未來を狙う者
「ごめんね、未來」
指輪に戻っている紅緋が僕にぽつりと呟いた。指輪になっているので表情はうかがい知ることは出来ないが悲しげな声である。
「どうしたの? 紅緋?」
「あたし、さっき女生徒もろとも妖魔を倒すように未來に言った。最低だ」
「それは仕方がないよ。月白さんも言ってたじゃない。妖魔と融合した体は妖魔にしか浄化出来ないって、あの時はそうするしか方法がなかったんだよ」
「でも、あたしは未來のあの女生徒を助けたいって気持ちに応えてあげたかった」
「紅緋……、そんなに自分を責める事は無いよ。僕なんて何も出来ないし。それにさっきは月白さんが一緒に戦ってくれてあの女生徒も助かったわけだからとりあえずは良かったと思うよ」
「うん。あたしも感謝しているし、大事に至らなくて良かったと思う」
「だったら、これからもみんなで協力して悪い妖魔から人々を助けてあげればいいんじゃないかな」
「そうなんだけど、あたしはあの生徒会長は好きじゃない」
「どうして? しっかりしていて優しいし、何でも相談にのるって言ってくれたんだよ」
「それは分かっているんだけど、なんか嫌なんだ」
僕は紅緋の訳のわからない神凪生徒会長嫌いに苦笑した。
そうやって紅緋と話しているうちにいつの間にか教室の前まで来ていた。教室の入り口から中を覗くとクラスメートのみんなが帰ったようだが、一人だけ外の窓際に立っている奴がいる。西日を浴びて黒い影のシルエットだけなのだが、僕には誰かはっきりと分かる。
「待っててくれたの?」
「当たり前だ」
和哉はそう言いながら僕に近づいて頭の上に手を置き髪をくしゃっと撫でる。
「で、神凪生徒会長の話は何だった?」
「え、えーと……」
僕が和哉に妖や精霊のことを話せずに困っていると
「まあ、いい。未來が無事に戻ってくれれば」
和哉は通学バッグを片方の肩に乗せ笑顔で僕の背中を思いっきり叩く。
「痛ぁ〜、何すんだよ!」
「いや、何となく……」
「何となくってなんだよ!」
「だから、何となくは何となくなんだよ!」
和哉は大声で笑いながら教室を出る。
「意味わかんないよ!」
何となくで叩かれた僕の背中はどうしてくれるんだ! ……って和哉に抗議したいところなんだけど内緒にしている事もあるし、和哉もそれとなく気づいたのかもしれない。
そんな僕らを見ている人物が居ようとは、その時の僕は知る由も無かった。
「彼が純粋無垢の新未來君です、中々興味深いでしょう?」
「本当に彼を 食べると本当に妖力が高まるのか!」
「そう聞いてますよ」
「それは早くいただきたいものだ 」
声の主はその人物の右手の中で沈み行く夕陽のまるで血の様な真っ赤な光に鈍く輝いていた。