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~ INDIGO ~   作者: MiYA
1/49

Good luck KAMENO!


それは偶然と言えば偶然、必然と言うなら必然…


何もかもを無くした… 否… 始めから何も持 っていなかったのかも知れないが …


そんな冴えない男の物語であると言いたい所だが、彼は主人公では無い…



「はぁ… あかん… どないしょ…家も出されて しもうた …もうお手上げですわ… 神様なんておらん…もう…死ぬしかないわなぁ… そや 、そうしよ、目の前の澱川にドボ~ンと行 ったろ、俺も男や!」



既に男を履き違えてはいるのだが、澱川の河川敷を肩を落としトボトボと歩くこの男 …

(エンジュ) 虹助(ニジスケ)にとっては人生の一大事であった。



「俺も男や… 腹括る~でやぁ~!」



ドッボ~ン…



お望み通り、澱川へ身を投げた虹助である 。



「もぉ… あかん…あかんわ… 御先祖様~堪忍やで~ ゴボッゴワッ…へっ?… 足ついとるやんけー!」



「ちょっとぉ!何踏んじゃってる訳~?私は猫じゃなくってよー!もぉっ!さっさとおどきなさーい!このっ、すっとこどっこい ! 箱を持って川から上がりなさい!とっとと動く!」



虹助の足元から、女の声が聴こえた…



ひぃっ…



虹助は慌てて顔を川の中につけ、足元を覗き込む…



はっ、箱や … 段ボール箱…



川の中で虹助に踏まれ、多少凹んだ段ボ ール箱を恐る恐る持ち上げ、女の指示通り河川敷へ上がった。



ザァー



箱から水が落ちる…



段ボール箱には黒マジックの極太で、文字が書かれていた。



「L・U・Z・I・ A …」



「いいから、さっさと開けなさいよ!人間ならとっくに窒息しているわよ!聴こえてる?」



「はっ、はぁ…」



虹助は、訳が解らぬままではあるが女の言う通りに、指先を振るわせながら箱を開けた 。


箱の内側には厳重に、ビニールが張り巡らされ



ぬんっ



「うわっ、何っ」



バフッ



驚いた虹助は、箱を地面に落としてしま った… 逆さになった箱を帽子のように頭に 被り、髪は黒髪、縦巻きクルクル 、お目めパッチリ、右目はインディゴブルー、左目グレー、頬はぷっくり頬紅ほんわか、口は小さくおち ょぼ口、マットな赤い口紅を塗り、洒落たフリルのゴシックドレスを身に着け、胸元には十字架のペンダントを下げた、体長50cm程のお姫様のような人形が立ち上がった 。




「何とは何よ、探したわよインディゴ・オヤジ」



「へっ?インディゴ…オヤジ?」



人形はガサゴッソと、箱を頭から避けながら虹助に言った。



「そうよ、あんたの事よ、ここじゃマラソン &ウォーキングmens&girlsの目につくから 、早くあんたの家へ連れて行きなさいよ 、詳しく話してあげるから、あっ、紅茶も用意してね、今日は … そうね~マンダリンな気分ね♪ 」



明るく話す人形に



「嫌、そのぉ… 家、無いんですわ…さっき出されてもうて…」



虹助はションボリと俯いた。



「… 家がない… 悲惨… 」



人形は肩に斜めに掛けた、黒いサテン地のポシェットから、フリルと金糸の刺繍が施された黒いハンケチを取り出しオイオイと泣き始めた。



「何と言う悲劇チックJapan、遥々、海外から海を渡り、船酔い、酒酔い、ゲロゲロバーを繰り返し訪れた私が… 安堵して眠れる家がないと… オ~イオイオイ、オ~イオイ、ブッチィ~ンッ」



悲劇のヒロインと化した人形は、涙を流し拭いた後にハンケチで鼻をかんだ。



泣く事5分、オロオロと怯えながらも呆れる虹助に向かい



「仕方無いわ… インディゴ、此を貴金属買い取り店に持って行くのよ…」



箱の中から、KAMENOのブローチを取り出し虹助に差し出した。



「インディゴ、貴方今、所持金いくらある訳?」



虹助はKAMENOのブローチを受け取り、ズボンのポケットから小銭入れを取り出すと…



「500、600、あっ、あった、888円ですが …8が3つ揃ってますわ…」



虹助は苦笑いをした



「インディゴ、貯金は? 聞くだけ無駄よね … はぁ~ 先ず100円SHOPへ寄って、私が ストンと入る紙袋orビニールの透けない袋を買いなさい、その後の指示は又出すわ」



「嫌、あの、そんな急に… 訳解りまへんて … 何でんの?」



伏し目がちに話していた虹助が、チラリと顔を上げ人形を見ると、人形の髪は逆立ちユラユラと揺れ、今にも喰いつきそうな形相と禍々しいオーラを躰中から発し、虹之助を睨んでいた。



「メッ、メッ、メデューサでっか?おっ…そろしい…」



虹助は、兎にも角にも、この人形の言う事を、今、即座に聞かなければ、自身の命に関わるという程の恐怖を感じ、死ぬ気であった事など何処かへ吹き飛んでしまっていた 。



人形は低~い声で



「解ったなら… Go…」



静かに顎を前へクイッと動かし、虹助に行けと合図をした。


虹助はピョンッと直立し姿勢を正し



「はっはいっ~」



回れ後ろで人形に背を向け歩き始めた。



「インディゴ~お待ち… 私と箱も持っていくのでしょう~?」



低~い語尾上がりの声は、ザワザワと虹助の背中を撫でた。



「はっ、はい~っ!」



恐怖でチビリそうになりながら、虹助は人形と箱を胸の前に抱え、100円SHOPを目指した。


歩く事20分、ヤバイ人に背中に銃を突き付けられ、脅されながら歩いているような気分で、虹助は100円SHOPの前に立つ、自動ドアが開き店内へ進み辺りを見渡した。


向かって右側にはレジカウンターが三列並び、その前には菓子、インスタント食品や飲み物が並んでいる …


店の中央には、ノートや文房具等細々した商品が置かれていた。


左側に目を移すと、此方はキッチン用品のコーナーで、ボールやまな板、冷蔵庫用の保存ケース、お弁当用のキャラクターホイルケース迄並んでいる…


その手間、丁度、入り口を入り直ぐ左の角に、紙袋やビニール製の袋が、クルクル回るスタンドに掛けて置かれていた。



「あった…見つけたで…」



虹助はクルクルスタンドに近づき、震える指先を、黒地に金色の星がプリントされたビニール製の袋に手を伸ばした。



ゴクッ …



何を緊張しているのか生唾を飲み込み、虹助はビニール製の袋を1枚持ちレジカウンターへ向かった。



ゴクッ、ゴクッ…



「いらっしゃいませ 」



ピッ



「108円です」



虹助はレジカウンターの上に、一旦、人形の入った箱を置き、小銭入れから100円1枚5円1枚1円3枚を取り出し、震える指先で店員にお金を渡した。



「袋にお入れしましょうか?」



店員は明るく虹助に問い掛ける



「いえ… そのまんまで…」



今にも死にそうな、掠れ声で虹助は答えた



購入証明のテープがビィーっと1cm程貼られた、星柄ビニール製袋と人形入りの箱を持ち、商品購入後に向かう袋詰め用カウンターへ移動すると箱と人形が立つように縦に入れた。


プルプルと震えながら100円SHOPを後にし



「つ、次は貴金属の買い取り店でよろしいですか? ボスッ …」



一仕事を終え、被害者から三下の使いっパシリな気分になった虹助は、人形に小声で確認をした。



「えぇ、そうして、でも、店内へ入ったら私が声色を使って話すから、貴方は口パク よ、いいわね」



「はいっ、ボスっ」



虹助は、銀行強盗にでも向かうのか?と聞きたくなる程、緊迫した表情を浮かべ50 m程先にある、貴金属SHOP買い太郎へ向か った 。



おっ、俺は、やってやる!


男を上げてやるんだー!



何の映画かTVの観過ぎか、虹助はすっかり 、主役気分で心の中で呟くと買い太郎のドアを開けた。



おっと、此処からは俺は喋っちゃならねぇ… ボスの出番さ…



訳の解らない思いというのは、どうしようも無いものなので、続きを …



店内は黒を基調とし、モダンでお洒落、売りに来るのに高級感溢れる店作りで、スーツを着たイッケメ~ン風の気取った男が、虹助の足の先から頭の先迄を嫌な目つきで見下ろした。



「何やその目つき、あんちゃん、どんな教育受けてんや? 店長呼び…」



金星プリントの袋から、虹助にそっくりの声が店内に響く、虹助は慌てて口をパクパク、餌を欲しがる錦鯉のように動かした。



店員はビクッと瞳孔を開き



「申し訳ありません、そのようなつもりはありません … 」



必死に頭を下げた



「いいから、店長さん呼んでや…」



袋の中からワントーン下げた虹助の声が聞こえた。



ボスッ 、(ヤカラ)思われたら… 厄介でっしゃろ、警察呼ばれまっせ…



虹助は心の中で思いながら、口をパクパクと動かしていた。



「申し訳ありません、少々お待ち下さい」



イケメン風の店員は、虹助に頭を下げると店の奥へと向かった。


直ぐにイケメン店員と、40代後半くらいの眼鏡紳士が虹助の前に現れ



「お客様、誠に申し訳御座いません、失礼を致しました。何分、このような商いを致しておりますので、警察の方も煩くてですね、行き過ぎてしまったのだと思います。誠に申し訳ありません、勿論、私が対応させて頂きます。」



眼鏡紳士とイケメン風店員は深々と頭を下げた。



「そうでっか、ほな、宜しく」



星柄プリント袋が応えると、眼鏡紳士は



「此方へどうぞ…」



腰を屈め、右手を伸ばし虹助を椅子へ案内した。


店内には席が5つあり、何れも1ヶ所ずつ、黒い仕切り版で仕切られたブースに分けられ 、客の顔が他の客から見えないよう配慮されていた 。


虹助は店長に案内され、入口から一番遠い奥の席に座った。


眼鏡紳士店長は、向かいの椅子に腰を下ろし一礼すると



「お客様、それでは、今日はどの様な物を お持ちで御座いますか?」



穏やかな軟らかい口調で、眼鏡紳士店長は虹助に聞いた。



「これや…」



虹助は金星プリント袋の声に合わせ、河川敷で渡されたKAMENOをポケットから取り出し、テーブルの中央に置かれている黒いトレーに置いた。



「KAMENOのブローチですか、拝見致します 。」



眼鏡紳士店長はルーペを使い丁寧にブローチを隅々迄観ていた。



「はぁ… 私、鑑定歴二十数年で御座いますが、このように素晴らしいKAMENOを拝見 致しましたのは初めてで御座います… 作者 様がRavmond karifana… 素晴らしいです … お値段ですが、120万円で引き取らせて頂きたいかと… 如何でしょうか…」



星柄ビニール袋は少し間を置き



「悪くはないけど、店長さん目利きのようだから、言わして貰うけどな… Ravnond ka rifanaの作品は、もう2度と出ねぇ… 上がるぜ、否、跳ねるぜ… 誓ってもいい、店長さん、知ってるだろ本当は…」



虹助は口パクしながら、ゴクンと唾を飲んだ …



眼鏡紳士店長は深々と頭を下げ…



「御見逸れ致しました… 200で、お願い致します。」



「あぁ、それでえぇ… その… KAMENO… 幸運を呼ぶKAMENOや、good luckやで店長 さん…」



格好イイナァ~俺 …


星柄ビニール袋から聴こえる声が、虹助の声にソックリな為に虹助は錯覚を起こしてしまった。




こうして、人形の持っていた幸運を呼ぶKA MENOは200万円に化けたのであった。




※正しく覚えようゴシック ※

12世紀の北西ヨーロッパに出現し

15世紀まで続いた建築様式。

ゴシック的とみなされている物は幅広く、

闇・死・廃墟・神秘的・異端的・退廃的・色を示すなら黒とされている。

ゴスロリ = ゴシック & ロリータ

この言葉は日本独自の言葉である。





「次は家を借りるわ、取り敢えずね、不動産屋へ行くのよ、あっ、それと…口パク、ヨロシクね♪」



「はい、ボスッ」



人形の指示通り、虹助は買い太郎の道路向かいにあるサンラインと言う名の不動産屋の前に立った。自動ドアが開く



「いらっしゃいませ」



サンライン不動産の従業員は、一斉に元気な声で迎えた。



「いらっしゃいませ、どのような物件をお探しでしょうか?」




実直そうだが、グレーのスーツが少しヨレ 、お疲れ気味で40代後半くらいの男性営業マンが、虹助に声を掛けた。



「あぁ、家探してんねん…」



「家ですか… どうぞ此方へ」



実直そうなお疲れ男性営業マンは、虹助を席へ案内した。



虹助が椅子に座ると



「どのような家で御座いますか?間取り等 、ご希望が御座いましたら、お聞かせ頂きたいのですが …」



「住みたい家は決まっとるで、梅木町2丁目6番地の26に建っとる三階建ての店舗住宅 や」



実直お疲れ営業マンは顔を歪ませ



「はい… 確かにその物件の取り扱いを致してはおりますが … あの~お客様… 誠に申し上げにくいのですが… 事件の事は…」



「あぁ知っとる、1階で商売やっとって店ダメで、持ち主三回変わって3人とも自殺した って話しやろ? かまへんかまへん」




えっ、本気でっか?



虹助は動揺し冷や汗を流しながら、口パクをしていた。



「ご存知でしたら宜しいのですが、そういう事情が御座いますので… お客様月額ですが此方で如何で御座いましょうか?」



実直営業マンは電卓に¥30,000と打ち、虹助に提示した。



参った … これ、ボス分からへんで…どないしよ…



虹助は考え意を決し



「3万でっか… ?」



ボスに聴こえるように声に出した。


実直お疲れ営業マンは、焦りながら周りを見渡す…



「それでええですわ、所で今日から入れます?」



ボスが星柄ビニール袋から声を出した



やった!ボスに通じたで!



虹助は心の中で万歳三唱していた。



「はっ?今日からですか?少々お待ち下さい、確認して参ります」



実直お疲れ営業マンは席を離れたが、直ぐに戻ると…




「はい、ご入居可能で御座います」



にこやかに愛想良く応えた。契約書に必要事項を記入し、敷金礼金なしの前家賃3ヶ月分のみの入居となり住宅の鍵を受け取った 。最後にお疲れ営業マンは


「電気、水道、ガス、インターネットは直ぐに使えますので…」


意味深な笑顔で、顔を引き吊らせながら教えてくれた。


サンライン不動産を出て直ぐに




「ボスッ、家、曰く付きらしいけど…大丈夫なんでっか…」




虹助は心配そうに、青覚めた顔をして星柄ビニール袋に聞いた。




「なんて事ないわよ、きっとね…オホホホホ」




ボスは怪しげな笑い声を上げた。



その後、ニコニコ電気、通称ニコ電と言う 、有名な電気屋へ行き、室内灯3つ・TV・ノートパソコン・冷蔵庫・洗濯機・掃除機 ・忘れてはいけない料理の強い味方、オーブン機能付き電子レンジを買い、次は家具のサントリへ行き 、ベッドクイーンサイズと子供サイズ・掛布団等の寝具・TV台・ダイニングテーブル4人用・食器棚、組み立て式の机と椅子・簡単な食器等、店員とのやり取りはボスの言われた通りに虹助が、口パクをして買い物を済ませた。



最後に駅のコインロッカーへ寄り、虹助がアパートを出された時に入れた、ボストンバッグと紙袋2つを持ちタクシーで梅木町の新居へと向かった。




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