うれしたのし秋の恋・ショートショート
Part 1 「うれしたのし」完全回収小話
とある初秋の日、カフェにて。
二人のカップルが楽し気に会話をしている。
「もう秋だねえ」
「ああそうだな。もうすっかり秋だな」
「今度の週末、天気いいらしいしどこか行こうよ」
「お、いいね。どこにしようか」
「そうだ、山に行こうよ。一面、紅葉に染まった景色を見てみたいな」
「いいねえ。きっときれいだろうな」
「でさ、どこか素敵な旅館で一泊なんてどう?」
「おいしいもの食べて温泉入って?」
「そうそう! 絶対に楽しいよ?」
「でも俺はお前と一緒にいられればいつでも楽しいけどな」
「も、もう。なによ急に」
「別に。俺は思ったことを言っただけだよ」
「そういうのやめてよ。恥ずかしいじゃない……」
「そういう恥ずかしそうにするところ、かわいくて好きだよ」
でもさ、と男は続けた。
「恥ずかしいじゃなくて、うれしいって言ってほしいな。そしたらお前のこともっと好きになるから」
*
じっと見つめ合う二人に、耳をそばだてていた客がぽつりと一言。
「勝手にやってろ……」
「うらましいんですか?」
向かい合う後輩に問われ。
「そうだよ悪いか」
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Part 2 うれしくもたのしくもない小話
とある初秋の日、カフェにて。
二人の付き合いたてのカップルが楽し気に会話をしている。
「もう秋だねえ」
「ああそうだな。もうすっかり秋だな」
「今度の週末、なにか秋らしいことしない?」
「お、いいね。なにをしようか」
「そうだ。芸術の秋っていうし、美術館に行こうよ」
「美術館? お前よりも美しいものがあるのか?」
(……え?)
「(気を取り直して)じゃ、じゃあさ。食欲の秋っていうし、リンゴ狩りなんかどう?」
「俺は世界一うまいお前を食べていられれば満足だけど?」
(……はあ?)
「(無理やり笑顔を作って)じゃあスポーツの秋っていうし、どこかでジョギングなんてどう?」
「俺はお前と会っているこの時が一番鼓動が早いから、あえて運動なんてしなくていいんだけどな」
「……ごめん。別れて」
「え? なんで? こんなに愛しているのに?」
「さよならっ……」
「おいっ! 待ってくれよお!」
*
去っていく女、追いかける男、一部始終を見ていた客が立ち上がって一言。
「よく言った!!」
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Part 3 たのしそうではある小話
とある初秋の日、カフェにて。
二人の男が楽し気に会話をしている。
「もう秋ですねえ」
「ああそうだな。もうすっかり秋だな」
「読書の秋っていうけど、なにかおすすめありますか?」
「おすすめ? あるある」
「なんですか? 教えてくださいよ」
「これなんだけど(スマホをいじる)」
「なんですかこれ。小説家になろう……?」
「そう。ここで今、企画やっててさ。それが面白いんだよ」
「企画?」
「秋の恋ばかりを集めた話を投稿し合ってるんだけど、読んでるとなんだか昔を思い出すんだよな」
「昔って?」
「恋に簡単にドキドキしてた頃だよ。何やっても楽しかったっつーか」
「それ分かります。学生の頃って、好きな人を見かけただけで一日ハッピーになったりしましたもんね」
「でも今はそんなことないんだよな。年とったよなあ、俺ら」
「ちょっと待ってください。先輩と僕を一緒にしないでもらえますか?」
「なんでだよ」
「僕まだ現役ですから、先輩と違って」
「はあ? もしかしてお前、誰か好きな奴いるのか?」
「さあねえ。秘密です」
「なんだよ。教えろよ」
「やですよ」
「いいから教えろよ、この」
「やですー」
*
教える教えないが続いたところで、耳をそばだてていた客全員が立ち上がって一言。
「いいからさっさと教えろよ! 気になって帰れないだろ!」
最後、企画の宣伝っぽくなってすみません。汗。




