私ノ想ウ姿ニ …
朝が来て、何や解らなんけど…
偉く気分が良くて …
皆、リビングで倒れるように寝とった、要は、雑魚寝やな …
けど、ええ寝顔してたで … ホンマ …
俺は、爺さん家の周り散歩でもしてみよか思って家を出た。
何時もと違う気がした、何やろな …
空気が澄んどる? 否、何か違う気する
家の裏へ行ってみよ思うて歩いた …
「虹助 … 」
小さい声やったけど、はっきり聴こえたんや、俺の名前を誰かが呼んだ。
「はい? 」
後ろやない、足の向く先から呼ばれたから 、俺は探検途中の子供みたいに、小走りで家の裏へ向かったんや …
「巣や … 鳥か …?」
爺さんの家の裏に立ってる、楓の樹から鳥の巣が落ちて来たんや …
不味いで雛いるんやないか?卵割れたら可哀想やな思うて、地面に落ちないように
「オーライ オーライ 」
言うて上手い事、受け取ったんや …
雛、おらんかも … 卵1つ乗っとらんかも… 受け取った巣が、随分軽いもんやから…
「 ちっ、空き巣か … 」
残念やな思うたんや、Cielがいるけど上手い事、温めて、卵かえしたろ思うてな… けど … 巣の中見て …
「うぎゃ~っ!うわっ!うわっ!うわぁ~ っ!ぎぃっぎゃ~~っ!」
巣持ったまま、慌てて家ん中戻った。
「起きてー!寝てる場合とちゃうっ!みっみっみっ見てー!うわぁ~!ぎゃ~!」
騒いだら、皆、飛び起きたわ …
「虹助君、何を騒いでいるのです?」
淡雪は車椅子を、虹助に近づけた。
「ふぁ~もう~何~虹助… きゃっ!虹助、冗談な顔は止めてよ~ 面白い顔して~♪鼻水、鼻水~♪」
LUZIAは血走った目と、鼻水が光る虹助の鼻を見て、ポシェットからティッシュを出し近寄った。
「あー良く寝た … 皆さん、おはよう御座います… あれ、どうしたんですか?」
八重弁護士も起きて来た。
「ミィ~ャ~ブルブルッ!」
虹助のブルブルが、Cielに移ったのか、少し心配だが、スタスタターン 、Cielは淡雪の膝の上に飛び乗り、伏せた。
虹助が手にする、巣の中を覗き見て …
「うおおっ!… 驚きました… 」
「きゃ~っ!何持って来たの~!」
「うっ … こっ、これは… 」
「フミャ~ブルッ!」
忽ちリビングは、驚きの声で溢れた。
「でっしゃろ? でっしゃろ? なっ、なっ、 これ何や思います?」
「目玉ですよ、これは」
「目でしょ!」
「綺麗な瞳です…」
「ニャ … 」
巣の中には、同じ色の眼球が2個ずつ、全部で14個入っていた。淡雪は決心したように…
「詳しく観て調べてみましょうか … 」
紫色の瞳の眼球を1つ手に取り、マジマジと見つめた …
「ほっほう~ これは美しい… 硝子の瞳ですよ… 虹助さん、買って来たのなら場所を教えて下さい… これは美しい…」
淡雪は、眼球の美しさに魅了され…
「本当ね、始めはキモくて驚いたけど… キラキラして綺麗~♪」
LUZIAは、桃色の瞳の眼球を手の上に乗せ、転がした。
「私は、この色を…」
八重弁護士は、深い青色の瞳を手にして、指先で押したが、ぷにぷにしないので、少し、残念そうな顔をし…
「ミャンッ」
習性とは恐ろしいもので、Cielはコロコロと、黄色の瞳の眼球を、カーペットの上に転がし遊んだ。
虹助は赤い瞳の眼球を手に取ると …
「イメージにピッタリや!俺のキモ可愛」
陽の光に眼球を透かした …
「うおっ、皆、太陽に透かしてみて、早よ っ!」
虹助の言葉に、眼球を陽の光に透かすと…
「助けてくれて、ありがとう!プレゼントをあげるよ!虹助の人形に役立てて!」
カラフルになった灰色の人形達が、ニッカリ笑い、直ぐに消えた …
「よっしゃー!俺、やったるでー!」
虹助の創作意欲が、噴火寸前まで燃えた。
「虹助君、私のアトリエを使って下さい!奥の突き当たりです!」
淡雪の言葉に頷くと、巣を持ち八重弁護士の車の中へ、人形パーツを入れた箱を取りに走った。直ぐに家へ戻ると …
「八重はん、サンキューです!」
ドアが壊され、丸見えのリビングに立つ、八重弁護士目掛け車の鍵を放った。
「キャッチです!虹助さん、ファイト!」
八重弁護士は真剣過ぎて、危ない顔に変わりつつある虹助に、声を掛けた。
「虹助~!頑張って~♪」
「ミィャ~ンゴッ!」
LUZIAとCielの激励も受け、虹助は奥のアトリエを見つめたまま、マラソン選手のように左手を軽く上げ、アトリエへと入った。
虹助は作業台の上に、人形パーツを入れた箱と材料と、道具をいれた箱と巣を置き、真剣な顔をして、丁寧に人形パーツを作業台の上へ全て移した。
「よし… 眼やな … 眼で人形の印象が変わる!眼は人形の命や、人形~の九ちゃん~何かこんなCMあったで… まぁ、いい、今 、ふざけとる場合とちゃう!勝負やな… 」
虹助は人形の頭を、そっと手にした …
「えっと… 人形感、人形感っと …」
虹助は淡雪の書いた人形感を、確かに箱に入れた筈だと探し始めた。
本ナンテ … イラナイ …
「へっ? 俺、何も言ってないで…」
私ガ言ッタノ …
貴方ガ私ノオ父サン?
「うは~っ!にっにっ人形が… 」
椅子から落ちる程、仰け反り驚く虹助、それもその筈、今、聴こえたような気がする声は、創りかけの人形の顔から聴こえたのだから…
「お前、喋れんの… ?」
虹助は眼を見開き、創りかけの人形の顔に聞いた。
喋ッテナイワ …
オ父サンガ感ジテイルノ、私ノ声ヲ…
「お父さん … 始めまして父の槐 虹助です… 独身ですが、子持ちです… 逆マリア?」
ふざけた男だが、これでも虹助は真剣だ。
私ハ私ノ想ウ姿ニナリタイノ …
オ願イ… オ父サン …
虹助は娘の告白に緊張し、ゴックンと生唾を飲んだ。
「解った、これは現実や!お父ちゃん、お前を立派な姿にしたる!故郷に錦を飾るで ぇ~ っ!」
虹助の故郷は梅木街から、然程離れてはいないのだが、虹助に気合いが入るのは良い事なので、続きを …
横顔ヲ見テ、私ノ首ノ真ン中ニ縦線を引イテ …
「はい … 」
次ハ耳ヨ、眉カラ鼻クライ迄ノ長サナノ
「… はい」
虹助は、人形の顔から感じる声に導かれ、着々と創作を進めていた。
額の上、髪の生え際から耳の上を通り、後頭部、丁度、耳の中間辺り迄斜線を引いた。
オ父サン、刃ノ薄イクラフトノコデ、今、引イタ線ノ通リニ、私ノ頭ヲ切ッテ …
「頭切る?… 出来ん… そんな、惨い事… 父ちゃんには出来ん~っ!娘の頭ノコで切る事出来るか~っ!」
虹助は困った父だった …
オ父サン、私、私ノ望ム私ニナリタイノ…コノママノ姿デイル方ガ辛イノ …
何とも健気な娘である、トンビが鷹を生む瞬間のような親子愛 …
「解ったー!俺は父ちゃんや~っ!娘の望む未来を創るんや~っ!」
虹助は手先の変わりに、顔をブルブルと振り、薄刃クラフトノコを使い、娘の頭を切り落とした。
次は頭の底、首の穴から頭の中の発泡スチロールを、切り落とした頭の上から押し出し、頭の中の厚みが均等になるよう、娘の導きの元、創作を続けた。
オ父サン… 私ノ顔ヲ視テ…
虹助は娘の顔と向き合い…
「べっぴんはんやで~」
娘の晴れ着姿を見る、父のような気分で話した。
眼ノ中ノ粘土ヲ削ルノ…
彫刻刀ヤ三角刀 … 小平刀モ使ッテネ…
「うっ、うううっ… 今度は眼、抉るんか… お父ちゃん、辛くてな… うっうううっ… でも… 娘の願いや … 父ちゃんやるで… 」
虹助は涙を拭い、彫刻刀を眼の上に滑らせ粘土を削った。
「泣けるで~っ!うっうっ…」
虹助は叫びながら、今度は彫刻刀の丸平刀を使い内側から、眼球が入るように削り、穴を開けた。
瞼の厚さを視ながら削る、力を入れ過ぎると瞼が割れると伝える、娘からのワンポイント・アドバイスを念頭に置き、慎重に手を動かし、眼に空洞を造った。
オ父チャン、次ハ、頭ノ中カラ棒ミタイニ伸バシタ粘土、眼ニ合ワセテ丸ク、丸~ククッツケルンヤデ~!ガフガフシタラ、アカン!ピタットヤデ!
「やっぱり、俺の娘やな~、お前は父ちゃん似のべっぴんはんやで~!」
我が娘であると、完全に自覚した虹助は、カラフル人形達から、プレゼントされた、キラキラ光る赤い眼球を、眼の位置にピッタリ合わせ、次は顎のラインを造る為に丸平刀で削り、その後、後頭部までを平刀で削った。
父チャン、休憩ヤ …
眼ノ粘土ガ乾イタラ再開ヤデ~!
「あぁ、解った … お前の言う通りにしたる!沙織 …」
沙織 … ウチ、ソンナ名前嫌ヤデ!嫌ヤ嫌ヤ!嫌ヤ、嫌ヤ、嫌ヤー!
娘は虹助の付けた、沙織と言う名が気に入らず、嫌だと連発して虹助に訴えた。
「えぇっ!名前まで決めとんのか?それじゃ、お父ちゃん出番ないやろ … まぁ、仕方ないな… 自分を持っとるいう事は悪い事やない!何て名前なん?」
楓ヤ!ウチハ楓ヤ!娘ノ名前忘レルナンテ、父親失格ヤデッ!大宰カッ!
娘の言葉に、自分に似ているが… 果して幸せになれるのかと、娘の行く末に不安を抱かずにはいられない、父、虹助だった。




