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~ INDIGO ~   作者: MiYA
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芸術馬鹿 …



「あぁ、ところで古谷さん… 壁に虹が掛か ったように見えるライト等と言う物は扱ってないですよね? やはり電気屋でしょうかね?」



淡雪は古谷に聞いた。



「… 虹は壁の一面だけに映すのかい? 店にあるのは一面だけじゃなくて時間をセットしたら右・左・上・下・と虹が移動する…円を描く事も出来るから、円の真ん中に立てば後光が射すよ … 」



淡雪は目を輝かせ…



「それは素敵ですねっ!では、それも頂けますか? おいくらでしょう?」



「人形と交換なら無料でいいですよ、淡雪さん …」



古谷は真顔で淡雪に話した。



「人形無しです!おいくらですか?」


「… 人形なしなら… 柱時計買ってくれたから、オマケって事でいいや …」



古谷はニコッと笑った。



「そうですか、有難う御座います… では、 ライトは先に持って行っても宜しいですかね?」



「今、持ってくるから、待っていて下さい… 」



古谷は店の奥へと姿を消し、直ぐに戻ると 、縦横15cm程の大きさで、蔦や葉の装飾が彫り込まれた、アクセサリーケースのような茶色の木箱を持って来て、レジ台の上に置いた。


「出所はハリウッド、映画に使われたらしいんだ… 」



古谷はパカッと木箱の蓋を開き、中に仕込まれている時計を合わせた。


古狸の店内に虹の橋が掛かる …



「凄いな… 綺麗な虹だ …」



八重弁護士は天井に映された虹を見つめ、言葉を漏らした。


LUZIAは古谷の前なので、必死に喜びの感情が溢れ出すのを抑えていた。


古谷が木箱の中のツマミを回すと、虹が店の右奥へと移動する、又、ツマミを回すと今度は店の左奥に虹が映る、同じようにツマミを回し床にも虹が映される、最後はツマミを一周回して丸い虹の輪を映し、その虹の輪が淡雪の頭の後ろに映し出された。



「ナンマンダ~ チーンッ!又は、神降臨 … こんな感じの商品ですよ、」


古谷はニヤッと笑った。


「チーンッ!は気に入りませんが… この商品は気に入りました… ですが、何故、お金を取らないのです? 貴方程の古狸が… 」



淡雪は作り笑いを浮かべ話した。



「持ち込んだ奴等が、南米系の奴等でね、盗品だろうなって思ったし… それに …」



「それに? それに何ですか?」



言葉を止めた古谷に淡雪は聞いた。



「売る気が無かった … 俺がこの箱を気に入 ってしまったからね … 淡雪さんならと思ってね、あんた芸術馬鹿だから、この虹で癒されたらいいよ、俺に眺められるより、よ っぽど価値がある…」



古谷は木箱の蓋を閉め、淡雪に渡した。



「古谷さん … … 否、古谷先輩 … 有難う御座います… 貴方の店を訪ねて良かった…」



淡雪はニッコリ笑い、古谷を見つめた。



「それじゃ… 古谷さん、失礼します… 八重さん、すいません、お願いします…」



淡雪は八重弁護士に、車椅子を押して欲しいと頼んだ。



「はい… では、失礼します」



八重弁護士はドアへ向かい、車椅子を押した。



「あぁ、淡雪さん!」



古谷が淡雪を呼び止めた。


八重弁護士が淡雪の座る車椅子を、古谷に向けると …



「淡雪さん… その… LUZIA人形 … 持ち歩かない方がいい … 探している奴がいるんだ、 俺の店にも来た!十字署の刑事… そいつ、質屋や骨董品屋、リサイクルショップにも 声掛けて回ってる… 持ち込まれたら必ず連絡しろって言ってた… 」



「その刑事さんの名前、解りますか?」



淡雪が古谷に聞くと、古谷は頷き …



「確か… 津田と言ってたよ、でも… 可笑しいんだ… 刑事が店に来る時は、いつも2人組で来るんだけど… その刑事は1人で … 閉店間際に表の看板入れようと店のドアを開けたら、立ってた … 不気味な顔して … 知り合いの骨董品屋の店主が、電話くれて、他の店も回ってると教えてくれた… でも… あの刑事…変だった … 野良犬みたいな酷い匂いがしたんだ… ほら… Nathan(ネイサン)… 師匠みたいな …」



古谷はギュッと目をキツク瞑り、俯いた



「 ご忠告、有難う御座います… 古谷先輩 … 先輩… Nathanは死にました… 私は今でも彼の死は、自業自得だと思っていますよ、Nathanと言う男は卑劣な男でした!それでは、先輩 … 失礼致します… 」



古谷は俯いたままだった …



八重弁護士は、車椅子を押し店を出た。


車の後部座席にLUZIAと淡雪を乗せ、虹助の店へ向かい車を走らせた。



「ねぇ、お爺さん… Nathanて …」



LUZIAは淡雪に聞いた …



「古谷さんとは私がフランスに渡り、2年程過ぎた頃、フランスには、貧しい芸術家達の作品を買ってくれる画廊が幾つもありましてね、あぁ、勿論、作品の出来次第ですがね、そこで顔を合わせるようになり、知り合いました。有名画家で、弟子を20人程も抱えるNathanと言う師匠につき古谷んは芸術を学んでいました… 何故、名の知れた芸術家は弟子を取るのか… 講師としての金集めですよ… まぁ、それでね、古谷さんはNathanを勿論、凄い人だと思っていましてね、Nathanの芸術哲学を聞きに来ないかと誘われましてね、私はその頃、創作活動に行き詰まってましてね、孤独だった…何かで孤独を埋めたかったんですよ、それでNathanの芸術哲学を聞きに行ってしまったんですよ … はぁ… 」



淡雪は深いため息を漏らし、気を静め話しを続けた。



「まぁね、Nathanもソコソコな事は話していましたよ、芸術と哲学は切っても切り離せない仲と言いますか… 人の心を動かすのですから当たり前なのですがね… 私は正直 、絶賛する程に素晴らしいとは思えませんでしたが… 孤独に負けましてね… Nathanの元で3ヶ月だけ、お世話になりました… 私は孤独では在りましたが、自由も望むと言う難しい人間でしてね、古谷さんのように 、完全な共同生活は向いていない事に気づいていましたから、借りていたアパートはそのままでね、創作が夜通しになる時だけ 、ベッドと食事をお願いしていたのですよ … 店でも少し話しましたが … 実際、弟子同士は皆、ライバルです… あんな所に長くいるとね、本当に腐りますよ … それで、私は3ヶ月で嫌になりまして、孤高の道を選びました… 暫く画廊で顔を合わせても、目も合わせてくれなかった古谷さんが、私がNathanの元を離れ、半年程経った頃から痩せてしまいましてね… 顔色も悪くて… 私は心配になりましてね、断られる覚悟で古谷さんに声を掛け、紅茶くらい出しますよと家に誘ったんですよ …」



八重弁護士は、公園の入口横に設置された駐車場に車を止め…



「済みません、私もお話を聴きたくて…」



振り返った。


淡雪は頷き話しを続けた。



「家に着いて紅茶を出しても、古谷さんは暫く何も話しませんでした… 1時間程過ぎた頃… ポツリ、ポツリと話し出しました … NathanがAugustinを敬愛するようになってから… Nathanも弟子達の関係も変わったと … Nathanは弟子達の優秀な作品を、自分の作品だとして発表した… 勿論、弟子達は抗議しましたがNathanは、その哲学を与えたのは自分だと言い、講師代を半額にする代わりに、弟子達の作品の中で優秀な作品は自分の物にすると言ったそうです… 古谷さんの先輩弟子達は1人去り、また、1人とNathanの元を去ったと、その時、話したのはそこまででした… 彼はNathanのアトリエへ帰って行きました… ですが、2ヶ月後、画廊で合った古谷さんは、更に痩せていて 、頬は痩け、目だけがギョロギョロと … 何日も食事をしていない様子でしたから、家に誘い食事を… 食事と言ってもパンやーズですが… 古谷さんは凄い勢いで食べ終え … Nathanは弟子達に食事は2日に1度にしろと言い、食事を取る事はそれしか許さないと話したと言うんです… その2日後、古谷さんのお父様が倒れまして、彼は日本へ戻りました… ですが私は、彼はお父様に助けられたと思っています。古谷さんが帰国した後直ぐに、Nathanの所を出た筈の弟子の家族がアトリエへやって来て誰1人 家に戻 ってはいない事が解りました、当然 、家族は返せと… ですが、いなくなった弟子達は誰1人アトリエにも、家族の元へも戻りませんでした … Nathanは優秀な弟子達を … 否、弟子達の才能を自分の物にしようと …Menschen(メンシエン) frerser(フレッサァ)… あぁ、英語ではcannibalism(カニバリズム)…人喰いです … アトリエを去ると言う弟子達を… 殺し… 食べたと… あぁ、おぞましい… Nathanは自ら躰に火をつけ、焼死しました… 遺書には、優秀な者は我、力に、劣等な者は我、作品に…と書き残されていたと… 当時の新聞に書かれていました… 彼のアトリエの庭からは、弟子達の骨が発見されたと … 古谷さんとは暫く、連絡も途絶えていましたが、私が日本で展示会を行う度に、姿は現しませんし連絡先もありませんが、彼の名前で必ず花束とメッセージが届きましてね … 日本に住むようになり、私も驚かせてやろうとね、興信所を使い調べてね、突然、古狸を訪ねましたよ、ふぁっふぁっふぁっ!古谷さんは自分で創り出す事は、断念したかも知れませんが… 本物か偽物かを見極める、眼を磨く事に没頭した … 私と同じ… 芸術馬鹿なんですよ、ふぁっふぁっふぁっ!」



LUZIAも八重弁護士も…


淡雪と古谷、2人は心の奥底で繋がる友であり 、芸術を愛する同志なのかも知れない …芸術馬鹿も素敵なものだな… と感じていた。



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