真実の偽装
朝食が済むと淡雪は、知り合いに電話を掛けると話し虹助の部屋へ向かい、部屋へ入るとスマホを使い何処かへ電話を掛けた。
トゥルル、トゥルル!
「はい、もしもし… 八重ですが?」
「あぁ、もしもし、八重さん、朝早くからすみません、淡雪です」
「… お久し振りです、ニュース視ましたよ 、大丈夫なんですか? 」
「いゃ、お恥ずかしい… 私は何とも無いのですが… 可笑しな事になってしまいまして … 八重さん、お力添え頂けると有難いのですが … 」
「勿論ですよ、電話があれば何時でも動くつもりで実は待っていましたから… それで 、何をどうされますか?」
「はい、先ずは新藤弁護士をお断りしたいと考えています… 八重さんから以前にご忠告頂いた事が実際に起こってしまいましたので…」
「やはり、そうなりましたか… 解りました 、私の方で依頼を受けましたと言う事で直ぐに解決出来ますよ、それでは、やはり … 典子さんは …」
「いぇ… まだ…そこまでは何とも言えませんが、只、以前の典子では無いという事は 認めざるおえません… こうなってしまいましたので… あ、八重さん、自宅やアトリエの鍵を全て直ぐに変えて頂けますか?典子が鍵を持っていますので … 入れないように … 」
「えぇ、それも直ぐに … 淡雪さん、1番良いのは典子さんを …」
「はい… それは解っていますが … それは … もう少し様子を見て …」
「… 解りました。では直ぐに始めますので 、また直ぐに電話を掛けさせて頂きます、番号は解りますから、では、失礼します 。 」
「はい、お願い致します。」
淡雪は八重と言う男と話し終えると、リビングへ戻った。
それから、30分が過ぎた頃 …
ピ~ンポ~ン
玄関のチャイムが鳴り、虹助は玄関へと向かった。
「はい、どちらはん?」
虹助はドア越しに聞いたが返事がない…
玄関の覗き穴から相手を確認しようと、虹助は覗き穴を覗いたが、真っ暗で何も見えない…
「誰か名乗らんなら出ませんわ!アホちゃうか!」
虹助はスルーしようと階段に足を掛けた。
ピ~ン ポ~ン
ドンドンドンッ!
今度はチャイムだけではなく、ドアを叩く音も聴こえた。
LUZIAが心配になり、リビングからヒョコ ッと顔を出し、階段の上から虹助を見ていた 。
虹助はキレた …
「誰や聞いてんやないか!名も言えへんのにドア叩く言うんは何や!礼儀ないんとち ゃうか!」
ドアの鍵をガチャッと開けると、
「槐 虹助さんですね、淡雪 涼一氏の誘拐及び殺人未遂で警察署迄、ご同行願います! 」
「なっ、はぁ~?」
警察手帳を提示した男ともう1人、2人の男を残し、スーツを着た男が3人、虹助の話し等何も聴かずにワタワタと階段を上が った。
不味いわ!
「お爺さん警察よ!」
LUZIAはそう言いポンッとソファーに座った。
「えぇ? そんな …」
淡雪が応えると、直ぐにスーツを着た男が3人、リビングへ入って来た。
「淡雪 涼一さんですね?近所の方から通報がありまして無事で良かっです、お怪我はありませんか?」
警察手帳を提示しながら、スーツの男は話した。淡雪の顔がクッと変わり
「馬鹿者ー!貴方達は何をしてるんです ! 私は誘拐等されてはいません!朝のニュースを見て電話をしたじゃないですか、日本の警察は優秀だと聞いておりますが、この無礼はいったい何ですかっ!今すぐ私が掛けた電話の確認を取り、彼を、虹助君を早く返しなさい!」
耳を塞ぎたくなるような、凄い剣幕で怒鳴り散らした。
スーツを着た刑事達は、頑固親父なみの大声で怒鳴り散らす淡雪に、一瞬、怯んだが、
「しかし、姪子さんから被害届けと捜索願いが出ています。 何れにしても槐さんには 署で事情を伺わなければ成りません。任意同行と言う形で、その上で何もなければ 、直ぐにお帰り頂けますから…それとも、聞かれては困るような、何か不都合な事でもありますか?」
刑事は、鋭い視線で冷静に話した。
結局、それ以上刑事達は、話しを何も聴かず虹助は車に押入れられた。
淡雪にも同行をと迫る刑事達に、淡雪は憤慨した顔をして、ソファーに座るLUZIAをヒョイッと胸に抱き抱え、刑事達に連れられ車に乗せられた。
刑事達は虹助の強い希望で、家の鍵だけは確り掛けさせてくれた。
車中で淡雪のスマホが着信音を鳴らし、淡雪は躊躇う事なく電話を受けた。
「もしもし、淡雪です、あぁ八重さん、今 、警察署に向かっています、私の知り合いが私を誘拐したと誤解されましてね、その方の家にいたのですが、刑事さんが突然、えぇ、そうなんです!私の話しなど何も聞いてはくれません!兎に角、警察署で話しをと… あ、はい…少々お待ち下さい、すみません刑事さん!どちらの警察署へ行くのですか? 」
淡雪は、車の運転席と助手席に座る刑事に聞いた。
「十字署です … 」
刑事は淡々と応えた。
「あぁ、八重さん、十字署だそうです、そうですか、では宜しくお願いします 」
淡雪は電話を切った。
十字署は3駅離れた場所にあり、車で35~40分程で到着した。
警察署に着くと先に虹助が車を降ろされた。
「あぁ… 虹助君 … 」
淡雪は言葉を漏らし、警察署の中へ連れて行かれる虹助を目で追った。
虹助はグッと振り返り、淡雪の乗せられた車を見ると大丈夫!と言わんばかりにニコ ッと微笑んだ。
刑事が車の後部座席のドアを開き、トランクから淡雪の車椅子を出すと後部座席の横に置いた。
「移れますか?」
刑事は声を掛けたが淡雪は返事をせず、ムッとした表情のまま、運転席と助手席の背凭れに掴まり、座席の上をお尻を滑らせるように横に移動し車椅子の横へ寄り、太ももの上に乗せたLUZIAを後部座席に優しく置くと車椅子に移動し、再びLUZIAを太ももの上に座らせた。
刑事達は困った顔をしていたが、
「車椅子を押しますね…」
淡雪に声を掛け、警察署入り口のスロープを進み署の中へ入った。
「あぁ~ 伯父さん!良かった… うっう…警察の方から連絡を頂いて、飛んで来たのよ… 」
典子は膝を落とし淡雪と目線を合わせた。
淡雪は顔を上げて見ると、典子の左斜め後ろに新藤弁護士が立っていた。
淡雪は典子をキッと鋭く睨んだ。
典子の目がス-ッと三日月に変わる…
「伯父さん心配したわ… 病気の事もあるし… 」
病… 気… ? 私が… ?
淡雪は何を言い出すのかと驚いて、典子を見た。
典子は立ち上がり、
「伯父は5年前にアルツハイマーを発症致しまして… 家の外に出て徘徊する事もありましたので普段から心配で心配で…うっう っ …」
顔を両手で被い、口元に半笑いを浮かべながら、刑事達に涙ながらに話した。
典子 …
淡雪は目に涙を浮かべ、
「どうして… どうして、そんなに腐ってしまった… 典子 … 私はアルツハイマーでは無い… 医者にそんな診断を下された事もない … どうして… 」
淡雪は目頭を抑えた。
「伯父さんは… ご自分で解っていないのよ … 伯父さん、それが病気でしょ? 足の上に置いている人形は雪ちゃんでしたかしら? いつも、いつも離さず一緒ですよね… 5年前から、ずっと … 私がいくら話しても絶対に離さないでしょ… それが病気なのに…」
悲しそうな声を出しながら、薄ら笑いを浮かべ話す典子を見上げると、典子の斜め後ろで新藤弁護士も口元を弛ませていた。
淡雪は心の中で …
LUZIAさん…
貴女が話してくれた事が身に染みます…
こうして真実が歪み、偽装されて行くのですね … 私ごときの小さな事ですが …
淡雪は、ギュッと瞼を瞑った。
「淡雪さん、 お待たせ致しました… 」
淡雪は、誰かの声に瞼を開き顔を上げた。
「あぁ、八重さん … 」
チャコール色のスーツを着て、胸元には弁護士バッチがキラリと光る、イケメンモデルのような紳士が、淡雪に優しく微笑み立っていた。
「… 八重さん、此は此はお久し振りです」
新藤弁護士は、八重弁護士に会釈をした。
「あぁ、いらしてたんですか、新藤弁護士 … お久し振りです、 丁度良かったです… 大村弁護士事務所に連絡しまして、大村弁護士と話しましたよ、淡雪さんの顧問を降りて頂く話しを済ませたばかりですよ… 淡雪さんの事で来署されたのでしたら、お引き取り願います。」
新藤の顔は青覚め、
「… 随分、急 … ですね… 」
「急?そうでしょうか?淡雪氏の強い希望です。個人情報の漏洩 … 貴方を信用出来ないとお話しされましてね、まだ説明が必要でしょうか? 新藤弁護士!」
八重弁護士は強い口調で、新藤弁護士に話した。
「そうですか… 解りました。ですが、私は 典子さんの弁護士でもありますので…」
八重弁護士は鼻でフッと笑い、
「そうですね、典子さんには弁護士が必要でしょうから… 」
典子に鋭い視線を送りながら話した。
虹助は警察署の別室で、事情聴取を受けていた。
「槐さん、どうして淡雪さんが貴方のご自宅に?」
虹助は口を結んだ。
「何も話してくれなければ、解らないじゃないですか? お帰り頂く事は出来ませんよ 、姪子さんから届けが出ているんですよ 、槐さん、本当はあなた、空き巣とか狙っていた訳じゃないでしょうね、現在、無職ですよね … あの家、 どうやって借りたんですか? 無職で家持ちなんてね、夢みたいな話しですよね?」
刑事の口調は端から、虹助が悪さをしていると言いたげだった。
虹助の心が凍る …
こんな奴らに何言っても …
疑われる方が悪い言うだけなんやろな…
けど、 俺 …
「刑事はん、俺、何か悪い事しましたか?
刑事はんの眼、濁り過ぎやないですか?」
バンッ
刑事は突然、机を叩いた。
「何でんのん、それ? それビックリしますやろ? そうやって脅して言わせとるんでっか? 」
刑事の目つきが鋭く変わる
「槐さん、無駄口は言わない方が身の為ですよ、公務執行妨害… 知ってますか?」
刑事は薄ら笑いを浮かべた。
「それは、言葉の威圧… 脅・し・や刑事はん…」
ガチャッ
「おい、津田!」
突然ドアが開き、虹助の前に座っていた津田と言う刑事がドアへ向かった。
虹助の背中越しに何やら小さな声で話し
「槐さん、どうぞお帰り下さい!お疲れ様でした!」
津田刑事はドアを開いて虹助に言った。
虹助は立ち上がりドアを出た。
津田刑事は、虹助をじぃっと目で追っていたが、虹助は真っ直ぐ前だけを見て出口へ向かい歩いた。
入り口手前の長椅子の側で、淡雪と淡雪の膝に座るLUZIAと見た事のない紳士が立っていた。
「虹助君! 本当にすみません…」
淡雪は、今にも泣きそうな顔をして虹助に言った。
「いぇ、平気ですよ」
虹助は微笑んだ。
「あぁ、虹助君、こちら八重弁護士です、 私の顧問をお願いしています。」
淡雪は虹助に八重弁護士を紹介した。
「初めまして、八重です。宜しくお願い致します。」
八重弁護士は名刺を虹助に差し出した。
「はぁ、槐です、此方こそ宜しくお願いします」
虹助は名刺を受け取った。
「では、行きましょうか?」
八重弁護士は、虹助とLUZIAを家の前まで送り、その後、淡雪と一緒に自宅へ行き自宅とアトリエ全ての鍵を交換すると話した。
淡雪はそのまま、自宅で過ごすと言うので虹助もLUZIAも心配になり、結局はこのまま皆で淡雪の家へ向かう事にした。
淡雪の自宅に着くと、八重弁護士の手配でキーポイントという鍵屋が訪れ、家とアトリエ、全ての鍵の交換をした。
「此で安心ですよ!」
キーポイントの鍵職人は、笑顔で淡雪に鍵を渡した。
「すみませんが… 同じ鍵を全て2本ずつ作 って頂けないでしょうか?」
淡雪がキーポイントの鍵職人に話すと、
「はい、出来ますよ!お渡しした鍵を1度 預からせて下さい」
そう応え、ボディにキーポイントのロゴとマークが目立つ車に戻り、10分程で全ての鍵を作り終え淡雪に渡した。
「有り難う御座いました!」
キーポイントの鍵職人は帰って行った。
「どうぞ…」
淡雪は寝室の向かいの部屋へ3人を案内した。
ヴィクトリアン調の家具が並ぶリビング…
LUZIAは思わず、ビクッと躰を動かし走り出しそうになったが、八重弁護士がいる事を思い出し、淡雪の足の上に行儀良く座った。
淡雪はLUZIAに微笑み掛け、
「八重弁護士なら何を見ても聞いても驚きませんよ、LUZIAさん」
八重弁護士もニコリと微笑み
「えぇ、大丈夫ですよ、貴女のような人形の事も知っています。」
LUZIAを覗き込んだ。
LUZIAは淡雪の足からピョンッと飛び降りると走り出し、
タッタッタッ
ふっかふかのソファーの真ん中に、ポンッと座るとご満悦な顔をした。
虹助と八重弁護士は、LUZIAの両サイドに座った。
「今、紅茶でも入れますね…」
淡雪がキッチンへと向かう、
「俺、手伝いますよ」
虹助が淡雪を手伝い、トレーに乗せ紅茶を運ぶ、テーブルの上にティーソーサーに乗せたテ ィーカップを置く虹助の手が震え、ティーカップはカチカチと音を立てた。
「虹助、そんなに緊張しないでrela~x ♪」
LUZIAは見ていられなくなり声を掛けた。
「いや、俺もそうしたいんやけど、こんな高級なティーセット言うんでっか?持った事ないんで… ハハハ」
虹助は顔を引き吊らせながら応えた。
※虹助がテーブルに置いているのは、Royal copen hagenのティーセット、日本の伊万里焼を思わせる青と白のコントラストから漂う気品が魅力である。
「虹助君、只の食器だよ、全部割ったってかまわないんだ、形のある物は壊れるのが運命だからね」
淡雪は優しく虹助に話した。
虹助は何とか全てをテーブルの上に置いた
LUZIAの前にも、人形用の小さなRoyal copen hagenのティーカップとソーサーが置かれた。
淡雪が紅茶を注ぐ …
「さぁ、どうぞ…」
テーブルにはティーセットの他にマカロンも置かれた。
LUZIAは飲めないが、紅茶の香りを嗅いで
「お爺さん、MARI AGE FRERESね♪ あは っ♪ マルコポーロ♪フレバード ブレンドでしょ? 」
キラキラと瞳を輝かせ嬉しそうに話した。
淡雪はうんうんと小刻みに頷き、
「LUZIAさん、よく解りましたね、素晴らしい鼻ですっ!」
LUZIAの臭覚を絶賛した。
「えっへへ~♪それほどでも無くってよ~ おほほほほ~♪」
LUZIAは、褒められるのは鼻だけじゃなくってよ♪と思いながらも、謙虚さを優先させて応えた。




