創造の中に生きる者
「では、明日はお店のaffichageをしましょう… えぇ… 飾りつけです… えぇ… それには…そうですね… お店の心象…
limageですね… 虹助君、LUZIAさん何か無いですかね … 」
淡雪の情熱の炎が燃え始めた。
「イマージュ … ? イマージュは心象か…はぁ… 心象言うよりも、あの店の名前に虹はどうでっか?俺の名前が虹助言うのもありますが、虹ってどこの国でも幸せみたいな感じがあるやないですか ? 国際的かな~思うんやけど… アカンで っか?」
淡雪もLUZIAも、キラキラした瞳で虹助を見つめ、
「虹助君!君は閃き王子ですね!いや~素晴らしい!」
「LUZIA、今、感動したわ虹助… 」
LUZIAはハンケチをポシェットから取り出し、流れてはいない涙を拭い
「貴方は… やればできるんですっ!」
テストで100点を採った、子供を励ますママのような表現をして見せた。
「いゃ~そんな~照れますやん… あっ、そんで虹いうのフランス語で何て言うんでっかね? その方が店らしい名前になるんやないか思いまして …」
「larc-en-ciel」
淡雪とLUZIAは、声を重ね虹助に教えた。
「何か、自分が店立ってんの想像したら、 合わんかな~球体関節人形の館の方がええかな~?」
八重弁護士の脳裏にデーモン閣下が浮かんだ。
「虹助さん、ハードロックですか?閣下ですよね? 生け贄になる…」
八重弁護士は気になり虹助に聞いた。
「はっ…? 八重弁護士はん…閣下って… ハードロック好きなんでっか?蝋人形や無くて球体・関節・ 人形・でっせ、合ってんの人形だけやないですか、そら耳でっか?もう~オモロ過ぎやわ~笑かすとこちゃいまっせ!」
八重弁護士は、しくじった… という顔をして俯き、直ぐに顔を上げると、
「やっ、館も合ってます!」
安心したように微笑んで応えた。
サァ―― ― っと波が引くように虹助の顔色が変わり 、
「八重弁護士はん … 1人っ子でっしゃろ? 」
虹助は真顔でそう聞いた。
「へっ? あぁ、はい、1人っ子ですが…」
八重弁護士は、キョトンとした顔をして虹助を見つめた。
「やっぱり… 俺もそうなんで、よう解ります… 」
心配そうに頷きながら虹助は言った。
八重弁護士がどう応えたらいいのかを悩んでいると
「気にしないでね♪ 虹助、アホだから♪」
LUZIAが可愛くそう言った。
「あぁ、館の話は済みましたか? では、皆さん、部屋を移動しましょう!」
キィー キィー キィー
淡雪は車椅子を動かし部屋を出た、ぞろぞろと後に続くと、突き当たりの部屋を左に曲がり、2階へ上がる階段の手前に車椅子を止めた。
階段の横の壁に付いた、壁と同じ木目のコンセントカバー程の大きさの扉を開き上・中・下 ・3つあるボタンの下のボタンを押した。
ウィー ー ーン カツッ ウィーンー
2階からスキー場の1人乗りリフトのような椅子が、階段の壁伝いに這わされたポールを伝い降りて来た。
淡雪は1人でリフトに乗り移ると
「あの、済みません、何方か車椅子を2階へ運んで頂けないでしょうか?」
淡雪が申し訳なさそうに話した。
「俺、上げますよ!心配ないです」
虹助はそう言うと車椅子を畳んだ。
「虹助君、お願いします」
タッタッタッタ
虹助は階段を駆け上がり
「えぇですよ~」
車椅子を広げながら声を掛けた。
「あぁ、LUZIAさん、どうぞ、 虹助君、今 、上がりますね」
淡雪は膝の上にLUZIAを乗せ、リフトのリモコンのボタンを押すと、
ウィーンーンン カクッカクッ ウィーン
リフトはゆっくりポールを伝い2階へと上った。
八重弁護士はリフトの後から階段を上った。
2階は、大きな2つの部屋に仕切られ、右側の部屋は、生地屋のように多様な生地が目に映るだけで100種類はあり、棚にきちんと並べられているか、ロールのままで置かれ、生地棚の横にはミシンが置かれていた。
LUZIAはピョンッと淡雪の膝を降りると、
「あはっ♪ お爺さん、見てもいい? 」
淡雪は微笑みながら、
「はい、どうぞ、もし気に入った生地があ ったら、好きなだけ持って行ってもかまいませんよ、生地の他にも糸やレースもありますからね、確り見てみつけて下さいね」
淡雪は、はしゃいで生地を探すLUZIAを可愛くてしょうがないと、すっかり孫を見るお爺ちゃんの顔をして見つめ優しい口調で応えた。
「あぁ、そうそう、虹助君、店の名前は決まったね、じゃぁ、内装をlimageしまし ょうか 、虹助君、目を閉じて下さい… それから、深呼吸をしましょう … 深く鼻から吸 って… 口から静にゆっくりと吐き出しまし ょう … はい、深く吸って… ゆっくりと吐く…」
虹助も八重弁護士も、淡雪の言う通り深呼吸を繰り返した。
「目は閉じたまま、深呼吸も続けて下さい … 虹助君は、今、家の前に立っています、お店のドアを思い出して下さい… 何が見えますか?」
「はぁ … 出窓が見えますわ…家の上やドアの隣に…」
虹助は応えた。
「では、その出窓には何か見えますか?」
「はぁ … 何や花ですか? 小さい青い花と蔦なんかな~?緑の葉っぱ下がってます…」
ポワ~ンとしながら虹助は応えた。
「では、店の扉に手を掛けて、ドアを思い切り開いて下さい…」
虹助は、頭の中にある店のドアを思い切り開けた。
カランコロンカラ~ン♪
「あっ、熊除けの鈴の音… 聴こえたわ…」
「虹助君、そのまま、店の中を見渡して下さい… 目に映るものを全て言葉にして下さい」
キィーキィーキィー
淡雪は慌てて生地棚の引き出しから、ペンとメモ紙を取り出した。
「あ~ 灰色ですわ、店ん中 … お爺さんの時計みたいな柱時計が動いてます… チクタク 、チクタク、言うて … 鳩か何か出るんとちゃいまっか? 天井から何か… 銀紙みたいのぶら下がってます… あぁ、解った!雨や ! テーブルか机みたいなんに布が掛けてあって… 布は黒ですね~ 人形さんがその上に、ただ座ってんやなくて… そやな、お喋りしとる風やったり、手紙書いてたり、料理しとるのもおりますわ… 生きとるみたいですわ… ピアノも弾いてますわ … あぁ、これは… LUZIAはんや… レジは今時のピッ言うバーコード読むのやなくて … チ~ン言う茶色の木のレジですわ… 何かライトで7色の虹を灰色の壁に写しとるわ、ほんまもんの虹みたいで綺麗ですわ… 」
淡雪は、虹助の言葉を全てメモに取っていた。
「あれ? ですが、あそこに1体だけ… 蝋人形が見えるとか… 見えないとか … 」
八重弁護士は目を瞑り、うっとりとした顔をして呟いた。
「蝋~~人形が… 見えるとか… 見えないとか… 」
八重弁護士は今度は感情を込め言った …
「あぁ… ほんまや… 閣下や…で…?」
虹助はバッと目を開け
「アホかっ!おらんわ!また蝋人形かいな ! 好きやな~でもオモロいで、ハハハ」
八重弁護士はうっとりとしたまま…
「Deep inside of a forest of mist , another… An old man carrying yet another little girl… 」
( 霧のたちこむ森の奥深く…
少女を運ぶ謎の老人… )
低い声で英語バージョンを呟いた。
ゾクッ ゾクゾクッ …
「いや、八重弁護士… そんな好きなんでっか?しかも英語ですやん、通やわ通!」
虹助は八重弁護士に話し掛けたが …
「虹助君、止めないで下さい! この曲は何と言う曲でしたか?」
淡雪は瞳を輝かせた。
「はぁ… 蝋人形の館言う曲ですが …」
「蝋人形の館ですね、あぁ、結構です、八重弁護士の肩を叩いてあげて下さい…」
淡雪は蝋人形の館とメモに書いていた。
LUZIAは、ツカツカと歩き淡雪の前に立つと、
「お爺さん! その歌にゾクゾクッとしたでしょ? その歌は怖い歌よ! 後で1人で聴こうと思っているでしょ? それは悪魔ソングよ!」
LUZIAがキッと淡雪を睨んで言った。
「あのですね、LUZIAさん… ゾクゾクッとする曲と言うのは善し悪しはありますが、 linspira tion、えぇ… 閃きを刺激するのですよ、 これは、私のように 、創造の中に生きる者にとっては肥やしなのですよ … この曲の歌詞がどんなに残虐な歌詞でも、全く逆の歌詞でも構わないのですよ、大切なのはlinspira tionです、それが私の作品となり生まれるのですから … LUZIAさんの仰りたい事はよく解ります。勿論、この曲のままを現実に現すのは良くないと言う事でし ょう? だから聴いて欲しくないと…」
LUZIAはコクンと頷いた。
「ふぁっふぁっ、大丈夫ですよ、それは万が一にもありません。何故なら私は、全身全霊で創造の世界を愛しています、汚すような真似は決して致しません。誓いますよ … LUZIAさんに … 」
LUZIAは、淡雪の言葉に納得し頷いた。
「解ったわ♪ ありがとう、お爺さん♪ ところでお爺さんは、カウンセラーもしていたの ? 随分 イメージを引き出すのが上手なのね…」
「ふぁっ ふぁっ ふぁっ それは、年の頃ですよ… 芸術は閃きと心象… linspira tionとlimageから創られると、私は思っていますからね 、人生の略全てを、そうして生きてきましたから…」
淡雪はニッコリと笑った。
La LaLaLa LaLaLa …
La LaLaLa LaLaLa LaLa …
La LaLaLa LaLaLa LaLaLaLa LaLaLaLa…
You shall never return home …
ha - ha- ha!
八重弁護士は、まだ、歌っていた …




