飽く無き探求心
LUZIAは、パタパタと階段を駆け上がると 、リビングのソファーに寝せた子猫を抱き上げ、3階の部屋へ入った。
子猫をベッドに下ろすと、LUZIAは十字架のペンダントヘッドを右手に持ち、
「酷いわ~あんまりよ~虹助がLUZIAを突き飛ばしたのよ~あぁ~うわぁ~ん!虹助の脳天に雷を落として~うわぁ~ん!弾道ミサイルでビリリン攻撃をキメテちゃってよぉ~うわぁ~ん!大体、今回は変よ… 虹助の周りには沢山の援護者が現れたわ… michaelの時と全然違うわ~help m~e~!うわぁ~ん 」
余程辛かったのか、Cielがキョトンと見つめる程、LUZIAはうわぁんうわぁんと泣き 、仕返しをしてくれと十字架にすがりつき、泣き疲れたLUZIAは、いつの間にか自室のベッドで眠ってしまい、目覚めるとcielを抱きソロリソロリと足音を忍ばせ、リビングへ降りた。
カッ… チャ…ッ …
静かにドアを開け、キョロキョロとリビングの中を物色するが、虹助の姿は見当たらない… ソロリソロリとリビングへ侵入し、虹助の部屋のドアに耳を当てた…
「馬 … いない… 」
LUZIAは念の為、ゆっくり静かに虹助の部屋のドアを少しだけ開き、部屋の中を覗いた。
「やっぱり … 馬、居ないわ… 」
LUZIAは虹助の部屋のドアを閉め、先ずはTVを見ようと、リビングのソファーへ向かう…
「… うん?何これ … 」
虹助からの置き手紙を読み終えたLUZIAは 、今度は階段を下り店舗へ向かい、足音を忍ばせ階段を降りると、静かにそ~っと店を覗き込んだ…
「 … がっ、骸骨 …! 」
Crimson Ghostが、虹助の手の中で揺れている…
ズッゴ~ ブルブルブルッ…
ズッゴ~ ブルブルブルッ…
「馬、発見 … 」
行き倒れたように眠っていた …
LUZIAはお腹が膨れる程、息を吸い込み
「虹助ー!お部屋で寝なさーい!」
大きな声で、虹助に声を掛けた。
「うわぁ~っ!何っ? あっ… LUZIAさん… おはようさんです、あの、昨日…すんません… 突き飛ばしてまって… 本当、すんません … これ!創ったんです!crimson Ghost!どうでっか?」
虹助はニコニコと、子供のように人なつっこく笑いLUZIAに聞いた…
「えっ… 」
LUZIAの胸元に掛かる、十字架のペンダントがほんわかと熱を持ち、淡雪の光の心象が脳裏に浮かぶ …
「その… 笑顔 … 」
「何でっか?LUZIAはん?」
虹助が不思議そうに、LUZIAを見つめる
「ううん、何でもないの… LUZIA、骸骨の事は解らないけれど… 虹助、凄いわ、だって初めて創ったのに…」
「いや~そんな~人形創ろう思ったんやけど… 外側より先に骨や思って … Crimson Ghost 創ったんです…ハハハッ! 」
虹助は起き上がり床に座わり、LUZIAはcielを抱いて虹助の前に座り、Crimson Ghostをマジマジと見つめた。
「… 凄っ… 骨が1本1本、丸くなってるわ … 関節も … 虹助!この骨、美しいわ… 虹助 はBONESね!」
「いや~そんな~俺、未々、創りますんで、LUZIAはん、見とって下さい!」
虹助の瞳の輝きの中に、確かな自信が心に宿った事を、LUZIAは犇々(ヒシヒシ)と感じていた。
ヌンッ…
「あっ、すんません… 今開けます!」
出窓の向こうから、八重弁護士が店の中を覗いている事に気づき、虹助は店のドアの鍵を開けた。
「おはよう ございます!虹助さん、LUZIAさん、朝早くから済みません、これ、朝食です」
八重弁護士は、コンビニの袋を虹助に手渡した。
「態々(ワザワザ)すんません…」
「いえいえ、所で虹助さん… はっ!それはもしや、misfits… ? Crimson Ghostではありませんか? 凄いですね、虹助さん!いや~淡雪さんにも見せたい!全くもって残念 … 」
八重弁護士は目頭を抑えた …
「いやいや、どう言う意味です? 淡雪はんに何かあったんですか?」
虹助は八重弁護士に詰め寄った
「はぁ… 実は… 体調を崩されましてね… 今朝も、頼むから虹助君の様子を見て来て下さいと… 淡雪さん、ご高齢ですし… 万が一の事も考えまして … 」
八重弁護士は俯いた …
「そんなに悪いの? お爺さん?」
LUZIAもCielを抱いて詰め寄った…
「今朝は… はい …」
「あっ、あの、八重弁護士はん、これ…持ってって下さい! 見せたって下さい!」
虹助はCrimson Ghostを、人形を入れて来た箱の中に散らばる梱包材に包み、八重弁護士に渡された、コンビニ袋の中に入っているサンドイッチと牛乳を出してテーブルの上に置き、そのコンビニ袋に梱包したCrimson Ghostを入れ、八重弁護士に差し出した。
「虹助さん、有難う御座います!必ず後程 お返しに伺いますので、お借りいたします … では、一旦、失礼致します …」
八重弁護士は颯爽と車に乗り、走り去った
「ねぇ、虹助… 後でスマホを貸して貰える?LUZIA、お爺さんと電話で話しをしたいから…」
「そんなら、これ…」
虹助は直ぐにスマホを、ズボンのポケットから取り出し、LUZIAに渡した。
「後で電話する時、虹助もお爺さんと話すでしょ?」
LUZIAは虹助に聞いたが、虹助は首を横に振り…
「今、俺は話す事無いんで… 唯、材料や道具とか店の事は、礼言いたいけど… 会って顔見て言いたいんで… 今は … 」
「うん、そっか … 解ったわ …」
虹助は苦笑いを浮かべながら、店の鍵を閉め、LUZIAと一緒にリビングへ向かう階段を上がり、ソファーに座りうつらうつらと半分眠りながら、サンドイッチと牛乳を摂り…
「俺 … 寝ますわ …」
LUZIAに声を掛け、寝室のベッドまでヨロヨロ歩きベッドに沈んだ。
スズッゴ~ブルブルブルッ…
スズッゴ~ブルブルブルッ…
ぶるふると唇を震わせ、眠りについた…
八重弁護士が、淡雪の家のドアを開けると…
カチャッ…
「どうでした?何か出来てましたか?初作品は?下絵でしたか?まさか、何もしていなかったとか… ?八重さん!どうだったんです!」
淡雪がワクワクした顔をして、玄関で八重弁護士を待ち構え、質問を浴びせ、少しキレ掛けた、どうやら、体調不良は嘘のようだ …
「あっ、あの~私は未だ、ドアも閉めていませんし、靴も履いたままですし… 玄関に上が ってもいないのですが… 」
八重弁護士は、苦笑いしながら淡雪に応えた …
「あ、あぁ… そう…ですよね… ふぁっふぁっふぁっ!これは失礼しました … リビングで 聞かせて下さい …」
淡雪は車椅子を、リビングへ向け移動させ、八重弁護士は後を追うように、靴を脱ぎリビングへ向かった。
八重弁護士は、虹助に渡されたCrimson Ghostを、コンビニ袋から静かに取り出し 、梱包材を外してテーブルの上に置いた。
カタカタカタッ… ポロッ…
「うわ~!どうしよう~!淡雪さん!腕もげた~っ!」
八重弁護士は腕が取れた事に動揺し、騒ぎ立てた …
淡雪はCrimson Ghostには触れず、じぃっと眺め …
「これは… 取れますよ、竹串で刺しただけですからね… 接着剤等で止めてませんから … 」
冷静に述べた …
「はぁ~ 良かったです… 安心しました」
八重弁護士は淡雪の言葉で、我に返り冷静さを取り戻した。
淡雪は尚もじぃっとCrimson Ghostを見つめ…
「彼は … やはり、中々ですよ… 八重さん … この骨の丸み… 人体のバランスの加減… よく此処まで繊細なものを … 素晴らしいですよ… 」
淡雪は食い入るように、Crimson Ghostを見つめた。
「併し … 人形ではありませんでした… 私は少し残念ですが …」
八重弁護士の言葉に、淡雪は憤慨した顔をし…
「いえ、此が正解ですよ… 立体を創作するには、その仕組みや中身を知らなければなりません、虹助君は正しい選択をしました … 人間の躰は見える部分だけではありません、皮膚の下に肉や血管があり、その下に 骨があります、骨格が確り出来ていなければ、いくら肉や皮膚で補っても、美しい形を創り出すのは困難になります… 逆に骨組 や骨格が確り出来ていれば、後は粘土の増減だけで済みます骨組が悪いと歪になるのですよ…それを補うのは本当に苦労します… 当に骨が折れます…ふぁっふぁっふぁっ! 嫌々、中々ですよ… 骨ではありませんが、ウィトルウィウス人体図… Leonar do da vinci先生でさえも人体を描いています… 飽く無き探求心 … 彼の次の作品が楽しみです… あぁ、そうそう、後で虹助君の所に顔を出す時に… 今日は3箱持って行って下さい… お願いします…」
淡雪はキラキラした瞳のまま、嬉しそうに八重弁護士にお願いをした …
「はい、解りました」
八重弁護士は、淡雪さんを昔から知っているけれど、こんな表情を見た事は無いな…何だかとても、魅力的な表情だな… 言葉にするなら… 慈愛 … そう、慈愛がピッタリだ …と思いながら淡雪を見つめ頷いていた。




