漆黒
振り返るとそこには上から下まで真っ黒で統一されその上に黒いマントと黒いフードを着けて顔すら見えない人物が立っている。
「……漆黒?」
「そう。なんで私がここにいるか分かる?」
「……」
強い口調で話す漆黒に紅緋は何も答えられない。
「ならば私が答えてあげましょう。紅緋! あなたをジャッジメントしにきたの!」
「どうしてあたしが……」
「あなたは精霊界、人間界、妖魔界、三界には相互不可侵というルールが存在するのは知っているわよね」
「うん」
「紅緋、あなたの心は今、それを守れている?」
「……」
紅緋は俯いたまま声を出さなかった。そんな紅緋を見かねて僕は口を挟む。
「君が何者なのかは知らないが今はそれどころじゃないんだ。君の言う相互不可侵のルールに基づくなら、今、人間界は妖魔界から侵略を受けている。話があるなら妖魔界からの侵略を退けてからでもいいんじゃないか?」
漆黒は僕の言ったことを鼻で笑いながら言葉を返す。
「あなたがそれを言える立場だと思うの?」
「それは…………」
確かに僕は紅緋と一緒にいたいと思っている。そのことが相互不可侵のルールに反するってことなのかな?
それってそんなにいけない事なのかな?
そもそも、相互不可侵のルールって何なんだろう?
僕は漆黒の言っていることについて考え込んでいた。その間に屋上の扉が開いて和哉と浅葱が入ってきた。
「未來! 何やってんだ!」
そう言って和哉は僕と紅緋と漆黒を見る。そして見たことのない姿の漆黒に鋭い目線を投げかけた。
「誰だ! お前は?」
「それは私の口から言うより隣のあなたの精霊から聞いた方が早いわよ」
漆黒は浅葱を指差して答える。和哉が浅葱を見ると驚いたように目を見開きながら微かに体を震わせながら口を開く。
「…………漆黒……なんでここに……」
「あいつも精霊なのか。どうしてあいつが未來と紅緋の前に立ちはだかってるんだ?」
「それは……彼女がジャッジメントする者だから」
「ジャッジメント?」
「そう。漆黒は精霊界のルールを破った精霊を審判する者なんです」
和哉は浅葱の話に納得して一度目を閉じてから顔を漆黒の方に向け目をゆっくりと開き話しかける。
「で、誰を審判しに来たんだ?」
「紅緋だ」
「理由は?」
「紅緋の心はそこの人間界の少年に惹かれつつある。このまま放っておくと取り返しのつかない事になってしまうだろう。だから私は三界相互不可侵のルールに則って紅緋をジャッジメントする」
抑揚の無い声で冷たく言い放つ漆黒に和哉は笑いを堪えきれない風に嘲笑しながら言った。
「おまえは馬鹿か? 紅緋が未來のこと好きなだけだろ? 普通じゃねえか! それともジャッジメントさんはこの二人が付き合うと世の中が崩壊すると真剣に思ってるのかなぁ?」
「うるさい! ルールはルールだ! 誰にも曲げることは出来ない!」
漆黒は意固地になって和哉に反論する。
「ルール、ルールって言うことはそれだけかよ! そんなにルールが大事か? それにそのルールが間違っていたらどうするだ?」
「もういい! 生まれ持ってルールから外された者の苦しみなどお前に分かる訳もあるまい!」
和哉の言葉に圧された漆黒は和哉の存在を無視し紅緋の方に向き直りゆっくりと右手を紅緋に向かって差し出す。
「鏡」




