Crimson Ghost …
「チャッキー … 俺の心を現したんか?責められんな … けど… 俺、これから創るっ!チャッキーが悪いんちゃう… チャッキー見ててや!」
虹助はガタガタと、人形達を置いたテーブルや台を動かし、店の1/3程の広さを開け 台の上に置いた人形を他のテーブルへ移すと、台の上に八重弁護士が届けた段ボールを置いた。
2階へ上がり、Cielグッズをリビングに運んだが、LUZIAの姿が無い … 3階の部屋迄行き謝るべきだと思う心と、今は作業を始める事が先だと思う心…
「参ったわ …」
困り果てた虹助は、ローテーブルの上にLUZIAに宛てた手紙を書き置いた。
LUZIAはん へ
さっきは、すんません …
俺、店で人形作ってますんで …
シエルの物、テーブルの横に置いときます
虹助 …
虹助はローテーブルの上から下絵を書いたノートと筆入れ、淡雪の本、人形感を持ちリビングの電気を消すと店へ戻り、作業台の上に置いた段ボールの中から発泡スチロ ールを取り出した。
発泡スチロールの下には、トレーシングペ ーパー・油性のペン・発泡スチロールカッター・ヤスリ・ハサミ・まで材料だけでは無く、道具まで揃っていた。
「淡雪はん …」
虹助の前頭葉が、ほんわかと熱を持ち、フ ィルムの駒送りのように、断片的な画像が映る…
「これも、ああ、これこれ、忘れちゃイケナイですね、えぇっとぉ~ それから、それから~」
淡雪が嬉しそうに、段ボールの中にトレーシングペーパーを入れる姿が浮かぶ…
「淡雪さん… 虹助さんに電話をしてから、持 って行った方が宜しいのでは?持っている物も有るかも知れませんし…」
八重弁護士が淡雪に話している
「ふぁっふぁっふぁっ! 良いんですよ、こういう物はね、いくらあっても良いんですよ… 八重さん知ってます?発泡スチロール って意外に高いんですよ、芸術家が躓く原因の一つは材料費が掛かり過ぎる!せめてね、彼が収入を得られる迄はね、こういう形で応援しなければね、さて、彼は どんな人形を創り出すやら… 楽しみです … ふぁっふぁっふぁっ!」
「淡雪さん… 間違えていたら申し訳ありませんが … 虹助さんは40才を過ぎた大人ですよ… 少し甘くは無いでしょうか… ?アルバイトでもして、材料費くらいは自分で何とかするでしょう … 」
淡雪は八重弁護士に、冷やかな視線を向け
「八重さん貴方は… 大学の学費は自分で出しました?入学金や教科書代は?」
「いえ… 両親ですが … ですが、アルバイトはしていましたが…」
八重弁護士の応えに淡雪は…
「それで、そのバイト代で学費払いました?もしくは、ご両親にお金を渡していましたか?」
「いえ… 略、私が … 」
八重弁護士は言葉を詰まらせた
「その他にも、衣食住… それは全てお金の掛かる事ですよ、それに創作時間 … 時間がいくらあっても足りません、睡眠も取らなければイケナイですし … ですからね、彼には援助が必要なのです、援助するのですから、私の考えで良いんですよ… それに…貴方の言う通りアルバイトでも探して、直ぐに勤め先が決まらなかったら? 彼の気力が消耗してしまう… そんな事に時間を費やす暇は無いんですっ!それにね … 私もこうしていると、楽しいのですよ… ふぁっふぁっふぁっ! 」
淡雪が嬉しそうに笑顔を浮かべ、虹助の前頭葉から画像が消えた …
「何や今の … ? 何で… あんなハッキリ見えるんや…俺は何者や…? 」
虹助は不思議に思ったが…
「今は悩むよりも…創るが先やな … 」
発泡スチロールを手に取り、決意を固めた
ノートに書いた下絵を、トレーシングペーパーに描き写し、ハサミでチョキチョキと形通りの外線、アウトラインに合わせ切って行く、
切り離した人形の、顔の形のトレーシングペ ーパーを、発泡スチロールにテープで軽く止め、今度は油性ペンを使い、止め合わせた通りに顔の形を描く … 胴体、腕、足、全てを発泡スチロールに次々に描き写して行った。
「これで、ええのか? いや、迷いは禁物や… 進め虹助!何処までもや!」
虹助は緊張し震える指先を必死に抑え、気合いを入れ創作を続けた。
次は線に沿り、発泡スチロールカッターを使い、大まかに発泡スチロールに描いた線を切るのだが …
「うわっ!ボロボロやな、切り屑ラッシ ュやわ… こんなん出る? あっ、そや、ゴミ箱、ゴミ箱、無いから、この段ボールに袋敷いてっと、そら出来た!よしっ、続きや … ここが勝負や!」
虹助にとって、今も此からも人形が完成する迄、長時間の勝負となるのだが … 虹助は夢中で発泡スチロールを切っていた。
「はぁ~ 何でこんなシンドイんやろ… 大体 、紙いうんは平面、発泡スチロールは立体やろ?前はいいけど横どないすんねん? 」
今更だが、虹助は人形は立体である事に気づいた…
店に置かれる、淡雪の人形を見つめる…
「横 … 顔 … 」
虹助は人形達の横顔を、じぃっと見つめ
デコが出とる… 眉毛の辺りが少し膨らんで … 目はデコより引っ込んどる… そんで…鼻先と頬骨…上唇に下唇… 顎 …
「俺 … 人形より先に …」
虹助は何かを思いついたのか、油性ペンを使い、サッサッサッと発泡スチロールに線を描く、描き終えると、今度は、少しだけ慣れた発泡スチロールカ ッターを使い、油性ペンで描いた線通りに切って行った。
「よっしゃ~っ!こっからやで~っ!」
線の通りに外郭を切り離し、カッターとヤスリを使い、ゴミ箱の上で細かい作業を始めた。
「うはっ!これオモロいで~っ!」
球体関節人形とは、程遠い何かを創っているようだが、まだ、何かは解らない … それでも虹助は、極上の笑顔を浮かべ、少し危ないのでは?と思う程に夢中になり、発泡スチロールを削りまくっていた。
虹助は時を忘れ、発泡スチロール削りに白熱していた。
煩わしい事等、何も考えずに感覚と頭の中にある想像を頼りに、手先を動かし造形をする、虹助にとっては、お絵かき以上に楽しく、没頭していた。
「創ったる!絶対、創るんや! 楽しいで~止める理由あらへんっ!アハハ~」
危ない… 非常に危ない状況ではあるが、誰も虹助の芸術を止める事は出来ない … 一言で言うなら… 危な過ぎてスルーだよね…と言う感じだろう …
時間は過ぎて行く…
シャリシャリシャリシャリッ …
シャッ … シャッ …
シャリシャリシャリシャリッ …
こっ、怖い … 睡眠不足の血走った瞳に、ニヤケ顔を浮かべている虹助の姿は、芸術家と言うよりは妖怪に近く、後ろのテーブルに置かれた人形達も… ホラー映画並みに怖い … 店と言うよりも … 館である …
発泡スチロールを削り終え、次は竹串に手を伸ばした虹助は…
ブスッ! ギャーッ!
ブスッブスッ! ウギャー ッ!助けてー!
声が聴こえてきそうな程の勢いで、ブスッブスッと、首・肩・腰・脚 ・と竹串をぶっ刺して行く …
えへ~へへ~ ひゃっひゃっひゃっ!
笑い出したら、どうしようと考えてしまう程、ホラーチック虹助は、異様な雰囲気を醸し出していた。
きっと虹助の周りには、ドス黒い何かが渦巻いているに違いない …
大きな出窓に朝陽が射し込む頃 …
虹助は成仏したのか、穏やかな笑みを浮かべた。
「出来た … 俺のCrimson Ghostや… Misfits! 完成や … 」
虹助は自作のcrimson Ghostを、朝陽に照らした …
「美し過ぎや … 」
自己陶酔しているのか、朝陽に十字架を翳し、神を求める信者のように … 良く出来た 、人体模型の骸骨を朝陽に照らし、虹助は涙を流した。
「俺のcrimson… Ghost … 俺のMisfits… 」
パタッ …
骸骨の足の下には、台が付いていて、倒れないよう創られている所が何ともニクイが 、虹助が力尽き床に沈んでも… crimson Ghostは朝陽を背に受け手足をぶらぶらと揺らしていた…
ケタケタッ ケタッ …
今にも笑い出しそうに …
※ Misfits = 1977年結成、ニュージャージー州のハードコア・パンクバンド
※ crimson Ghost = Misfitsの紅殻の骸骨と言うマーク




