芸術の魔法 …
店舗へと降りた4人と一匹は、虹助のiimageした店作りの為に、あれやこれやと話し合いながら、作業を進めていった。
壁に光沢の無い灰色の生地が貼られて行く、虹助と八重弁護士が、淡雪の監督のもと生地の引き加減を調整しながら、慎重に進める。
「あぁ…その辺りは少し生地をよせて下さい… えぇ … 緩く折り目を入れるように、だぶつかせて… はいはい、そうです!」
淡雪の指示通り生地を貼って行くと、照明の反射なのか、生地がグラーデーションのように見えた …
「凄いな …」
八重弁護士か呟く …
「ほんま、凄いわ … 尊敬やわ… 」
虹助と八重弁護士は、生地を貼り終え壁を見つめ、言葉を洩らした。
「ふぁっふぁっふぁっ、ちょっと細工をしましょうかね …」
淡雪は自宅から持って来た、生地にも描ける絵の具を使い、車椅子のアームレストに掴まり、バランスを取りながら立ち上がり
「それ ~っ!」
まるで子供が水をかけ合い、はしゃぐような悪戯な顔をして、サーッと灰色の生地に水で薄めた白い絵の具を、筆先に付け走らせた。
「ふぁっふぁっふぁっ!それ~っ!こっちも、それ~っ!ふぁっふぁっ楽しいですね~!」
「うっわぁ~っ!」
LUZIAは床に段ボールを敷いて座り、子猫と作業見学中だったが、立ち上がり淡雪に駆け寄った。
「凄い… これが… 芸術 … これが … 芸術家 … 」
虹助は感動のあまり、目に涙を溜めた…
「淡雪 涼一の世界 … 」
八重弁護士は、大きく頷いていた …
才能いう言葉がある …
淡雪さんの才能いうんは …
ほんまもんの天から降りたもんやろな …
一見すると …
爺さんが、絵筆持って遊んどるように見えるやろけど … 違う … これは、魔法や …
芸術家いうんは … 魔法使うんやな …
虹助は眼と心に、淡雪 涼一の魔法を刻みつけ… その感動は、虹助の心に大きな衝撃を与えた。
その後は昼食を取り、作業は続けられられたが、虹助は何やら様子が可笑しく、黙々と淡雪の指示通りに動き、無口だった。
壁の生地貼り作業が終わると、人形を置く台やテーブル設置し、その上に黒い生地を敷く …
「虹助君、この間のメモでは … お喋りしている人形達と話していましたね … えぇ、何人くらいにしましょうか… ?」
淡雪は楽しそうに、ニコニコしながら虹助に聞いた。
「… 俺は … 俺には決められへん … 淡雪さんの思うままで …」
バ シッッ!
淡雪が突然、虹助の頬を引っ叩いた…
「きゃっ! お爺さんっ!」
「淡雪さん!どうしたんです! 」
LUZIAと八重弁護士は、驚き声を上げた
淡雪の瞳に怒りと哀しみが宿る …
「虹助君 … 何を拗ねています? 何が面白くないんですか!君のお店の為に、皆、頑張っています… 」
「俺 … 別に … 何も …」
虹助は淡雪の目を見る事が出来ず、目を反らした …
「虹助君 … 私は謝りませんよ… えぇ、そうですとも、君のような歪んだ心に等決して謝りません!虹助君、芸術は馬鹿になる程に楽しまなければ… 辛いばかりですよ… 生みの苦しみです… 虹助君… どうか…楽しんで下さい … 楽しめなければ… 貴方は本物にはなれない… とっとと諦めて下さいっ!私は此で失礼します!」
キィーキィーキィー キィー
ガチャッ
淡雪は車椅子に乗り、店舗のドアを開け店の外へ出てしまった。
「いや、あっ、淡雪さん!」
八重弁護士が淡雪を追う …
「お爺さん、危ないわ ! お爺さんっ!」
LUZIAは振り返り、虹助を気にしながらも淡雪と八重弁護士を追い、店の外へ出て行 った。
1人、残された虹助は …
顔を歪ませ、灰色の壁を見つめていた …
ミィ~ミャンッ~ミャンッミャンッ
子猫の鳴き声に我に返り
「そうか … お前… 淋しんか … ? よしよし … 大丈夫や … 」
子猫の頭を撫でた …
ミャンッ ミャ~ンッ
子猫は虹助の手に、スリスリと頬をすり寄せた
「ハハハッ… 可愛いな … お前 … 名前ついたんか? 早よLUZIAはんに、付けてもらわな …」
カ プ ッ
「あっ、痛っ! 」
子猫は虹助の手を咬んだ …
「ダメやろ? 咬んだら … チビいのに痛いな、お前の歯、鋭いんやな … ほら …」
虹助は子猫を抱き上げた …
ミィ~ミャンッ♪
子猫は嬉しそうに、虹助の胸に顔を埋めた
「あっ、そや … 」
虹助は布を1枚縦半分に降り、たすきのように斜めに掛けて、子猫を胸の前に掛かる布の中に置いた。
フハァ~~
子猫は大きなあくびをすると、スースーと寝息を立てた。
「可愛いな … お前 … 何で… 俺 … あんなに … やっぱり… 芸術家いうんは… 魔法使いやな … アハハッ!」
虹助は子猫をたすきの中に入れたまま、店舗の飾りつけを1人再会した。
ヌンッ
店舗のドアの横にある大きな窓から、2つの頭と4つの目が店舗の中の様子を覗いていた。
「始まりましたか?」
淡雪が声を潜めながら聞いた。
「はい、子猫を抱いたまま… 始まりました…」
八重弁護士が小声で応え、ヒョイッと2つの頭が窓の下に沈む。
「どうしてこんな事するの?お爺さん… 」
LUZIAが小声で淡雪に聞いた。
「彼は、虹助君は… 言葉にこそ出さなかったけれどね、jalousie… えぇ、 嫉妬したんですよ … 私の技術にね … 」
「えっ?あんな短時間でですか?」
八重弁護士は驚いても小声で話した
「はい、そうです… 時間が短ければ短いほど、才能のある人間ではないかと、今までの経験上そう思いますよ … 圧巻された後に嫉妬が訪れる … それは、技術に差はあっても、私と同レベルの物の見方が出来ると言う事なのですよ、そうで無ければ、凄いな~で終わります。けれど彼は怒りを覚えた 、それは、無意識であっても、心の底では俺だって負けないと言う強い想いからですよ、今、虹助君を1人にしたのはね、嫉妬にかられ過ぎる前に、冷静さ… 自分を取り戻させ、その後、彼はどうするかを見たか ったからですよ … 彼は1人になり頭を抱えるだけなのか…泣き崩れるだけか… それとも、自力で立ち向かうのか … 彼は立ち向かうを選択しましたね、彼は大丈夫なようですね、嫉妬は恨みに変わり易い… 自分の心に捕らわれ自滅した芸術家達を、私はこの眼で何人も見て来ました。負けてはいけないのは… いつでも、自分の卑しい心になのですよ、1点だけを見れば自分より優れた者など溢れる程にいます … それがプロの世界です … 心が歪んでいては自分に負けてしまうだけ、惨めな思いをするだけです… そんな事に心を向けず没頭する、それには…好きでなくては、楽しくなくては、何より1番にね …」
淡雪はニッコリ微笑んだ …
LUZIAはポシェットから、ハンケチを取り出し…
「感無量よお爺さん …」
小雨程度の涙を吹いた
やはり、淡雪さん、この人は凄い人だ …
私の父は男優崩れだったが、芸術を目指した人間ではあった、プライドが高く、難しい人だったが、生涯で唯一、貴方と友であ った事を誇りにしていた … その理由が良く解りました …
八重弁護士は淡雪の言葉に、父を思いながら… そう感じていた …
「皆さん、暫く様子を見てね、人形達を並べ終えた頃に戻りましょう … 」
淡雪は悪戯な顔をして2人に言った。
LUZIAも八重弁護士もコクンと頷き、チラ ッチラッと虹助の様子を伺う …
虹助は順調に、人形達を並べて行く…
店の中央の丸テーブルに3体、顔を見合せるように置かれ、壁の隅の台の上には5体 、見ている此方が楽しくなる程に、虹助は笑顔を浮かべ人形達を置いていた。
徐々に窓硝子にへばり付くように、店を覗き込む3人 …
「あっ、あの~ 此方の家に用事ですか?近所の者ですが … あっ!きゃっ!淡雪 涼一さんですよね? ファンですぅ~っ!」
近所の主婦が、淡雪に握手を求めた。
「あぁ… どうも … 」
淡雪は苦笑いを浮かべ、握手に応じ …
あ!閃きました…!
「奥さん、実はですね、此方で私の人形を販売する予定なのですがね、チラシを配りますが…オープン記念に人形劇を行いますのでね、是非、観に来て下さい …」
淡雪は主婦を真剣な眼差しで見つめ、キュッと手に力を入れ握った。
「あっ♪ はい~勿論~私、宣伝しますね~♪」
主婦はポッと頬を染め、嬉しそうに帰って行った。
「今の … 何 … ? 」
LUZIAが淡雪に、疑いの眼差しを向けた。
「今のは軽い心理術 … 魔法ですよ!ふぁっふぁっ!」
淡雪はLUZIAの言葉に応えて笑った 。




