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~ INDIGO ~   作者: MiYA
29/49

Crimson Ghost …


「チャッキー … 俺の心を現したんか?責められんな … けど… 俺、これから創るっ!チャッキーが悪いんちゃう… チャッキー見ててや!」



虹助はガタガタと、人形達を置いたテーブルや台を動かし、店の1/3程の広さを開け 台の上に置いた人形を他のテーブルへ移すと、台の上に八重弁護士が届けた段ボールを置いた。


2階へ上がり、Cielグッズをリビングに運んだが、LUZIAの姿が無い … 3階の部屋迄行き謝るべきだと思う心と、今は作業を始める事が先だと思う心…



「参ったわ …」



困り果てた虹助は、ローテーブルの上にLUZIAに宛てた手紙を書き置いた。



LUZIAはん へ


さっきは、すんません …


俺、店で人形作ってますんで …


シエルの物、テーブルの横に置いときます


虹助 …



虹助はローテーブルの上から下絵を書いたノートと筆入れ、淡雪の本、人形感を持ちリビングの電気を消すと店へ戻り、作業台の上に置いた段ボールの中から発泡スチロ ールを取り出した。



発泡スチロールの下には、トレーシングペ ーパー・油性のペン・発泡スチロールカッター・ヤスリ・ハサミ・まで材料だけでは無く、道具まで揃っていた。



「淡雪はん …」



虹助の前頭葉が、ほんわかと熱を持ち、フ ィルムの駒送りのように、断片的な画像が映る…



「これも、ああ、これこれ、忘れちゃイケナイですね、えぇっとぉ~ それから、それから~」



淡雪が嬉しそうに、段ボールの中にトレーシングペーパーを入れる姿が浮かぶ…



「淡雪さん… 虹助さんに電話をしてから、持 って行った方が宜しいのでは?持っている物も有るかも知れませんし…」



八重弁護士が淡雪に話している



「ふぁっふぁっふぁっ! 良いんですよ、こういう物はね、いくらあっても良いんですよ… 八重さん知ってます?発泡スチロール って意外に高いんですよ、芸術家が(ツマズ)く原因の一つは材料費が掛かり過ぎる!せめてね、彼が収入を得られる迄はね、こういう形で応援しなければね、さて、彼は どんな人形を創り出すやら… 楽しみです … ふぁっふぁっふぁっ!」



「淡雪さん… 間違えていたら申し訳ありませんが … 虹助さんは40才を過ぎた大人ですよ… 少し甘くは無いでしょうか… ?アルバイトでもして、材料費くらいは自分で何とかするでしょう … 」



淡雪は八重弁護士に、冷やかな視線を向け



「八重さん貴方は… 大学の学費は自分で出しました?入学金や教科書代は?」



「いえ… 両親ですが … ですが、アルバイトはしていましたが…」



八重弁護士の応えに淡雪は…



「それで、そのバイト代で学費払いました?もしくは、ご両親にお金を渡していましたか?」



「いえ… 略、私が … 」



八重弁護士は言葉を詰まらせた



「その他にも、衣食住… それは全てお金の掛かる事ですよ、それに創作時間 … 時間がいくらあっても足りません、睡眠も取らなければイケナイですし … ですからね、彼には援助が必要なのです、援助するのですから、私の考えで良いんですよ… それに…貴方の言う通りアルバイトでも探して、直ぐに勤め先が決まらなかったら? 彼の気力が消耗してしまう… そんな事に時間を費やす暇は無いんですっ!それにね … 私もこうしていると、楽しいのですよ… ふぁっふぁっふぁっ! 」



淡雪が嬉しそうに笑顔を浮かべ、虹助の前頭葉から画像が消えた …



「何や今の … ? 何で… あんなハッキリ見えるんや…俺は何者や…? 」



虹助は不思議に思ったが…



「今は悩むよりも…創るが先やな … 」



発泡スチロールを手に取り、決意を固めた


ノートに書いた下絵を、トレーシングペーパーに描き写し、ハサミでチョキチョキと形通りの外線、アウトラインに合わせ切って行く、


切り離した人形の、顔の形のトレーシングペ ーパーを、発泡スチロールにテープで軽く止め、今度は油性ペンを使い、止め合わせた通りに顔の形を描く … 胴体、腕、足、全てを発泡スチロールに次々に描き写して行った。



「これで、ええのか? いや、迷いは禁物や… 進め虹助!何処までもや!」



虹助は緊張し震える指先を必死に抑え、気合いを入れ創作を続けた。


次は線に沿り、発泡スチロールカッターを使い、大まかに発泡スチロールに描いた線を切るのだが …



「うわっ!ボロボロやな、切り屑ラッシ ュやわ… こんなん出る? あっ、そや、ゴミ箱、ゴミ箱、無いから、この段ボールに袋敷いてっと、そら出来た!よしっ、続きや … ここが勝負や!」



虹助にとって、今も此からも人形が完成する迄、長時間の勝負となるのだが … 虹助は夢中で発泡スチロールを切っていた。



「はぁ~ 何でこんなシンドイんやろ… 大体 、紙いうんは平面、発泡スチロールは立体やろ?前はいいけど横どないすんねん? 」



今更だが、虹助は人形は立体である事に気づいた…


店に置かれる、淡雪の人形を見つめる…



「横 … 顔 … 」



虹助は人形達の横顔を、じぃっと見つめ



デコが出とる… 眉毛の辺りが少し膨らんで … 目はデコより引っ込んどる… そんで…鼻先と頬骨…上唇に下唇… 顎 …



「俺 … 人形より先に …」



虹助は何かを思いついたのか、油性ペンを使い、サッサッサッと発泡スチロールに線を描く、描き終えると、今度は、少しだけ慣れた発泡スチロールカ ッターを使い、油性ペンで描いた線通りに切って行った。


「よっしゃ~っ!こっからやで~っ!」



線の通りに外郭を切り離し、カッターとヤスリを使い、ゴミ箱の上で細かい作業を始めた。



「うはっ!これオモロいで~っ!」



球体関節人形とは、程遠い何かを創っているようだが、まだ、何かは解らない … それでも虹助は、極上の笑顔を浮かべ、少し危ないのでは?と思う程に夢中になり、発泡スチロールを削りまくっていた。




虹助は時を忘れ、発泡スチロール削りに白熱していた。


煩わしい事等、何も考えずに感覚と頭の中にある想像を頼りに、手先を動かし造形をする、虹助にとっては、お絵かき以上に楽しく、没頭していた。



「創ったる!絶対、創るんや! 楽しいで~止める理由あらへんっ!アハハ~」



危ない… 非常に危ない状況ではあるが、誰も虹助の芸術を止める事は出来ない … 一言で言うなら… 危な過ぎてスルーだよね…と言う感じだろう …



時間は過ぎて行く…



シャリシャリシャリシャリッ …


シャッ … シャッ …


シャリシャリシャリシャリッ …



こっ、怖い … 睡眠不足の血走った瞳に、ニヤケ顔を浮かべている虹助の姿は、芸術家と言うよりは妖怪に近く、後ろのテーブルに置かれた人形達も… ホラー映画並みに怖い … 店と言うよりも … 館である …


発泡スチロールを削り終え、次は竹串に手を伸ばした虹助は…



ブスッ! ギャーッ!


ブスッブスッ! ウギャー ッ!助けてー!



声が聴こえてきそうな程の勢いで、ブスッブスッと、首・肩・腰・脚 ・と竹串をぶっ刺して行く …



えへ~へへ~ ひゃっひゃっひゃっ!



笑い出したら、どうしようと考えてしまう程、ホラーチック虹助は、異様な雰囲気を醸し出していた。


きっと虹助の周りには、ドス黒い何かが渦巻いているに違いない …



大きな出窓に朝陽が射し込む頃 …



虹助は成仏したのか、穏やかな笑みを浮かべた。



「出来た … 俺のCrimson(クリムゾン) Ghost(ゴースト)や… Misfits(ミスフィッツ)! 完成や … 」



虹助は自作のcrimson Ghostを、朝陽に照らした …



「美し過ぎや … 」



自己陶酔しているのか、朝陽に十字架を翳し、神を求める信者のように … 良く出来た 、人体模型の骸骨を朝陽に照らし、虹助は涙を流した。



「俺のcrimson… Ghost … 俺のMisfits… 」



パタッ …



骸骨の足の下には、台が付いていて、倒れないよう創られている所が何ともニクイが 、虹助が力尽き床に沈んでも… crimson Ghostは朝陽を背に受け手足をぶらぶらと揺らしていた…



ケタケタッ ケタッ …




今にも笑い出しそうに …






※ Misfits = 1977年結成、ニュージャージー州のハードコア・パンクバンド


※ crimson Ghost = Misfitsの紅殻の骸骨と言うマーク



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