あなたの知っている世界
虹助は重い足取りで階段を下り、2階へ降りると、ダイニングテーブルの椅子に腰を降ろした。
虹助の頭の中をLUZIAの言葉が、グルグルと廻る…
「はぁ… 考えたって解らん!こんな時は何時もぐうたら寝とったのに… 何やろな…LUZIAはんの言葉… 心に痛いで… そや、腹減っとるんかもな、折角やから出前取ろ … 」
虹助はスマホで近場の店を検索し、手打ち蕎麦・麦秀という店 を見つけ電話を掛けた
「はいっ、毎度おおきに麦秀です!」
電話の向こうから威勢のいい声が聴こえた
「出前、お願いしたいんですわ」
虹助が言うと
「はい、ご住所お願いします」
「梅木町2丁目6番地26です」
虹助は住所を告げた
「ひいっ、でででっ電話番号は…」
「はい090-○○○-○○○○ですわ」
虹助は携帯番号を告げた
「ごっごっご注文は~もしかして、天ざる蕎麦でっか~ひ 嫌ぁ~」
「はぁ… 天ざるでお願いします…」
何をビクビクしてんねん …
虹助はそう思いながら
「あ、すんません…1万札しか無いんで… 」
「ほ~良かった… はいっ解りました。40分程お時間掛かりますが…」
「ええですよ」
虹助は天ざる蕎麦を注文し、通話終了ボタンを押した。
「はぁ… さっきの蕎麦屋の人… 怯えとったな… 前に住んどった人も頼んでたんかな…40分か… 何しよ… そや、さっきLUZIAはんに言われた言葉でも調べてみるか… 」
虹助は組み立て式テーブルの上に置いたノ ートパソコンを、ダイニングテーブルの上に置き、カチャカチャと検索を始めた …
20分程あれこれ検索したがヒット無し …
「レフレ・ハー … 何処の言葉なんやろ、ビビデバビデブーやな…」
多少、面白い事は呟いているがバカウケには程遠い… 虹助は今度はインディゴと検索してみた。
「殆ど… 染料の話しやな… 解らんわ … LUZIAはん… 俺、アホなんですわ… ほんまに…」
俺は、子供ん頃から何て言うか、変わっと ったわ…
何でそうしなきゃならんのか、それが解らんと動かれへん、頭も心も… そのくせ臆病やった… 子供の頃は、ちょっと人と違う事すると間違っているからと正される、人傷つけた訳やないのに… 大人になると 反社会的だのなんだの煩いけど … その社会いうもんが違う思っとったら… それは悪なんか ?何で正しい事、主張しとる者が生きずらい思いせなあかん? 正義なんてない… そういう人おるけど、それは自己がないっちゅう事か? それとも… 自分等と合わん考えの奴はどんな事しても省くいう事か?浮き草みたいに多勢について生きるのが賢い言う事か ?従えいうもんが、間違 っていても従うのが善で、正義なんか?従わんかったら制裁みたいに会社や社会にいれんくな ってまう、食い繋がならんから… 我慢する … そんな奴が増えて、会社も社会も、どんどん悪なって… どんどん腐ってく … 皆、見てみぬふりしとる…俺も負けた人間の1人やろな死に損ないやしな… 現代社会に負けたかも知れんけど… 悔しいで …こんな金が物言う暮らし、俺、望んどらんで… 皆そうやって我慢してる?皆堪えてる?俺だって堪えてきたで、アイツ使いずらいから言うてイビられたって、限界迄我慢しとったで … コソコソ卑怯な手使って… 俺、堪えたでギリギリ迄な… けどな限界もくる… そうか 、そんなに邪魔なら消えてやるわってなるやろ… 俺だって人間なんやて… 思い遣りもない、無神経が勝ちなんか?それ人間やないやろ… そやかて 、魔法みたいに世の中パ ッと変わるもんでもない …それも解っとる …だから自殺者増えるんやろ、だから病んどる奴多いんやろな … 働きたく無くなる人も増えて生活保護に逃げる人もおる、金稼げるのが強さなんか?
俺には…よう解らん…
知らぬ間にボトボトと涙が勝手に落ちて
虹助は泣いていた…
ピンポ~ン
「しょげとったから助かったで麦秀や!」
虹助はわちゃわちゃっと両手で顔を洗うように擦り、涙を拭い玄関へと向かった。
「はい」
ドアに向かい返事をした。
「お待たせしました麦秀です!」
虹助はドアを開け、天ざる蕎麦を受け取った 。
「1080円です」
小銭入れから、10100円を渡し釣り銭を貰うと、麦秀の配達の若者が
「これ、うちのメニューです。また、お願いします。おおきに!」
感じよく虹助に言った
「お疲れさん、気をつけてな …」
虹助は若者に声を掛けドアを閉めた。
天ざる蕎麦を持ち、2階へ上がりダイニングテーブルの椅子に座った。
ズルズルズル、サクサクッ
「旨っ」
虹助が天ざる蕎麦を食べていると、何かに見られている気配を感じた。
ザワザワと鳥の群れが虹助の躰を走る
「誰かいるのか!」
堪り兼ねて虹助は怒鳴った
しぃ―ん …
誰の声も聴こえない …
虹助はわざとズルズル音を立て、蕎麦を啜 った。
フッ…
サァァー
何かが横切る気配を感じる…
「おい、あんた、レフレ・ハ―言う言葉の意味、知 っとるか?」
虹助は自棄になり聞いてみた
カタッカタッカチッ
ダイニングテーブルに置いたパソコンからキーボードを押す音が聴こえた…
ドキンッ、ドクドクドクドクッ
虹助の鼓動が激しく高鳴り、心臓が口から飛び出そうになりながら、虹助はゆっくり首を動かしパソコンに目線を移した …
LKH-LKH = レフレ・ハー
… … 己 ヲ 探 セ … …
インディアンノ言葉
ノートパソコンの液晶画面には、そう映し出されていた。
「なっ、あんた誰だ… パソコンでなら、やり取り出来んのか?」
虹助の声が響くだけで返事はなかった
ありがとう、助かったで、インディアンの言葉なんやな… 己を探せか…
あんた、何で知ってんねん?
インディアンか?
虹助はパソコンに入力した。
カチャッカチカチカチッ
「うおっ、自動書記かいな…」
虹助は驚き声を上げた。
パソコンの画面には
インディアンデハナイ …
憧レタ… ソノ優シサ溢レル教エニ …
人間ノ都合デハ無ク…
地球ニ優シイ教エダ…
ゴクッン
虹助は緊張し生唾を飲んだ…
あんた此処に住んでた人か?
今度はそう聞いてみた
アア、麦秀ノ蕎麦旨イヨナ…
「えっ、気が合うね、俺も旨いと思った」
馬鹿げた話しだと、笑われるかも知れないが … 虹助はやり取りが楽しくなり、独り言を話しながら、夢中で目には見えない誰かとのやり取りを繰り返していた。
何時眠ってしまったか解らないが 、虹助はダイニングテーブルに突っ伏したまま、朝を迎えた。
「ル~ルルル~♪ル~ルルル~♪good mo r~ning ♪」
LUZIAは、衿と胸元が白いレースのフリルブラウスに茶色い革の編み上げコルセットを着け、黒のジョッパー ズボンを履き、茶色の編み上げ革ブーツとお揃いの革で作ったと思われる、小さな革の帽子を頭にチョコンと乗せ、左目だけロボットのような眼鏡を掛け、スチパンフ ァ ッションで鼻歌を歌いながら登場した。
「あっ、LUZIAはん、おはようさんです…ご機嫌ですね」
LUZIAはくるりんと回り、モデルのように ポ ーズを決めた
「虹助どう?」
虹助は返答に困ってしまい
「素敵だと思いますけど…」
半笑いしながら応えてしまった。
「ムカッときちゃった、何なの~その笑い顔~キーッ!虹助、そんな事じゃ待っているのは孤独死よ… ふんっ、全くladyの 気持ちが解ってないわねっ、んもう、キー ッ!今のはベタ褒めしなきゃダメでしょ? KYしてる場合じゃないのっ!」
「LUZIAさん… 面倒臭い言われまへん?」
LUZIAはキッと虹助を見つめ
「もう結構ですよ~ベロベロバ~!」
ベロンベロンと舌を出した。
虹助は苦笑いしながら心の中で…
いや~最強やわ~何この我儘加減…
そう思っていた。
「それで… 昨日の言葉の意味は探せたのかしら~?」
余程腹が立ったのか… LUZIAは意地の悪い 、高飛車女上司のように虹助に聞いた。
「えぇ、レフレ・ハーですね?解りました 、己を探せ言う意味ですわ!」
昨夜、姿の見えないパソ友に教えて貰った通り虹助は、ニッコリ笑って応えた。
「へぇ~素晴らしいっ♪ LUZIA感動しち ゃ ~うっ♪あはっ♪」
「嘘くさっ…」
虹助はLUZIAの欧米人並みの驚き方に、冷たい視線を送った。
虹助… 嘘?
嘘をついているのは貴方でしょ?
あの言葉は…
簡単に調べられる言葉じゃないわ …
いったい誰に聞いたのかしら …
LUZIAは不思議に思っていた。
「LUZIAはん、俺 … 近くのスーパー行って 食材買って来ますわ、ほな行って来ます」
虹助は言葉の意味を応えたからか、何やら嬉しそうに家を出て行った
「さて …」
LUZIAは、ダイニングテーブルの椅子に捩上りパソコンを開いた。
「えっ …これ… 何?」
パソコンを開くと、まるで誰かと話していたように… 一方的に入力された文章が並んでいた。
「虹助… 何してたの1人で…」
まさか… 虹助に病みが訪れた?
それとも…
1人で2役狙っているのかしら…
LUZIA…主役なのに …
LUZIAはあれこれ妄想を拡げ、考え込んでいた。
その頃、スーパーへ買い物に出掛けた虹助は、ショッピングカートに篭を乗せぐる っと店内を回り…
鳥肉・豚肉・玉ねぎ・芋・玉子・ハムやウィンナー・トースト・ホワイトソース・スパゲティ・マッシュルーム缶・牛乳等を篭に入れ、塩・胡椒等の調味料とコレステロール控えめの油、米、それに鍋やフライパン ・包丁も買い、両手に買い物袋を下げスーパーを出た。
かなり重いで …
袋の持ち手が手にくい込んで鬱血しとる…
買い物は計画的に考えてするものだと、虹助は感じていた。
「主婦いうのは偉いんやな…」
独り者の辛さを噛み締めながら、家を目指す虹助であった。
此処でLUZIAと虹助が借りた店舗付住宅の説明をしておこう。
店舗の裏側にある住居入口のドアを開け階段を上がると出窓のある踊場がある。左側のドアを開けるとリビングルーム、ドアを開けずに階段をそのまま上ると3階へ行ける。
2階にはリビングの他に洋室と和室が1部屋ずつあり、バスルーム、トイレ、洗濯機置き場、バルコニーがあり、3階は洋室が3部屋で中央にリビングの半分程のスペースがある。部屋は何れもパーテーションで仕切られており 、2階、3階共にワンルームとしての仕様も可能だ、よく考えられた造りである。
話の続きを…
虹助は重い荷物を下げ家につくと、店舗側ではなく住居側のドアを開け、階段を上が った。
「ただいまで~す、はぁ、重かった~」
虹助は、昨日キッチンの横に運ばれた冷蔵庫の前に4袋の買い物袋を置いた。
買い物袋から、泡あわわと言う名のポンプ式のキ ッチン用石鹸とホンマデッカ!と言う名の食器用洗剤を取り出しキッチンに置くと早速、泡あわわで手を洗った。
泡あわわもホンマデッカ!も虹助のお気に入りなのである。
結構拘りが強く、洗濯洗剤はホールド、柔軟剤はロマンチックフラワーと…多少、難しい所が目立つ男である…
そんな虹助が、スーパーで買ってきた食材を冷蔵庫に入れていると …
「ねぇ虹助~昨日の夜の事聞いていい? 」
LUZIAが、虹助の後ろに立ち話し掛けた。
「はぁ、何でっか?」
虹助は、テキパキと手を動かし応えた。
「パソコン使って何していたの?」
「何って… 昨日の宿題の言葉検索しとったら… 教えてくれた人というか…何ていうか … それで、パソコン使って話ししてたら、盛り上がってもうて… そんな感じですわ… 変 な話しですけど…」
虹助は困った顔をしLUZIAに説明をした。
「ふ~ん … 幽霊のお友達って事… ふ~ん… 貴方の知ってる世界ね♪ふんふふ~ん♪」
LUZIAは、何事も無かったように、虹助に背を向け鼻歌を歌いながらリビングのソフ ァーに座った。
あっ、いや~ 掴み所ないなLUZIAはん…
虹助は気儘に振る舞うLUZIAを唖然とし見つめていた。
LUZIAはソファーに座ると、赴ろにTVのリモコンを押した。
Ooh~ na na year ♪
Dont act like you Know me ~♪
na na yeay♪
海外歌手の歌が流れていた…
LUZIAはTVの前に置いたローテーブルの上にサッと立ち上がり、歌手顔負けに歌い、踊り始めた。
Iam not your homie ♪
not your hoo na na yeay ♪
あまりに唐突過ぎるこの行動に、冷蔵庫の野菜室に入れようと手にした胡瓜をパリッと噛まずにいられない虹助だった。
本当、解らん …
小悪魔でっか… LUZIAはん…
只、黙って見つめるしかない虹助だった。
歌い踊り終わるとLUZIAは、又、何事も無かったようにソファーに座った。
虹助はハッと我に返り、再び冷蔵庫に食材を入れ始めた。全て入れ終えると
「虹助、貴方のお友達と今夜も話すなら、 その友達とお互いの夢の話しをするといいわよ♪」
LUZIAはソファーに座り、虹助に背を向けたまま話した。
「夢… でっか?」
虹助が聞き返すと
「そう、夢… その友達が何を夢描いて、何 に挫折してこの世を去るつもりで、去れずにいるのか… 確り聞いてみると良いわ♪だ って… 虹助、今、何もないでしょ?レフレ ・ハー 己を探すには、先ず己を知らなきゃね♪ 」
己を知るか …
LUZIAの言葉が、泉に投げられた小さな小石のように、虹助の心に波紋を拡げた。




