THRILLER・NIGHT … 前編 …
2冊の人皮装丁本を手にしたMichaelは、余程嬉しいのか …
「ホホホ~ホ~ホッ! ホホホ~ホ~ホ~!」
はしゃぎながら、松の木の周りをスキップをしながら駆け廻った。
「Michael、2冊あるなら~俺にも1冊渡せよ~仲間だろ?俺だって人間に戻りてぇんだ~ OK~?」
何か可笑しな津田刑事が、Michaelに言った
「何で? お前と俺は違うじゃん?お前は半死にで魂無し、俺は肉体はないけど魂は綺麗なままだ!だから俺は、可笑しくなったりしないだろ?ホホホ~ホ~ホ~ッ!」
Michaelは茶化しながら、津田刑事の周りを回った。
「ウゴッ ゴッ ゴブッ グッグッガァ-ッ! god damn… god da~mn! アァ- ア-アァ- 」
津田刑事は制御不能のロボットのように、手足を振り回し、Michaelに襲い掛かった
「ア-ア-アァ -ア- 」
「クソッ!うわっ!離せっこの~っ! 役立たずの、薄らバカっ!」
Michaelは津田刑事の腕の中で、バタバタと手足を動かし大暴れするが…
「アァ-ア-ア-アァ-」
津田刑事はグイグイと、Michaelを締め上げた …
「くっ苦しいっ!薄らバカ~っ!」
Michaelはジタバタと暴れる…
「スッ… スリラー・ナイトやん … 」
虹助は津田刑事の豹変に、思わず言葉を漏らした。
バサッ … バサッ …
2冊の人皮装丁本が、Michaelの手からスルリと地面に落ちた。虹助は直ぐに本を拾い胸に抱き…
よし … ものは試しや…
「津田フランケンッ!Michaelの弱点は骸骨のネックレスや!それ外して裸にしたら溶けるで!やってみ、ホンマやでーっ!」
虹助は津田刑事に叫んでみた …
「ア-アァ-ア-ア-」
フランケン、否、津田刑事はスカルの首飾りをMichaelの首から無理矢理外し、放り投げた。
よし、上手く行ったで …
虹助は空かさず首飾りを拾い、そのまま公園の出口に向かい走り出した。
「この薄らバカ~!おいっ!止まれっ!離せ~っ!あ~ん!あ~ん!」
「アァ-ア-ア-アァ-OK~!」
Michaelの泣き叫ぶ声と、津田刑事の奇妙な声が響いていたが、虹助は振り返る訳等有る筈も無く、2冊の人皮装丁本と灰色の人形達が助けを求めたスカルの首飾りを持ち 、ひたすら公園の中を駆け抜け出口を目指した。
LUZIAの運転する無人車が、柳沢自然公園の駐車場に入ると、1台の黒い車が前に出たり後ろへ下がったり、駐車場内に引かれた白線の内側で動いていた。
「何あれ、下手くそね~!」
LUZIAはこれ見よがしに、ビタッと1度で真っ直ぐに車を止め、ドレスの裾から人皮装丁本をお腹の上迄押し上げ、ドレスのベルトで落ちないように抑え、車から降りるとドアに鍵を掛け、ポシェットの中に車の鍵を入れ松の木を目指し疾走した。
「えっ、あれ?」
手に骸骨の首飾りと本を持ち、前髪は風を受け、ライオンの鬣ように靡かせ、サバトの帰りかシ ャーマンかと言うような姿の虹助が、凄い形相と勢いで此方に向かい走って来た。
「虹助-っ!」
LUZIAは虹助に大きく手を振る…
「あっ、LUZIAはん?お~い!LUZIAは~ん! 」
虹助はLUZIAの前まで走り着くと…
「危ないっ…ゼェゼェ… 公園の中はスリラ ー ・ナイトやから行ったらアカン … ゼェゼェ… 車でっか?」
虹助はゼェゼェと呼吸を荒らげ、苦しそうにLUZIAに聞いた。
「そうよ …」
「ほな、戻りましょ… 」
LUZIAと虹助は、駐車場に止めた車に駆け足で戻った。
「あれ、八重弁護士はんは?これ、八重弁護士はんの車でっしゃろ?」
呼吸も落ち着き、虹助がLUZIAに聞いた。
「あ~うっうん… 弁護士さんの車だけど~LUZIAが1人で来ちゃったって言うか~置いてきぼりって言うか~あはっ♪」
「まぁ、解りましたわ、鍵下さい、俺が運転しますんで …」
LUZIAは虹助に車の鍵を渡し、虹助の運転する八重弁護士の車は、柳沢自然公園を後にした。
「ああ、Ciel、もう少しだけ上映を止めないで下さいよ …」
淡雪はCielの胴体を撫でた。
「淡雪さん… 虹助さんとLUZIAさん戻って来ますが、此からどうしますか?」
八重弁護士が淡雪に問う …
「そうですね … 取り敢えずは… 私達、拉致られましょうか? ふぁっふぁっふぁっ、そして、Mr Rightチームが現れると… これで本物のThriller nightになるのでは無いでしょうか?ふぁっふぁっふぁ」
「いや、併し、淡雪さん、それでは、虹助さんが明日の朝迄、持たないかも知れません …」
八重弁護士は虹助を心配し、淡雪に話したが…
「彼は、未だ、自分の本質に気づいていませんよ … 何故、当てずっぽが的中したのか … 何故、あの場所に人皮装丁本が2冊埋ま っていたのか、そして、それを知っているかの如く彼は掘り出せたか … その第六感と言う能力、第6チャクラ又は第3の目、呼び名は色々ありますが、生まれつき開きかけた能力を持っているという事実を、実感し自覚しなければ、彼の能力は眠っているに等しい … 未だ追いつめなければ … 究極の精神状態に達っしなければ、自覚出来ないでし ょう … 曾ての私がそうであったように … 」
淡雪は悲しそうに、微笑んだ …
「解りました、淡雪さんがそう仰るなら … それで… 何処へ拉致られましょうか?」
「ええ、そうですね … 先回りしましょうか … 八重さん、車の手配をお願いします … 私はリビングを、惨殺仕立てにしますからね …ふぁっふぁっふぁっ!」
淡雪はワクワクした顔をして、楽しそうに笑った。 八重弁護士は、知り合いの勤めるカーショ ップに電話を掛け、淡雪の家を出て25分でレンタカーに乗り家へ戻った。
「淡雪さん、車の準備が出来ました… え! Ciel!」
八重弁護士が玄関のドアを開けると、Cielが躰中に血をつけて玄関に立っていた。
「いいですかCiel 、はい集中して… アクシ ョンッ!」
Cielは口を半分開き呼吸を荒げ、ヨロヨロと玄関の淵まで歩き …
「ミィ… ャ… ォ… … ン … … 」
ズ サ ッ …
「危ないっ!」
八重弁護士が受け止めようと、手を伸ばしたが、Cielは力尽きたように、玄関に崩れ落ちた …
「はい、カッ~ト~! 八重さん!邪魔をしないで下さいよ!Cielの見せ場なんですから…」
淡雪のカットの声に、Cielはムクッと起き上がり元の立ち位置へ戻った。
「えっ、演技派ですね… Ciel …」
八重弁護士は顔を引き吊らせた
「では八重さん行きましょう… Ciel… 」
淡雪が掌を広げると、Cielは嬉しそうに淡雪の掌に乗る、極少量のマタタビをペロペロと舐めた。
「では、Ciel、健闘を祈りますよ…」
淡雪はCielの全身を優しく撫でた。
その後、八重弁護士が手伝い、淡雪はレンタカーの後部座席に乗った。八重弁護士が車椅子を、車のトランクに積もうとすると
「八重さん、駄目です!車椅子は玄関に置いて下さい、倒して倒して!」
「は… はい、解りました …」
淡雪に言われるまま、スタンバイ中のCielの邪魔にならない位置に、車椅子を倒して置いた。レンタカーの運転席に乗った八重弁護士と後部座席に乗る淡雪は、何処かへ去ってしまった。
虹助の運転する八重弁護士の車が、梅木街につく頃には、陽がとっくに沈んでいた。
不気味な赤い月が…
暗闇の空にポッカリと浮かぶ …
帯のように赤い月の光を遮る、黒い雲 …
「気持ち悪い月でんな… ブルブルッ、あ~寒気がするわ…」
虹助がポツリと呟いた …
「本当ね … 嫌な月 …」
虹助とLUZIAは、車の窓から月を見上げた。淡雪の家の前に虹助が車を止めると、LUZIAは人皮装丁本を3冊持ち、虹助はスカルの首飾りを手に車から降り、淡雪の家のチャイムを虹助が押した。
キ~ン~コ~ン …
静まり返った、淡雪の家の中から返事は無かった。虹助は淡雪の家の鍵を使いドアを開けた。
明かり一つない真っ暗闇な玄関で、何か黒い塊が蠢く …
「何っ! あれは … Cie-l?」
マタタビ効果で、リハーサルより更によろめき、Cielは玄関の淵へ辿り着き…
「ハァ … ミ…ッ…ィ… ャ…ァ … ァ …」
ド サ ッ …
「シエル ー!」
虹助が叫び …
「嫌~っ!Cielー!」
LUZIAは涙をボロボロと落とし、玄関に転がり落ちたCielを抱き上げた。
ト ッ クン … ト ッ クン …
LUZIAは、Cielの胸に耳をあてた、 心臓は動いている …
「虹助… 大丈夫、Cielは気を失っているだけみたい、心臓は動いているわ …」
虹助は真っ青な顔をして、ブルブルと唇を揺らし頷いた。
「にっ… 虹助… 本当にごめんなさい… こんな時に、その顔、面白過ぎっ… キツ過ぎるわ … せめて鼻水だけは拭いて …」
LUZIAは涙目で虹助にお願いをした。虹助はブルブルと頷き、鼻水を袖口で拭いた。
リビングへ向かう途中、淡雪の車椅子が倒れていた …
「淡雪はん!淡雪は~んっ!」
虹助は我を忘れ、涙と鼻水ズルズルの顔をして淡雪を呼び、リビングへと走り、リビングの明かりをつけた。
カーペットの上に落ちる血痕 …ソファーにもテーブルにも… 血の痕と助けを求めていたように血のついた手形が、壁に迄べっとりついている …
「うわぁーっ!何やこれー!淡雪はん、淡雪はん、淡雪はーん!」
ソファーやテーブルの下、本棚の後ろ迄、虹助はパニックに陥り半狂乱になりながら 、淡雪を呼び探した …
「虹助、お願い落ちついて… お爺さんは怪我をしているかも知れないけれど、生きているわ… だって車椅子は玄関にあったでし ょ?… 連れ去られたのよ!違う? お願い哀しみに巻かれないで… 冷静に… お願いよ虹助… 」
「連れ… 去られた …」
虹助はLUZIAの言葉に、冷静さを取り戻しストンッと床の上に腰を沈めた。
「誰が … 何の為に …」
「それは解らないわ… けど、この本と虹助の持っている、スカルの首飾りに関係があると思うのが、通常の流れよね …」
虹助はLUZIAが胸に抱える、人皮装丁本を見つめた … 暫くすると …
「あっ、そや、LUZIAはんは確か、泊まる用意して淡雪はんの家へ来たやないですか 、俺、何も持って来てないし、創り掛けの人形、置きっぱなしで来たんです… それだけ取りに行ってきますわ、Cielと待っとって下さい、直ぐに戻りますから …」
一言で言えば行かせたくないわ …
けれど、虹助を止められない …
どうしたらいいの …
「虹助… 実はLUZIA… おパンツ忘れちゃったの… あはっ♪ 丁度いいからLUZIAも行くわ♪」
「LUZIAはんが嫌や無ければ、パンツくらい … アカンな、解りました!ほな、Cielも連れて行きましょか!」
虹助はLUZIAの、おパンツを探し出す自分の姿を想像しただけで、自分が最低、最悪 、ゲス野郎ではないかという思いに堪えきれず、危険は承知の上で、LUZIAとCielも連れ、八重弁護士の車で自宅へ向かった。
この会話をCielを通して、淡雪と八重弁護士はレンタカーの中で聴いていた。
「虹助さんもLUZIAさんの、おパンツくらい持って来てあげればいいのに … ムフッムフッ」
「あのですね、八重さん、今はヘロデ王ではありませんから、誤解を招き兼ねませんよ… そう言えば… 先日、LUZIAさんに頼まれまして、傷を治療して差し上げた時に 、 下着が見えたのですが、全てシルクでしたよ、本当にお洒落なお嬢様です、八重さん 、私はね、LUZIAさんが可愛いくて仕方がないのですよ… それを踏まえて話をして下さいね …」
「解っていますよ… 淡雪さん… シルクのパンツ…ムフッムフ ッなんてね …」
バックミラーに映る、淡雪の顔色が変わった事を察した八重弁護士は、冗談で済ませる努力を惜しまなかった。
虹助は店の前に車を止めた。
住居側から店へと進み、底の浅い段ボール箱に梱包材を敷くと、その上に形が崩れないよう創り掛けの人形パーツを置いた。人形感と造形に使う道具と材料一式を、別の段ボールに入れ、店舗のドアを開け車に素早く積み込み、店のドアの鍵を確りと掛けた 。LUZIAはCielを抱き3階へ上がってはみたが 、空のバッグを持ち、直ぐに店に降りた。住居側のドアも確り鍵を閉め、車に乗り込み淡雪の家へ向かった。
「後を追え … ゆっくりだぞ!」
Michaelと頭を半分飛ばされた津田刑事が、得体の知れない男の運転する車で、虹助の後を、静にゆっくりと尾行していたが、勿論、虹助もLUZIAも気づいてはいなかった
淡雪の家へ戻った虹助とLUZIAは、淡雪と八重弁護士がいつ戻ってもいいように、リビングに飛び散る血痕を、綺麗に拭き取り室内の掃除をしていた。Cielは床に伏せ、じっと2人の様子を見ていた。
「ねぇ … 虹助 … これ …」
「えっ? 何でっか?」
LUZIAが虹助を呼んだ、虹助は直ぐにLUZIAの側に近づく …
「これ、血糊よ…本物の血じゃないわ… 嗅いでみてよ…」
「えっ? ほな… あっ、ホンマや… でも、何の為に… ?」
虹助とLUZIAは顔を見合せた。
ドッキ~ィンッ!
レンタカーの中では、心臓を踊らせた淡雪と八重弁護士が、顔を見合わしていた。
「いや、私の考えではね、2人は虹助君の 家の方に落ち着くと思っていたんですよ … まさか、血だらけの家を掃除するとは… これは参りましたね… ふぉっふぉっ…」
淡雪はかなり焦っていた…
「どうします、淡雪さん… LUZIAさんも虹助さんも偽装だと気づいてますよ… 」
八重弁護士は真剣な顔をして、淡雪に話した。
「いや、併し、今、帰って何て言うのです … 少し早めのハロウィン… ですか?」
淡雪は困り顔で、八重弁護士に話す…
「正直に話しましょうよ、それしか無いですよ、私だって逆の立場なら…」
「解った!解りましたよ!全てこの老いぼれの責任ですよ!謝りますよ… 」
淡雪はヤサグレてしまった …
「では、戻りますよ、淡雪さん」
八重弁護士は、虹助の家の住居側の玄関の向かい側に建つ、2軒先の家の脇道から淡雪の家へとレンタカーを走らせた。
「八重さん!止まって下さい!」
「淡雪さん、どうしました?」
淡雪の声に八重弁護士は、道路脇に車を止めた。
「あれですよ!」
淡雪の指さす先を見ると、2人の男が淡雪の家へ向かうのが見えた、1人の男は胸に人形を抱いている …
「Mr Rightですよ!」
「そのようですね、急ぎましょう!」
八重弁護士は、Michael達の乗って来た車の前に、レンタカーをビッタリ止め車を出せないように止めた。
「淡雪さん、待っていて下さい、直ぐに車椅子を持って来ますから」
「いえ、八重さん、このまま家の前に車を移動して下さい… Mr Rightも正面からは行かないでしょう… 裏へ廻る筈ですよ!」
「そうですね、解りました」
八重弁護士はライトを消したまま、淡雪の自宅前に車を止めた。
カ … チ… ャ … ッ …
八重弁護士は、静に鍵を回しドアを開けた
バッとCielが、ソファーから飛び下りて玄関へと向かった。
「Ciel… 」
LUZIAはCielの後を追い …
「あっ、LUZIAはん!」
虹助はCielとLUZIAの後を追った。
LUZIAが静にアトリエの陰から、Cielを見ていると虹助が後を追ってきたが、LUZIAが右手の人差し指を立て、静にと合図をしたのでLUZIAの後ろで止まった。
Cielは立ち位置に立ち、ヨロヨロと玄関に向かい歩いた。
「し~Ciel… し~終わりです、カット!カット!」
パ チッ
玄関の明かりがつき、コソドロのように腰を曲げ、右手の人差し指を唇の前に立てた八重弁護士と、カット!と言われ立ち位置にソロソロと戻るCielの姿が、虹助とLUZIAの目に映った。
「アハハ、どうも~ 今晩は~ 今、淡雪さんをお連れしますので~少々お待ち下さい」
八重弁護士は車椅子を持ち、逃げるようにレンタカーへ向かい、淡雪を乗せ直ぐに戻ると玄関のドアの鍵を閉めた。
「おお~Ciel~」
Cielは嬉しそうに、立ち位置から車椅子に座る淡雪の膝の上に、飛び乗った。
虹助、LUZIA 、淡雪、八重弁護士、そしてCielの4人と1匹は、リビングに集っていたが、和気藹々(ワキアイアイ)と楽しそうな雰囲気でとは言えなかった。
「お爺さん… 虹助もLUZIAもとっても心配したのよ …」
「はい … ごめんなさい… 済みません…」
LUZIAに責められ、淡雪はシュンとして俯いた…
「弁護士さん!偽装は善い事、悪い事?」
「あ、はい… 先ずですね、何を持っての偽装か?と言う事になりまして… えぇ、例えば犯罪を犯した犯人が、その証拠隠滅を図る為の行為でしたら… 」
「ここは法廷じゃないのっ!裁判じゃないわ!単純に!起きてもいない事件を起きたように見せかけるのは、善い事、悪い事、どっち!」
「ええ、どちらかと言えば… 今回は悪い事では無いでしょうか…」
LUZIAの怒り攻撃に、八重弁護士はタジタジだった。
「あの… 皆さん、私ですね … 」
淡雪がリビングに集う皆に声を掛け、皆、一斉に淡雪を見つめた…
「実は … 私は … 」
ガ ッ シャ- -ン ッ!
リビングの奥の方から、硝子の割れる音が、家中に響き渡った




