丑三つ時参り …
人形劇Salomeが終わると、海外から訪れた来客達は淡雪を囲み、礼儀正しく挨拶をしてから質問をしたり談笑をしたり、少し離れて見ていた虹助にも、和やかな雰囲気が伝わっていた。
「凄いんやな … 淡雪はんて …」
最近知った祖父であるが、その偉大さを改めて感じ、沢山の人に囲まれたいとは思わないが、人形師として名を知られるようにはなりたいなと、淡雪を少し羨ましく思う虹助だった。
「槐さん、お話し宜しいですか~?」
茶髪紳士が笑顔で、虹助に話し掛けて来た
「はい、構いませんが … 」
何を聞かれるのかと、内心ガッタガチに緊張していた虹助だが、顔を引き吊らせながらも微笑む努力を惜しまず、標準語でLet's try…
「あ~とても恐くて素晴らしい!私、とても気に入りました。私は~LuKe ・Lopezと言います、Holly wood映画の人形や小物を作っています、あ~芸術を学び形にしています、淡雪よりもっと商業的です… ハハッ… 自分の想う芸術だけで生活する才能?私はそこまでは無いです … ハハッ… 」
LuKeは少し哀しそうな顔をしたが、虹助は何と応えたら良いか解らず、何も言えなかった。
「あ~話しは私では無く、この人形でした … ハハッ… 今、私はホラー映画に使う人形を探していました … イメージ通りが見つからず、Mr淡雪なら誰か知っているかと訪ねました。でも~見つけた!イメージ通り! Mr槐、是非、この人形に出演して欲しいのです!協力頂けませんか?」
突然LuKeから、楓のHolly wood映画出演依頼を受け、虹助は考え込んだ。
Holly wood …
父ちゃんが飛行機で飛んでも、半日は掛かるやろな … 遠いで … アカン言って断りたいけど … 楓には嬉しい話しかも知れへんな…
困った~解らんわ …
こんな時は …
ツ~、トン、ツ~
ツ~、トン、ツ~
あっ、あっ、只今、虹助テレパシ~発信中
皆さん、聞こえてまっか?
困ってます、助けて下さい …
LuKe Lopezはん言う人が、Holly woodのホラー映画に、楓を出させてくれ言ってます … 嬉しい話しですが… 俺、困ってます…
皆さん、どうしたらええですか?
何て応えたらええもんか…
虹助は然り気無く、額に手を伸ばし …
スリッ … スリスリスリッ…
額を擦り、テレパシ~が上手く届くよう願いながら、軽いデコ熱を放出した。
トン、ツ~、ツ~、
… 虹助君、私ね、LuKeさんを存じ上げておりますよ、彼はHolly woodでは有名な方ですよ、仕掛け物作りが、得意な方ですよ
多少の乱れは有るものの、淡雪は虹助のテレパシ~をキャッチしていた。
トン、ツ~、ツ~
待って、ダメよ … 楓ちゃんにはマナー教育が必要よ!Holly woodだなんて … LUZIAより先に写真集が出ちゃったら、LUZIAが可哀想でしょっ!
女の意地か?自己中なのか?LUZIAの小鼻は猪のような鼻息で、膨らんでいるに違いない …
トン、ツ~、ツ~
虹助さん、楓さんは何と仰ってます?
八重弁護士も慣れたもので、虹助テレパシ~を見事にキャッチした。
Cielは昼寝の最中なのか、返信は無かった
トン、ツ~、ツ~?
何ヤ解ランケド、ウチ、遠クヘ行クンカ?ウチナラ平気ヤデ、コウシテ、皆ト繋ガレルンヤロ?ソレナラ迷ウ事無イ!オ父チャン、ウチ、里子ニ行クデ!ウチナ、生マレル前ニ、七色マーブルノ渦ノ中ニ居タンヤ 、オ母チャンヤナ!多分ヤケド… ソンデ、言ワレタネン… オ父チャンヲ有名ニセナアカンカラ、オ父チャンノ側ニイツマデモ居タラ駄目ヤテ … オ父チャン!ウチ、Holly woodヘ行クッ!ウチガ有名ニナレバ次ノ子ガ、コンテストデ必ズ1番ニナレルッ!ダカラ… 話シ受ケテヤ …
楓は七色マーブルという、不思議な渦との約束と、自分が役割を持ち虹助の元に現れた事を告げた。
かっ… 楓 ーっ!
親孝行な娘の楓を、手放したくないのは虹助の方であった。
かっ、かっ、かっ、楓 …
今生の別れになるかも知れんのや …
父ちゃんは… 父ちゃんは!楓が無事に帰るようにLuKeはんと話す …
虹助はカッ!と目を見開き、ヤバイよね、顔面凶器じゃない?と言われてしまいそうな程、目をナイフのようにギラつかせ…
「るっ、るっ、LuKeさん!そっ、そっ、その映画の撮影がおっおっ終わったら、楓は帰して貰えますか?」
虹助は力み過ぎ、吃りながらLuKeに聞いた
「あ~う~ん… まあ可能ですが~黒焦げになる部分もあります~ 失敗すると原形が無くなる事も … 考えられま~す!」
LuKeに悪気は無いが、あっけらかんとした明るい返答に、虹助の心がモヤモヤと曇った…
「そんな … LuKeはん!どんな内容なんで っか?その映画!全部聴かせて下さい!」
虹助の大きな声に、淡雪も八重弁護士もLUZIAも、一斉に虹助を見つめる、けれど皆は勝子も気になって仕方がない、勝子は来客達に、正しい丑の刻参りの方法を教えていた。
ツー、トン、ツー
虹助君、LuKeさんと2階のリビングで話しては如何でしょう? 映画の内容等は関係の無い人達の前で、話すべきではありません。
トン、ツー、ツー
すんません … そうでんな、俺、LuKeはんと2階上がります…
「LuKeさん、自宅の方で詳しくお話し聞かせて下さい…」
虹助は楓を連れLuKeを案内し、2階のリビングへ向かって行った。
淡雪、LUZIA、八重弁護士の視線が、勝子に向かう…
「それでは皆様に、お話しを致しますね」
勝子は丑の刻ステップについての解説を、来客に求められていた。
「ええっと、私も丑の刻参り、正しくは丑の三つ時参りが、いつ始まったのかは存じ上げません、ですが、古くから日本伝統の呪い、呪詛でありますのでね、ええ、今日は冥土の土産に … ホホホッ、違いますわね、 it's jokeですよ~少々、blackですが~ホホホッ、では先ず衣装ですね、私が着ていますこの衣装は白装束と言いまして、日本ではあの世へ旅立つ際に着ます、白装束は死に装束~ホホホッ、それから~この頭に被っているのは、五徳と言います、昔の日本では炉に五徳を置きまして、その上に鍋や釜を乗せ、煮炊きをしたんですよ~それをヒョイッとひっくり返し、頭に被り五徳の3本の足に蝋燭を立てるんですよ~これを被るなんて発想は 、皆さんお解りだと思いますが~絶対に女性ですわよね~ホホホッ、お~怖いっ!その他にも一本歯の下駄を履く、胸に鏡を吊るす等、諸説ありますね~では次は、持ち物です、item、諸説ある中でも共通する持ち物、それが五寸釘!藁人形も共通ではありませんが、五寸釘だけは欠かせない絶対!鉄壁!見てらっしゃ~い、呪い殺しますわよ~ホホホ~ッ!あら、嫌だ っ!失礼致しました~つい本音が… ホホホッ! 」
勝子は、話しをしたら話しただけ、狂喜が覗き顔が怖くなり、来客も勝子のホホホ ッ !で仰け反っていた …
「それでは、呪詛の掛け方ですね … 本日のmain eventですっ!丑三つ時、午前2時~2時30分頃を指します 、今と昔では時刻の読み方が違いますから~誰もが、寝静まった深夜 … 」
勝子の形相と声のトーンが変わった …
形相はヘロディア・マスクを外していないかも知れないと思う程、怖かった …
声もキャピキャピ調から、ブルースの女王へと変わり、ハスキーボイスが腹に響く…
「誰~れも知らない … 知られちゃいけ~ない~ … 死に装束を着た女が … 狂気の目をして神社へと向かう … カタッ… カタッ…カタカタカタカタッ!下駄を~鳴らして~奴が来る~ … 女は神社の奥の御神木を目指していた … 女の躰にはトグロを巻くように … 黒い影がグ~ルグル、グ~ルグルと絡み付いていた… もし、あなたが女を見掛けたとしたら … 即座に息を潜め… 静に … 静に…決して女に気づかれては、ならないっ!何故なら … あなたは… 確実に殺されるっ!キェエェェーッ!死にたく … 無いわよね…?」
勝子の旦那さんは無事なのか…?旦那さんの安否が気に掛かる …
「女は… 御神木に… 願いを込め藁人形を打ちつける … カ~ン… カ~ン … 女の顔が… 心の中と同じ … 鬼に変わる … カ~ン… 憎い…カ~ン… 憎い … 女は七日…七夜… 憎い相手に呪いを掛ける… 七日目後… 満願 … 参詣が終わり、女が振り返ると … 血のように赤い舌を… ベロ~ンッと伸ばし… 漆黒の牛が女の足下に寝そべっている … 赤紫色の蹄と真 っ赤な目 … 漆黒の牛はじぃ~っと女を見つめる … 決して騒いではいけない … 静に漆黒の牛を跨ぐ … 騒ぐと … 漆黒の牛がガブリッ!… あなたの命を… 奪います… そ~ っと … そ~っと跨いで … 呪い… 成就です… ホホホーッ!」
勝子の迫真に迫る解説に、胸を抑え心臓ド ッキンを止めようとする、来客もチラホラと見えたが救急車を呼ぶ迄では無く、無事解説を終えた勝子は、新な自分を見つけたようで、ギラギラと危なかった。




