Iarc-en-ciel
虹助作の創作人形「楓」は完成した。次は 虹助の家1階の店舗、人形店Iarc-en-cielをオープンするため、戯曲Salomeの人形劇をと言いたい所だが … どうやら様子が変わ っていた。
「Salo~me!踊りなさい … 踊って私の目を楽しませよ!… ムフッ… ムフッムフッ 」
マントを引き摺り、口髭を伸ばし過ぎているヘロデ王役の八重弁護士は、人形は使わず自身が演技をするらしい…
「お義父様 … 嫌です!私は踊りたくないのです…」
主演女優Salome役のLUZIAが、八重弁護士と向き合い伏し目がちに応えた。
「踊らない ?それならば … よし!Salome、お前の望む物を何でも与えよう!約束するぞ… どうする~Salome~?ムフムフ ッ… Sa・lo・me?ムフッムフッワッハッハ~ッ!」
LUZIAは目を伏せたまま…
何でも与える …? お義父様は、今、何でもと言ったわ … それなら… 私は …
暗幕の後ろに回り…
何とも妖艶な、サンバかサルサかそれとも… エジプシャン?衣装を身に纏ったLUZIAが、軽快なリズムに乗り暗幕の横から踊りながら現れた。
Salome役のLUZIAは人形、ヘロデ王役の八重弁護士とヨハナーン役の淡雪は人間のまま、淡雪の知り合いで、仕立て屋Lace memories婦人の勝子が、淡雪製作のマスクを付けSalomeの母ヘロディア役を、当日ぶつけ本番で引き受けてくれ、マスクは勝子の元に既に届いている 、Iarc-en-cielのオープンを3日後に控え、役者達は猛練習を重ねていた。
虹助は劇への出演は無いので、店の開店案内チラシを新聞配達少年のように、近所のポストに配ったり、駅前で配る等、骨董品屋、古狸の親子と一緒に宣伝に回っていた。
楓は、来月パリで開催される、創作人形コンテストへ出場する為、LUZIAに習いオーラを習得すべく、目の前に鏡を置き凄みの練習を重ねていた。
「通り掛かったCielが振り返って、ブルブル震えたら完璧よ♪」
LUZIAからのアドバイスを間に受け、励むのだがCielはスルー、たまに機嫌が悪いと
「シィヤァァ-ッ!」
逆に楓を脅し、余裕で楽しんでいた。
アッ、アノ猫 … ホンマ性格悪イワ~劇終ワ ッタラLUZIA姉チャンニ、説教シテモラワナ… オイッ!Ciel!オ前性格悪イデッ!
cielは振り返り…
「ブルブルブル~ッ!ニャンッ」
左右の頬をブルブルブルと揺らし、恐がっている振りをして、可愛く一声鳴くと後は素知らぬ顔をして、楓の前から去って行った。知らず知らずのうちに楓は、Cielからメゲナイ心の強さと、マイペースである事の大切さを学んでいた。
~ 時は過ぎ3日後 ~
朝からバタバタと騒がしい、Iarc-en-cielの前には、淡雪 涼一のヨハナーンを一目見ようと開店時間前から、長蛇の列が出来ていた。
「ええ … 此はどうした事でしょうか … まさか、こんな大事になるとは …」
淡雪は、近隣の方への宣伝しか行ってはいない筈だと思っていたが、芸術界の大御所達が列の先頭を陣取っていた。
「あの~淡雪さ~ん、此は~一体 … 」
流石の八重弁護士も緊張し、テンパり声が上擦り…
「お爺さん … LUZIA … 本気で写真集出せるかも知れないわね … チャンスよ! 」
LUZIAは野心をたっぷり含み、眼をギラつかせた…
Cielは虹助の家のリビングでお留守番…
楓はレジの横に立っていた …
ハァ… ウチモ、姉チャンミタイニ、自由ニ動キタイワ… ウチハ、自分デ自分ノ躰動カセヘン … ハァ … ドナイシタラ動ケルンヤロ… ハァ…
楓は羨ましそうに、LUZIAを見つめていた
ゴックン、ゴクゴクッ …
虹助はいつものように、生唾を飲み込み
「凄い人やな… 何か海外からの金持ちみたいな人もおる … 近所と駅前でしかチラシ配っとらんのにな … 家の周りは海外の人多いんかな… ? こんな仰山見掛けた事ないけどな … 」
首を傾げていた …
住宅側玄関から、チャイムの音が聴こえた虹助は、玄関に向かい鍵を開けた。
「槐さん、どうも遅くなりまして …」
古狸の古谷親子が、仕立て屋の勝子を車に乗せ連れて来た。勝子は恥ずかしがりなのか、ヘロディアのマスクを被ったまま、虹助に挨拶をした。
「うわぁっ…へっ?… いえ… すんません、驚いてまって … 今日はご協力頂きまして、本当に有難う御座います… 」
「あっ、いえ~ いつも淡雪さんに、お世話になっていますから、今日はヘロディアに成りきり、頑張ります!」
勝子が右腕を曲げると、モリッと二の腕のコブが膨らんだ。
かっ、勝子はん …プロレスLOVEでっか…
思わず声に出してしまいそうな言葉を、虹助はグッと飲み込んだ。
「どうですか虹助さん?息子がねYO!tubeにアップすると言いましてね、凄いですよね~YO!tube … 1週間前に淡雪さんから 、開店の連絡を頂いたんで、息子が直ぐにアップしたんですよ~ まさか、こんなに反響があるとは … 驚きました~ 」
息子息子と古谷は、自慢気に話した。
「えぇっ?YO!tube?そんでこないに人が集まったんでんな … どうりで … 入れんお客様に何とか納得して貰わんと …」
古谷父はニヤリと笑い…
「任せて下さい… ちょっと~淡雪さんと話して来ます~」
虹助の後ろを通り、店の奥で出待ちをしている淡雪に近づくと、チョチョチョッと話し、ニコニコしながら、虹助の元に戻った。
「槐さん、淡雪さんに了解頂きましたので、本日の劇は18時~ もう1度行いますので、息子と2人で、店の前に並ぶお客様に説明して来ますね、それと … 撮影許可も頂きましたから~ 家の店と槐さんの店限定で… まぁ、そう言う話しで … 詰めた話しは後程 … では、外へ行って来ますね~」
古谷は満面の笑みで、住宅側の玄関を出て行った。
直ぐに古谷が戻り…
「大変だぁ~」
言いながら淡雪の元へ向かい、また直ぐに外へと走って出て行った。
ざわざわと店の前に並ぶ、人々の声が聴こえたが5分もすると静まり、住宅側のドアが開き、ヒョコッと古谷が顔を覗かせ …
「いつでも開店して下さい!」
虹助に声を掛けた。
ゴックン …
虹助は生唾を飲み込み…
「淡雪さん、ドア開けていいですか~?」
「はい、虹助君、お願いします」
淡雪の返事に虹助は、緊張した面持ちで店のドアを開けた。
古谷親子が店の前に立ち…
「いらっしゃいませ~」
丁寧にお客様に挨拶をし、誘導してくれた
有難いわ …
古谷はん …
虹助は古谷父の野心も知らず、親子に感謝した。
よし!俺も頑張るで~楓も見とるっ!
虹助も、古谷親子に負けないくらい大きな声で …
「いらっしゃいませ~っ!Iarc-en-cielへようこそ~っ!」
お客様を心から歓迎し、満面の笑みを向け、不思議と虹助の、生唾ゴックンが止ま った。
お客様も笑顔を浮かべ、店に並ぶ人形達を見ている、一陣のお客様は、海外からの方 が非常に多く、古谷親子はここぞとばかりに、英、仏語を使い、お客様の質問に応えていた。
助テヤ~ッ!オ父チャ~ンッ!
楓の声に虹助がレジを見ると、インテリメガネの茶髪紳士が、楓をじっと見つめていた …
「いらっしゃいませ~」
虹助はゆっくりと楓に近寄った。
「あっ、済みませ~ん、聞いていいですか~?」
多分、外国語で話し掛けてくるのだろうと、覚悟をした虹助だったが、意外や意外 、茶髪紳士は日本語で話し掛けて来た。
「はい、何でしょうか … 」
俺かて頑張れば、標準語喋れるで~!
少し気取って応えたが、心の中はこんな感じだった。
「あの~Mr淡雪の~人形とは~違いますね~?」
「はい、私の作品です … 」
どや、楓、父ちゃんキマっとるやろ?
一言、二言応えたくらいで、調子づく虹助は 困った男である。
「貴方が~Mr槐?」
「はい、槐 虹助と申します …」
楓~っ!父ちゃん紳士やろ?なっ、なっ?
虹助の心の声は、楓に聴こえている…
オ父チャン …
それ以上、楓は何も言えなかった …
言 ってしまうと、虹助を傷つけてしまうと思った。楓は、虹助のどやっ?の押し売りにより、言葉に出来ない、言葉がある事を知った。La~La~La~LaLa~Laと聴こえてきそうだ。
茶髪紳士は頷き…
「帰りに~お話いいですか~?」
「はい … 」
ええで… 違う… あ~えぇ~何て言ったらいいねん…
虹助が考えている間に、茶髪紳士は移動してしまった。
「お集まりの皆様、大変長らくお待たせ致しました。此より戯曲Salomeを開催致しま~すっ!」
古谷父がMCとなり、息子は英語と仏語で父の言葉を通訳したが、劇は日本語なのだが
「は~い!」
海外からの来客は皆、日本語で応えてくれ、どうやら大丈夫のようだ。




