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~ INDIGO ~   作者: MiYA
16/49

光の心象…


虹助は、八重弁護士を蝋人形の館から無事に生還させると、淡雪が書いたメモを元に店の飾りつけに必要な生地を探し集めた。


色は決めているので、安易に終わらせられると思っていた虹助であったが …



「ラメ入り … 黒も色々あるんやな… 生地の厚さも…」



所がどっこい苦戦を強いられていた。



「ふんふんふん♪ ふふふ~ふん♪ ふふ ふ~ふふん~♪」



一方、LUZIAは上機嫌なお買い物気分で、欲しい生地やレースを集めていた。



そんなこんなで時間は流れ…


窓辺に夕陽が射し込む時刻になる頃 …


やっと生地選びが終わった。



「虹助君、隣の部屋には組み立て式のテーブルや人形達用の小物なんかもあるから、 今日だけじゃなく、何時でも来て持って行 って構わないからね」



淡雪は優しく話した。



「はい、すんません … 有り難う御座います」



「あぁ、 はい、これね」



淡雪はニッコリ笑い、虹助に淡雪の家とアトリエ、全ての鍵のスペアーキーを手渡した。



「いや、そんな… おらん時に来て持って行 ったりしまへんから、それは、駄目ですよ…」



虹助は拒んだが、



「虹助君、お願いします… 持っていて欲しいんですよ、虹助君に… どうか、年寄りの我儘だと思って受け取って下さい…」



キィー キィー



虹助の側に車椅子を寄せ、虹助の手に鍵を握らせた。



「すんません… お預かりします… 」



虹助はペコッとお辞儀をし、淡雪の家の鍵を受け取った。



「それと、もう1組の鍵は八重弁護士に預かって頂きます。私に何かあった時の為にね … 八重さん…」



淡雪は虹助の目の前で、八重弁護士に鍵を渡した。



「私は、此で安心できます、ふぁっふぁっふぁっ!」



淡雪は、ほっとした顔をして笑った。


それから、運べる物は今日の内に運んでしまおうと言う話になり、八重弁護士の車に虹助の選んだディスプレイ用のテーブルや生地を乗せ、八重弁護士と虹助は店舗に運び入れに向かった。


淡雪は、八重弁護士と虹助が家を出る前に1階へ戻り、LUZIAを膝の上に乗せ家の中を案内していた。



「探検~探検~ ふっふ~ん♪ふっふ~ん♪」



淡雪の膝の上で、LUZIAは上機嫌で歌い、そんなLUZIAを見て、淡雪もニコニコと微笑んでいた。



キィー … キィー … キィー …



人形を展示してあるスペースには、2本の廊下と一つの出入口があり、一方は住居へと続き、もう一方は展示スペースの奥へと続いていた。


淡雪は展示スペースの奥へと進んでいた。



キィー … キィー … キィー



「探検~探検~ ヤッホ~ヤッホ~♪」



淡雪は、廊下の突き当たりの部屋の鍵を開け部屋の中へと進んだ。


部屋の中は薄暗く、カーテンは引かれたままで、絵の具の匂いが充満していた…



淡雪はドアの直ぐ横の壁に手を伸ばし、部屋の灯りをつけた。



「うわ~♪ 美術館みた~い♪」



LUZIAの瞳はキラキラと輝き、部屋の中を見渡す …



「LUZIAさん、気に入って頂けましたか? ふぁっふぁっ!」



四面の壁にも天井にも、淡雪の絵画や彫刻 、人形達が所狭しと飾られ、芸術家・淡雪 涼一の世界が拡がる …その部屋の中央に置かれたイーゼルの上には、白い布が掛けられていた。



「えぇ… 素晴らしいわ ♪ でも… お爺さん、あれは… 何?」



LUZIAは、布の掛けられたイーゼルを指差し淡雪に聞いた。



淡雪は緊張した面持ちで、



キィー… キィー… キィー



キャンバスに近づき、ゆっくり白い布を引いた。




フ ァ サ … ッ …




キャンバスの下に、光の心象 …


別紙でタイトルが書かれていた…



淡雪は、キャンバスに描かれた絵を見つめながら…



「LUZIAさん … この絵が… 私の人生を救ってくれた絵です… 」



淡雪は目を細め …



「1度は人の手に渡ってしまいましたが … 12年の後、買い戻しました… 」



淡いグラデーションの黄色と白とで描かれた光の中に、悲し気な女性と小さな女の子が手を繋ぎ、キャンバスの中から、今にも此方に抜け出して来そうな、臨場感溢れる作品だった。


淡い黄色は暖色を現す色であり、温もりを感じられる色である筈なのに…


少しも … 暖かくは感じない …


観つめれば、観つめる程に …


哀しみが胸を突き上げる …


淡雪 涼一 の心象と言うべき作品であった



「お爺さん … 絶句する絵を描くのね… 」



LUZIAは感情が高ぶり、髪が立ち上がり、炎のように、ゆらゆらと揺れた。



「此処にある物は全て… 今でも、買いたいと言って下さる人がいますけれど … 私には … 手放したくない作品ばかりでね … 私が死んだら、何とかしてくれれば良いと想っているのですよ … 典子にもこの部屋の鍵は渡していませんでした。もう、鍵は変えましたけれどね… 実は、2人に渡した鍵からも 、この部屋の鍵は抜いています … はい、この部屋の鍵はLUZIAさんに渡します… 2本渡しますから、私が死んだら虹助君に1本渡してあげて下さい… お願いします… 」



淡雪はニッコリ笑い、LUZIAの頭を優しく撫でた。





「お爺さん … 」



LUZIAは2本の鍵を受け取り、ポシェットに入れた。



「そろそろ、行きましょうか…」



淡雪は白い布をキャンバスに掛け、



キィー キィー キィー



部屋のドアへ向け車椅子を動かし、灯りを消した。




待ッテ … 待ッテ …




「あっ、お爺さん!あれっ?」



「 どうしました、LUZIAさん?」



LUZIAの声に、淡雪がLUZIAを見ると、LUZIAはキャンバスを指差していた。



ファ…サッ…



掛けたばかりの布が、床に滑り落ちた…



アナタ …



「あっ… あぁ … (ユキ) … 」



髪は胸程の長さで、ゆったりとした足の隠れる長さのワンピースを着て、白い煙のような女性が、優しい笑顔で淡雪に語り掛けた。



「雪 … あぁ、君はちっとも変わっていないね… 昔のままだ … 私を恨んでいるだろうね … すまない… 君に逢えたら何て言って詫びようかと考えていたんだよ… でも … 解らないよ… 本当にすまない…」



ウフフフ…


アナタハ 、何モ悪クナイノニ


イツモソウ …


私ガアナタニ謝リタカッタノニ


静音ヲ私ノ手デ育テラレナクテ…


ゴメンナサイ …


アナタノ元ニ帰ルト意地ヲ張ッテシマッタバカリニ …


父ヲ怒ラセ… アナタニモ静音ニモ…


2度ト逢エナクナッテシマッタノ …


本当ニゴメンナサイ …



「あっ… 雪 … 写真が届いていたんだ… 静音が18才になるまで、あの写真は … 」



彼女は微笑んだまま …



父ニ隠レテ… 母ガ送ッテクレテイタノ…


静音ハ好キナ人ガイルト家ヲ出テシマッタ


父ハ探シタノ… ケレド母ガ… 静音ノ居場所ヲ父ニハ知ラセナカッタノ…


アナタニハ、名前ヲ知ラセタト …



「あぁ、知っているよ写真の裏に書いてあったんだ、けれど、居場所は探せなかった …」



淡雪は俯いた …



デモ … アナタノ側ニ、今 …


私達ノ孫ガイル… 虹助 …



「そうなんだよ、雪 ! 虹助君に会えたんだ!」



アナタ …


私達ノ孫ヲ確リ育テテ下サイ…


アノ子… 虹助ハ…


私ノ愛シタ、アナタト同ジ …


授ケラレタ才能ヲ、持ツ子デスカラ …


アナタ …


オ願イシマス …



彼女の、雪の姿は、少しずつ薄くなり、淡雪の瞳からは涙が落ちた…



「私は… 私は逝けないのかい?君は私を迎えに来てくれたのではないのかい?雪 …」



アナタ …


泣カナイデ …


アナタニハ、虹助ガイマス …


アナタニハ、芸術ガアリマス …


今ハ 、ソノ時デハアリマセン …



「嫌、しかし、雪、折角来てくれたんだ…離れてからずっと…君は何度呼び掛けても来てくれなかった!どんなに素晴らしい作品を創っても来てはくれなかったじゃないか!私は、私は… 待っていたのに… ずっと … また、置いて行く気なのかい… ?」



ウフフ … 困ッタ人 …


アナタモ少シモ変ワッテマセン…


私ガ愛シタママノ…


アナタ… デ… ス …



彼女の姿は消えてしまった …


淡雪の瞳から滝のように、涙が落ちる…



「解りましたよ … 生きますよ… 雪 …」



LUZIAは、声を掛けれはしなかったが、淡雪と一緒に泣いていた。



ほわ~んと温かな空気が、淡雪とLUZIAを包む…


微かに、ほんの微かに …


愉しげな笑い声が聴こえた …



淡雪も膝の上で泣いているLUZIAも、温かな気配と愉しげな笑い声に、ゆっくりと顔を上げた。




「あっ… こっ、これはっ … 」




キャンバスの中には…


まるで家族写真のように …


淡雪と妻の雪、静音と光介 …


その前には …


子供の虹助とLUZIAが…


ニッカリ笑顔で描かれていた …



「あぁ… 雪 … 有り難う… 宝物だね… 私達の …」



淡雪もLUZIAもキャンバスを見つめながら 、微笑んでいた。


軈て、温かな空気が躰を抜けると…


キャンバスは白い布が掛けられたまま、部屋の中央に立っていた。



LUZIAと淡雪は顔を見合せ、



キィーキィーキィーキィー



淡雪は車椅子をキャンバスに近づけ、バッと白い布を剥がした。



絵は淡雪の描いた、 光の心象 …


どこも、何も、変わってはいなかった。


淡雪はニッコリ笑い小刻みに頷き、



「ふぁっふぁっふぁっ、解りましたよ 、LUZIAさん…」



LUZIAは、突然笑い出した淡雪に驚きながら、



「お爺さん、何が解ったの?」



淡雪は再び目に涙を溜めて …



「あの絵は … 雪の… limage… 心象なんですよ… 雪が私に見せたかったんでしょう、雪の想う光の心象を… 私はそう想いました … 」



LUZIAもポロポロと涙を流し…



「そうね… だって、とっても優しくて、温かかったもの… ねっ♪」





淡雪とLUZIAは、眼をボンボンに腫らせ、部屋を後にした。



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