第12話 村長との会談
居心地の悪さに内心逃げたくなりながらも、俺は魔法使いの少女・リオナに笑顔で頷いてみせた。
「分かった。せっかくの招待だし、同行させてもらおうかな」
俺がそう言うと、少女は破顔した。
「よかった! あれだけのことをして頂いてお礼もせずに帰してしまったら、このサンガ村はとんでもない恩知らずの村になってしまいます。ーーサヤも、一緒に来てくれる?」
リオナの問いかけに少し考え、柏木さんはやがて静かに頷いた。
「いいよ。一緒に行く」
「よし! それじゃあ、案内しますね。奥にどうぞーー」
リオナを先頭に、柏木さん、俺、グランの順で移動を始める。
聞けば、そもそもこの屋敷は村長の家、兼、村の集会所らしい。
俺たちはリオナに案内され、屋敷の奥にある応接間に通されることになった。
「あの……そういえば、二人は知り合いなの?」
先導するリオナが、歩きながら柏木さんに尋ねる。
柏木さんは、ちら、とこちらを見ると、小さく頷いた。
「同郷よ。それほど親しい訳じゃないけどね」
「え、じゃあ、ユーイ様もイセカイからこの世界にやって来られたんですか?」
今度は俺の方を向いて尋ねるリオナ。
どうやら柏木さんは、自分が違う世界から来た人間であることを伝えてあるらしい。
ーーなら、別に隠す必要はないか。
「ああ。俺も異世界からこの世界に迷い込んだんだ。……ちょっとしたトラブルに巻き込まれてな」
俺の言葉に、前を歩く柏木さんの肩が、ぴくりと動いた。
「そういえば二人とも黒髪ですよね。……そっか。同郷かぁ」
何やら困ったような、難しい顔になるリオナ。
「何か、問題でもあるかな?」
俺の問いかけに、リオナは慌てて両手を振った。
「いえっーー問題なんてありませんよ!? ええと…………あ、ここです! こちらの部屋で村長たちがお二人をお待ちですっ」
「……?」
彼女は取り繕うような笑顔でそう言うと、扉をノックして「村長、サヤとユーイ様をお連れしました」と声をかけた。
すぐに中から返事が返ってくる。
「ーーおお、おお、早速入ってもらいなさい」
元気そうな老人の声が聞こえた。
簡素な応接室では、二人の男性が並んで立っていた。
一人は穏やかそうな白髪の老人。
もう一人は大柄で見るからに逞しい壮年男性。
先に口を開いたのは老人の方だった。
「村を救って頂いた恩人をお呼び立てして申し訳ありませんの。儂はヨーゼフ。このサンガ村の村長をしておりますじゃ」
続けておっさんが自己紹介をする。
「村で自警団長をやっているマヌエルだ。まあ本業は猟師だがな」
そう言って微笑する。
二人とも、悪い人じゃあなさそうだ。
「サヤ殿はこの間、挨拶しに来てくれたのう。そちちのお若い方は、なんとお呼びすればよいかの?」
「仁藤裕一です。呼びにくければ、ユーイで構いません」
「おお、ではユーイ殿と呼ばせて頂こう」
そう言うと、村長は皆にソファに座るよう着席を勧めた。
小さなテーブルをはさみ、向かい合う。
向こうは左から、マヌエルさん、村長、グラン。
こちらは左から、柏木さん、俺、リオナだ。
着席すると、村長はあらためて俺と柏木さんの顔を見て、深々と頭を下げた。
「ユーイ殿、そしてサヤ殿。この度はこのサンガ村をオークの襲撃から救って頂き、本当にありがとうございましたじゃ」
救う、か。
救ったかなあ……。
「村長さん、頭を上げて下さい。たしかに加勢はしましたけど、救う、は大げさですよ。現に村の方に少なくない犠牲が出ている」
俺の言葉に、意外なことに柏木さんが頷いた。
「ーー私も、戦わなければ殺されていました。村の人たちと同じように、自分を守るために戦ったに過ぎません」
俺たちの言葉に、村長はやや驚いたように頭を上げ、マヌエルさんと顔を見合わせた。
口を開いたのは、マヌエルさんの方だった。
「それは違うぜ、お二人さん」
そう言って苦笑する。
「君たちがいなければ、この村は間違いなく全滅していた。もちろん俺も村長も、嫁さんも子供たちも死んでいただろう。犠牲になった者のことを思うとやりきれないが、こうして多くの命を繋げたことを今は喜ぶべきだ。それにーーーー」
マヌエルさんは俺の顔を見た。
「ユーイ殿が自らより圧倒的に格上のオークキング相手に、一歩も引かずやり合う姿に、俺たちは鼓舞されたんだ」
俺を真っ直ぐ見ながらそう言い切ったマヌエルさんに、俺は内心焦った。
ーー彼は、俺のレベルが見えるんだろうか?
「…………分かります?」
そう尋ねると、マヌエルさんはニヤリと笑った。
「まぁな。……ていうか、お前さんボロボロだったじゃないか。よく分からん生き物が奇跡級の回復薬で治していたが、それがなければ何度も死んでただろ」
うっ……。よく見てらっしゃる。
「だが、だからこそ俺たちは奮い立った。何度傷ついても化け物に食いついていく。そんなお前さんの姿に勇気づけられたんだ。ーーーーなあ、リオナ?」
「えっ?! なっ、なっ、何のこと!? なんで私に話を振るのよ!?」
顔を真っ赤にして怒るリオナ。
そんな彼女を、マヌエルさんはにやにや眺めて言った。
「いやなに。さっきユーイ殿を探さないと、って話になった時、話も終わらないうちに『私が探してくる!』って飛び出し……」
「ちょっと、やめてよパパ!! 適当なこと言うと怒るわよ?!」
ん?
「パパぁ???」
俺が首を傾げると、村長が、ふぉっふぉっ、と笑って言った。
「マヌエルは、グランとリオナの父親なんじゃよ」
「ーーうちの子どもたちが世話になったな。ユーイ殿」
「はあ??!!」
今度は自分が顔を歪めることになった。




