芸術家の後悔 …
LUZIAはキッチンへ向かうと、超簡単レモネ~ドを作り、ソファーに座り不思議そうな顔をしてLUZIAを見ている淡雪と、リビングの床に大の字に寝そべり、呼吸を整えようと努力をしている虹助の前に、レモネ~ドを運んだ。
「どうぞ ♪」
「これは、これは、有難うございます…」
淡雪はニッコリ笑い、ローテーブルに置かれたレモネ~ドを口に運んだ。
虹助も起き上がり、ズズズズズーッとレモネ~ドを飲み干した。
「旨っ、はぁ~落ち着きました、LUZIAはん、ごちそうさんです」
LUZIAはニッコリ笑った
「そんで… 何があったんでっか ? 」
LUZIAはモジモジしながら、
「アッ、アトリエに行ったら、お爺さんが 刃物を向けられていたから… 」
LUZIAは伏せ目がちに、虹助をチラ見しながら話した。
「何しに行ったんでっか? こんな夜中に 」
虹助は、キョトンとした顔をしLUZIAに聞いた。
「しゃ、写真集の件で… ちょっと…」
LUZIAの口が尖り始めた。
「夜中にでっか?泥棒思われるやないですか?何してまんのん…」
「う~う~だって、しょうがないでしょ ! 思っちゃったんだから~」
LUZIAはぷくっと頬を膨らませた。
淡雪は、虹助とLUZIAのやり取りを黙って見ていたが、堪り兼ねて笑い出した。
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、これは失礼致しました。お2人のやり取りが微笑ましくて、つい… 」
LUZIAは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「あっ、あの、淡雪さん、すんません…」
虹助は淡雪に頭をさげた。
「何を言うんです、助けて頂いたのは私の 方ですよ、LUZIAさん、本当に有難う御座います。」
淡雪はLUZIAに深々と頭を下げた。
「いっ、いいのよ、気にしないで♪ おほほほほ…」
グサッ
「痛っ、あっ、忘れていたわ…」
LUZIAが笑った拍子に、腰から突っ込んだ刃物がお尻にグサッと刺さってしまった。
LUZIAは引っ張り出そうとしたが、意外に深く刺さり込み刃物が抜けない、
「何してまんの?」
虹助が、可笑しな動きをするLUZIAに言った 。
「抜けないのよ!」
LUZIAは、必死に刃物を引っ張った。
「何が抜けないんでっか?」
「えっ?あぁ、さっき、お爺さんを脅していた刃物を、女が落としたから、ここに入れておいたのよ…」
LUZIAは、ふんっと力を入れ、刃物の柄を持ち引っ張るが、刃物は抜けない…
「手伝いましょか?」
虹助はLUZIAの後ろに回り 、刃物の柄を持つと、力一杯引き抜こうとした。
「虹助君!」
淡雪が、突然、大きな声を出したので虹助は手を止めた。
「虹助君、そんな、力任せに引いてはいけないんだ!芯材が飛び出してしまうよ!LUZIAさん、私が外しましょうか?」
LUZIAは、頷き淡雪の前に背を向けて立った。
淡雪は、左手でLUZIAの腰を優しく押さえ
、そっと、ゆっくり、刃物を1/4回転ずつ回し、半周した所で左手をLUZIAのお尻に移動し押さえると、スッーと静に刃物を抜いた。
「はい、抜けましたよ」
淡雪は嬉しそうに、LUZIAに抜けた刃物を見せた。
「本当だ、ありがとう、お爺さん♪」
「いぇいぇ、私の方こそ、ありがとうLUZIAさん …」
LUZIAと淡雪は微笑み合った。
虹助も、2人の様子を微笑んで見つめていた。
淡雪は、リビングに置かれているLUZIAのミシンや生地を見て
「ところで… あのミシンはLUZIAさんが使っているのですか? 虹助君が使うにしては、少し小さい気がしますが…」
LUZIAと虹助、2人の顔を交互に見ながら聞いた。
「LUZIAのミシンよ ♪ ドレスや洋服を作るの~ ♪ 前は足踏みだけだったんだけど… 電動でも使えるようにしたの~素敵でしょ♪お爺さんはミシンを使わないの? 」
「使いますよ、私は人形作りも人形に着せる衣装も自分で作ります。只… 自分で作った衣装が気に入らない時は、今は知り合いにお願いする事もあるんですよ…ですが出来れば… 私の手で、全て作り上げたいと思っています… そしたら、いつか … 私の人形達も動き出すかも知れない… LUZIAさんのように … 」
淡雪は優しい目をしてLUZIAを見つめた。
「お爺さん …」
LUZIAは俯き、少し躊躇いながら
「あのね、LUZIAにはお爺さんが悪い人には思えないの… でもね、あっ、ちょっと待 ってて!」
LUZIAはパタパタと走り3階の部屋へ行き 、クローゼットの奥に手を突っ込み、紫色のスカーフに包んだ本を探した。
「これじゃな~い!これも違う… あっ、あったわ ♪」
LUZIAはスカーフに包んだ本を抱え、リビングへ戻ると、淡雪の前でスカーフを広げた。
「この本 … お爺さんが虹助に渡した本でし ょ? 」
淡雪は辛そうな顔をして頷き俯いた。
「お爺さん、この本はeIders of zion … 知っているでしょ? どうして虹助にこんな本を渡したの? LUZIA 、本当はそれが聞きたくて … アトリエに行ったの …」
淡雪は小刻みに首を動かし頷くと
「… LUZIAさん、この本の内容は、ご存知 ですよね? 虹助君はご存知ですか?」
LUZIAは頷き、虹助は首を横に振った。
「虹助君、この本は人類家畜化計画の手引き書と言われている本です。聞いた事はなかったですか?」
「あっ!ありますわ、小学中学と仲良かった渋谷がムー民やったから、話しをよく聴かされ ましたわ、でも、その程度で 、渋谷も中学2年になる前に引っ越してま ったし … 本を読んだ事はないです…」
虹助は、記憶を辿り思い出した事を話した 。
「ムー … 民 … ?」
テッテテレ テッテレ テッテレ ♪
淡雪の知っているムーミンが頭に浮かんだ
「お爺さん、カバじゃないのよ、雑誌があ って、それを読んでいる人の事をムー民と 呼んでいるのよ ♪」
LUZIAの解説に納得した淡雪は、うんうんと小刻みに頷き話しを続けた。
「その本は、私が創作人形を作りを始め、 1年程経った頃にフランスの創作人形コンクールで賞を頂きましてね、その授賞式を 終え会場を後にしようとした時に、私など 話しも出来ない程の尊敬する大先輩の芸術家の1人 から託されたものです… その方は私を祝福をしに会場に訪れ、私の耳元で 「涼一、お前に託すよ…」と呟き、この本を花束で隠すようにして私に渡しました。訳の解らぬまま自宅に戻り、私は紙袋に入 った本を取り出すと 、私宛の手紙が入っていたので封を開きました。手紙には…
涼一 へ
この本の内容等、どうでもいい…
それより、この本の中に数枚挟んである写真を見て欲しい、写真に写る人形たちは、悪の儀式の犧… 犠牲となった子供達の魂が閉じ込められ、人間のように躰を動かし言葉を話すらしいんだ、この本のカバーは犠牲になった子供達の皮膚で作られたものだ… 世界中に何冊あるかは解らないが… 私は、涼一 … 私は契約をしたんだ若い頃に… 芸術家として大成したいとそれだけを願って … けれど、あぁ、私は… 何て事を…後悔しているんだ… すまない… 涼一… 私はこの本を君に託したい… 契約などせずに真の力で栄光を手にした君に… 涼一、君は … 私の認める天才だ。 気味が悪いと思うなら、頼む… 燃やして灰にしてくれ… 頼む …
そう書いてありましてね…
私は薄気味悪くて、けれど今日は、祝いの日だから止めて近いうちに燃やそうと思っていたんですよ、けれど翌日… 私にこの本を託した大先輩の芸術家が、彼のアトリエで自殺をしてしまったんです … 彼はよく… 否 、芸術家にはよくある事なんですが… 創作活動に煮詰まると … その… 自身を傷つける行為をして落ち着きを取り戻す癖がありましてね… でも、ほんの少し、血を出して落ち着くらしいんですよ … ですから、命を絶つ程じゃないんです… 彼が話していたんですよ、昔ね … けれど、その日は自身で喉を … 私には信じられないんですよ 未でもね … ストイックな方だったけれど 、絶対に自殺等ではない! そんな私自身の想いが強くてね … 数十年、こうして持っていたんです … 結局、私には彼の手紙が真実かどうかを確める事は出来ずにここまで来てしまいました … 私はもう歳です … そう思いまして、虹助君に渡したんですよ … 私のように想いがある訳で無ければ棄てるのも簡単ではないかと勝手に考えてしまいましてね … 」
淡雪は俯いたまま悲しそうに話した。




