地球は平和ですか?
「すいません、梅木町2丁目6番地の26迄お願いしたいんやけど…」
虹助がタクシーの運転手に告げると
「梅木町2丁目6番地… あっ、はい、解りました」
タクシー運転手は作り笑顔で応えた。
走り始めて数分後 …
「あの、お客さん、余計な事言うようですが、あの家にお引っ越しですか?」
運転手はバックミラーをチラチラ覗きながら話し掛けてきた。
虹助は星柄ビニール袋を膝の上に置き、立てたまま持っていたのだが、トンッと太もも辺りをボスの足で踏まれる感触を感じ
「えぇ、今日から住もう思うて…」
虹助はボスに代わり応えた。
「嫌っ、ほんまでっか?あの~お客さん、悪い事言いまへん、あの家は… 出るんです … 昼間でも見える言う話しです…」
虹助は寒気を感じブルッと武者震いをした
「運転手さん、住んどった人…家で死んだんやろか…」
タクシー運転手はバックミラーを二度見し
「どの人も家や無い言う話しです… 2つ隣に柳沢言う町ありまっしゃろ、其所の名所で首吊っとった言う話しですわ…」
虹助は柳沢町の名所の話しを知っていた。
其所は昔から、首吊りの樹として有名な柳沢自然公園の中にある太い松ノ木の事だった… 若い頃… 面白がって今で言うホラースポ ットや言うて、友達と見に行ったんやけど …何て言うか… 哀しい樹やったな …
虹助はタクシーの窓に流れる景色を、ぼんやりと見つめた。
タクシー運転手も虹助も、そのまま何も話さなくなり、梅木町に入ると直ぐに新居が見えて来た。
梅木町に建つ店舗住宅は、外壁が煉瓦作り風の洒落た雰囲気の建て物で、出窓に何か飾りたくなるような、そんな可愛いらしい家だった。
家の前に停まり、タクシー運転手に料金を払うと
「お客さん、余計な事言うてすみません … 私、此の家と縁があるようで…お客さんで4人目ですわ此の家に送るの…」
ザッワ~虹助の躰、全身に鳥肌が立つ…
タクシー運転手はトランクルームのドアを開け、虹助に荷物を渡すと…
「お気をつけて …」
頭を下げてニヤッと笑い、タクシーに乗り走り去ってしまった。
「怖いやん… めっさ怖いっ、ほん怖ほん怖 っ、どないしよ … ボスッ、ボスッ!」
虹助は星柄ビニール袋を目の高さまで持ち上げ半泣きでボスを呼んだ。
「Go… home …」
ボスッの低~い声が響く …
「はい…」
虹助は涙を堪え店舗側のドアを開けた。
「うわ~洒落てまんな~」
虹助は1階の店舗を見回し呟いた。
高い天井に白い壁、焦げ茶色の床…木靴がコトコト音を立てるような…懐かしくてほ っとする雰囲気がした。
ガサゴソッガサゴソッ
「私も見たい!さっさと出しなさいよ!」
「はっ、はい…」
虹助は店内を見つめまま、星柄ビニール袋の中から人形を取り出そうと、人形の頭を掴んだ
ガブッ
「ひゃっ痛っ!」
人形は虹助の手にガブリと噛みつき
「どこ掴んでる訳… ヘアーが乱れるでしょ … 足を持って丁寧に出しなさいよっ!」
「すっすみません、ボスッ…」
人形に激怒され、今度は言われた通り丁寧に人形を取り出した。
「あはは~♪うふふ~♪あはあはっ♪」
人形はくるりんくるりんと、その場で笑いながら楽しそうに回り
「初めまして♪じゃないけど… 私はLUZIAよ、ヨロシクね♪」
両手でドレスのスカートを広げ、足を交差させ少し腰を落として、貴族のような挨拶をした。
そう、この、おしゃまな人形LUZIAが物語の主人公なのである。
俺も何かせなあかん …芸せなあかんっ!
虹助は考え込んでいたが …
「貴方はいいわよ…知っているから… 槐 虹助45才、無職・無能・ダメダメ男…」
「ボスッ… 言葉が刺々ですやん …労りっち ゅうもんは無いんでっか?凹むわ~」
「だって、本当の事じゃない!」
虹助は首をもたげて項垂れてしまった。
「はぁ~ 虹助、貴方ね、今、私が話したのは今迄の貴方の話しよ、此から貴方は変わるのよ、何でそんなに自分に自信が無い訳 ? 良い、此から私、貴方にとっても大切な事を言うから、耳の穴かっぽじって良く聞きな 、レフレ・ハ― 解る?」
「レフレ… ハ― … おまじないでっか?」
虹助は不思議そうな顔をして応えた …
「はい、今晩中にレフレ・ハ―の意味をネ ットで調べて、明日、私に答えて頂戴!」
ピ~ンポ~ン
「あっ、電気屋か家具屋が来たわよ、全部 2階よ、私のベッドは3階頼むわよ♪」
LUZIAはゴソゴソと星柄ビニール袋へ戻った。
「はっはい、今行きます~」
虹助は店舗の裏のドアへ向かった。
サントリの家具を入れ終ると直ぐに、ニコ電で買った電化製品が届いた。
サンラインのお疲れ営業マンは、直ぐに電気 ・水道・インターネットは使えますので と言っていた通り、何の連絡もせずに整った。
察しがつくだろうか?
3番目の持ち主が亡くなってから、間がないと言う事だ … おぉ怖っ!
虹助はわりと気が利くようで家具や電化製品を置く前にザッと雑巾掛けはしていた。それとハウスクリーニング済みのようで、どの部屋も綺麗なままだった。
サントリ家具とニコ電の配達設置が終わり 、ホット一息と思っていると
ピ~ンポ~ン
再びチャイムが鳴った
「はい?」
虹助がドアを開けると
「海外からお荷物が届いています。エレフ ァント宅配です!」
エレファント宅配は海外から輸送・配送・配達に長けている会社で有名な絵画など美術品も取り扱いが多く信頼出来る会社ではあるが… 料金はチョイ増し程度に高い。
段ボール箱が5箱届いた …
住所は間違いなく此処で良し…
受け取り人は、槐 虹助 様方 LUZIA…
虹助は納得し荷物を受け取り3階へ運んだ。
カチャ
LUZIAのベッドを入れた部屋のドアを開けると
ピョ~ンピョ~ンピョンピョ~ン
LUZIAはベッドの上でピョンピョン飛び跳ね、トランポリン遊びをしていた。
「あら、荷物が届いたのね♪」
「今、届きましたけど… ボス、此処に住むようになる事、初めから知っとったんですか?」
虹助が困惑しながらLUZIAに聞くと
「えぇ、だって、この現状が既に普通じゃなくて常識でも無いんでしょ?貴方の目にはそう映っているんでしょ?違う? 40過ぎにもなって、突然現れた訳の解らん人形の言う事聴いて、こんな事になってしまったけれど、俺、頭可笑しくなったんかいな~みたいなっ!可笑しくていいじゃない!何が常識 ?何が現実?ねぇ、こんな話し知っている ?あのね、地球が出来た当初、色んな種族が此の星を乗っとろうと住み着いたの… 所謂、地球外生命体と言われている者達よ 、そんな者達はね、人間には出来ない事をして見せたり人間に出来る程度の事を知識として教えたの、人間達は自分達に無い知識や力を持つ者を神として崇めさせられた 。 けれど、今、地球はどう? 平和?この国だけの事を言っているんじゃないの 、神を崇めて地球は 平和?」
虹助は突然のLUZIAの難しい話に、戸惑いながらも首を横に振り
「いや… 平和では無いです…」
LUZIAはウンと首を大きく縦に動かし頷くと…
「そうよ、平和じゃない… み~んな知っている!それは何故だか知っている? 」
虹助は首を横に振り
「いいえ …」
LUZIAは続けた
「それはね、平和を望んでいない人間達が陰で動いているからよ… そういう人間達が自分達に都合のいい方法を使って力を持ち 、のさばっているからよ!解る?虹助… 大多数の地球人が望んでいない現実が出来上がって見えるのは、そのせいよ…その一部 の人間達は神と呼ばれる化物、悪魔を崇拝 しているのよ… それは決して正しい者では ないのよ… インディゴ…」
小さなLUZIAの瞳から…
大粒の涙がボロボロと流れた…
「あはっ…あはっ、ごめんなさい…私ったら 、 突然、難しい話をして… 虹助… LUZIA女の子だから~許してね♪ じゃ、明日、さっき言った言葉の答えを教えてね♪ 私はもう休むけれど… 貴方は人間だから、引っ越し蕎麦の出前を取って食べなさいね、貴方の小銭入れに1万円入れておいたから、足りるでしょ?それじゃ 又、明日ね♪」
LUZIAはベッドの上に座ると微笑み、虹助に手を振 った。




