戯曲 Salome … Indigo ver…
時は西暦30年 、イェルサレムのヘロデ王の宮殿では、宴が始まろうとしていた …
Salome役のLUZIAが、淡雪の描いた宮殿場内の背景の前、床から80㎝程の高さの長方形の舞台に、ラメ入り緑のロングドレスに白のケ ープで顔を隠し登場した。
ヘロデ王役の八重弁護士は、王様風の衣装を着てイヤらし~い顔をして、LUZIAを舐め回すように見ている、八重弁護士の隣に立つ勝子は深い青のロングドレスを着てヘロディア・マスクは、半眼の仏像のような 、なんともふてぶてしい顔をしていた。
LUZIAはヘロデ王の視線から、逃れるように歩き…
「はぁ … ウンザリするわ … お義父様のあの視線… あの顔っ!キモイわよ … キモ過ぎるわ … うわっキモッ!暗闇で出会ったなら 、私はきっと … そう言えるわ … 16才のbirthdayを迎えてから … ずっとよ … 」
LUZIAの移動に合わせ、古谷息子が背景を宮殿からテラスに変えた。
「あれは … 何かしら ? 声 … ?」
Salomeは地面から微かに響く薄気味悪い声に、テラスの下を見つめ耳をすました …
「悔い改めよ~!ヘロデ王~!」
「あれは… 人の声… ナラボード!ナラボード!あれは誰の声ですか?」
Salomeは衛兵隊長・ナラボード役の淡雪作、ピエロの仮面人形に話し掛けた。
誰の声も聴こえない …
「あれは、預言者、聖ヨハナ~ン様の声でありますっ!」
咄嗟に虹助が応えた …
「まぁ素敵っ♪ 神の御子の洗礼を受けたヨハナ~ン様♪ ナラボード、今直ぐにヨハナ~ン様に会わせて!」
Salomeはナラボードに命じた…
「それは出来ません、お許し下さいSalome様 … ヘロデ王様から、決して出してはならないと言われておりますっ!」
虹助はキッパリと断ったが …
「ナラボード … Salomeのお願いを聞いてはくれないの? 」
Salomeはウルウルした瞳で、ピエロ仮面人形を見つめる … ピエロ仮面人形とSalomeは暫し見つめ合い …
古谷息子が、舞台の上を歩いているようにピエロ仮面人形を移動させ、舞台の前に淡雪が、ピエロ仮面人形を立っているように足を持ち現れた …
「あっ、始めまして… 聖ヨハナ~ン、私は… 」
「知っています、貴方はSalome王女 … 忌々しきヘロディアの娘っ!」
聖ヨハナ~ンは、頬を赤らめ恥じらいながら話すSalomeに、冷たく言い放った。
「忌々しい … ヘロディアの娘… ?」
Salomeの顔から血の気が引き、青白く変わる … 聖ヨハナーンはSalomeに構わず…
「聞けー!ヘロデ王ー!忌々しいヘロディアに惑わされ、不倫の果てに実の兄ピリ ッポス王を亡き者にした悪行三昧!恥を知りなさ ーい!ヘロデ王ー!罪を悔い改めよ ー !不届き千万!」
聖ヨハナ~ンは、ヘロデ王の耳に届けと大声で叫ぶ…
ヘロディアは、仏頂面のマスクのまま…
「ああ … あの男をどうにかして下さいヘロデ王 … ま~嫌だ… 本当の事ばかり…もう嫌 ~!」
両頬に手をあて恥じらい、ヘロデ王に泣きつき、ヘロデ王とヘロディアはバルコニーへと向かう …
Salomeは瞳を爛々と輝かせ、ヨハナ~ンを見つめ …
「聖ヨハナ~ン … ヘロデ王の前であっても貴方様は真実を話すのですね … ヨハナ~ン様 … 素敵♪ Salomeに祝福のキスを …」
Salomeは頬を染め、胸の前で手をくみ祈りの姿で、ヨハナ~ンの接吻を待った …
「呪われよ … 」
ヨハナ~ンはSalomeに告げた …
Salomeはパッと瞼を開いた、ジワジワと瞳に涙が集まり、Salomeはワナワナと躰を震わせた …
「ナラボード!その男を直ぐ古井戸へ戻すのだー!私の許可なく勝手な真似を!」
ヘロデ王は、ピエロ仮面人形ナラボードに命じた …
「はっ、ははぁ~っ!」
「悔い改めよー!ヘロデ王ー!忌々しき一族めー!」
虹助はナラボードの声役を、絶妙なタイミングでこなし、淡雪がナラボードと一緒に舞台の裏へと姿を消した。
聖ヨハナ~ンの言葉に、強いショックを受けたSalomeは、放心状態で立ち尽くしている…
ポンッ …
Salomeの肩に、ヘロデ王が手を乗せた…
ビクッ …
Salomeは慌てて、ヘロデ王の手から躰を避けた …
「ムフッ、サロメ、何も気にする事はないのだよ、ムフッムフッ、あの男は古井戸の中で直、死ぬだろう… 放っておくに限る… 神の御子の洗礼を受けた者だから… 手荒な真似をしないだけだ … だから、何も気にする事はないのだ、サ・ロ・メッ… ムフムフ ッムフッ」
仏頂面マスクのヘロディアが、懐中電灯を顔の下から照らし、ヘロデ王をじぃ~っと見ている …
「うわぁ~っ!おっ、驚かせるなヘロディア… 懐中電灯を消して… うっうんっ、サロメ … あの男のせいで、折角の宴が台無しだな… そうだサロメ、踊って見せてくれ、何でも望む物を与えよう!どうだ?ムフムフムフッ… 」
いやらしく笑うヘロデ王は、舐め回すようにSalomeのボディラインを眺める …
カチッ …
ぬぅ~
ヘロディアは懐中電灯のスイッチを押し、ヘロデ王の視界に入り、仏頂面マスクで恨めしそうにヘロデ王を見つめる …
「うぎゃーっ!ヘロディアッ!一々驚くから止めなさいっ!貸しなさいっ!」
ヘロデ王はヘロディアの持つ、懐中電灯を取り上げた。古谷父の手により店内の明かりが消され、Salomeにスポットライトがあたる …
「何でも望む物を … ヘロデ王はそう言ったわ … 私が声を掛け… キスを求めたのに… あの男は私を拒み、呪われよ … そう言ったわ … 生まれて初めてよ… こんな … こんなこんなこんなっ!不愉快な思いをしたのは … 」
「解りました… ヘロデ王 … 7つのベールを踊ります」
スポットライトが消え、店内は暗くなる…
店内に、オドロオドロしい不気味な音楽が流れ、明かりが戻ると …
妖艶な衣装を纏い、ベールで顔を覆ったサロメが、腰をクネックネッと捻り何とかセクシ ーにキメ、ベールは桃太郎侍登場のように両手で軽く持ち上げた …
♪… ♪… ♪♪♪… ♪… ♪ … ♪♪♪ … ♪…
「ムフッムフムフムッヒィ~ッ!Sal~ome~!」
ヘロデ王は手を叩き、大ハシャギをしている 、その横でヘロディアは、2本の蝋燭をこめかみの上に立て、五寸釘と金槌を持ち追いかけるように、左右交互に足を大きく上げ呪い殺す勢いで、丑の刻ステ ップを踏んでいる、ヘロデ王はSalomeに釘付け … ヘロディアの、丑の刻ステップには気付いていなかった。
♪♪~♪♪♪~♪♪~♪♪~♪♪♪~
オドロオドロしさから、激しく軽やかなステップへと曲調が変わり …
Salomeは、フェロ悶々(モンモン)と言うくらい悩ましく、華麗に踊った。
「Salome~ッ!」
「ブラボ~ッ!」
来客からの歓喜の声が、店内に響き7つのベールの踊りは、大盛況に終わった。
「素晴らしいっ!ブラボ~Sal~o~me~ッ! 」
ヘロデ王は手を叩き、満面の笑みを浮かべ 、ふと視線を動かした。
「ムフムフムフッ… ?ムフッ?うぎぁぁ~ っ!おっ、おっ、おっ恐っろしいっ… 痛っ !うわぁっ! 」
ヘロデ王はヘロディアを2度見し、ピョンピョンと横に飛び、テーブルに尻をぶつけ反動で前に飛び出した。危うく転びかけたヘロデ王だが、何とか体勢を立て直し…
「サッ、Salome… 素晴らしい踊りだったぞムフッムヒッ!褒美は何が良い?望む物を与えよう!ムフッムヒッ!」
バチンッ…
店内の明かりが消され、Salomeがスポットライトを浴びた…
「ヘロデ王… ご褒美には… 聖ヨハナ~ンの首を望みます!」
バ ァ ~ ン~ ッ♪
古谷息子がピアノの鍵盤を、10本の指で同時に鳴らす効果音を入れ、スポットライトを消した。
明かりの消えた店内に…
「サッ、Salome … 何と恐ろしい事をいうのだ… 洗礼者の首を… ブルブルブルッブル ッ! それはならん!他の物なら何でも与えよう!」
「ヘロデ王!他の物は望みません… 望みの物を与えると仰いましたわ!私はヨハナ~ンの首を望みます!」
「… ナラボード… 褒美を持て … 聖ヨハナ~ンの首を… Salomeの前に…」
ヘロデ王とSalomeの声が響いた …
店内に明かりが戻り、淡雪作の真ん中で離れ首が乗っているように見せられる、銀色の皿を首の下に付け、黒く足下までスッポリ隠すロングマントを羽織り、ナラボードを顔の右側に横向きで持ち、些か無理は承知で、聖ヨハナ~ンの首を運んで来たように見せた。
「Salome … お前の望んだ褒美だ … 受け取るがいい!」
ヘロデ王は声を震わせ叫んだ …
「きゃはっ♪ 聖ヨハナ~ンの生首 … 貴方が悪いのよ … 私が望む物を与えないから …」
Salomeは、ヨハナ~ンの唇に唇を寄せ…
チュッ♪
Salomeの接吻と同時に、店内の明かりが消え …
懐中電灯を下から照らし、聖ヨハナ~ンの顔が浮かび上がる …
カ ーッ!
聖ヨハナ~ンは、眼を見開いた
両眼から血のような、赤い涙が流れ …
… … … 呪 … ワ … レ … ヨ … … …
店内に聖ヨハナ~ンの声が響いた …
聖ヨハナ~ンの首はそのまま、スポットライトがヘロデ王を照らした …
「ナラボード… 」
ヘロデ王は躰も声も震わせ、ナラボードを呼びつけ…
「Sa…lo…me …を… 殺せ … 呪われた娘を …殺せ …」
ナラボードに耳打ちをした。
店内の明かりが消え …
「ギィヤァァーッ!」
Salomeの悲鳴が、店内に響き渡った …
店内は静寂が拡がり、その後、波が押し寄せるように拍手の渦に包まれた。




