れる馬車にバランスを崩すエリシア。そして彼女に手を差し出し支えるグラン。
俺は、向かいに座りにこにこと上機嫌で微笑んでいる茶髪の少女に尋ねた。
「なあ、リオナ」
「なあに? ユーイ」
「君らはやはりお父さんの手伝いでついて行くのか?」
「んーん。違うよ?」
「……え? じゃあ、なんでカンタルナに???」
俺の問いに、彼女は楽しそうに笑ってこう言った。
「私たちも、一緒に入るから」
「ん? 一緒に入るって何に? 風呂???」
ーーやべ。口が滑った。
つい、セクハラおやじみたいなことを。
「あの、すまん。今のはじょうだ……」
「それは、ユーイがそうして欲しいなら……」
頰を朱く染め、何やらもごもごと呟くリオナ。
「ーーは?!」
「フケツ…………」
隣のエリシアが、汚物を見るような目でこちらを見てくる。
「いや、冗談だから! さすがに、冗談だからっ!!」
俺の言葉に、一転、どこか不満そうな表情をみせるリオナ。
ーーつまらん冗談だったな。
もうやめよう。うん。
「それで、リオナ」
「ーーん」
「何に入るって?」
俺が尋ねると、彼女の顔は再び明るくなった。
「…………カンタルナ魔法学園に」
「……は?」
「私とグランも、カンタルナ魔法学園の短縮コースに入学するの! ーー同級生だね、ユーイ!!」
そう言って、満面の笑みで俺の両手を握ってくるリオナ。
なんか、可愛い。
ーーじゃ、なくて!!
「ええええええええ??!!」
そんな話、今まで言ってなかったよね?!




