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龍に勝るは虎に翼  作者: 平沢 吉野
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大問題です


 仕事はまずまず順調だと言える。本社勤務が幸いして、残業がほぼ無い。それが最大のメリットで、デメリットは本社社屋が東京近郊に有るという事。


私は大学時代、東京の新宿区で独り暮らしをしていたので、新たにそちらに引っ越す事になった。

新築では無いが、小綺麗な外観の広い部屋に移り住んだ。家賃も驚く程安かった。勿論東京の家賃相場と比べてだが。この部屋に決めた理由は、家賃でも広さでもセキュリティでも駐車場の安さでもなく、ペットOKだった事。

そして今同居人の黒猫、菊ちゃんと一緒に住んでいる。


 ある日曜日のお昼時、ゆっくりと目覚めた私に、重大な事実が突き付けられる事となった。朝ごはんの催促に来た菊ちゃんは、仰向けに寝ている私の胸の上でどっしりと香箱を組み、苦しくなって目を覚ます作戦に出た。

夢うつつの私は寝返りを打とうとするも駄目で、頑張って上半身を起こし、そして深呼吸をする。


「菊ちゃん、次からはもう少し優しい方法で起こしてよ」私は捧げ持つようにして、顔の前に抱き上げ文句を言う。「あれ!貴方ちょっと重くなっていませんか?」と声を掛ける。「食事の前に、体重を計った方が宜しくありませんか」意趣返しで脱衣所に置いてある、体重以外にも体脂肪率や骨量迄測れる、人間用の体重計を用意した。


動物用の直接測れる体重計は無くても、先ず自分の体重を測り、次に菊ちゃんを抱きかかえて測れば、前と後の体重差でおおよその猫の体重は分かる。

早速スリーピングウェアのまま体重計に乗る私。一旦気を落ち着けて自分だけでもう一度乗る。誤差は無い。優秀な体重計だ。


菊ちゃんを抱いて乗った結果。3.4キロ動物病院で計った時から、0.1キロの微増。雌猫の標準的な体重みたい、と問題はその前。一ヶ月半前に計った時よりも、私の体重が3キロも増えてる。大食した覚えも、間食した覚えもない。


お酒も、ウイスキー等の蒸留酒が多いので、太る要素が見当たらない。いや一つだけ有った。運動不足だ。とは言っても筋トレ等ではなく、単に車での移動が増えてめっきり歩かなくなった事。駅と駅の間隔が広すぎて、実際一駅歩こうなんて無理だからだ。


菊ちゃんに遅い朝食をやり、自分は日曜には必ず飲む甘いカフェオレをやめて、ブラックコーヒーをダイニングテーブルでため息をつきながら飲んでいる。(痩せなきゃ)頭の中で何度も唱えた。


私は日頃運動習慣が無いので、考える前に先ずスクワット運動なんて事はしない。出来ないのだ。それでもノートパソコンをダイニングテーブルに持って来て、SNSで検索をし始めた。

ダイエット!と打ち込んだら、膨大な数の方法が出た。ダイエット 二の腕 ウエスト 下半身!で絞り込む。その結果、広告を除いてもまだ、八十万以上もの方法が残る。


幾つか調べた事で分かったのは、先ず筋肉をつけて脂肪を燃焼するのが正解だそうで、食事制限しながら、有酸素運動と無酸素運動をするのが効果的ならしい。

自転車やウォーキングが有酸素運動で、筋トレや短距離走が無酸素運動に当たるそうだ。

週三日アスレチックジムに通うのが良いらしい。でも私は昼間と夜のダブルワークをしているので、精々週一日しか本格的な運動は出来ない。


よし、先ず自転車を買おう。そして運動公園に行って、百メートルを何本か走る。一瞬は名案に思えたが、自己流では結局駄目な気がした。


私用のスマホにメールが届いた音がした。(誰からだろうか?)以前買い物をした通販サイトからのメールが殆どなので、慌てて見る必要も無いだろう。因みに携帯電話は昼間の仕事用と夜の仕事用も合わせて三台持っている。夜の仕事用は、日曜日はお客様からのお誘いが多く、折角の休日が潰れてしまうので主電源を切っている。昼間の仕事用は日曜日に連絡がある事自体、緊急の可能性が有るので電源は入っている。


そうだ。久し振りに弟の京佑に電話しよう。デートやらで忙しくなければ、相手をしてくれるだろう。私が東京で一人暮らしをしていた時は、よく遊びに来たし一緒にお出掛けもした。彼は体を動かす事が好きで、おまけに空手は有段者。身近な人間でダイエットの相談をするのには、格好の相手だろう。そう、メールの差出人が彼の可能性もある。


いざメールを開いてみたら、学生時代の友人、恵子からだ。“イケメン発見”がタイトルだった。彼女がそう書いた以上、信憑性が高いと思われる。彼女自身が美人のカテゴリーに入る事も有ってか、相当数の男に告白されていた。相手がいわゆる非イケメンだと「顔を小栗旬に直してから告ってね」とか、「ヒュー・ジャクマンなら何時でも付き合ってあげるわ」が断り文句で、実際イケメンと付き合った事も何度も有ったが長続きはしていない。「思ったよりイケて無かった」と自分自身にしか分からない理由でいつも別れている。


とにかく彼女がイケメンとタイトルに書いた以上、本当にイケメンに違いない。


メールには動画だけでメッセージは無かった。正直なところ動画の質は悪かった。素人がスマホで撮影した雑音の多い物で手振れもある。最初は胸の前で拳を握った手をもう一方の手の平で包み込む様にして、頭を下げたロン毛の男の映像。顔を上げた時に映し出されたのが、タイトル通りの端正なイケメン。

その後動き出したらしく画像からしばらく消え、倍率を下げ引きで取りようやくその人物を捉え始めた。


縦横無尽に動きながら、手足を振り上げ振り下げ器用に踊っている。とは言っても、私の知るダンスでは無い。クラッシックバレエとブレイクダンスを合わせた様な、そして回し蹴り、後ろ回し蹴り、ジャンプして回し蹴りの連続回転で映像は終わった。


「もしもし恵子。あの映像はなに」先ほどのを見て直ぐに電話していた。

「私も良く分からないんだけど、SNSに何度も投稿されて直ぐに削除される、幻の動画らしいよ。知り合いがコピーして保存していたのを、直接メールで送ってくれた物を、同じイケメン好きの貴方に、サービスで送ってあげたのよ」恵子は言った。

「うん、ありがとう。それで何処の誰なの?」私は聞いた。

「だから言ったでしょ、幻の動画だって。私もそれで諦めたけど、同士に一応発見報告だけはしておこうと思って。あと、知り合いのダンサーに見せてみたけど、誰も知らないって事が私の調査範囲で分かったことよ。貴女も興味あるなら、ダンサー以外で当たってみたら」


「何で丸投げするのよ。ダンサーじゃなかったら、何なのよ」私は聞き返した。

「全然分からないわ。だから、もどかしさのおすそ分け。今度三井アウトレットモールあみ店に行きたいから、途中までで良いから車出して。お願いね。じゃあまた、イケメン見つけたら連絡するね」


電話は一方的に切れた。そして私は、叫び出したいのをじっと堪えた。


(ああ、折角の休みがこれで台無しになったわ)そう思いながら、京佑に動画のメールを思い付きで送ってみた。


今後のモチベーションアップの為に、ブックマークやご感想などをお寄せいただけると幸いです。

創作活動の励みになりますので、宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ「香箱」って言うんですね、初めて知りました。
[気になる点] 時が詰め詰めなのでもう少し改行を増やすといいかもしれませんね····
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