第14話 冒険者ギルドの登録要件
マヌエルさんの家、つまりグランとリオナの家は、村長の屋敷ほどではないものの、二階建てのそれなりに大きな家だった。
料理はほとんど出来上がっていて、奥の台所から繋がった小さなダイニングのテーブルには、所狭しと皿が並べられている。
「おおっ、これはすごい!」
思わず呟くと、案内してくれたリオナが笑った。
「私とグランの命の恩人をお招きするって伝えたら、ママが張り切っちゃって」
「そりゃあそうさ! 我が子の命の恩人だもの」
そう言って皿を持って台所から出てきたのは、逞しい感じの美人だった。
「初めまして。あたしはこの子らの母親のハンナ。……ユーイさん、子供たちを助けてくれたこと、心から感謝します。ーー本当にありがとうね」
そう言って涙ぐむハンナさん。
「おいおい、お前が泣いてちゃ始まらんだろ」
台所からサラダが入ったボウルを抱えたマヌエルさんが出てきて、ハンナさんの肩を叩く。
「やあ、ユーイ。よく来てくれたな!」
「マヌエルさん、お招き頂き光栄です」
「おいおい。そりゃあこっちのセリフだ。まあ、気楽に楽しんでいってくれよ」
「ありがとうございます!」
そうして和やかに夕食が始まったのだった。
「うまいっっ!」
思わず叫んでしまうほどに、ハンナさんの料理の腕は、素晴らしかった。
「あら、そう言ってもらえると嬉しいねえ。おかわりもたっぷりあるよ!」
今日の騒ぎで手に入ったオーク肉をトマトベースで煮込んだシチューは、まさに絶品の一言で、勧められるままついついおかわりをしてしまった。
俺は正面のマヌエルさんやハンナさん、隣のリオナと話していたが、その横でグランと柏木さんは向き合って座り、気安げに会話をしていた。
こんなに喋る柏木さんは、初めて見る気がする。学校にいる時よりも生き生きしてるんじゃないかと。
あんな感じで俺とも話してくれると……。
……まぁ、ねーな。
今までの経緯が悪すぎる。
実際俺に対しては今も、無視するか、氷の視線を浴びせてくるかだし。
ーー正直なところ、彼女に対してはちょっと腹が立っている。
元々、俺やセリカがこっちに来ることになったのは、彼女が俺の背中にぶつかってきて、空間の裂け目に一緒に引きずりこまれたからだ。
不可抗力とはいえ、ひと言くらいあってもいいだろうに。
そう思うと、ツンケンする彼女に気をつかうのが、なんだかバカバカしくなってきた。
「へえ、人探しかい?」
夕食が終わり食後のハーブティーを頂いていると、ハンナさんが今後の予定について尋ねてきた。
「ええ。俺たち以外に、こちらの世界に来てしまった子が一人いるはずなんです。暗殺者の女の子なんですけど……。それで、人が集まる町で冒険者をしながら情報収集しようと思って」
「なるほどねえ。そういう話なら冒険者ギルドや横の繋がりで調べるのが一番だと思うけど……。あんた、どっかの国でギルド登録はしてあるのかい?」
「ーーいえ。彼女と同じで、俺もこちらの世界に来たばかりです」
先ほどまでの話で、柏木さんがこっちの世界に来たのは、およそ一週間前だという話だった。西の森の中に転移してきたらしい。
俺の言葉に、マヌエルさんとハンナさんは、困ったように顔を見合わせた。
「そいつは、ちょっとばかり面倒だな」
「なぜです?」
マヌエルさんの言葉に、訊き返す俺。
「冒険者ギルドへの登録要件てのは国ごとに違うんだが、一度登録してしまえば身分が保証され、どの国のギルドでも仕事ができる。ただまあ、その要件てのが問題でな。学園都市カンタルナのギルドの場合、魔法学園の卒業が登録要件になってるんだ。ちなみに本コースでの卒業には三年、冒険者志望向けの短縮コースでも半年はかかる」
「えっ?! じゃあ卒業するまでギルド登録ができないんですか???」
「正式な登録は、な。在学中に試験に合格すれば、仮登録での活動は認められるが……その試験もそこそこ難しいぞ? ーーまあ、ユーイならなんとかしてしまいそうな気もするけどな」
そう言って笑うマヌエル。
ーーまじか。
セリカの捜索を続けるにしても生活費は稼がないといけないし、できることならギルドに捜索依頼も出したい。
今回の謝礼の額を考えれば半年は生活できるだろうが、それ以上は厳しいだろう。
「ギルドに登録してないと依頼も受けられないし、魔物の死体もちゃんとバラして素材にしないと買い取ってもらえない。何より、情報の面で圧倒的に不利になる。冒険者稼業で生活していくつもりなら、ギルドへの登録は絶対しておいた方がいいな」
やっぱり、ギルドへの登録は必須か……。
「他国のギルドに登録する、っていうのは難しいですか?」
「この辺りの国だと、大体その国の街や村の市民権を持ってることが条件になる。東大陸の『帝国』なら実力次第で登録できるが、あそこは今色々と揉めてるし、海を渡らないと行けないからなあ」
ぐっ……。
ということは、魔法学園に短縮コースで入学して仮登録を勝ち取るというのが、一番マシな方法ってことか。
「魔法学園への入学には、何か条件とかありますか? 入学金とか」
「そうだな……。短縮コースの話をすると、入学金は1000セルーだが、これは推薦状があれば半額免除される。書類は村長が書いてくれるはずだ。あとは……学費は入学金に含まれるが、全寮制なんで月々の寮費が必要だな。大体300セルーくらいか」
寮費が月300セルーとすると半年で1800セルー。入学金半額と合わせて2300セルー。
今回謝礼としてもらうオークキングの素材を売って折半すると10000セルーくらいだろうから、贅沢をしなければ問題ないか。
「色々教えて頂いてありがとうございます。とりあえずカンタルナに行って、魔法学園の短期コースに入学することにします」
「それがいいだろう。ギルドとはちょっと方向性は違うが、学園にも人と情報が集まってくる。ひょっとしたら、探してるお嬢さんのことを知ってる奴もいるかもしれないしな」
なるほど。
冒険者志望者が各地から集まってくるなら、その可能性もゼロじゃない、か。
あ……。
「そういえば、入学のタイミングってどうなるんですか?」
「本コースなら四月だが、短縮コースは毎月受付だ。次の受付日は五日後になるな。この村からカンタルナまで馬車で二日かかるから、明後日あたり出発すればちょうどいいだろう。うちの村としても早いところオークの素材を現金に換えたいし、ユーイがいいなら村の馬車で送って行くぞ?」
「本当ですか?!」
「おう。お前さんは村の恩人だからな。そのくらいのことはさせてくれ」
びっ、と親指を立て、ニヤリと笑うマヌエルさん。
超イケメン!
見てくれはおっさんだけど!!
「マヌエルさん、ハンナさん、今日は本当にありがとうございました。夕食はとても美味しかったですし、おかげさまでこれからの見通しも立ちました!」
俺とマヌエルさんは、立ち上がり固い握手を交わす。
「なに。お前さんは、うちの家族の恩人で、村を救った勇者だ。感謝するのは俺たちさ」
「それでは明後日のカンタルナ行き、よろしくお願いします」
「おう。まかせとけ!」
こうしてマヌエル家での晩餐はおひらきとなった。
ちょっとだけ人の優しさが心に沁みた夜だった。
「…………お、おいっ!」
「あん?」
お暇しようとした俺を呼び止める声に、振り返る。
そこには、何やら情けない顔で立ち上がったグランがいた。
「夕食の時に話してくれるって約束だろ?!」
「……ちっ」
流れで逃げようとしたがダメだったか。
「あ、あんた! 今『ちっ』って言ったな?!」
「ワタシソンナコト言ッテナイヨー」
「嘘だ!」
「嘘ね」
柏木小夜まで小僧に同調する。
もうユーたちひっついちゃいなYO!!
「私も、あなたに訊きたいことがあるの」
睨むようにこっちを見るエリシア。
ーー知るかっ!
「ああ、もう。面倒くさい! まとめて答えてやるから、さっさと訊けよ」
俺は観念して、再び椅子に腰掛けた。




