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龍に勝るは虎に翼  作者: 平沢 吉野
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忙しい休日


 午後三時。シャワーを浴びて頭をスッキリさせた。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、飲みながら化粧に取り掛かる。

少し遠いがイオンモールに行くことにした。食事した後本屋でダイエット本探して、ショッピングもしよう。最後に口紅を引こうとしていた所で、私用電話に着信。相手は京佑だ。


「姉ちゃん姉ちゃん。俺今電車に乗ってそっち行くから、最寄り駅に車で迎えに来てね」

「うん分かった。でも何で…」私の問いを聞く前に、すでに電話は切れていた。


私の自宅は駅から徒歩十分なのに、何で車が必要なんだろう。もしかして、格闘して足でも怪我したのだろうか。普段心配性では無い私でも、もう十九歳になって心配する歳でもない弟の事だけは心配してしまう。


弟は弟で、同じく私を事あるごとに心配してくれる。東京に住んでいた時は、実家に帰らずよく私の部屋に泊まりに来た。今、弟は大学生で、勉強も遊びも忙しくて、二、三ヶ月に一回程度しか来ない。私の仕事が忙しいのを分かっていて、気を使っている部分もあるに違いない。(何だか寂しいな)


 この時間帯は仕事帰りの旦那の送迎する車が停車していないので、駅前の歩道に横付けして待つ事が出来た。すると五分程で、京佑が駅の階段を降りて来て、一直線に私の所にやって来た。ドアのキーを開錠して待つと、弟はそのまま助手席に乗り込んできた。


「姉ちゃん待った」弟はそう声を掛けて来た。

「いいえ、今来た所よ」私は笑顔で返す。

「なら、良かった。じゃあ日が暮れる前に行こうぜ、姉ちゃん」京佑は笑顔でそう言った。

「行くって何処へ」私は聞き返した。

「勿論、姉ちゃんの行きたい所さ」

「京佑、言葉遊びは嫌いじゃないけど、私の行きたい所なんて何処、知らないわ」私は京佑にからかわれている気がした。


「じゃああのメールはなにナリ。調べてくれって意味じゃないナリか」弟は二人きりの時に使う、キテレツ大百科のコロ助のしゃべり方をする。

「調べてくれって言うか、友達の恵子から送られてきたメールなんだけど、出所不明の幻の動画らしいけれど、京佑は観て何か分かるかなと軽い気持ちで…」私はそう答えた。正直な話、何か悪いことをした気になった。


「姉ちゃんは何の動画だと思ったナリか」弟は私の顔を覗き込むように見た。

「音楽もなしで、不思議なダンスをしていると思った」きっぱりと言う。

「えっ、ダンス?功夫の道着来て、何でダンスを踊るわけ。姉ちゃんは、ブルース・リーとかジャッキーチェンの映画見た事無いの」あきれた風に言う。

「ジャッキーチェンの出ているラッシュアワーなら、見た事あるよ」私は答えた。


「あっ、俺の言い方が悪かった。功夫って、中国拳法の事だよ。日本に有る少林寺拳法じゃあ無くて、動物の動きを模した十二拳とかの総称で、形意拳てのが有るんだ。という訳で、コロちゃん外出中だったから、近辺のネットカフェで調べて来ました」如何にも褒めてって顔をしている。


「中国拳法って言うのか?それで見た事もない動きしていたんだ。納得」

「でも注目すべきは、最後の三回転の回し蹴りなんだよ。勿論、空手でああいう技は使わないし、蹴りで言ったら韓国のテコンドーとかは似たような物は有るんだ。でもテコンドーの蹴りって、助走があっての飛び蹴りなんだ。俺のスマホで再生するから、最後の所もう一度見て。右、左、右と軸足を変えているから、膝を屈伸するタイミングがほぼ無いんだ。それなのに三回転目が飛び回し蹴りだから、すげえんだ」京佑は熱っぽく語る。

私には、そこまでの興奮を覚える話では無かった。なので、軽く同意するように頷いて見せていた。


「動きに関しては動画を見るだけで理解は出来たけど、肝心なのは何処の誰かって事だろ。調べたけど現在削除されていて、どのSNSにもなかったから投稿した人間を片っ端から探して、最初の投稿者を探し当てて地域を特定したんだ」京佑は私の反応を見るため、言葉を切った。


「流石コロちゃん。ホワイトハッカーの面目躍如だね。それで車で迎えに来てって言ったって事は、直接ジャッキーチェンみたいな人に会いに行くって意味なの?」私は身を乗り出して聞いた。


「そう、会いに行くつもりだけど、本人が都合よく居るとは限らないよ。でも道場だから、誰かしらは居ると思うよ。因みにそこは隣の県で駅から遠いから、車でしか行けないんだ。だから取り敢えず、バーガーでも食ってから行かねえ。それとネカフェって狭いのな。足伸ばしたらパソコンに顔が届かねえの。仕方無く正座してタイピングしていたから、座り心地最悪だったよ。俺身体伸ばしたいから、バーガー屋に着いたら教えてね」そう言って京佑はシートを倒して横になった。


今日の京佑は、様子がおかしい。何時もならコロ助調のしゃべり方になったら、ずっとそのままだが今は違った。余程ネカフェの居心地が悪かったのだろうか?


バーガーショップに着くと京佑を起こし店内に入った。ドライブスルーという手もあるが、最近はゴミを気楽に捨てられるところが少ないので、この方が合理的なのだ。京佑と私はバーガーのセットを食べた。私はこの量で良いが、身長百九十センチもある弟はこんな量で足りるのだろうか。何度か「足りる」と聞いたがその度平気だと言われた。


車に戻ると京佑がカーナビに行先を打ち込んだ。

車で走ること三十分、目的のお寺の前に着いた。

「ラッキー、正面パチンコ屋じゃん。取り敢えずタダで止められそうだから、そっちに駐車しようぜ」京佑は言った。

私はそれに従って、店からは距離のある奥の方に止めた。


片側一車線の道路を二、三十メートル離れた信号を渡ってお寺の境内に入ってゆく。私たちが入ったのは裏口のようだった。


本堂からは遠く何の飾りもない建物が近くにある。京佑がどんどんそちらに歩いてゆくので、今日の用事があるのはそちららしい。弟の事だ、敷地内の見取り図も調べたのだろう。

「たのもー!」京佑は玄関の所で大声で呼んだ。

まるで道場破りのようだ。


「何の御用でしょうか」あの動画と同じ様な服装をした若い男性が中から出て来た。


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