危険なチョコバナナ
アッ、オ父チャン、休憩無シヤ、セナアカン事、未々アルワ、アハハハハ~!
「そや… 困った時は笑う… それも、世の中を生き抜く為の手段やで… 楓は女の子なんやから笑顔は大事や … そりゃ… 人生の荒波にのまれ、豪雨に曝される事も… 」
虹助は軽く眼を閉じ、楓の顔に聞かせていたが …
オ父チャン! 口ハエエカラ、手動カシヤ~ウチガ嫁ニイク前ニ、聴イタルワ!ソヤカラ今ハ、手ヲ動カシ~!
「… 楓は確り者やな~ 」
口煩いオカンのような楓だが、確り者だと、虹助は少し安心した。
関節作ルンヤ~!ピンポン玉ミタイナ、スチロール球ヤデ、真ン中ノ線ヲ先ガ尖ッタ物デナゾッテ、クッキリサセテヤ~
「よし … ぐるっと、くりっとなっと!出来たで!」
ホナ、ソノプラスチックノ保存ケースミタイナ入レ物ニ、油粘土ヲ平ニナルヨウニ置イテ、スチロール球ノ線マイナス3㎜迄、油粘土ノ中ニ埋メテヤ~
「楓、3㎜やなきゃアカンのか?」
虹助は㎜の単位を、正確に埋める事が不安になり、楓に聞いてみた。
ソヤナ、アカン!ウチ、オ父チャンニ、立派ナ人形師ニ成ッテ欲シイネン… 最初カラ 、ソウイウ物ヤテ思ウテ欲シイ… 自分ニ 、甘甘ナ… ソンナンミットモナイ!3㎜言ウタラ3㎜ヤ!出来ンカッタラ … オ父チャンノ元ニ生マレトウナイ … 3㎜出来ル優秀ナ人形師ノ元ニ、生マレタイワ … ウチヲ 、踏ンズケテ壊シテェナ… オ父チャン…
ガァ~~ンッ!
楓の言葉に虹助の頭の中が、暗闇に墜ちるようにグルグルと回った。
そうやって、親父の靴下汚ないとか、パンツ一緒に洗うなとか言われるんやろな… 出来ない=イケテない親父= 駄目親父 …
「楓ー!お父ちゃんは!駄目親父やけど… 3㎜極めたるっ!」
虹助は定規の0~3㎜の長さを食い入るように見つめた。
爛々と虹助の眼が、危なく変わる…
「3… 0から3!0から3!0から3っ!ん~ゃっとっ!0から3!0から3!0からっ!3んうぅ ~んっ!」
虹助は呪いの言葉を呟くように、ブツブツと0から3と繰り返した。
「解ったー!楓で-! 爪や!爪の先からここまでが3㎜や~~っ!」
虹助は感動し、そして、3㎜の長さを自分の躰の何処かに、照らし合わせて覚える事が出来る事を覚り、キッチリ3㎜マイナスし油粘土の中に、スチロール球を埋める事を成功させる事が出来た。
オ父チャン … 楓、信ジテタデ …
オ父チャンハ、必ズヤリ遂ゲルテ …
じぃ~~ぃ~ん …
なっ、泣いたらアカン!
俺は、父ちゃんや …
「かっ、楓~っ!おぉぁ~おぅっおぅっお ぅっ…」
決意虚しく、泣いてしまう虹助だった。
オ父チャンッ! オタリアカ~海獣カッ!オ ゥッ、オゥッ、オゥッ!オゥッ!アハハハハ~ ッ!
楓は虹助の泣き声を真似、笑い転げた。
例え馬鹿にされているとしても、父ちゃんを見て、楓が笑顔であればそれでいい … 虹助は心の底からそう思い、楓の気が済むまで笑わせていた。
オ父チャン!次ハ、油粘土ノ中ノスチロール球入れたまま、カリ石鹸塗ッテ乾カス デ!
「よし、解ったで … 塗るで」
関節作りはカリ石鹸が、確り乾くまで放置し、次は手と足の指を創ると、楓が虹助に教えた。
オ父チャン、ワイヤー0.9ヤ、ソレガ、ウチノサイズヤ!
「これやな … ワイヤー0.9… 」
何故か重々しい雰囲気で、虹助はワイヤーを手に取った。
手ノ製図ノ上ニ、指ノ長サヨリ少シ短ク合ワセテワイヤー5本置イテ、テープデ止メテ纏メテ切ル、ワイヤーノ関節に油性ペンで印ヲツケルンヤ、オ父チャン、 指ニハ関節ナンボアル?
虹助は、じっと自分の両手の指を見つめ
「おっ、俺のは… 3 … 」
この手で俺が殺しました… そう告げる犯人のように、顔を強張らせ、ブルブルと手を震わせ楓に応えた。
オ父チャン… 何ヤラカシタンヤ?
… 空気重イデ… マァ… エエワ …
手ヲヨウ観テッテ… オ父チャン… オ父チ ャンッ!近過ギルデ~ 川デ水飲ンドルンカ? ソレトモ、掌臭ウンカ?チャウデー!ウチノ手ヲイメージシテ欲シイネン…
「よっ、よしっ!すまんな楓… 父ちゃん初めての事だらけやから… 集中するとこ間違えるんやな … でも、メゲへんでっ!」
粘土で手の指を作る作業は、根気のいる作業だった。1本1本、指の形を創る … 常に頭の中に手首から指先迄の形を意識していなければならず、気を抜くと太さが同じ指を創ってしまう、失敗の連続で虹助は嫌気が差していた。
オ父チャン… カリ石鹸乾イタデ、石膏ヲ混ゼテ、カリ石鹸塗ッテ乾カシタ、プラケースニ流シテヤ~!ソレハ明日迄、放置ヤデ
虹助は黙って頷き、石膏を混ぜプラケースに流し入れた。
再び指の創作に没頭する虹助 …
「虹助~ご飯よ~♪」
LUZIAが昼ご飯が出来たと、虹助の隠るアトリエのドアの前から、声を掛けたが返事が無い、LUZIAはそっとドアを開け、アトリエの中を覗いた。
「き! 」
LUZIAは驚き、声を上げそうになったが、何とか我慢をした。
虹助は作業台の前の椅子に座り、LUZIAの立つドアに背中を向けているが、虹助の前にも左右にも発泡スチロールの上に、祭りの出店に並ぶチョコレートバナナを小さくしたような謎の物体が 、針金を差し立たせてあった。
にっ、虹助 …
何を … 創っているの … ?
LUZIAは不安になり、スタスタと速歩きでリビングへ戻り…
「おっ、お爺さん… にっ、虹助が変なの創 ってるわ… 危険な物よ …」
LUZIAの顔は真っ青に変わり、声を震わせ淡雪に話した。
「危険とは … ? まさか … 」
淡雪は芸術家としての眼で、危険 = 陰部が頭に浮かび 、同じくLUZIAの話が聞こえていた八重弁護士は …
「危険? … そんな …」
危険 = 粘土爆弾が頭に浮かんだ。
「それは芸術として、問題も多く波紋を呼びます… 私の眼で確めなければ …」
淡雪は直ぐに車椅子をアトリエに向けた
「あ、私もご一緒します!」
八重弁護士は、犯罪を犯してしまう前に何としても止めなければ!正義感から虹助の居るアトリエへ向かった。
LUZIAはソファーに座るcielに …
「シッ… Ciel … LUZIA … もう1度、アトリエに行く勇気が無いの … 一緒に来て…」
Cielはブルブルと顔を振り、嫌だと主張していたが、LUZIAは…
「ありがとう …」
嫌がるcielを無理矢理抱き上げ、淡雪と八重弁護士の後を追った。
そっと、アトリエの中を覗く…
虹助は黙々と手先を動かしては、自分の右手を斜め前に出して眺め、又、下を向き黙 々と手を動かし、今度は左手を観て、又俯き黙々と手を動かしていた。
虹助の周りのチョコバナナは、LUZIAが見た時よりも更に増え、若干、角度が変わっていた。
淡雪は、笑い出しそうになるのを堪え、八重弁護士は、虹助が手元で何を作っているかを気にし、聖歌合唱隊のように左右に伸び上がり覗き、LUZIAは居心地が悪く躰を震るわすCielと、一緒に震えた。
「虹助君!」
虹助は背後からの淡雪の声に、ビクッと数㎝椅子から飛び上がり…
「心臓ドッキィ~!なりますやん、何でっか?」
虹助は不機嫌そうに、振り返った。
「お昼ご飯です… 一緒に食べましょう…」
虹助は困った顔をして …
「 あ、すんません… 楓 … 父ちゃん、腹減 ったから飯食ってくるからな、何か欲しいもんあるか?帰りに持ってくるで? 」
ドッ~キィ~ッ!
淡雪も八重弁護士もLUZIAも、目を皿のように丸くして虹助を見て驚いた。虹助は人形の首を右手で掴み、顔の高さまで上げ極 々自然に、人形に話し掛けてた …
「ほな、行って来るで… すんません、皆さん… お待たせしました」
淡雪は咄嗟に判断し…
「ふぁっふぁっふぁっ、行きましょう…」
涙目で笑い、八重弁護士とLUZIAも、淡雪に合わせ、顔を引き吊らせ笑った。




